デート⑥

 カカシは足取り軽く受付へ向かう。多少過酷な内容の任務の後でも、あの人が受付で待っていてくれると思うだけで、それだけで気分は変わる。
  でも少し寂しいと思うのはーー。
「明後日はどうする?」
 仕事が忙しくないわけではないが、一緒に時間を過ごす事が出来る日が続いていた。何気なく聞いたカカシに、イルカは隣を歩きながら、うーん、と考えるように視線を斜めに漂わせた。縛ってある髪が少しだけ朝と違うのは、ついさっきまでカカシの部屋にイルカがいて、時間が許す限りたっぷりと愛したからで。横顔に見えるイルカのその微かに甘く緩んだ亜表情も事後を物語っていて、カカシはイルカの横顔を見つめながら、目を細めた。泊まっていく?と聞いたカカシにイルカは、明日早いので、と断り、それがイルカのけじめなのだと素直に受け入れる。
「明明後日は課外授業が朝からあるので、」
「じゃあ夕飯だけにする?」
「ええ」
 イルカの返答を聞いて、カカシはにこりと微笑み頷いた。
 
 だから、今日はイルカとは夕飯までだと分かっている。
 報告所に入るとイルカが目に入る。カカシを見て僅かに目元と頬を緩めたのが分かった。
「カカシさん」
 報告を済ませ待ち合わせる時間を決めて報告所出た時にイルカに名前を呼ばれた。足を止めて振り返るとイルカがカカシに駆け寄った。
 当たり前だがまだ勤務時間内だ。それとも報告書に不備でもあったのか。どうしたのだろうと不思議に少しだけ首を傾げてイルカを見つめる。
 どうしたの?と聞くと、イルカは僅かに黒い目を伏せた。そこからゆっくりと顔を上げカカシを見る。
「あの、さっきの約束なんですが、」
「うん、時間の変更?」
「あ、そうじゃなくって、」
 そこで一回イルカが唇を閉じ、再び開く。
「実は昨日近所の方からたくさん野菜をもらって、もしよかったら家でどうかと、」
 イルカの言いたい事が分かってカカシは微笑んだ。
「うん、いいよ。先生の手料理食べれるの嬉しい」
 素直に言うと、イルカは健康的な肌色を赤く染める。ぐっとその少しだけふっくらとした唇を結んだ。
 その恥じらう表情が愛おしくて目を細める。本当はポケットに入れた手を取りだしてイルカのその赤く染まった頬を撫でたいが、さすがに人が往来するような場所では出来るはずがない。イルカはカカシの眼差しを受け、微笑んだ。
「じゃあ、」
「うん、後でね」
 急いで報告所に戻っていくイルカの背中をカカシは見つめた。

 待ち合わせで商店街で必要な物を買い揃え、アパートに着くとイルカはすぐに食事の準備に取りかかる。手伝おうかと聞きくも、そんな手の掛かる料理なんて作らないですから、とイルカにビールとつまみを勧められる。イルカの手料理は何回も食べた事があるが、時短で手早く作るものの、全て自分好みで美味しい。そこはつき合ってすぐ関心した事だった。一人暮らしが慣れているからだとイルカは言うが、自分も一人暮らしはイルカと同じように長いが料理には興味もないし、知っている上忍仲間も似たようなものだ。
「せんせ、お皿もらっていい?」
 台所に顔を出すとイルカが鍋で味噌をといていた手を止め、カカシへ顔を向ける。
「あ、えっと」
「枝豆のさやをね、」
 ああ入れるやつ、とイルカが頷いて火を弱める。荒いかごにあった小皿を手に取った。
「じゃあこれで」
「うん」
 ありがと。皿を受け取りイルカの作る煮物の美味しそうな匂いを嗅ぎながら、邪魔にならないよう背を向けた時、
「あ、のカカシさん」
 呼び止められ振り返った。
「やっぱ何か手伝う?」
 聞き返すと、少しだけ躊躇った後、イルカは笑顔を浮かべる。
「いえ、大丈夫です」
 ホントに?と聞いてみるが、イルカは微笑みながら首を横に振るだけで。じゃあなんだろうとは思ったが、既にイルカはまな板に向かって人参の皮を剥いているからそれ以上聞く事ではない。カカシは素直に皿を持って居間へ戻った。
 
