Are you hungry?

「あっ、ぁ、あ...っ」
突かれる度にイルカはうめき声を漏らす。
顔が、身体が熱い。
四つん這いになり、尻を突き出す体勢でイルカは顔を床に伏せながら、熱い息を漏らした。
どこを掴むわけでもなく、手をぎゅうっと握りしめたまま、イルカはカカシによってもたらさせる快楽を受け止めていた。
腰を掴んだカカシは何度も揺さぶり、身体を強ばらせ最奥へ今日何度目かになる飛沫を放った。
ふ、ふ、と短く息を吐き出しながら身体の力を抜いたイルカに、カカシが覆い被さってくる。
自分も既にもう何度も達し、自分が放ったそれで腹も床も汚れている。
何で、こんな事になったのか。
ぼんやりとした頭で考えようとして、まだ繋がったままの場所をカカシに動かされ、イルカは声を漏らした。
「もっ、...駄目っ」
そう力なく口にしたイルカの身体を持ち上げ、自分に向かせると、駄目とまた口にした、イルカの口を塞いだ。
涎で汚くなったイルカの唇を舐め、舌を絡ませる。
「んっ...ふっ、ぅ、」
唇を離され伏せていた瞼を開けると、カカシと視線が交わった。
自分を欲している色がしっかりと見え、イルカは背中を震わせ思わず目を伏せた。
「そんな目で見ないでよ」
カカシが困ったように眉を下げた。
濡れた黒い睫にキスを落とす。
そこから脚を持ち、カカシは繋がった部分を動かす。濡れた音が部屋に響いた。中で固さを持ち始め、イルカは濡れた目を開け眉を寄せた。
そこから向かい合わせになったカカシはさんざん突き上げる。
再び、奥に叩きつけるように、欲望を放った。
先に絶頂を迎えたイルカは、奥に熱いものを感じながら、そこでようやく意識を手放した。
赤くなった頬を涙で濡らし、涙によって濡れた黒い睫を、カカシは上気した顔のまま見下ろした。
イルカが嫌だと言えば、普段の自分だったら離していた。
でも、出来なかった。
一回ではおさまらなかった。
こんな抱き潰すつもりもなかった。
ーーでも。
カカシは複雑な表情で眉を顰めた。
恥ずかしさと、まだ残る欲望の余韻。
閉じてしまったイルカの瞼が時折ぴくぴく動くのは、快楽の余韻にも見え、カカシは再び身体の奥に火がつきそうになるのを抑えるように、息を吐き出した。



