愛の糸

暖かい眠りの中布団から出た指が寒くて、イルカはぶあつい布団に手を入れ、くるまるように身体を丸くした。
まだ眠い。寒い季節の布団の中ほど気持ちがいいものはない。
その心地いい布団の中で、イルカは微睡みながら、身体の怠さに微かに眉を寄せていた。
全身が怠いが、強いて言えば下半身の怠さがほとんどで。
慣れてるとは言え、時間が然程経っていないからか、残るゆるい痛みはなんとも言えない。
もう一度深い眠りに落ちたくて、イルカは身体を動かすと、後ろで別のかたまりがもぞりと動いた。にゅっと伸びた腕が、イルカを背中から抱き抱える。
イルカは目を閉じ、この下半身の怠さの原因であるカカシにいまいましげな表情を心の中で浮かべてながらも、ぴったり張り付く子供のようなカカシに口元を緩めた。
相手はまだ夢の中なのか、寝息を立てながら、むにゅむにゅと口を動かしたのが聞こえた。
きっと、カカシはあどけない寝顔を浮かべているのだろうと、うとうとしながら思う。
再び微睡み始めたその心地よさは、直ぐに破かれた。
ドアを叩く音が聞こえたからだ。カカシの部屋にはインターフォンはない。それは、この上忍のアパート然り、中忍のアパートも。
だから、ドアを叩くしか方法がないのだから仕方がないが、叩かれる音にイルカは布団の中で目を開けた。
まだ眠たいし、カカシもまた同じはずだ。
だが、夢の中だったはずのカカシは、2回目のドアを叩く音に、むくりと起き上がった。
静かに起き上がると、スプリングが体重をかけたのかで、ベットが少し揺れる。
裸のままだったカカシの、下着を着る音がイルカの耳に入った。
昨夜脱いだままになっていたズボンを履き、そこからカチャカチャとベルトを締める音がした。
歩き出す音にイルカは薄っすら目を開く。ノースリーブの上着にズボンを履いただけの格好の後ろ姿が目に入った。
こんな朝から誰だろうか。
布団の中でぼんやり考えているうちに玄関に向かうカカシの姿は見えなくなる。同時にカカシがドアを開ける音が聞こえた。
間取りが広い部屋は、聞き耳を立てていなければ話し声は聞こえない。
だが、性別くらいは分かる。
だから、聞こえた声に反応して心臓がドクリと動いた。
若い女性の声。
話す女性に、カカシが一言二言返している。
数分も経たないうちにドアは閉まった。カカシがこちらに向かって歩いてくる。
逞しい腕を上げ、怠そうに前髪あたりをかきあげ、テーブルに何かを置く。寝室に入って、目を開けていた自分を見つけたカカシが口を開いた。
「…起こしちゃった?」
何て答えたらいいのか。はいそうです、と普通に返事すればいいだけのはずなのに。口から出てこない。
カカシの普段人には見せない格好と、さっきの来客が女性だったことは、イルカの気持ちを簡単に逆撫でた。
「誰だったんですか?」
そんな質問が自分から出ていた。
カカシは何のことかと一瞬キョトンとするも、
「ああ、今の?同じ上忍仲間ですよ。一緒に頼んでた兵糧丸をついでにって」
そんな事で家にくるんだ。
心でそう思う。が、口には出せない。だったら尚更そんな格好では出ないで欲しいと言う気持ちが湧き上がる。
顔を隠してる普段の格好でさえ、女性から好かれるのだと言うのに。それを分かってないようなカカシに腹も立つ。
「イルカ先生?」
黙り込んでしまったイルカに、当たり前にカカシは不思議そうな顔をした。
名前を呼ばれてイルカはふいと顔を背けた。面白くない。
カカシに対しても思うし、自分に対しても。
「そんな薄着でいたら風邪ひいちゃいますよ。寒くないんですか?」
気持ちを抑えて出した声は、自分でも不貞腐れていると思う。でも裏がえす内容は自分の願い、もっとちゃんとした格好をして欲しかったのは事実。
「いや…まあそこまでは」
なのに、返ってきた鈍い答えにため息が出そうになった。
「カカシさんは寒いの平気でしたっけ。羨ましいです」
そこまで口にして、もういい。馬鹿らしい。やめよう。
そう自分に言い聞かす。
自分だって適当な格好で来客に応じてる事があるのは、間違いないのだから。
こんな事で機嫌が悪くなる自分に苛立つ。
女性だと言うだけで、ただの上忍仲間に嫉妬して何になる。自分は彼と身体を繋げる、唯一の関係なのに。
小さい。小さすぎる。