 テーブルに料理が並べられる。近所から貰ったという野菜が中心だが、彩りよく暖かい湯気と美味そうな匂いはどれも食欲をそそる。
「すみません、本当は居酒屋で食べるはずだったのに、」
 申し訳なさそうに言われカカシは笑って首を横に振った。
「何で、先生の料理の方がいいに決まってるじゃない。これとか、」
 人参と牛蒡のきんぴらを指さす。
「俺これ好き」
 茶碗や取り皿を並べるのを手伝いながら言うと、イルカに意外です、と言われ苦笑いを浮かべた。確かに、居酒屋では仲間と食の好みが同じという事はそうなかった。
 好みもそうだが、何かと色んな箇所でイルカと波長が合うのは、自分の中では奇跡に近く本当に運命だと思わざるを得ない。なんて言ったらイルカはきっと声を立てて笑うのだろうが。
 イルカに箸を渡されカカシは手を伸ばし受け取る。当たり前に近い距離で、そこで視線が交わった時、何気なく見つめ返されたその眼差しに、カカシもまたイルカの黒い瞳を見つめた。それだけで心がざわついた。何かを刺激されるような。イルカが目を逸らす前に、カカシは顔を傾けイルカに口付けた。唇をくっつけては離しを繰り返すと、それだけでイルカから、ん、と声が漏れる。煽られる感覚に背中がぞくりとした。でも、元々今日は外食だけの予定で、それはイルカからの提案だった。それ以上の事をするつもりはないは知ってる。だからカカシは唇を離した。
「じゃ、ご飯食べよ?」
 言うと、イルカも頬を赤く染めながらも黙って俯いてしまう。その反応に箸を持ったままカカシは、少し戸惑った。何か間違った事を言っただろうか。
「あの・・・・・・せんせ?」
 伏せてしまった顔をのぞき込むように、カカシは顔を傾ける。深くは考えていなかったが、よくよく考えると、さっきも少しおかしかった気もする。それに気が付いてあげれなかった事に申し訳ないとは思うが、イルカは元々実直な性格だ。だから尚更不思議で仕方がない。思考を巡ってみるも、何か自分がやらかしたって事はたぶん、ない。カカシは困ったようにイルカを見つめた。考えられる事はーー、
「ね、せんせ。もっとキスする?」
 優しく聞くとイルカが少しだけ顔を上げた。やっぱりそうなのかとカカシはもう一度顔を傾け顔を近づける。と、顔を真っ赤にしたイルカが、自分の箸をぎゅうと握りしめたまま、ちが、と口にした。カカシは動きを止める。イルカを見つめた。
 緊張している気配が十分カカシにも伝わってきて、カカシは困惑した。じっと見つめる先で、イルカの口が戸惑いながらも開く。
「ご飯を、」
「・・・・・・え?」
イルカには珍しく声が小さい。聞き返すと、
「ご飯食べた後、しませんか?」
 イルカが顔を上げ、はっきりと口にした。
 カカシは一瞬面食らった。それは顔に出てしまっている。そして瞬きをしながら、今日報告所で呼び止められた場面から、そこからイルカのらしくない言動が次々と浮かび、そして、今イルカが口にした言葉で一つに繋がる。
 経験がないくらいに胸が締め付けられ、苦しくて。思わず手で顔を覆って顔を伏せていた。
 鉄の自制心を持っているものの、色々な波が押し寄せてそれを簡単にやり過ごす事なんて到底出来ない。
 それを見てイルカが慌てたのが、僅かに入っていた視界から感じ取れた。
「だ、あ、あの、すみません、別に無理にって訳じゃ、」
「あ、待って違う。そうじゃないから」
 慌てふためくイルカの腕をカカシは掴む。
 カカシは伏せていた顔を上げると、やはりそこには半泣きになっているイルカの表情があって、カカシはそれを見て眉を下げ微笑んだ。イルカはその表情の意味が分からない様子で、カカシを見つめ返す。
 商売女を含め、今まで色んな女に誘われる事があったが、こんなのって、ない。今の一言は、それぐらい、効いた。
 それにここからご飯を食べるまでの時間は理性を保たなければならない。それを計算にも入れていないイルカの言動はある意味毒だ。
 て事とか、先生はきっと分かってないよねえ。
 まだカカシの答えを理解出来ず、顔を真っ赤にしながら不安そうに見つめる可愛い恋人に、カカシは愛おしそうに見つめ、
「する」
「……え、」
「したいって言ったの」
 目を細め、そう口にした。

 指が二本入ったところで、イルカが切なげに声を漏らした。指の中で肉の壁がうねる感覚に、カカシの息も思わず上がる。
 四つん這いになりながら、イルカが首を捻って潤んだ目でカカシを見た。
「おねが、もう、いれっ、」
 耳を赤くしながら言う言葉に多少羞恥があるとは思うが、カカシは誘われるままに透明な先走りで濡れた自分の陰茎を差し込んだ。
「ーーーーぁ、ああっ」
 イルカが背中を震わ声にならない声を喉から漏らす。
「先生、苦しい?」
いつもより早く挿入したそれに圧迫感を感じているのか、浅く息をするイルカに問いかけると、少しの間の後に、頭を振った。
 それでも心配で緩く腰を動かしながら様子を見ると、や、とイルカが声を出した。
「もっと、ちゃんと、動いて、」
 かあ、と頭に血がのぼる感覚がカカシに走る。イルカの腰を掴むと激しく突き入れた。

