媚薬

 くそっ・・・・・・!
 悔しさに、自分の愚かさに後悔してもこの状況を脱する事は皆無だ。
 イルカは完全に狼狽していた。そして後悔しようとも、時既に遅い。元々はカカシが原因だが、この状況を作ったのは間違いようもない、自分だった。
 混乱しながらもこんな状況を招いた自分に舌打ちをすると、カカシが息を漏らすように笑った。視界に入れたくなくて横にずらしていた視線が、その笑い声で反射的にカカシに戻る。
 カカシは少し怠そうにソファに体重を預けたまま、うろたえているイルカを見ていた。困り果てている姿を楽しむように、薄く微笑んでいる。しかし、その青い目は微かに潤み白い頬もさっきより明らかに赤く染まっていた。
 媚薬が、カカシの体内を巡り、明らかに反応が出てきている。
 それがどんな体調の変化をもたらすかは、イルカ自身よく分かっていた。下腹部が内側から熾火でじりじりと炙られるような、感覚。そこからもたらされる快感はまさに麻薬と同じだ。そして、それを嫌と言うほど時分に味わわせたのは誰でもない、目の前のカカシだ。
 その感覚を思い出し、イルカは思わずこくりと唾を飲み込んだ。カカシはまたその様を見て、また微笑み、腕を上げる。自らの額当てを取ると無造作に、床に落とした。そして怠そうに銀色の髪を掻き上げる。
 このまま逃げてしまえばいいのに、ゆったりとしたカカシの動作から目を離せない。足もその場に縫いつけられたように動かなかった。棒立ちになったまま、窮地に立たされているイルカを見て、カカシはまたほくそ笑む。髪から手を離した。
 その動作を見てるだけなのに、心臓が痛いくらいに跳ねた。同時に体の奥がひりひりとして。思わず後ずさった時、
「逃げられるとでも思ってるの?」
 カカシの言葉に、イルカの体がぴくりと反応した。視線をカカシに向ければ、苦しそうに息を吐き出すカカシと目が合う。
 自分がカカシに入れた媚薬は微量で、それを全部飲んだのはカカシ自身だが、関係者しか立ち入れないこの部屋に誘い入れたのは自分だ。
 僅かに見開き緊迫しているイルカに、カカシがふわりと、笑った。
 逃げれないと、分かってるのだ。
 媚薬がまわった体で、しかし優越感に浸るような表情でカカシは嬉しそうに微笑む。
「じゃ、鍵かけて」
 そう口にしたカカシを見つめながら、イルカはぎゅっと拳を握った。


 喉が苦しい。
 イルカは苦しさに眉根を寄せた。ソファに座ったままのカカシに跪き、カカシの陰茎を口で扱くように動かす。屹立した陰茎がにその頭にカカシの手のひらが乗った。
「そう、上手・・・・・・」
 息を吐き出しながらカカシが囁くように言う。イルカは涙目になった目をぎゅっと瞑った。
 口の中でカカシの陰茎が、舐める度にびくびくと脈打ち、それが何故かもどかしくて堪らなくなる。それに、無理矢理させているくせに、頭を撫でる手は優しく感じて。それだけで頭が混乱した。
 こんな事になるなんて思ってなかった。
 ただ、やりかえしたかっただけなのに。
 と、頭を撫でるカカシの手に力が入ると同時に、やば、とカカシが言葉を漏らした。
「せんせ、もう、イきそう」
 だから我慢、してね?その意味を理解する間もなく、カカシが自分の腰を使い激しく口内を荒らすように何度も突っ込む。
 喉奥にまでカカシの陰茎が入り込み、その苦しさに目に浮かんでいた涙が零れ頬を伝うが、それが直ぐに終わった。カカシが短い呻き声を上げ、動きが止まる。喉の奥に熱いものが流れ込んだ。涙目のまま吐き出されるそれを受け入れる。
「・・・・・・んっ」
 カカシが陰茎を抜くと、自分の唾液の糸が引いた。
