痕 追記②

 学期末のテストが終わりそれと同時に新しい期の授業の準備が始まる。皆が帰った職員室で、黙々とその下準備の為に教本を広げて資料を作っていれば、不意に感じたのは気配だった。隠すつもりもないだろうが、その気配はごく薄く、しかしここは里の中心部であり敵が難なくここまで入り込むことはまずあり得ない。イルカが顔を上げれば、半分開けたままになっていた窓枠にいたのはカカシで、少し驚いたものの、その姿を確認して小さく息を吐き出す。そのまま視線を机に戻して再び手を動かした。
「どうしたんですか、こんな時間に」
 淡々と作業をしながら、そう口にするイルカに、カカシは窓枠から床に降りる。
「まだ仕事してるんだ」
 カカシの言葉に、イルカは資料に落としていた視線を上げた。まだ仕事中なのは、そんなの見れば分かっているはずなのに、敢えてそんな事を言うカカシの心理が分からないはずもなく。
 しかし分かっているからこそ、イルカは複雑な気持ちになる。再びカカシから視線を外した。
 時計の針は既に十時を過ぎていてるものの、しかし繁華街はまだ明るい。花街だって近くの町にあり任務の帰りに寄ってこれたはずで。カカシが求めれば、誰でも、どこでもその熱を解放する方法はあるはずなのに。ーー自分のことろに顔を見せる。
 しかも任務が終わって、どこにも寄らずに真っ直ぐここに向かって来たのが分かるから。余計に自分の胸中複雑になる。しかも、職場に自分がいなかったら、きっとカカシはアパートに足を運ぶんだろう。そこまで分かっているから尚の事達が悪いと言えばそうなるが。
 そして、きっと。仕事が終わるまでカカシは待つつもりだ。
 そんなカカシの行動が手に取るように分かるのも癪だが、自分もここ最近忙しくてカカシと顔を合わさなければ当然ご無沙汰で。
 カカシの顔を見ただけでこんな気持ちになるのは、どうにも不甲斐ないものを感じるが。自分も、そんなつもりになっている。
 仕方ない、とペンを置いた。
「どうしますか?」
 多少迷惑な顔を見せたが、素直な言葉が返ってくるとは思っていなかったのか。それとも突っぱねると思っていたのか。イルカの言葉にカカシは少し驚いた顔を見せる。そこから、ああ、どうしよっか、と口にした。
 その台詞で。カカシもそのつもりなんだと直接的に感じ、それだけで身体の奥が熱くなる。
 最低だな。
 内心自嘲するも、どうにもならない。イルカは割り切るように椅子から立ち上がった。

 元々カカシとは、こんな関係じゃなかった。
 階級こそ違うが、互いにいい友人関係を築けていると思っていた。だけど、そう思っていたのは自分だけで。
 酒に酔った日に、カカシに介抱され、そのまま家に送ってもらい。それだけのはずだったのに、何故かカカシに押し倒された。
 いつからカカシはそんな目で見ていたのか。
 そこからなあなあにこんな関係になって。それを続けるカカシもカカシだが、自分も自分だ。
 今となってはもうどうでもいい事なのかもしれないが。
「帰るんじゃないの?」
 歩み寄ればそうカカシに聞かれ、イルカは困ったように小さく微笑む。
「あの二時間くらいかかりますよ?」
 そう言えば、カカシは少しだけ迷うように外した視線を漂わせた。
「そのぐらいだったら、」
「奥の給湯室じゃ駄目ですか」
 カカシの言葉に被せるように言えば、カカシは青みがかった目をイルカに戻した。
 
