出来心

 それはまさに出来心だった。
 たまたまその日は自分が深夜の受付当番で、カカシは任務で里を出ていた。
 だからカカシが受付に来たら驚かそうと、ただそれだけだったのに。
 
 イルカは報告所の裏にある書庫室で、スチール製の棚に背中をカカシに押さえつけられ、その棚が僅かに揺れた。少し上からカカシはイルカを見下ろし、その顔には額当てもその口布も付けられたまま。カカシの眼差しに身を固めたままのイルカは抵抗さえ忘れていた。カカシは片手でイルカを押さえつけたまま、もう片方の手がイルカに延びる。
「カカシさ、」
「黙って」
 ようやく口を開いて言い掛けた言葉もカカシによって遮断される。
カカシの伸びた指がイルカのベストのジッパーを下げ、じじ、と固い音を立てた。ふとカカシの視線がイルカに向けられ、その青みがった目を見つめ返しながらイルカは黒い瞳を揺らした。
 
 その三十分くらい前に報告所に姿を現したのは一人の上忍だった。
「お疲れさまです」
 予定通りの帰還にイルカは報告書を受け取り確認をする。予定では任務報告にくるのはあとカカシだけだ。書面に目を落としながらそう思った時、目の前の上忍がカカシの名前を出した。
「そういや、さっきそこでカカシを見かけたからもうすぐここに顔出すんじゃねえのかな」
 顔を上げれば、すぐこそで暗部の連中と話していたからと付け加えられ納得する。
 暗部と共にした任務はカカシのランクではよくあることだ。そしてカカシもまた予定通りに帰還している事を知り安堵する。
 報告を終えると、上忍はすぐに部屋から出ていった。
 一人報告所でイルカはカカシを待ちながら。書類へ目を落とし、目に入った日付に浮かんだ事に、我ながらいい案だと思った。そして慣れた手つきで印を組むとその場で煙が上がった。
 手のひらを見つめ、女体化している事を確認する。そして念のため、と立ち上がり窓に映る自分の見れば、そこには以前自分が迂闊にもなってしまった女性の自分の姿が映し出されていた。結った自分の髪に触れてみる。服も以前の時のまま、支給服だ。そして我ながら女っ気がないなあ、と改めて実感する。髪型もメイクだってしているわけではない。女性らしくないのはもちろん、この支給服のおかげで身体のラインもはっきりしない。くノ一が好んでこの支給服を着ない理由がなんとなく分かると言うものだ。
 いや、こんなところで女心を知ってもなあ、とくだらない自分の考えに呆れ椅子に座った時、カカシが報告所に姿を現した。
 イルカの姿を見て足を止めた。目を見開いているのが分かる。カカシの反応は思った以上で、イルカは内心気を良くした。
「カカシさん、お疲れ様です」
 ゆっくりと座っているイルカに歩み寄り目の前まできたカカシに声をかけけば、まだじっとイルカを見つめていた。ついさっき驚く表情を見せたまま、カカシはそれ以外の感情を表には出さず、
「どうしたの?」
 報告書を片手に、そう口にした。
「実は、また間違えて薬を飲んで女体化しちゃいまして、」
「・・・・・・え?」
 カカシの眉間に皺が寄った。その表情が酷く真剣で、イルカは、あれ、と心の中で首を傾げた時、
「・・・・・・何で?」
 カカシがぽつりと呟くように言った。更に真剣味を増した表情にイルカは慌てて笑顔を作った。
「あの、すみません、エイプリルフールなので、面白いかなあと、」
 笑って後頭部に手を当てる。
 そう、ついさっき日付が変わり四月一日になっていた。エイプリルフールだ。アカデミーの生徒達ががエイプリルフールで何を嘘付こうかと企み顔で話していたのを思い出す。
 その延長のようなものだった。
 なんだ、やめてよ先生。
 笑ってくれるとばかり思っていたのに。 
 なのに。
 カカシは笑わなかった。
 酷く冷めた目でイルカを見つめ、
「ああ、エイプリルフールね」
 小さく呟く。そしてイルカから視線を外した。
 大きなため息をつくカカシは、全く面白くない、と口には出さないものの、それがありありと表れていて、エイプリルフールは失敗したと感じる。
 子供の頃は色々悪戯に勤しんだものだが、この歳で慣れない事はするもんじゃないなあ、と思ったその瞬間、がりがりと銀色の頭を掻いていたカカシの腕がにゅっとイルカに伸び掴んだ。引っ張られ、その勢いにイルカは立ち上がるものの、戸惑ったのは当たり前だった。
「あの、カカシさん、」
「いいから、来て」
 四の五の言わせない空気を作ったまま、カカシはイルカを引っ張り、そのまま歩き出す。女体化したイルカの手は小さい。自分のその小さな手を掴む大きなカカシの手を、イルカは引っ張られるままに見つめた。
 連れてこられたのは隣の書庫室の部屋だった。カカシに促されイルカが部屋に入るとカカシはその部屋の電気を付け扉を閉める。蛍光灯の明かりは薄暗く心細くちかちかとしている。
 強引とも取れるカカシの行動に、イルカは不思議そうにカカシを見つめた。カカシに取って面白くないのは分かった。でも、こんな場所に連れてきてまで責める事だったのだろうか。がっかりした気持ちのままのイルカに、カカシは振り返ると、ため息混じりに銀色の髪を掻き上げる。何でもないその仕草に、何故かイルカの心音が鳴った。
「カカシさん、なんでこんな場所に、」
 イルカの問いに、カカシは、ん?、と少しだけ首を傾げる。自分の髪に触れていた手を離し、
「お仕置き」
 カカシは事も無げにそう言った。