 上から聞こえたのは、カカシの満足そうな息を吐き出す声。おずおずと視線を向けると、カカシがうっとりとした表情でイルカを見つめていた。カカシの手が伸び、乱れたイルカの頭を撫で、そしてその指がするりと頬を撫でる。口元に添えられ、僅かに開いたままになっていたイルカの口の中に指を入れ開けさせた。
「すごい、俺のでぐちゃぐちゃだね」
 飲み込めずに唾液と混じるそれを見つめ、カカシは目を細める。
(・・・・・・もう、嫌だ)
 イルカはカカシの手を避けるように顔を動かし伸ばされた手から逃げると、震える手で立つべく力をいれた。その手を掴まれ、思わず睨んでいた。
「離してください」
「何で?」
 目を見開き怯えるイルカに、カカシは笑った。
「今更だって、それはあんたが一番分かってるでしょ。それに、どうしたいかなんて、俺が聞くまでもないみたいだけど」
 ふと視線がイルカの下半身に向けられ、背中が冷えた。
 無理強いされた行為のはずなのに、それだけで身体が反応していた事を。身体の震えは、恐怖や無理強いされた事からくるものではなく、カカシによって覚えさせられた快感が蘇ったからだ。
 それが、バレていた。
 カカシの視線に耐えられなくなり視線を床に落とす。イルカは口をぐっと閉じた。
「・・・・・・俺、はっ、」
「いいよ。ただ、嫌だって言っても薬がぬけるまでつき合ってもらうつもりだから」
 さらりと言われ思わず顔を上げたイルカの手を、カカシは引っ張る。ソファに座っていたカカシの身体の内に入れ抱き込められた。
 途端に感じるカカシの体温は確実に熱い。項に顔を埋められ薄い皮膚を舐める。ゾクリと背中に痺れが走った。そこから軽く歯を立てられる。
「・・・・・・っ、」
 痛みを感じる間もなくカカシの熱い息が耳奥に吹きかけられ、出したくもない声がイルカから漏れた。
 その間にも、カカシの手がイルカのズボンにかかり片手で器用にベルトを外していく。反射的にイルカは下げられそうになるズボンを引っ張っぱるとカカシが手を止めた。舌打ちが聞こえる。首もとから顔を上げるとイルカをのぞき込んだ。
 間近で目が合い、その青い目がじっとイルカを見つめる。
「乱暴にしたくないの、分かるでしょ?」
 イルカの黒い瞳が揺れた。先週、カカシによって何度も何度もイかされ、もう嫌だと言ってもやめてくれなかった。
 確かに、もうあんな風に乱暴にされるのは嫌だ。それでも、丸で何かの作業のような、何にも生まれない行為は、嫌で。それをカカシに説明なんて出来るわけがなく、そして、自分が蒔いた種とは言え、本当に、ーー情けない。
 でも。逃げれないと分かっていても、それでも嫌なもんは、嫌だ。思い出した事に心音がどくどくと高鳴り始めた。
 その時、ふと顔に陰りが出来る。カカシに唇を塞がれ目を見開いた。カカシはイルカを抱きしめたまま顔をの向きを変えると今度は深く口付ける。乱暴でもない、甘いキスに戸惑う間もなく今度は舌を差し入れられた。熱い舌がイルカの口内を動き、イルカの縮こまった舌に自分の舌を絡ませる。んっ、とイルカの声にならないくぐもった声が鼻から漏れた。
 舌は緩く動きゆっくりとその口が離れる。目が合ったかと思ったら、またカカシは唇を重ねた。さっきよりも優しく。そしてちゅ、と音を立て唇を啄み、そして今度はイルカの濡れた目元に唇を落とす。涙が出たのはカカシのせいなのに、それを自分で慰めるように。
 混乱していた。
 薬のせいだと思いたいし、たぶんそのせいだと分かっていても、何なのか。
 そして考えている間にも、またゆっくりとカカシが口づけを繰り返した。
 それに気がそれる間に、カカシの手が動く。今度はズボンではなかった。イルカのベストのジッパーを下ろし、そして上着の中に入り込む。まだ柔らかい胸の先端をカカシの指が触れた。
「んっ」