 いつも以上に淫らで、どうしようもなく愛おしくて、カカシはイルカを前に向かせ自分の膝の上に座らせると、両膝の裏を持ちイルカを持ち上げる。重くないとはお世辞にも言えないが、自分の力では苦ではなかった。そのまま屹立した陰茎に腰を下ろさせる。
 顔が見えないが、耳や首筋は真っ赤に染まり、入ってくるそれに、震え体をびくびくとさせた。
 具合が良くて、カカシの眉根にも皺が寄る。体が熱くなるのを感じた。
 そのまま激しく欲望のままに突き入れる。
「やっ、奥に、あたっ、」
 いつもとは違う体勢に擦らせる場所が変わりそれに、イルカは敏感にその快楽に眉根を寄せた。目が涙で濡れている。
「気持ちいい?」
「んっ、ん、きもちい・・・・・・っ、」
 耳元で囁くと、返ってくる言葉に、イルカの中がきつく締まり、カカシもまた眉根を寄せた。
(・・・・・・たまんない)
 擦れ合うたびに背中がぞくぞくとする。
「カ、カシさんも、気持ち、い、い?……ぁっ、」
 とろりとした目と口元で舌ったらずにイルカが問う。
「うん、最高。俺も、もう、……いきそう」
 イルカの汗か滲む肌を吸い愛撫しなが、言う。
 もっとゆっくりしてあげたいとは思うけど、無理だった。下から何度も激しく突き上げ、二度目の射精でイルカは自分の腹を汚す。その体を強く揺さぶって、カカシもまた熱を中に吐き出した。



 二人してようやく布団に横たわったのは、深夜にさしかかった頃だった。
 あの言葉で火がついたのは当たり前で、一度だけでは到底体の疼きはおさまらなかった。それはイルカも同じだったからか、揺すり上げる度にいつも以上にひっきりなしに声を上げた。
 満たされた気持ちで横になりながら、カカシはイルカへ顔を向けた。手を腰にまわせばその肌はしっとりとして、まだうっすら額に汗も掻いている。
「ねえ先生、何で今日はこんな気分だったの?」
 イルカに合わせていた自分からしたら願ったり叶ったりの事だったのだが、やっぱり少し気になってカカシはそう口にした。イルカが少しだけだるそうに腕を上げてカカシへ体を向ける。
「何となく・・・・・・です」
 お互いまだ若い。男ならであれば性欲の波が強くある事だって分かっているが、それだけじゃないような口調は、明らかだった。掘り下げる気もないが、カカシは片眉を上げると、それを感じ取ったイルカは少しだけ眉を寄せた。
「・・・・・・だってあなたが俺だけがいい、なんて言うから」
 もごもごとはっきりとしない言葉を聞きながら、何のことを指しているのか、ふと思い当たった事に内心驚きながらカカシは短く笑った。
 後輩のくノ一から告白を受けた時、あの時別の誰かがいる事は分かっていた。そんな場所に呼び出されて、あんな告白をされて、振る事は明白だったから、何も自分に不利な事もないし、と特に気にも止めていなかったのに。
「あの出歯亀、イルカ先生だったの?」
 聞くと、別に聞きたくて聞いた訳じゃ、と付け加えながらも、イルカは頬を赤くしながらみ気難しそうに、一回こくんと頷く。
「それで、・・・・・・」
 したくなった、とは言わないがそう言わんとしてる事が分かりカカシは目を細めた。イルカを抱き寄せる。
「で、どうだった?」
「・・・・・・むちゃくちゃ良かったです」
 イルカらしいはっきりとした感想に、カカシはそりゃ良かった、と声を立てて嬉しそうに笑った。



