久しぶりの任務に、気分が高揚していた。

アカデミーで培った子供達や他の人間から信頼されるという実感。
適応能力があるイルカは、伝達役として任務を受けた。

「一人ですか?」
受け取った巻物に目を通して、イルカは不思議そうに顔を上げた。
その先には火影が後ろ手に窓から見える景色を眺めている。
「そうじゃ。スリーマンセルでこなす内容ではあるまい。その書物を渡して帰ってくる。だたそれだけでいい」
伝達と言えども里からの使者。お互いの最も信頼のおける者に仕事は渡される。
イルカはその役に適していた。
「承知しました」
巻物を胸に納めて部屋を出る。


向かった先は古くから木ノ葉の里に仕えている小さな街。
忍具の元となる薬草、鉛、鉄、ほとんどの物をここから荷入れしている。栄えてはいるが、小さな港町だった。
どこかに寄るわけでもなく、イルカの足は真っ直ぐお互いの待ち合わせ場所へとなっている料亭へと向かう。
日が暮れかけ、行灯に小さな明かりが灯っていた。
これを渡す、ただそれだけでいい。
どんな相手にしろ緊張しないわけがない。小さく息を吐いて、イルカは格子戸に手をかけた。

「それですか」
イルカより差し出された巻物を手に取る。
ここの港町の元締めである老人は、ゆっくりとその巻物を眺めた。
正座をしたイルカは、首だけを小さく縦に振った。
「・・・いやいや待ちましたよ。お返事が来ないので心配していた所です」
真っ白の髪を小さくまとめて、品の良い着物を着ていた。その手は年のためであろう無数の皺と、深い傷。
昔は同じ忍だったのだろう。忍特有の気配を纏っていた。

はらり、と巻物が解かれ、書かれた文字にゆっくりと目を通していく。
イルカはただ座って、その老人の目の動きを見つめていた。
ふと、その目線がイルカに移る。
「あなたはこの内容を存じては・・・・?」
「いえ、何も」
イルカのその答えに、再び巻物に目を戻す。
伝達役にその内容が知らさせることはまずない。
知っているとでも思っているのか。
疑念を受けたのかと、少し嫌気を感じた時、読み終えたのか巻物を畳んで膝元に置いた。
「これが、火影様のお言葉と受け止めていいのですね?」
「はい、お受け願いたい」
イルカの言葉の後に沈黙が流れた。目の前にいる老人は腕を組み、目を閉じている。
そしてゆっくとを目を開けて微笑んだ。
「・・・分かりました。そう火影様伝えていただけますかな?」
イルカは少しほっとして、頬を緩ませた。
「はい、承知しました」
イルカが席を立ち頭を下げる。見届けるように顔を上げたイルカを見て、手をたたいた。
「あなたにもご足労かけましたね。こちらで宿を手配いたしますので、こちらへどうぞ」
「は、しかし・・・」
「木ノ葉より受ける恩恵の街です。もてなさずに帰すわけにはいきませんからの。さ、どうぞ」

黒い漆の建物は古く、その小さな一室にイルカは通された。
どうにも断り切れなかった。
年上の、老人に自分は弱いのか。苦笑いをして出された酒に手をつける。
無事に渡せて良かった。
あの言葉通りに火影様に伝えれば任務は終了する。

グラリ、と頭がまわった。
急に胸が苦しくなる。


(しまった、まさか)


これは、薬。
呼吸が荒くなり、両手を畳について目を細める。景色がぼんやりと霞む。
そのままイルカは畳に崩れて動かなかった。

音も立てずに開かれた襖。そこには忍と老人が立っていた。
「悪いの。あれが火影の言葉なら、こちらの答えは決まっている」

その言葉が、薄れゆくイルカの意識の中で頭に響いていた。









×××









何かが顔にかかった感触。
「う・・・」
まだ微かに頭痛がして、顔をしかめた。
目の前には見たこともない男が一人。格子ごしにイルカを見ていた。
どこかの地下の部屋か。暗い格子のある部屋にイルカは入れられていた。
(そうだ、確か薬で・・・)
あの老人の側近か、雇われた忍か。

