痕 追記

 昼飯を食べた後、一人なれる適当な場所を探していて。たまたま目に入ったのは道の脇に置かれたベンチだった。
 ちょうど後ろにある大きな木の陰になっている。午後の任務まで時間をつぶすのにはちょうどいい。カカシはベンチに座りいつもの小冊子を取り出す。目を落としてから、数ページも読んでないうちに、
「はたけ上忍」
 声をかけられカカシは顔を上げた。目の前には三人のくノ一が立っていてどれも記憶にあるのはここ最近任務で一緒だっから。しかし名前は覚えていない。誰だっけ、と思うも、昼飯後できりの良いところまで読んだら昼寝でもしようと思っていて。そんな時に余計な頭を回したくない。というか、火急の用でない限りは声をかけて欲しくない。やっぱりベンチではなくもっと人気のない場所で休憩すべきだったと後悔しながら。
 その目の前に立っているくノ一達へ静かに目を向ける。なに?と聞く前に、一人のくノ一が口を開いた。
「明日みんなで飲もうかって話してたんですが、はたけ上忍もどうですか?」
 そんな誘いの声をかけられ、内心すごく面倒くさい気持ちになった。確か、この前、任務終わりにこんな誘いをしてきたのは、この子だったか。たぶん自分は、また今度ね、とか。そんな言葉で流したはずで。その、今度と言う適当に口にした言葉に期待を持ったのかどうかは知らないけど。
 自分の冷めた気持ちとは裏腹に期待を含んだ、そして年下の女の子らしい空気に。密かにため息を吐き出しながらも、カカシはにこりと微笑んだ。
「ありがとね。でも色々立て込んでるから」
 言えば、予想はしていたのか、残念そうな顔をするも、じゃあまた今度時間ある時に飲んでくださいね、と言われる。その場の流れを止めたくなくて、うん、と答えた。
 去って行ったくノ一達の気配がなくなってから、やれやれと短く息を吐き出し読書に戻ろうとした時、
「カカシさん」
 声をかけられ、反射的に立て続けに呼ばれた事に内心うんざりしながらまた顔を上げれば。そこにイルカが立っていた。
 イルカは、手には巻物やら書類やら色々なものをその腕に抱えている。その通り、きっと仕事中で、また雑用を頼まれていることろなんだろう。そう思いながらも、急にイルカが自分に声をかけてくる事はそうない。
 ついでに何か伝言でもあったのか。それともこの前のような何か不満でもあるのか。不思議に思いながらも、
「なに」
 そう聞いたカカシに、目の前に立っていたイルカが不意に屈む。ベンチに座り、顔を上げたカカシの唇に、口布越しに、イルカが自分の唇を押しつけた。カカシは目を見開く。その状況を把握する前に、イルカは直ぐに身を戻した。
 カカシは瞬きをしながらイルカを見つめる。
 された事は分かるが。自分らしくないが、ちょっと、思考がついていかくて。
「え?」
 そう聞けば、イルカは、何故か不機嫌そうに、ぽかんとしたままのカカシを見下ろしながら、
「あなたは俺のものですよね」
 当たり前の様に、平然とした顔で、言い放った。カカシの反応を待つわけでもなく、そこからカカシに背中を見せ、荷物を抱えたまま歩き出す。
 そんなイルカの背中を見つめながら、その台詞が、数日前、執務室がある建物で、自分が口にした言葉に対しての、イルカの言葉なんだと分かる。
 だとしたら、
「・・・・・・言ってる事逆じゃない」
 なんて突っ込むも、不意に口づけされた事に動揺してないはずがない。悔しいが、行動とは裏腹なイルカの態度にもまた可笑しくなりながら。
「・・・・・・ま、いいけど」
 カカシは一人恥ずかしさを隠すように、銀色の頭を掻きながら呟いた。

<終> 
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