candy

 休みが重なった日、カカシはイルカのアパートに来た。どうせなら前の日から泊まっていけばいいのに、と自分はそう促したが、任務で里に帰ってくるのが日付を越えるし、きっと俺汚れちゃってるから、とカカシは自分の誘いを断った。
 その通り、翌日洗濯や部屋の掃除を終える頃にカカシはイルカのアパートに顔を出した。休日なのに変わらず忍服なのはいつ呼ばれても大丈夫なようにだ。そこは内勤である自分とは違う。カカシは部屋に上がるとベストを脱ぎ口布を外す。それはカカシがイルカの部屋で寛ぐいつもの格好だった。
 カカシに手みやげにと渡されたビールをイルカは冷蔵庫に入れながら、ちゃぶ台の前であぐらを掻いでテレビを見ているカカシへ視線を向けた。
 そして、変な人だなあと。そう思うのは、あのバレンタインの日から始まったカカシの猛烈なアピールがあったから。そこから一緒に住みたいだの、旅行へ行こうだの。まだ自分の気持ちが追いつかない時期だったせいもあってか、戸惑った事は事実だ。
 でもそのくせにつきあい始めると、意外なところで自分に気を使う。そこは普通なら良いことなのかもしれないが、拍子抜けした部分でもあった。
 このビールもそうだし。
 自分では日常買わない、そして自分の好きな銘柄のビールカカシが選んで買ってきてくれているのが分かる。イルカはそのビールを冷蔵庫に入れ扉を閉めた。
「カカシさん、昼飯は簡単にチャーハンにしようと思うんですが、いいですか?」
 聞くと、カカシはイルカへ顔を向け、うん、と嬉しそうに答えた。

 昼飯と食べ終え片づけも粗方終えると、イルカはカカシがいる今へ戻る。カカシはあぐらを掻いていつもの愛読書に目を落としていた。すり減った表紙を見る限りもう何十通りも、いやそれ以上に読み返しているに違いないし、しかも内容は如何わしいのに、カカシの落とす静かな目線もその目元も実に涼しげで。綺麗な横顔は特だなあと、素直に思う。
 イルカもまたしゃがみ込んで、隅に置いたままになっている自分の鞄から本を取り出した。
 同僚が貸してくれた本だ。大作だから読めと半分無理矢理に渡されたものの、そのページ数の多さに驚いた。読み終わるのが一体いつになるのか。そして本と一緒に鞄に入っていた棒付きの飴を取り出した。これは子供達が少し前に自分にくれたものだ。鞄に入れっぱなしになっていた飴の袋を取り、口に入れる。苺味のそれなりに甘い飴だ。カカシにはとても勧められない。これを少しだけ読んだら、代わりと言ってはなんだが、珈琲でも煎れよう、とイルカもまた本に目を落とした。
 数ページ読み進めたところで、
「先生」
 呼ばれてイルカは顔を上げた。はい、とイルカは素直に返事をして顔を上げる。
 青い目がイルカを見つめていた。
「飴?」
 予想していた事を聞かれる。イルカはまた、はい、と頷いた。入れていた飴を、棒を掴んで口から出す。
「ええ、もしかしてカカシさんも欲しかったですか?」
 聞くと直ぐに案の定、要らない、と声が返った。
「ですよね。これ甘いんですよ」
 軽く笑ってイルカはまた飴を口に入れると本を読み始める。
 そこからまたカカシに名前を呼ばれたのは直ぐだった。
 同時に後ろから抱きすくめられる。
「・・・・・・あの、・・・・・・カカシさん?」
 ちょっと行動が読めなかった。取りあえず名前を呼ぶと、ぎゅう、と力を入れまた抱きしめられる。イルカは本から手を離した。飴も口から出す。
 密着したカカシの匂いが仄かに匂った。後ろから回された腕をカカシの逞しい腕は嫌いじゃない。後、柔らかい銀色の髪も。イルカは戸惑いながらも回されたカカシの腕に触れる。と、密着した事で、腰辺りに感じるカカシの熱に、イルカは気が付く。かあ、と顔が熱くなった。
 こんな昼間っから、昼飯を食べた後の穏やかな時間に、何でこうなってんだ。
 イルカは眉根を寄せる。
 気が付かないフリをするべきか。出来れば素知らぬフリをしていたいのに、
「ねえ、先生したくなっちゃった」
 甘えるように耳元で囁かれた声はイルカの耳にはっきりと聞こえ、さらに顔が熱くなる。ぐっと口を結ぶ。
 腰に当たる明らかなカカシのその主張するそれは、しっかり固くなっていて。自分のものでないのに、異様にイルカの羞恥心を煽る。
「・・・・・・でも、」
 まだ、日も高いですし。尻すぼみした声で言うと、うん、とカカシは返事をした。
「夜まで待とうと思ってたんだけど、あなたのその姿見てたら我慢出来なくなっちゃった」
 ええと、この人は何を言ってる?
 説明され余計に分からなくなった。
 だって俺はただここでカカシさんと同じように本を読んでただけで、
 そう思っている間にカカシが腕を離し、イルカを自分の方へ向かせる。驚いたまま、そして頬を赤く染めたままのイルカをじっと見つめた。
「飴舐めてるその先生の唇、すごく好き」
 面と向かって言われて、どう反応したらいいのか。イルカはじわりと耳まで赤く染めた。苦笑いを浮かばせる他ない。
「でも俺は、・・・・・・ただ飴を舐めてただけですし、」
「うん、でもすごくそそる。だから、その口で俺のを舐めて?」
 うっとりとした目で、カカシは言った。