再び水を頭からかけられて、髪から水がはたはたと滴った。
「これが木ノ葉に伝わったら、どうなるか知ってるのか」
イルカの言葉を聞いて、不思議そうにその男は眺めた。
「知ってるさ。交渉は決裂。あのじじいにお前の屍を渡すだけだよ」
その答えは嘘ではないだろう。
「く・・・っ」
後ろ手に結ばれた縄は解くことが出来ない。自分の生死を握っている男は嬉しそうにイルカを眺めていた。
「まあいいさ、夜は長い。どうしようかゆっくり考えようじゃないか」
クナイをくるりくるりと指先で回してイルカの周りを歩く。
なんで断れなかったのだろう。
断ったとしても、結局は同じ道を辿る。でも、みすみす自分から足を踏み入れるとは、忍として足らな過ぎる。
自分への怒りと焦りが交差した。
「・・・もう一匹いたのか」
その言葉と共に扉が鳴る。

ガタガタガタッ

荒々しく開かれた扉。

その光景を見てイルカは息が止まった。
忍が一人、脇に抱えられている。イルカと同じように薬を飲まされたのか。ピクリとも動かない。
見覚えのある髪の色。
銀色の髪に縛られているのは木の葉の額当て。
(カカシさん・・・!?)
抱えていた男が、格子の鍵を開けて、イルカの横にカカシを放り投げる。
「意識が無いが気をつけろ。そいつはコピー忍者のカカシだ。意識がないうちに殺しとけ」
「どう殺るかは俺が決める」
「・・・勝手にしろ」

再び荒々しく閉められる扉。

目の前の男は、ニヤニヤと嬉しそうにカカシを眺め始めた。
イルカは自分の事はさておき、気が気でなくなっていた。
どうしてここにカカシがいるんだ。自分の他にこの任務に就いていたって事なのか。
でもなんでこの人が。
俺ならまだしも、このカカシが簡単にやられるなんて、信じられない。
目を見開いて、未だに動かないカカシを見つめた。

「痛いなあ」

間延びした声が見つめていた先から聞こえて、イルカは跳ね上がった。
(おっ起きてる!?)
むくりと起きあがって、更にイルカは体を後ずさった。
意識がある気配が全くイルカには感じ取れていなかった。
「あんたがコピー忍者カカシか」
相手の男は気配に気がついていたらしい。自分だけが気がついていなかったのか。
場違いに、イルカは情けなくなった。
「だったら何なの」
「・・・自分の立場分かってないね」
苛立った声で立ち上がると、格子の近くまで来て、カカシを見下ろした。
「罠にかかっておいて、写輪眼の名前が泣くよな。・・・そうだ」
何かを思いついたのかその男は後ろ向きになり何かをしている。
更に地下室があるのか、下へ続く階段へと姿を消した。
その様子を見ながら、カカシはもぞもぞと動いてイルの方を向いた。

「アンタ、莫迦ですか」

お互い後ろ手に縛られながら、向かい合って言われた言葉がそれだ。
なんと言われようが自分の失態。分かっているが妙に面白くない。
同じ状況の中で、自分はまるで部外者だという様な顔をしている。
イルカをじろじろと上から下まで眺めて、小さくため息をついた。
「なんも怪我はしていない、と」
口に出しても仕方のないことを呟いて、硬く口を結んでにらみを利かせている中忍を見つめた。
「イルカ先生がこの任務だって知った時は驚きましたよ。しかも捕らわれて瀕死だって言うから来てみればぴんぴんしてるし。
・・・じゃあ、さっさとここから出ましょうかね」
「え、・・・どうやってですか?」
初めて自分に口を開いたイルカに、ニコリと微笑んだ。
「それは今から考えます」
「はあ・・・・」
脱力感を感じて、イルカは肩を落とす。
言葉に重みもないし、緊迫感もない。付け加えれば真実味もない。
カカシの実力は十分分かっているのだが、どうにもここから出るのは骨が折れそうだ。

緊張感の無い空気が漂う中、下から男が上がってきた。
手には包み紙を何個か持っている。嬉しそうな何か気持ちの悪い笑みを浮かべながら二人の前に立った。
「どれがいい?」
その目はカカシに向けられている。
言葉の意味が分からずにその男が持っている紙の包みをじいと見つめる。
なんだ、あれは。
答えないカカシに、眉間にしわを寄せ一歩近づいた。
「俺のお手製の調合薬だ。お前は実験台だよ。死ぬ前に1つくらい、俺の役に立ってもらわないと困るからな」
調合薬。
イルカの体が硬直した。
これはやばいんじゃないのか。
嫌な緊張がイルカに走る。
「まっ、待ってくださいっ。俺が飲みます」
前に身を乗り出して、イルカは見上げた。
ここで、カカシが死んだらどうなる。自分の失態のためにこんな場所で。それだけは嫌だ。
その声に不機嫌にカカシはイルカを見た。
「アンタはいいんですよ」
「なっ、だって・・・っ」

