2018 クリスマス

澄んだ空気に、鮮やかに光るイルミネーション。クリスマスソングや可愛いツリー。
小さい頃からクリスマスが近づくこの時期が好きだった。
サンタさんがくれるクリスマスプレゼントはもちろん、家で母が作るいつもより凝った料理やイチゴのケーキに心がわくわくした。
そして、今はーー。
紙袋をカサカサと音を鳴らして歩くサクラは、木々の下に立っているカカシを見つけた。ぼんやりと、しかし少し寂しげにも見える。元上忍師の綺麗な横顔を眺める。火影を継ぐ事を控えているのも関係があるのか。手にはいくつかの包み。
「カカシ先生」
声をかけると眠そうな目がサクラを映す。
「大漁ですね」
手に持つプレゼントを見つめ言うと、複雑な顔をした。
「……ねえ」
いかにも困っている、と眉を下げる。
「バレンタインや誕生日も勘弁して欲しいくらいなのにさ、これ意味あるのかねえ」
ため息混じりに言うカカシにサクラは小さく笑った。
「クリスマスですから」
友チョコみたいなノリみたいなものです。ニッコリ微笑むと、ふーん、とカカシが返した。
カカシが抱えて入りプレゼントの中には、たぶん上忍仲間のくノ一からもらったと思われるものもある。
「……そーいうのはさ、若い子だけで十分じゃない」
またしてもカカシは嘆息し、サクラの持つ紙袋に目を向けた。
「サクラも大漁だね」
「これは貰ったりあげるのもあったり。だからはい、カカシ先生」
自分が用意したクッキーの包みを渡すとカカシは苦笑いを浮かべる。
「あー、ほら、オレは甘いものはちょっと」
「ジンジャークッキーです。甘さ控えめなので大丈夫です。きっと」
微笑みを受けながらカカシはしぶしぶ手を差し出した。
「……ありがとね。でも見ての通りオレは友チョコみたいのは用意してないよ」
「そんなの知ってます」
サクラの嫌味のない笑顔を受けながらカカシはクッキーを受け取った。
「こういうのを周りから貰うっていう発想さえないじゃない。最近の若い子の発想だよね」
「カカシ先生はまだ若いじゃないですか」
「世代が違うでしょ」
言われてサクラも笑った。自分の作ったクッキーに優しく目を落とすカカシを見つめながら、
(……友チョコみたいのは用意してない、かあ)
何気なく口にしたカカシの言葉に、サクラはカカシをジッと見つめた。
遠くで楽しそうな話し声が聞こえる。視線を向けた。
「ねえカカシ先生。あっちも向こうで大漁ですよ」
サクラに言われカカシは顔を上げる。サクラが指差す方にはイルカがいた。
授業が最終日。明日からは冬休みだ。校門近くでサクラの様に小さなクリスマスプレゼントを持った上級生の女子生徒達に、囲まれている。
「ああ、ホントだねえ。」
相変わらず、子供達には人気だね。
には、なんて。イルカを見つめながら呟いたのは、分かりやすい嫉妬心から出てしまっているはずなのに、たぶんカカシの自覚はない。
そんなカカシにはまだ気がついていない。夕暮れの赤い夕日を浴びながらイルカは楽しそうだ。
先生クリスマスの予定ないんだ。だったら私のお姉ちゃんの友達紹介してあげようか?
サクラから見てもその年齢らしくも生意気な少女の言葉は、イルカもまた何言ってるんだと困ったように笑う。
カカシはじっとその光景を見つめていた。整った顔にある青い目は、今ひとつ表情が掴めない。それでも視線はイルカに向けられたまま。
もしかしたらそいなんじゃないかと思ったのはいつ頃だろうか。
カカシが自分達の上忍師になってから、よく二人が話しているのを目にするようになった。
少女漫画の運びのように、ああなったら、こうなったらと色々想像していたのはその頃だ。
今は、そうだったらいいのに、と思う。
二人の仲が良くて近いようで近くない。見えない壁はお互いがお互いに気を使っているからと感じたのは最近だ。
優しさを含みながらもカカシの寂しそうな目。
だったらさっさと言えばいいのに。
なんて言えたらどんなにいいだろう。
歳を取るごとに、自分の気持ちだけを相手に真っ直ぐに伝えるのがどんなに難しいか。
少しだけ分かってしまったから。
カカシのこんな目を見たら、尚更言えっこない。
「じゃあ、カカシ先生、私いの達と約束があるから」
軽く手を振りサクラはカカシに背を向けて歩き出した。
気持ちを伝えたくても伝える事も出来ない。そんな私に比べたら。
歩きながらサクラは眉を寄せて薄く微笑む。
あの寂しそうな眼差しを見てもなお、羨ましいとさえ思う。
地面に落としていた視線を僅かに上げなんとなく肩越しに後ろを振り返った時、サクラは足を止めていた。
カカシがイルカに向かって歩き出していた。
昔ならなっていただろう、わくわくした気持ちは湧き上がらなかった。
何故か、鼓動が早くなり緊張に軽く指先を握っていた。
立ち止まったまま、サクラは距離が縮まる二人を見つめる。
周りにいる子供達がいる中、カカシは真っ直ぐイルカに向かって歩き、ポケットから何かを取り出す。
濃紺色で真紅のリボンがついた小さな包みだった。
会話を止めた女の子達がカカシを見つめているが、カカシは持っている小さなプレゼントに目を落とす。
ゆっくりとイルカを見つめた。
サクラの距離から見ても、イルカの黒い目が微かに動揺を含んでいるのがわかった。

「あのさ……、ちょっといい?……話が、あるんだけど」

ぽかんとしたイルカよりも早く、周りの女の子達が状況を呑み込んでいる。成り行きに興奮している様子で、イルカを、カカシを見ていた。
カカシの手が伸び、返事をしない、動かないイルカの手を掴んだ。その行動に驚くイルカを連れ、カカシはそのまま歩き出す。

少し経った後に聞こえたのは生徒達の黄色い歓声だった。

ずんずん歩く二人の後ろ姿。
耳が少しだけ赤くて。
二人とも黙って。
イルカはカカシの背中を見つめていた。

見えなくなっても。女の子達が騒ぎながら何処かへ行ってしまっても。サクラはその場に立ったまま誰もいなくなった校門前の道を見つめていた。
ゆっくりと目を伏せ、息を吐くように笑った。
嬉しさが後からこみ上げる。
緩む口元をぎゅっと結んで、顔を上げる。
息を吐き出した。

そっか。
応援して良かったんだ。
そうだったんだ。

サクラは雲が高く澄んだ夕空を見上げる。
そしてもう一度、そうかあ、と嬉しさに目を細めながら呟いた。

<終>
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