ぶつぶつ心の内で呟くイルカの後ろで、カカシが動き、ベットの揺れで彼が乗ったのが分かった。
勝手に不機嫌になった自分に気を悪くしたかもしれない。
いい加減気持ちを切り替えなくては。
そう思って振り返ろうとして、首筋にカカシの指が触れ、身体がビクリとした。
「わっ、」
寒い部屋の外気に晒されていたカカシの身体は思った以上に冷えていた。
その冷たさに声を出していた。が、同時に振り返ろうとしたイルカに見えたのは銀色の髪。首筋に息がかかりそうなほど近くにいる事に驚く。
「なに、」
首を捻りカカシの顔を見て、
「妬いてるの?」
発せられたカカシの台詞は、一気に頬に熱を集めた。
「違いますよ。何言ってるんですか」
「へえ…ホントに?」
否定する言葉を出すも、余裕のある色違いの目の色が、自分の気持ちを見透かしているようで、鼓動が早くなった。
悟らせるような言動をしてしまっていたのは確かだが。
さっきまで何もわかってないような顔をしていたくせに。
イルカはカカシを睨むしかできなかった。
「相手が女だったから?」
睨まれていようが、カカシは悪戯な笑みを浮かべている。黙ったイルカに、ん?と、催促するように首を傾げられ、イルカは唇を噛んだ。
うんと言ったら、丸で自分が心が狭いみたいだ。
「…別に、そんな事は」
「それとも格好が気に入らなかった?」
自分が思っていた箇所を的確に突かれ、更に言葉が詰まる。
悔しい。悔しいのに、優しい問いかけはカカシの作戦だと分かるのに、怒りが緩んでしまう。惚れた弱みだ。
イルカは目をそらしながら、唇を開いた。
「…出来れば…その格好はやめて欲しいです」
ああ、くそ。
心の中で悪態付くも、カカシに視線を戻せば、嬉しそうな笑みを見せられ顔が真っ赤になる。
「もういいでしょう?俺は寝ますっ」
布団の中に顔まで埋めると、その布団の上から抱き締められた。
「ちょ、放っておいてください」
「やだ」
暴れると、更に抱き込む腕に力を入れられる。
「言わせてもらうけど、イルカ先生だってすごい格好してるじゃないですか」
自分が裸だと言われ、かあ、と顔が赤くなる。
「だって、それは、」
昨日あのまま寝たからだと言おうとして、イルカは口を閉じた。昨日このベットの上でした情事が頭に蘇る。
カカシの手が布団の中に潜り込んできて、イルカは身体をビクつかせた。
「や、…だっ」
嫌だと伝えようも、カカシの手は布一枚着けていないイルカの肌を滑る。
それだけで一気に体温が上昇するのが分かった。剥がされるのが嫌で布団を掴んでいたのか裏目にでる。抵抗がないまま胸の先端を指で摘まれ、思わず声を上げていた。
直ぐに唇を結んでみるも、背中からカカシの笑いが漏れたのが聞こえた。
「やめろって言ってるじゃないですか」
身をよじるが、難なく背後から片腕を封じられる。
「こんな朝から、」
そこまで言って、自分の台詞がなんとも状況を説明してるかのようで、身体が熱を持つ。
カカシの唇が耳元にかかり、その息が熱くて呼吸が早くなってきている。
次第にカカシが興奮しているのが分かり、イルカはギュッと目を瞑った。
カカシの手が胸から離れ、足の付け根を指で擦られ、身体が震えた。
駄目だと言おうが、了解を得ずにカカシの指が最奥まで辿り着く。昨夜カカシを嫌という程飲み込んだ箇所は、まだ熱すら持っている。
「だ、」
最後まで言う前に指が入り込み、イルカは息を飲んだ。しっとりしたままのそこは、難なくカカシの長い指を飲み込んでいく。
「まだ濡れてるね」
囁かれてうなじに唇を押し付けられ、ぞくぞくと背中が震えた。
カカシの中指が内壁を擦る。まだ敏感になっている為か、イルカは堪えていた声を漏らした。カカシの一本しか入っていない中指を締め付けているのがイルカにも分かった。
恥ずかしさに目眩がする。
たったこれだけの愛撫で息が荒くなる。
それはカカシも同じだ。
肌に押し付ける唇や中を蠢く指は緩く優しいのに、息遣いだけが切羽詰まっているようだ。
それを証拠に、
「挿れても…いい?」
湿った唇が耳に触れ、問われる。
布団に顔をうつ伏せたまま、イルカは頷いた。
途端指がずるりと抜かれ、イルカは堪えきれず声を漏らす。
布団が剥がされ、外気の冷たさがイルカの肌を包んだ。寒いが、上気した肌は暖かい。