イルカとつき合って数ヶ月。
自分から告白し、意外にもすんなり受け入れてくれた時は驚いたが、すごく嬉しかった。
堅物で真面目な性格だから、同性同士は抵抗があると思っていたから。
当たって砕けろ的な勢いもあった。
だから、承諾してくれた時の喜びったら。
本当に嬉しかった。
カカシは家路を急いでいた。
短期任務で出かけて1週間。
つきあい始めてからこんなにイルカと会わずにいたのは初めてだ。自分が心躍っている事に気が付き内心驚く。
こんなにわくわくした気持ちになったのはいつぶりなんだろうか。
考えてみても、幼い頃から戦場に駆り出され、淡々と任務をこなすだけの毎日に、こんな感情は、自分の中に存在していなかった。
いや、自分にはないと思っていた。
まるで子供がもうじき訪れるクリスマスに胸を膨らませているような。
正直自分には不思議な感覚だったのに。
出かける前に、ご武運を、とイルカから重ねてくれたあの柔らかい唇の感触は今でもしっかり思い出せる。
それでこの7日間頑張れたようなものだ。
覆面の下で頬を緩ませた。
受付に顔を出せば、お目当てのイルカは既におらず、居る者に聞けば既に定時で帰ったと言う。
珍しいと思うも、きっと帰ってくる自分の為に腕を振るって料理でも作ってくれているのだろう。
そうカカシは思い、また嬉しさに胸を弾ませた。
1週間ぶりにイルカに会えるのも嬉しいし、1週間ぶりのイルカの手料理を食べれるのも楽しみだ。
イルカの料理は美味しい。
男で働いているのだから、基本手の込んだ料理は作らない。しかし、野菜中心でどれもカカシ好みの味だった。
季節になれば、その季節の食材を使ってくれるのもいい。
夏野菜が並び始めた最近は、自分の好きな茄子を使って料理してくれる。
少し前に作ってくれた茄子とピーマンのなべしぎも旨かった。
豪華な料理なんていらない。シンプルに、イルカの手料理さえ食べれらるのなら。
そしてあのイルカの笑顔を見れるのなら。
カカシは玄関の扉を開け、目の前から出てきた黒い塊にぶつかりそうになった。
あ、と声を出したのは部屋の住人であるイルカ。
さほど驚いていなかったカカシに対し、イルカはひどく驚いた顔をしていた。
「ーーあの、」
カカシの顔を見るなり、そう口にしたイルカに、ただいま帰りました、と言えばそこでようやくイルカは笑顔を浮かべた。
「お帰りなさい」
その言葉を聞きたくて帰ってきたのだ。
「うん」
カカシは応えてみるもも、イルカは慌てて外に出ようとしていたようだった。
「どうかしたの?」
カカシの問いに、少し間を開け、イルカは横に首を振った。
「いえ、カカシさんまだかなぁって」
恥ずかしそうに笑うイルカが可愛い。
抱きしめようと腕を伸ばせば、あ、とイルカは声を上げた。
「えっと、まだ夕飯の支度をしてなくて」
言われて気が付く。
そう言えば、想像していたような料理のいい匂いは部屋にしていない。
勝手に想像していただけだし、イルカも早く仕事を終わらせようと忙しかったのかもしれない。
「いいよ、俺手伝う?」
イルカはふるふると首をまた横に振った。
「いえ、すぐ作りますので、カカシさんはお風呂に入ってください。お疲れでしょう?」
「うん、じゃあそうしよっかな」
カカシは素直に従い、脱衣所へ足を向かう為に靴を脱ぐ。
部屋に上がると。居間も、寝室も少し汚れているように見えた。
開けっ放しの引き出しも目に付く。
自分がいない間に残業続きだったのだろうか。
元々自分もそこまで綺麗好きでもない。
1週間ぶりに入る風呂に、カカシはゆっくり息を吐き出した。
カカシはシャワーを浴び身体の汚れを落とすと、沸かされていた湯船に身体を浸した。シャワーを浴びたりはしたが、風呂とは違う。
少し熱いくらいが、疲れた身体には丁度良い。
そう言えば、視界に入った台所には、包丁と共に切りかけの胡瓜が転がるようにまな板の上にあるのが見えた。
きっと帰ってすぐ掃除もそこそこに料理の支度を始めていたのだろう。
今はきっと、イルカは料理を作ってくれている。
その姿を思い浮かべただけで、カカシは幸せな気持ちになった。

いつもより長めに入ったカカシはさっぱりした気持ちで、まっすぐイルカの居る台所へ向かう。
カカシが思ったとおり、イルカが台所に立ち味噌汁の味噌を溶かしていた。
味噌やその他の料理の良い香りが食欲を刺激する。
そう言えば、今日は昼も大したものを口にする事がなかった。
濡れた髪をタオルで拭きながら近づいてきたカカシに振り返り、イルカは微笑んだ。
「もうすぐ出来ますから」
言ったイルカが慌ててグリルをのぞき込む。イルカにカカシも一緒にのぞき込んだ。
「あ、秋刀魚?」
今の時期じゃ高かったんじゃない?
聞くと、
「ええ、でもすみません、ちょっと焦がしちゃったかな」
イルカには珍しい。
でもそこまで真っ黒でもない。
「いいよ、食べれないほどじゃないから。俺運ぶの手伝いますね」
カカシは皿を出すために戸棚へ背を向けた。

