甘い

「あっちいーっ」
 ラーメンを食べ終え支払いを済ませて暖簾を潜り店を出ると、既に先に外にいたナルトが声を出した。
「そりゃラーメン食ったんだから当たり前だろ」
 隣にいたイルカが笑って金色の髪を撫でながら、カキ氷にすれば良かったのに、と付け加えれば、ナルトはイルカへ視線を上げて、そして少しだけ唇を尖らせる。
「だあーって、せっかく奢ってくれるって言うんだからさ、だったらラーメンに決まってんじゃん」
 ナルトなりの損得勘定の定義にイルカは眉を下げて笑い、そして店から出てきたカカシに顔を向けた。
「すみません、俺の分まで」
「いーよ、そんなの。先生はいつもナルトにたかられてるんだから」
 頭を下げるイルカに、カカシはニコリと笑ってそう言うと、少しだけ上目遣いでカカシを見つめ、嬉しそうに、ありがとうございます、と口にする。
「俺いつもたかってなんかないってばよ!」
 聞き捨てならないと反論したナルトに、イルカはそうか、と顔を向けた。

 二人で商店街へ向かって歩いていた時、運悪くと言えばいいのか、ナルトに見つかり、結果ラーメンを奢ることになった。
 元々二人で遅い昼飯を食べに行くつもりで、自分が払うつもりだったのだが、何も知らないナルトはイルカが奢ってくれるとばかり思っている。だがナルトに何も悟らせたくないから、自分で支払いを済ませようとしたイルカを遮り自分が済ませた。
 ナルトがいる手前、距離を保ちつつも、恥ずかしそうに礼を言うイルカの表情を見ているだけで、言葉に表せないむず痒い気持ちになる。
あんなに暑いと言っていたのにも関わらず、相変わらずナルトはイルカにべったりで、その仲の良さに少し前はくだらない嫉妬心が芽生えたりしたのだが。
 だけど、実は二人を見るのはそこまで嫌いじゃない。
 カカシは手をポケットに入れ、ナルトとイルカの後ろを歩きながらそんな事を思った。


 ナルトと別れ、予定通り二人でイルカのアパートに向かう。手に持っているのは、途中で立ち寄ったコンビニでビールとつまみだ。
 久しぶりに二人して早く帰れたのだから、たまには早いうちからビールを飲みながらゆっくりしたい。そう言い出したのはイルカだった。
 部屋に上がると締め切った部屋の蒸し暑い空気に包まれる。窓を開ければ、空気が動き出すものの、暑いのには変わらなかった。足を運び慣れた部屋とは言え、この気温じゃ決して居心地はいいとは言えない。カカシは額当てを外し、一連の流れで口布も下ろす。ふう、と息を吐き出した。
「緩くなっちまう前に飲みましょう」
 顔を向けると、イルカは缶ビールを持ち。ニカリと白い歯を見せている。カカシは微笑んで差し出された缶ビールを受け取った。

 キスをしてきたのはイルカからだった。ビールを飲みながらいつものようにイルカの話す話題に相づちを打ち言葉を返した時。テーブルに落としていた視線をイルカに向けたら、当たり前に視線が交わり、そこからイルカがカカシに近づいた。酒のせいではない、緊張に少しだけ頬を赤らめながら、ゆっくりと唇を重ねる。カカシはそれを受け入れた。
 イルカのイメージは見たまんまで真面目で話しやすく大らかだ。普段目にするのは受付か報告所か、アカデミーで子供達といるか。
 だから、その日常の姿から想像出来ない、自分にしか見せない甘えた仕草にそれだけで、背中がぞくりとする。薄く目を開けるとイルカは目を閉じたまま、頬は赤く染まり、そして、ちゅ、ちゅ、と音を立てながらなん度もキスを繰り返している。
 たまにはリードさせたくて、身を任せたくなるが、じれったい。カカシは軽く口いて唇を舐めれば、イルカの身体がビクリと小さく跳ねた瞼が開き、黒い目にカカシ映した。カカシの意図に気がついたのか、頬が更に赤みを増す。
その可愛い表情に目を細めると、カカシは今度は自分から唇を深く重ね、イルカの口にゆっくり舌を差し入れた。酒の匂いが唾液によって広まる。
 開け放たれた窓の外からは近所の子供たちの声が聞こえる中、イルカが強請るようにカカシの首に腕を回した。


<終>

スポンサードリンク


この広告は一定期間更新がない場合に表示されます。
コンテンツの更新が行われると非表示に戻ります。
また、プレミアムユーザーになると常に非表示になります。