ゆっくりとカカシに身体を向けると、アンダーウェアを脱ぐカカシが目に入った。カーテンの隙間から入り込む朝日が、逞しい鍛え上げられた上半身にあたる。
カカシは服を床に脱ぎ捨てると、ズボンを脱ぐ為に金属音を鳴らしてベルトを外す。
ズボンを脱ぎ捨て下着を脱げば、そこは既に屹立している。それだけで心臓が高鳴る。
じっと見つめていると、顔を上げたカカシと視線が重なった。
熱を帯びたカカシの目が、微笑んだ。
「いいね、その顔。すごくそそる」
上気した顔をしていたのか、強請る顔をしていたのか。
ただ、欲しいの事実だから仕方がない。
唇を一回噛み、ベットに上がってきたカカシの首に腕を絡めた。誘うように薄く開けた口をカカシが塞ぐ。
「ん……っ、ふっ…」
舌を絡めて熱くなる唾液の気持ち良さに声を漏らした。
薄暗かった部屋は徐々に明るさに包まれてくる。
関係なくお互いを求める荒い息が部屋に響く。
それだけでも快楽の一部になる。
もう一度、薄い壁にカカシは指を潜り込ませた。受け入れらるか確認する為に、しっとりとした内部を指で確かめる。
硬い指の腹が擦れるのがなんとも気持ちがいい。疼く快感にカカシから唇を離して短く呼吸を繰り返した。
「もう…」
かすれた声で呟くと、うん、とカカシの声が返ってくる。
カカシは静かに指を引き抜き、腰を掴む。
「う…う、ん…っ」
カカシの熱がゆっくりと押し広げられるように入ってくる。
彼の形をしっかりと覚えているそこは、それだけでまた濡れてくるのが分かった。
脚を広げられ、根元までくわえ込まされる。
彷彿となるこの瞬間。欲していたものだが、慣れたようで慣れない圧迫感と内部の刺激に、自然目に涙が浮かぶ。
気持ちいい。
「動くよ」
カカシは心地よさげに呟くと、そこから腰を動かし始めた。
濡れた音が漏れる声に混ざる。
カカシの背中に腕を回して、ふっと目を開けると、揺れる視界にぼんやり写るテーブル。
先ほどカカシが上忍仲間の女からもらった、兵糧丸。茶色の袋に入れて置いてある。
同じ階級ならわざわざ家に来なくとも渡す場所や機会だってあるのだ。
女の意図は明白だ。
ざまあみろ、とイルカは心で呟く。同時に最低だ、と自分を嘲る。
自分もカカシに溺れているが、それはカカシも同じだと分かっている。
形ない想いは今だけかもしれない。先はないかもしれない。
それでも、この気持ちと快感に溺れていたい。
だってカカシが好きなのだ。
醜いなあ、と思う。教壇に立ち、純真な子供に教えを説いている職業だと言うのに。
曇りなき眼に晒されようとも。
この行為に夢中になりながら自分のプライドは隅に押しやった。
揺さぶられ抑えられなくなり嬌声は漏れる。
「カカシ…さん…っ」
「…イルカ先生」
名前を呼ぶと、返され名前を呼ばれ心が満たされる。
愛してる。愛してる、と心で繰り返す。
たぶん、一生。こんなに愛する人はいない。きっと生涯でカカシだけだろう。
子供たちに言い訳するような気持ちを曝け出すが、言い訳ではない。
本心だ。
キスして、抱きつき、隙間なく身体を寄せる。奥の奥まで何度も突かれ、イルカの鈴口からは淫液が溢れ、イルカも腰を揺らしていた。
「カカシさん…もっと、」
「…ぅっ…、」
カカシからも心地よさそうな声が耳に直接吹き込まれる。ぞくりと身体を震わせ、硬い乳首がさらに硬くなった。
その先端をカカシの指が弄り、イルカは喘ぐ。直接触れられていないのに、イルカは射精した。
カカシの腹を、自分の腹を汚す。
同時に中をきつく締め付け、イルカの内部でカカシの陰茎がひとまわり大きくなり、それが熱を吐き出した。
気がつけば、カカシの背中を爪で傷つけていた。無意識に傷つけた事が、独占欲を湧き立たせる。言葉に出来ないくらいに彷彿とさせる。
ぐったりと力を抜き、イルカはカカシの背中から布団に腕を落とした。その手にカカシの手が重なる。少し前はあんなに冷たかったカカシの指は、暖かい。
カカシの指がイルカの指に絡みつく。イルカも応えるように指を絡ませる。
その手を見つめ、愛の糸のようだとぼんやり思った。
「イルカ先生…愛してる」
カカシから漏れた台詞に、イルカはうっとりと目を閉じた。

<終>



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