ちゃぶ台ににイルカの作った料理を並べ、ビールをそこそこにカカシは茄子の煮物を口に運ぶ。
「ちょっと味が濃かったかな」
イルカも口運びながら言うが、
「でもご飯に合うよね」
カカシはまた茄子を口に入れながら微笑んだ。
しかし、少しイルカが元気がないようにも見える。
言われてみれば、料理もいつもより焦げていたり味が濃かったりもする。
不思議に思うが、それよりイルカとこの部屋でご飯を一緒に食べれる事の幸せが上回っていた。
誰かと食卓を囲む。
それこそ自分には縁のない事だと思いこんでいた一つだった。
火影に見合いを勧められた事は何回もあった。自分自身結婚する事になんのこだわりもなかったが、見合いする女性と家庭を持ち、食卓を囲む事は想像すら出来なく、そうしたいとも思えなかった。
なのに。
目の前でご飯を食べるイルカを見た。
暖かい光景。
(家族って、こんな感じなんだよね)
そこまで思って、家族と言う言葉に一人赤面してしまい、カカシは誰にでもなく誤魔化すようにグラスを持ちをビールを飲んだ。
まだつき合って半年も経ってないのに。
何言ってんの、俺。
勝手に恥ずかしくなり、カカシは視線をイルカから外し、
「ねえ、先生」
目に入った光景に口を開いていた。
「はい」
イルカが応える。
「ここ最近忙しかったの?」
そう聞くのは。
ここの居間もそうだが。奥の寝室も荷物が散乱していたからだ。
え、と聞き返すイルカに、
「いや、俺は気にしないんだけどね。ちょっと荷物がすごい出ちゃってるから、」
と寝室を指さした。
え、とまたイルカは指された寝室へ顔を向ける。
「何か探しものでもしてたとか?」
それか衣替えとか?、と言おうとしたカカシの言葉が止まったのは。
イルカがひどく困惑していた顔をしたから。
何かそんな顔をさせる事を言っただろうか。
泣きそうな顔にも見えて、カカシは眉を寄せた。
「どうしたの?何か、あった?」
自分の留守の間に何かあったのだろうか。
イルカが少しいつもより落ち着きがなかったのも、その為だとしたら予想が付く。
「あの....俺、」
眉根を寄せるイルカは困り果てたような。
カカシは内心焦った。焦るも、何がイルカをそうさせるのか、よくわからない。
カカシは持っていたグラスをちゃぶ台に置いた。
「何?言って。もしかして、どっか具合悪い?」
俯いてしまったイルカをのぞき込もうとしたら、ばっとイルカが顔を上げた。
頬に血を昇らせ、目を少し潤ませ、
「ゴムが、ないんですっ」
泣きそうな声だった。
「え...っと、ゴムって」
素直に聞き返すと、イルカがぐっと眉を寄せた。
「もうゴムが一個もなくて」
「ゴムって....コンドームの事?」
確かめるように聞くと、イルカはこくんと頷いた。
「ないの帰ってきてから気が付いて。でも、なきゃ...駄目ですよね?」

そこから少し記憶がないのは確かだった。
たぶん、よく聞く。理性が飛んだってやつだ。
イルカの身体の負担が心配で必ずゴムを付けるようにしていた。
だから、きっとイルカはゴムなしでは駄目だと思い込んでしまっていたのだ。
無知故に。

意識を失ったイルカを眺めながら、カカシは耳を赤くしてゆっくり息を吐き出す。
1週間してなかったのもあるし、あの台詞もあって。
欲望をイルカに中に何度も放ってしまった。
ゴムなしでも出来るって、これでイルカは分かったのだろうが。
「ごめんね、先生」
カカシは布団に寝かしたイルカの横に身体を横たえ、聞こえていないイルカに謝りながら、寝顔を愛おしむように眺める。
家族になるのはこの人しかいなぁ、と。
小さく一人呟いた。

<終>
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