 イルカの身体がビクリと跳ねる。抵抗したい。その気持ちがまだ頭のどこかにあるのに、カカシのキスが優しくて、それに気持ちよくて。手に力が入らなかった。口の中で唾液がとろとろになる。気がつけばその口づけに夢中になっていた。カカシの手が固くなった乳首を指の腹で摘み甘い痺れを作る。
その手が上着から抜かれ、ぐいと服を巻く仕上げた。キスを繰り返していた口をイルカの唇から離し、露わになった胸へ顔を埋め、ねろりと舐める。
「あ、んっ、」
 舌で先を押しつぶされ、身体に力が入ったイルカに構わず乳首をカカシが吸った。覚えがある刺激はイルカの思考を鈍らせるのに十分だった。カカシの手がイルカの身体を引き寄せ音を立て吸う。もう片方の手が下に伸びた。カカシの鼻から漏れるのはせわしない息なのに、イルカの肌を滑らせる指先はさっきよりずいぶんと優しかった。気がつけば抱き込めれながら下着の中にカカシの手が入り込み、そしてすぼまっている最奥を指の腹が撫でた。イルカの身体がびくりと跳ねる。
 胸に愛撫を続けていたカカシが顔を上げ、イルカをのぞき込んだ。
「・・・・・・いい?」
「・・・・・・え?」
 濡れた目で瞬きをし、聞き返した。
「あんたの緊張解すのが先だと思ってたけど、結構俺もそろそろ限界・・・・・・」
 間近でカカシは苦しそうに微笑む。手を握られた。その手がいつも以上に熱くカカシの偽りのなさを伝える。
 イってもイっても快感を求め、自分の意志とは関係なく欲望が溢れる苦しさを、自分は知っていた。
 答えを待つまでもなく、カカシの中指が入り込み、思わず息を飲む。それは、すんなりと根本まで入り込んだ。ゆるゆると少しずつ解れていくそこに、イルカは眉根を寄せた。指が動き、中を擦る度に腰が揺れる。
 耳元で、ね?と熱っぽく聞かれ、その低い声に背中がぶるりと震えた。あんなに嫌だったのに、その気になっていた。それがどうしてなのか、分からない。分かるのは多少は自分が悪いと言うこと。カカシの飲んだ量はふざけていたが、前述の通り、全く自分が悪いとは思えない。イルカがこくりと頷いた瞬間、カカシの目が変わった。
 そこから下着毎ズボンを脱がされ、ソファに座っているカカシを跨ぐように座らされる。躊躇なく尻を掴み指が二本、押し広げるように入ってきた。性急な動きにも関わらず、相変わらず動かす指はやわらかなもので。しかも、ひどく具合がいい。尻を強く揉まれただけで背中にぞくぞくと何かが走る。勝手に腰がまた動いた。
「あっ、・・・・・・ぅ、んっ」
 甘い声が勝手に漏れる。
「可愛い・・・・・・」
 自分では思ってもみない言葉を囁き、イルカに口付ける。
「・・・・・・挿れるよ」
 指が引き抜かれたと同時に熱い塊が押し当てられた。イルカの腰を持ったカカシがそのまま下から突き入れる。
「・・・・・・っ、あぁっ」
 そこからは、激しく攻めたてられ、イルカが達した後も、カカシは動きを止めなかった。カカシも間もなく達したが、その後は床に押し倒された。ゆっくりとして欲しいけど、それは叶わず覆い被さったカカシに何度も中のいいところを擦られひっきりなしに声を上げる。
 そこがアカデミーの建物の中とか、それももうどうでもよくなっていた。
 それどころか、
「気持ちいい・・・・・・、」
 カカシにされる全てが自分の快楽を支配して、そんな言葉が自分から漏れていた。
 笑うと思ったが、カカシは笑わなかった。茶化す言葉もなく、うん、と呟く。
「気持ち、いいね、」
 カカシは額に汗を浮かべ、目は、うっとりをイルカを見つめ薄く微笑む。それが媚薬の効果なのか、分からない。カカシから唇を合わせてくる。イルカも口を開き、舌を自ら差し出した。