<終>

追記

 イルカは居酒屋に入り店内を見渡す。カウンターの隅に銀色の髪の上忍を見つけ、イルカは僅かに頬を緩ませた。真っ直ぐに足を向ける。
「お待たせしました」
 声をかけるとカカシが顔を上げた。既にビールを呑んでいるカカシは少しだけ白い頬が赤い。すみません遅くなって、と続けると、ううん、とカカシは首を横に振った。
 にこりと微笑むカカシに同じように笑みを返し、カウンター越しにビールを注文する。そこで一息つくように腕まくりをした。
「今日は暑いですね」
「ねー、だから混んでるのかね」
 週末でもないのに、いつも以上に賑わっているのは確かだった。皆各々にジョッキの冷たいビールや焼酎を呑んでいる。
 カウンターのテーブルにビールが置かれ、イルカはカカシとグラスを合わせると冷えた生ビールを流し込む。ふう、と息を吐き出した。
「今日は大変だった?」
 カカシの声に視線を向けると、いつも涼しげな目元を緩ませ優しく微笑んでいて、それだけの事なのに、相変わらずいい男過ぎて反射的に頬が熱くなる。それを隠したくて、いや、いつもの事ですから、と笑って返しビールを呑む。
 二人の関係をおおっぴらにしてはいないが、なんだかんだでカカシが隠す事もしないから何となく周りに分かってしまっていて、ようは周知の仲になっているのだが、やっぱり恥ずかしいものは恥ずかしい。
 そんな事を知る由もないカカシは自分の好物(もちろんカカシも好きなものばかりだが)を頼んでくれ、促されるままに運ばれてきたイカの刺身に箸を伸ばす。
「わ、うま、」
「ホントだ」
 カカシも口に入れ、その触感に感心した。
 コリコリとした触感に鮮度の良さを感じながらぐもぐと口を動かしていると、ここの店主に聞いていたのか、今が旬なんだって、とカカシが付け加える。そうなんですね、とイルカはまた感心して頷いた。
「いつも食べるイカより全然甘い」
「でしょ」
 カカシがイルカに顔を向けにっこり嬉しそうに微笑む。
(わ、・・・・・・)
 その顔に何故かまたしても胸がドキンと鳴って、イルカは箸を咥えたまま、視線をずらした。
 実はね、ここのイカの塩からも絶品なんですよ、とビールを飲みながらカカシが続ける。それを聞きながら、頷きながら。ちょっと前から思っていた感じていた事なのだが。
 ーーなんだか最近カカシが優しい、気がする。
 いや、優しいのは最初からで、それは変わっていないのだが、何というかカカシの機嫌が良いと言えばいいのか。
 ふとした表情が、前より気を許してくれているのを感じて、それは素直に嬉しいし、胸が暖かくなる。
「ねえ先生、だからこの塩からと冷酒、頼まない?」
 カカシがメニューを片手に少しだけ肩を寄せ顔を覗くようにこっちを見た。無防備に素顔を晒し、甘えるように。こんな特別な距離になれた事が純粋に嬉しい。
 はい、是非、とイルカは答えた。
「ーーイルカ先生さ」
 普段あまり好んで口にしない冷酒を飲みながらカカシがぽつりと口にする。イルカもまたカウンターで両肘を突いたまま呑んでいた、冷酒が注がれたグラスから口を離し、カカシへ顔を向けた。
 何ですか?と聞き返すと、程良く酔いがまわったその表情のまま、うんと、カカシが返事をした。
「前、雪の精を見たって話、俺にしてくれたでしょ?」
 言われて記憶を手繰り寄せ。去年のまだ雪が随分と積もっていた頃の話題に、イルカもまた思い出しながら、ああ、と相づちを打った。
 でもカカシとまだつき合ってもない頃で、ちょっと前の話だなあ、と思った時、でね、とカカシが続けた。
「あれ、俺だったらどうします?」
 カカシが言った言葉に、イルカは少しだけ驚いた。ちょっと突拍子もなくて。でも、カカシはにこにこと嬉しそうにしている。
 酔っているからなんだろうな、と思いながらもイルカはその質問に真面目に受け止めてみた。グラスを持ったまま、視線を上に漂わせる。
 今となっては朧気で、でも幼い自分はそうなんだと思って信じていた。一瞬だけ見た、綺麗な目と、白い肌と、ーーそれから。
 イルカはふとカカシへ視線を戻す。
 今は酒でほんのり赤く染まっているものの、その肌は白く綺麗で。居酒屋の店内の明かりの下で銀色の髪は淡い暖かな色が混じる。
「そうだったらいいなって、思います」
 気が付いたら、そう口にしていた。話を合わせようとかではない。そうだったらいいな、と本当にそう思った。
 端から見ればなんて可笑しな話題だと思うだろう。雪の精を見たって言う自分も、それに対してあれは自分だったと言うカカシも。でも、何故だか茶化したくはなかった。そしてすとんとそう思った。
 イルカの言葉を受け、今度はカカシが少しだけ驚いた顔をする。
 そして、頬を赤く染めながら、うん、と嬉しそうに微笑んだ。

<終>



 取り合えず短編で続いていた話はこれで終わりです。この話が浮かんだ時に、これは烏龍茶さんへお渡ししよう、と心に決め書き始めました。
 エッチな内容になってしまったのですが///追記も書いて、自分の中では楽しんで書くことが出来ました。
 烏龍茶さん、この話を受け取ってくださりありがとうございました!前回烏龍茶さんに描いていただけた事で、自分の書いたカカイルが好きになれました^^そして自分の萌えのまま、このままカカイルを書いていいんだ、とも思えました。本当にありがとうございます!
 烏龍茶さんのカカイルもこれから一ファンとして楽しみにしております!!

 2019.5.9 nanairo