 気が付けば、カカシによって押され、すぐ後ろにあった本棚に背中をつけていた。
 イルカのジッパーを下げたカカシはそこで自分の口布を顎当たりまで人差し指で引き下ろす。
 状況が掴めず怯えた目を向けるイルカに、微かに微笑んだ。上着を下から捲り上げられる。その勢いに剥きだしになった胸が揺れ露わになる。
 まさかとか思っていた。まさかとは思っていたのに、自分の柔らかな程良い大きさの胸がカカシによって晒された。その事実に、状況に、かあ、と顔が一気に熱を持った。どくどくと心音が高鳴る。
 前回女体化した時に、カカシによって愛撫されたあの感覚を忘れるはずがない。何をされるか想像しただけで、まだ固くない乳首に鈍い刺激が脳から伝わる。
「カカシさん、やめて」
 力弱く声を出したイルカに構わず、カカシはその胸を先端から口に含んだ。びくりとイルカの身体が揺れる。
「はっ、あ・・・・・・、やっ、」
 カカシが胸を咥えたまま乳首を口内の奥で強く吸った。中で舌を絡め充血した乳首の感覚が強くなる頃、カカシが口を離した。そのままもう片方の胸も同じ様に口に咥え刺激を与える。
 唾液でぬめる乳首をカカシは甘く噛んだ。快感で下半身に疼くもじもじと閉じた脚を動かした。自分が酷くいやらしい人間に思えた。
 だいたい、こんな事をしていてはいけない。深夜であって殆ど誰もこないとは言え、仕事は仕事だ。
「おねがいです、カカシさん。やめて、」
 身体を震わせながらお願いすると、カカシは乳首を吸っていた口を離し、目線をイルカに向けた。
 こんなのは嫌だ。涙目で訴えるイルカにカカシは涼しい表情を変えない。イルカはぎゅっと一回だけ口を結んだ。そしてその口を開く。
「この姿で驚かせた事謝ります、だから、」
「嫌ですよ」
 突き放したような口調だった。
「それじゃあお仕置きにならないでしょ?」
 カカシの手が舌で固くなった乳首に触れ、その指の腹で擦る。唾液でぬめるその感触に、思わず声がイルカから漏れた。
「ん、んっ」
 自分の口を片手で押さえる。
 お仕置きって、そんな自分は悪い事をしたつもりもない。なのに、カカシの冷たい口調は変わらなかった。
 逃げ腰になるが、後ろは本棚で、どこにも逃げ場がない。
 カカシは上着をぐいとさらに捲り上げ、鎖骨の当たりに唇を落とした。薄い皮膚を吸い、赤く痕を残す。そこから下へ、カカシの唇が皮膚の上を動き、舌で舐める。ちゅ、と舌で舐め上げらじれったい感触にれイルカの息が上がった。カカシの手が胸を刺激しながらズボンに手がかかる。イルカは眉根を寄せた。
「だめ・・・・・・」
 自分の声は悲しいくらいに弱々しい。
 抵抗したい気持ちはあるのに、もうそれはままならなかった。カカシが触れる箇所全てに身体が反応する。せめてこの姿を解きたかった。与えられる刺激で震える手は、カカシによって押さえられていたが、指は動いた。印を組もうとした時、カカシの手がその指を掴む。堪らず、イルカはカカシへ顔を向けていた。
「何で、」
 泣きそうになっていた。その声もまた、同じように弱々しくなっていて。
「駄目でしょ。このままするって決めたんだから。邪魔しないで」
