candy②

 七班の任務の帰り、イルカにばったりと会ったナルトは上機嫌で今日の任務の成果を話す。どんな内容でも事細かく報告をするその姿に、毎回毎回飽きないものだと呆れながら感心もするが、その報告を聞いているイルカ本人は嬉しそうだ。
 時にはナルトと一緒に笑い、サクラやサスケに語りかけ、目を細めてナルトの頭を撫でる。
 イルカの教師と言う姿と、そこで見せる喜怒哀楽を含む表情が好きなのだと、カカシはナルト達と話すイルカを見つめながら自覚する。
 たぶん無意識に。好きだと自覚する前から。たぶんこの人を目で追っていた。
 そんな事改めて口に出すことでもないからイルカには言わないが。でも言ったら、どんな顔をするのだろうか、とそこまで思うも、イルカならきっと気持ちを押し隠すだろうと分かる。だた、その押し隠している分、思い切り顔に出てたりもするが。カカシは密かに苦笑いを浮かべる。
 その時ナルトが、そう言えばさ、と口にした。
「先生はこの前の週末何してたんだってばよ」
 他意はないナルトの質問に、イルカの笑っていた表情が僅かに固まった。
 無理もない。イルカは土曜も日曜も誰でもない、自分と二人で過ごしていたのだ。飴を舐めるイルカに欲情にし無理強いさせ、そこから溺れるようにお互いを求めた。あの甘くて濃密な時間が脳裏に浮かぶ。今目の前にいるイルカからは想像もつかない恥じらいながらもあの熱に浮かされた表情を思いだし、それだけでカカシは背中をふるわせた。そしてたぶんではなく、イルカもまた確実に自分と過ごしたあの情景が浮かび上がっている。そして、どうナルトに答えるべきか。必死に考えているはずだ。
 カカシは静かにイルカに視線を向けると、イルカは苦笑いを浮かべながら後頭部に手を当てた。
「ああ、どうだっけな。確か週末は家でごろごろしてたかなあ」
 無難な言葉を口にするイルカに、ナルトは少しだけ不思議そうな顔をした。
「でもさ、肉屋のおっちゃんがイルカ先生が一人分じゃない量を買ったって」
 そう言ってたってば。ナルトがハッキリと口にした。
「あ、いや、それはだな、確か買いだめを、」
「え、すき焼き用の肉を買いだめするのか、先生?」
 課外授業の教材を抱えていたイルカの指先に、微かに力が入ったのが分かる。
 あーあ。子供たちからは然程ではないが、明らかに困り果てているのが分かり、カカシはゆっくりと息を吐き出した。
 後頭部を掻くと、遠巻きに見ていたナルトへ歩み寄る。
「ほらほら、イルカ先生を困らせるんじゃないの」
 金色の頭がこっちを見た。
「別に困らせてなんかないってば」
「そう?でもさ、ナルト。お前もしかして先生にすき焼きを催促してるって訳じゃないよね?」
 へ?、とナルトがカカシに反応した。
「ち、違うってば!」
 少し顔を赤らめてながらもナルトは口を尖らせ顔をぷいと背ける。単純明快なその態度に、カカシは眉を下げた。
「ま、お前が腹減ってるのは分かるけどね。じゃあさ、今度訓練の時にお前がこの中で一番に終わらせたらラーメン奢ってあげるよ」
「え!?」
 またしても分かりやすくナルトが反応を示した。青い目が淡い期待で輝いている。
「絶対に一番になるってば!」
「え、それ私も有効なんですよね?」
 サクラがぴょこんと顔を覗かせた。
「そりゃあ勿論。サクラもサスケも有効だよ」
 カカシはニコリと微笑んだ。
 

 アカデミー近くの道で、カカシは脇に生えた木に背をもたれながら立つ。
 感じた気配に顔を向けると、イルカが鞄を肩にかけて歩いていた。勿論、ここにいる自分に気が付いている。
 イルカはカカシの目の前まで来ると、そこで足を止めた。立ち止まったものの、何も喋ろうとしないイルカに、カカシは木から背を離す。イルカの横へ並ぶと、両手をポケットに入れたままイルカの顔をのぞき込んだ。 当たり前だが、自分は一緒に帰る為にイルカをここで待っていた。
「・・・・・・帰ろ?」
 そう告げるとイルカは黙って歩き出す。カカシもまたそれに従った。
 黙って歩き、口を開こうとしないイルカに参ったなあ、と息を吐き出した。
 イルカが黙っているのは、さっきのナルト達との会話が原因だと分かっている。自分が責められる事は何もないはずだが、口を結んでしまっているからには少なからずとも自分にも責任があるような気持ちにさせられる。しかしここでここで責められたらとばっちりもいいところだ。
 そう思いながらイルカの歩調に合わせゆっくりと歩いていると、ふとイルカの足が止まった。カカシもまた足を止める。
「さっきは・・・・・・すみません」
「・・・・・・え?」
 思いも寄らないイルカのしおらしい言葉に、カカシは少しだけ驚き聞き返していた。
「何で?」
 思わずカカシから続けて出た言葉に、イルカはむっとした表情を見せる。が、ふいと顔を前に向けた。
 ナルトはともかく、他の二人を誤魔化せたかは不明だが、まだ子供だ。たぶん三人とも深くは考えてはいない。
「ただ、俺は・・・・・・別にあなたとの仲を隠したかったわけじゃないって、言いたかったんです」
 そこまで言ってイルカは一人歩き出す。カカシはその背中をぽかんと見つめた。
 ここから見えるイルカの耳は真っ赤で。
 じわじわと沸き上がるのは確かに幸福感だった。
 カカシは口布の下頬を緩ませる。
(やばいなあ、これ)
 むず痒いような泣きたいようなそんな気持ちになりながら、愛おしい人の背中をカカシは見つめれば、帰りますよ、とまだ少し頬を赤くしたイルカに声をかけられる。カカシはうん、と返事をし、そこからイルカに向かって歩き出した。

<終>
スポンサードリンク


この広告は一定期間更新がない場合に表示されます。
コンテンツの更新が行われると非表示に戻ります。
また、プレミアムユーザーになると常に非表示になります。