 やっぱりこの人は変わってる。
 イルカは目の前に屹立させたカカシの陰茎を見つめた。知っているはずなのに、明るい部屋で見るその大きさにイルカは思わずこくりと唾を呑んだ。もう飴は舐めていないしさっきカカシにキスをされ舐め取られているはずなのに、唇に溶けた飴がまだ残っている気がして、イルカは舌で自分の唇を舐めた。刺すような視線にちらと顔を上げると、カカシがじっとこちらを見つめていた。カカシの手が伸び、唇を指の腹でなぞった。固くて長い指先が軽くイルカの口を開けさせる。
「舐めて」
 やんわりと促され、イルカはまた目を伏せた。視線を落とす。まだ何もしていないのに、鈴口からは透明な先走りが漏れている。
 カカシと体を繋げてはいるが、これをするのは初めてだった。
 だから、躊躇って当然だ。
 カカシが自分にしてくれた事はあった。だからなんとなくどんな風にすればいいのかは分かっている。ふとカカシの口内のあの熱さが蘇り、何故か体の奥が熱くなった。
 イルカは屈み口を開け、先端を舐める。そこから側面をゆっくりと舐め上げた。そこから咥える。
 正直、必死だった。拙いのは分かっている。それでもやはりこの大きさを咥えるのは辛い。
 本当にこれで気持ちいいんだろうか。
咥えては舐めを繰り返しながら、顔を上げる。カカシの熱で浮かされたような目をしていた。イルカの視線に僅かに目を細め、首を少しだけ傾げる。何?と目で問われた。
「あ、・・・・・・あの、気持ちいい、ですか・・・・・・?」
 素直に聞いたイルカに、カカシは白い頬をほんのり赤く染めながら、微笑んだ。
「うん、・・・・・・すごく気持ちいい」
 手のひらで頭を撫でられる。優しい眼差しに思わず胸がきゅんと鳴った。
 いやいやいや、違う。
 イルカは慌ててカカシの陰茎を口に含みながらそう心で否定する。
 こんな事を昼間っからさせてる事事態おかしいんだ。律儀で気を使うくせに、こういう事は平気で強請って。
 だけどそれを許す自分も自分だ。でも、あんな気持ちよさそうな顔をされたらーー。
 口で扱きながらもその大きさに思わず涙目になる。疼く自分の下半身に、思わず手を向けていた。
 カカシのを咥えているだけで、自分のもしっかりと反応している。
 この行為させる事自体変だと思うくせに、気持ちいいと言われて嬉しいと思ってしまっている事実。
 矛盾していると分かっているが、どうしようもない。
 スウェットのズボンに潜り込ませた手をカカシが掴む、イルカが顔を上げると、口内からカカシの陰茎がぬるりと飛び出した。
 唾液で濡れた唇を少し開けたままイルカはカカシを見上げると、カカシは眉根を寄せる。
「ね、ベットにいこ?あっちでたくさんしてあげる」
 妖艶でいて、柔らかいカカシの笑みにイルカは頷く事しか出来なかった。


 結局、窓は閉めているものの、昼間っからあらぬ声をひっきりなしに上げ、自分も腰を揺らしていた。
 せっかくシーツも洗って布団も午前中に干したと言うのに。汚したのはほとんど自分の液体だ。カカシが何度目かの精液を自分の中に吐き出した時、日は既に傾いていた。その汚れた布団の中でイルカは汗ばんだ体を横たえぐったりとする。
 その背中をカカシが後ろから抱きしめた。汗で滲んだ肌に、項辺りにキスを落とし、ちゅう、と何度も吸う。
 カカシと休日をゆっくり過ごそうと思っていたのにもう一日が終わろうとしていた。もうちょっと他に有意義な休日の過ごし方があったのではないのか、そう思い後悔で項垂れそうになった時、
「気持ち良かったね」
 カカシから満足そうな声がかかる。彼の満足そうな、それでいて幸せそうな声。そこで自分もまた満たされている事に気が付く。体だけでなく、心も。否定するところは何もない。
 バレンタインでチョコを渡された当初、誰がこんな奴を好きになるかと、そう思ったのに。
 ただ、言える事は。あの時の自分はこんなに誰かを好きになるとも思ってなく、またその好きになった人の温もりが、こんなにも心地が良いものとは知らなかった。
 ただ、流石に会う度にカカシを好きになっているとは到底言えっこない。
 そこから。イルカは息を吐き出しながら、はい、と自分の気持ちを認めるようにカカシに答えた。
 
<終>
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