 頭の奥に衝撃が走った。そこで初めてお仕置きのもう一つの意味を理解する。ただ、理解したとろこで困惑が広がるだけだった。甘い恋人同士だったはずなのに。何が彼をそうさせてしまったのか。原因が明らかに自分だと分かっていても、ここまでされるような事はしていない。
 なのに。
 カカシは再びイルカのお椀型の胸を片手で掴んだ。柔らかい胸に指がめりこむ。赤く充血し固くなった乳首をカカシは吸った。
 イルカのズボンを下着ごと下ろし、秘部を指で触れた。自分の想像以上にそこは濡れその音が、自分の耳にも届く。
 頬が熱くなった。恥ずかしい。カカシの愛撫でこんなに感じてしまっている事実。丸で早く欲しいと言っているようで、どうしようもなく羞恥心が高まった。
「・・・・・・いいね」
 カカシが低く呟き、濡れた柔らかい中を指が弄る。身体をビクビクとさせながらもイルカは首を横に振った。なのに甘ったるい痺れが、指が気持ちいい。
「駄目・・・・・・、」
 イルカの声はカカシに聞き入られる事はなかった。後ろを向かされてそのまま本棚に手をつかせる。嫌だと思っているのに、これからされる事に更に自分の秘部が濡れた気がした。
 カカシは片手で器用に自分のベルトを外す。金属音が部屋に響いた。ズボンを膝上まで下ろし、固く勃ち上がっている自分の陰茎を手のひらで軽く扱いた。首を捻り、その大きさを目にしてイルカの心臓が痛いくらいに動く。それだけで下半身が疼いた。浅ましい身体に自分でも嫌だと思うが止められなかった。
 それでもまだ自分の中には勤務中であると言う理性は残っていた。
「お願い、中で、出しちゃ、やだ」
 イルカの言葉にカカシが視線を上げる。濡れた黒い目と視線が交わった。
 イルカの視線が向けられた先で、カカシは黙ってズボンのポケットをを探る。
 コンドームだった。
 カカシはそれを口に軽く咥え袋を切る。取り出したそれをゆっくりと自分の陰茎に根元までつけた。
 カカシは涙で潤んで黒い目を揺らしているイルカを見つめ、口の端を上げ薄く妖艶な微笑みを浮かべる。それに目を奪われていた。カカシは片手を添えながら陰茎を濡れた秘部で挿入する。
「あ、まって、….…ぁ、」
 大きく張り詰めたカカシの形をしたものが肉を分け入る。
「ぁ、おっき、い……」
 イルカは眉根を寄せ背中を震わせた。感じ方が変わりそれが言葉となって零れる。最奥まで挿入したカカシは熱っぽい息を吐き出した。
 そこからは激しかった。最初はゆっくり律動したが、カカシの陰茎に自分の肉がからみつき、動く度に感じた。
「あ、やっ、ひっ、・・・・・・、あっ、」
 駄目と言う言葉さえ出てこない。自分の喘ぐ声が止まらなかった。尻を掴み後ろから何度も突き上げられる。その度にぬちゃにちゃと濡れた音の合間にカカシの荒い息が聞こえる。小さな手で必死に本棚を掴むが、揺さぶられる度に崩れ落ちそうになった。後ろから腰を支えられ、胸をその先端を弄られながら激しく好きなように攻め立てられ、イルカが達した時、カカシもまたゴムをつけたままイルカの一番奥で熱い飛沫を放つ。イルカはゆっくりとその場に崩れ落ちた。
 