 目が覚めた時、イルカは自分がどこにいるのか分からなかった。分かるのは、身体が怠いという事。ただ、今自分がいる中は心地いい。足を滑らせると素足に触れる布の感触からこれがシーツだと気がついた。
 ぼーっとしたながら見慣れない天井を眺め、ゆっくりと寝返りを打つ。
「目が覚めた?」
 不意に聞こえた、聞き覚えのある声にイルカの身体がギクリとした。それが誰なのか分からないはずがない。
 聞こえた方へ顔を向けるとカカシが部屋の壁側に座ってこっちを見ていた。きちんと身を支給服に包み額当てと口布もしている。手にはたぶんいつもカカシが読んでいるだろう小冊子。
 カカシの存在に気がつき、少しだけ目を見開いたイルカに、カカシは静かに見つめたまま、その小冊子を閉じた。よいしょ、と床から立ち上がる。
「あの、ここは、」
「俺の部屋。先生あの後意識失っちゃったでしょ?だから、仕方なく」
 そう言いながら背を向けると隣に続く部屋へカカシは消える。
 カカシの部屋。言われてぼんやりと周りを見渡した。想像すらしていなかった部屋は、綺麗に片付いている。
 カカシは水を入れたグラスを手に直ぐに戻ってきた。
 ベッドから起き上がるイルカに、グラスを差し出す。
「喉乾いてるでしょ。飲んで?」
 言われてみればその通りだった。
「・・・・・・ありがとうございます」
 素直に受け取り水を口に含み喉に流す。冷えていて気持ちがいい。ごくごくと水を飲めば、
「あんなにひっきりなしに声上げてたもんね」
 そう言われて、そんなカカシを眺めながらぼんやりとした頭に恥ずかしげもなく腰を振る自分が浮かんだ。顔が赤くなる。
「あれは、あなたが、」
 否定する言葉を口にすると、言い終わる前に、うん、分かってる、とカカシが認めた。
「でもさあんたも悪いよ。薬なんて飲んでないのに、あんな気持ち良さそうにして。抑えきかなくなるの、当たり前じゃない」
「な・・・・・・っ、」
「気持ちよかったでしょ?」
 分かってると言わんばかりの顔が心底ムカつく。ムカつき、悔しいがそこは否定しようがない。どうしようもないくらいに、気持ちよかった。言い返せなく、顔を真っ赤にして黙り込むとカカシは、でさ、と言葉を繋げた。
 訝しみながらもグラスを持ったまま次の言葉を待つイルカに、カカシは銀色の髪をガシガシと掻いた。髪が少しだけ、乱れる。そこから一回下げた視線をイルカに戻した。
「俺の女になる?」
 目を丸くしたのは当たり前だった。
「・・・・・・はい?」
 間の抜けた声が出た。今までの経緯を考えたらどう考えてもそうなる流れではない。怒りより呆れが上回る。
 だが一周回り、込み上げるのはやはり怒りだった。
 あり得ない。絶対に、ない。薬を盛るような相手をそう簡単に信じることなんて出来るわけがない。ましてや女になれなんて。図々しいにも程がある。
「い、嫌です!お断りします!」
 顔を真っ赤にして声を荒げるイルカに、カカシは声を立てて笑った。だよね、と言った。
「でも、あんたは絶対俺を選ぶよ」
 これ以上体の相性のいい相手なんて、いる?
「ばっ・・・・・・!」
 馬鹿だろ、と言いたいのに。
 さも当たり前に自信満々に言って退けるカカシに呆れて次の言葉が出てこなかった。
 だが、体はカカシを知ってしまっている。嫌というくらいに。今日それを自分も、カカシも知ってしまった。
 カカシはベッドの前にしゃがみ込むとイルカと同じ目線の高さになる。両腕を布団の上に置いた。
「ね?」
 何が、ね?だ!!
 持っているコップを持つ手に力が入る。その中の水をカカシの顔にぶちまけてやりたいのに!・・・・・・出来ない。
 それを知ってか、カカシは怒りで震えるイルカを見つめ、嬉しそうに笑った。

<終>