 真っ暗な給湯室に入って直ぐ、壁に押しつけられ口布を下げたカカシに噛みつくようなキスをされる。
 時間が押し迫ってる訳でもないのに、性急に口づけられ、イルカは合わせるように舌を絡ませた。湿った唇は柔らかくて暖かく、舌は熱い。普段自分とは違い体温も低いのに、こういう時は熱くなる。
 口づけの仕方も、カカシと身体を重ねるうちに覚えた。カカシの舌が口内を荒らし、吸われるだけで背中がぞくぞくと震える。イルカは眉根を寄せた。カカシの唇が口から離れ、頬から首元へと移る。長い指がアンダーウェアを下げ、露わになった肩胛骨辺りをカカシが吸った。ぞわりと鳥肌が立つ。それだけで漏れそうになった声に、誰がいるわけでもないと分かっていても、イルカは口を結んだ。カカシの手は下から腹辺りを指が這い、初めてでもないのに肌が引き攣る。誰もいないと分かっていても声を抑えないわけにはいかない。
 我が物顔に胸をまさぐるのは自分が止めないと分かっているからだ。
 最初は、当たり前だが、拒んだ。慣れない行為にどうしようもなく混乱するし、恥ずかしい。男に触られて、口づけされるだけでこんなに感じるなんて知らなかった。駄目だと言ってもカカシが行為をやめる事はなく、途中から頭が真っ白になり、あっけなく滑落した。
 それは、カカシが上手いからだ。口づけ一つとってもそれは明らかで、慣れているのが分かった。そして、慣れているのと上手いのは別物だと分かったのはつい最近だった。そう、自分は慣れようとも、カカシにされるがままだ。
 いつものように、カカシのもう片方の手が固さを確かめるように、ズボンの上から触れ、そこから下着の中に入ろうとする、その手をイルカが止めた。
「・・・・・・どうしたの?」
 途中で止められ、さっさと先に進みたいと思いながらも不思議そうな顔をするカカシに、イルカは黒い目を向ける。
「今日は俺がします」
 その言葉の意味が分からなかったのか、少しの間の後に、え?と聞き返す。跪くイルカにカカシは驚いたように目を見開いた。
 自分と同じように既に固くなっているのは見て分かった。ズボンの前を寛げると陰茎を露わにさせる。見慣れているはずだけど、こうして近くで見るのは初めてで。思わず唾を飲み込んでいた。
「先生、別に無理して、」
「無理はしてません」
 自分がこうしたと思ったからするだけで、無理をしているつもりはない。
 カカシの言葉を最後まで聞かずして言い、舌で亀頭を舐める。いつもカカシにされていたように側面を舐め上げ、ゆっくりと咥える。カカシが息を詰めたのが聞こえた。
 されている時はされるがままで、どこをどうすればいいのかとか、自分でやろうと思っておきながら、分からない。それでも、カカシのここはしっかり屹立していて鈴口からは透明な先走りがもれている。それを吸い、奥まで咥える。
「・・・・・・っ、」
 その大きさに思わず咽せそうになった。
「ね、先生」
 それでも続けたくもう一度咥えれば、カカシが自分の名前を呼んだ。手が頭に触れる。
「俺のは別に舐めなくても、勃ってるし、直ぐに使えるから」
 直ぐに使える。
 その言い方はイルカをむっとさせた。
 そんなのは分かってる。自分がこうする前から、ズボンの上からでも勃っているのは分かった。ただ、そうじゃなくて。
 カカシの口調から、無理させたくなくてそう言っているのが分かったが、もどかしさに、それを言葉にしたくとも、自分でも上手く言えない。イルカは唇を軽く噛んだ。
 そう、確かにここに連れてきたのは自分だ。性急さはあったかもしれないが、さっさと済ませてしまいたかったとか、そんな事は思っていない。
 それに。戸惑っているくせに、頭を撫でるカカシの手が優しくて。胸が苦しくなる。
 苛立つのを抑えるように、イルカは顔を上げた。見下ろすカカシの目が、その表情が戸惑っていると分かった。その目を見つめ返しながら、イルカは口を開く。
「俺がしたいからするんです」
 イルカの精一杯の表現に、その言葉に、カカシがまた驚いた顔を見せた。カカシの目が、その言葉の意図をくみ取ろうとしているのが分かる。
 自分で言ったくせに、カカシに分かってしまうのが嫌でイルカ目を反らす。顔を伏せると、カカシの陰茎を再び咥えた。
 
 壁に手をつき、突き出した尻をカカシが掴む。解れたそこに、望んだ場所にゆっくりと入り込み、声にならない声が喉から漏れた。
 前立腺が圧迫され、それを擦り上げられ気持ちよさに背中が震える。
 ーーやっぱり家にすれば良かった
 そう思うのは、後ろからじゃカカシの顔が見えないから。
 激しく突き入れられる度にカカシもまた夢中になってるのか、短く吐く息が聞こえる。振り向きたくとも、自分にはその余裕がない。
 時々、この関係にカカシを責めたくもなるが、一番許せないのは自分だ。
 最初。カカシに押し倒された夜。酒に酔っていたとは言え、抵抗しようと思えば出来た。
 力では到底適わないのは分かっているが、それでも抵抗を示す事は出来たはずなのに。
 分かっていて、それをしなかった。
 カカシの腰の動きが早くなり、押し殺していても勝手に声が漏れる。肉の音が部屋に響き誰もこないと分かっていても不安になる。喘ぎながらも、駄目、と言えば、後ろでカカシが息を漏らすように笑った。それは今さらでしょ、と呟いたカカシが一層激しく腰を振る。
 後ろから突き入れながら、イルカの耳に舌を差し入れた。
「あんなに煽っておいて、何言ってるの、」
 皮肉れた言葉なのに、茶化した言い方ではなかった。
 イルカ先生。何度も低い声で名前を耳元で囁かれ、重ねられたカカシの手を握り返すだけで精一杯で、カカシによって引き起こされる快感に、何も考えられなくなる。どうにかしたいのに、どうでも良くなる。その繰り返しだ。
 カカシが奥に注ぐ熱いものを感じながら、満たされるものに、イルカもまた身体をぶるりと震わせた。
 


<終>
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