 しばらくその場から動けなかった。放心していた。丸で強姦されたのと同じだった。
 恋人同士であるが、こんなの。強姦以外の何者でもない。怒りが浮かぶもののそれ以上に悲しかった。
 はだけた衣服もそのままに床に座り込んでいたイルカに、衣服を整えたカカシが手を伸ばす、イルカはそれを振り払った。
「・・・・・・自分でやれます」
 大きな胸が見えたままの、女性の姿に、無様な姿に。改めて嫌気が指しながらイルカは印を組み解こうとした。その指をカカシに覆われイルカは睨んだ。
「なんなんですか。やることやったんだからもう気が済んだでしょう?俺は仕事に戻らなきゃならないんです、」
 聞こえたのはため息だった。息を吐き出すとカカシは銀色の髪をがりがりと掻く。
「分かってないね」
 ぽつりと呟いた。
 苛立ちのまま言い放つイルカに、カカシは被せるように静かに言う。見下ろすカカシをイルカは睨んだ。はだけた肌を隠すように服を掴んだ手に力が入る。
 分かるってなんだ。分かりたくもない。眉根を寄せるイルカにカカシは続けた。
「……あんたがこの前女体化した時、あれは間違って子供の持ってきた薬を飲んだからなんでしょ?」
 静かにカカシは問う。
 イルカは言われた事を、その時の事を思い出した。子供を信じ切って薬を飲み干した自分。
「それ、毒薬だったらどうすんの?」
 え、とイルカは手を取め顔を上げる。カカシがじっとイルカを見つめていた。
「いい?結果的にあれは忍の調合した薬だったから良かったとは言え、あんたはよく分からないものを飲んで女体化したんだ。それがどんだけ危ない行為だったか、分かるでしょう?」
 カカシの静かな口調に力がこもるのが分かる。見下ろすカカシの眉間に皺が寄った。苦しげに、そして怒りがそこにはあって。カカシが怒っているのだと初めて気がつく。
 そして、今更。さっき受付で見せた時のカカシの深刻な表情が蘇った。ひどく驚いて、深刻そうに。自分を見ていた。
「あんな質の悪い冗談二度と言わないで」
 続けられたカカシの声は真剣だった。それは自分がどれだけ馬鹿な事をしたのかが、分かる。エイプリルフールの冗談だったとは言え。カカシが腹立たしく思った事も。お仕置きと言った意味も。
 女体化してしかも無理強いされ。泣きたいくらいに傷ついた。
 でもそれよりも、カカシにした自分の非常識な冗談は自分以上にカカシを傷つけていた。
 泣きそうになった。
「・・・・・・ごめんなさい」
 口から溢れていた。ゆっくり見上げカカシを見ると、カカシはそこで初めて眉を下げ、ニコリと微笑んだ。
「うん」
 あまりにもその顔が優しくて。その優しさに胸が詰まりそうになった時、カカシがしゃがみこみイルカの手に自分の指を絡ませながら印を組む。カカシによって女体化が解けた。頬にかかる黒髪を指で触れ愛おしそうに頬と共に撫でる。
「じゃあ、もう一回。しよ?」
「え?」
 ぽかんとして聞き返して、ふと動き出したカカシの手に目を落とすと、カカシがゴムを外した自分の陰茎を手のひらで扱く。既にしっかりと勃ち上がっていて、反射的に思わず頬が赤くなった。
「や、だって、あんた今、女の俺で散々したくせに、」
 それとこれとは話が違う、と慌てふためくと、イルカが口にした女と言う言葉とその言い方にカカシは片眉を上げた。
「まあ、俺はもうあなた以外の女に勃たないけど?」
 知ってるでしょ?
 自信ありげに言われそれが嬉しくない訳がない。困ったままに顔を赤らめるイルカにカカシが顔を近づける。視線を戻すと、間近でカカシと目が合った。色気が混ざるその端正な顔に、狡いとさえ思う。
(……ああ、クソ)
 本当、この人には敵わない。
 惚れ込んでいる事実を改めて感じながら、イルカは口をゆっくりと開いた。

<終>

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