「おい」

少し低い、怒りのこもった声で、二人は前を向く。
「何、譲り合ってんだよ。俺はカカシに言ってるんだ。・・・お前は後だ」
ギロリと睨み、クナイをイルカの首に突きつける。
息が出来なくなるほど首を上に向かされて、イルカは目を瞑った。
「・・・そう、そうやっていい子にしてればいいんだよ」
その手はカカシの髪を掴んだ。抵抗という抵抗を見せないカカシは、そのまま顔を上に向かされる。
口布が引きずり降ろされ、一つ、紙を取り出してカカシの口に押し入れた。続けて流し込まれる水。
口の端から水がぽたぽたと流れ落ちて、床に滴った。
満足そうな笑みを浮かべて、カカシの様子を凝視している。
信じられない光景に、イルカは堪らずカカシに近寄った。
「カカシさんっ、カカシさんっ」
何も反応がない。そのままだらりとうなだれて、床に崩れ落ちる。
いい知れない恐怖と怒りが、イルカのの腹の底から沸き上がった。

この縄をほどいて、こいつを殺してやる。

フーフーと肩で息をしながらもがくイルカにクナイの柄が顔に突きつけられて、吹き飛ばされた。
「お前はさっきから鬱陶しいよ。こいつが死ぬのを見届けてから」
言葉が、途中で切れる。
倒れ込んでいるイルカは、顔を上げてその男の顔を見た。
白目をむいている。
ガクンと膝から筋肉が切れた様に崩れ、頭から床に落ちた。
その後ろには何食わぬ顔でカカシが立っている。

「全く、変態すぎてむかつくね」

冷たい目で、屍であろうその男を足で払った。
「カ、カシさん。無事で・・・」
「当たり前でしょう。隙を伺ってたんだから」
片手を額に置いて息を漏らしてイルカを見た。倒れ込んでいるイルカを起こして、縄を解く。
「あの薬、大丈夫だったんですか?」
縛られて、痕が残った手首をさするようにしてカカシをのぞき込む。
「やっぱり気がついてなかったみたいね。あれは影分身ですよ」
「・・・えぇ!?」
「あのね、あんな不利な状態で捕まると思う?」
そういわれてみれば、そうかもしれない。
返す言葉が無くて、ぐっと押し黙る。

「無防備でそのまま捕まるのはアンタぐらいだよ」

無遠慮な、それでいて無意識に発せられる言葉。
更にとどめの言葉を突きつけられて、堪らずイルカはカカシを睨んだ。
が、
薄笑いを浮かべているであろうカカシの顔が歪んでいた。
額にうっすらと汗が滲み出ている。
「カカシさん?」
「・・・影分身でも多少なりとも本体に影響する事があるんですよ」
小さく吐き出された息と共に顔色は戻る。
あの薬の影響なのか。どの程度体に害を及ぼしているのか、カカシの顔色からは伺うことは出来ない。



不穏なまま木ノ葉の里に向かった。





里に着いた頃には、もう日が昇っていた。
カカシは、時折苦しそうに顔を歪めては、またすぐ何事も無かったように戻る。
イルカが介抱しようと手を差し伸べただけで、不快な顔をして断られた。
とはいえ、自分のミスでカカシをここまでした負い目もある。
放っておく訳にはいかない。
勢いよく振り向いて、カカシを見据えた。
決意をして向き合ったイルカに、カカシは一歩下がって小首を傾げる。
「・・・なに?」
自分との距離をおかれているのはよく分かる。体調が悪くなってきてからずっとそうだ。
「病院に行きましょう」
「何で?」
何の躊躇もなく返されて、二人の間に沈黙が流れた。
なぜそこまで頑なに嫌がる理由が分からない。
「何でって・・!薬がまわってるんでしょう?」
思わず大きな声をカカシに向けた。子供を相手にするようかのような錯覚に陥る。
いくら相手が上忍で、はたけカカシといえどもイルカの意志は固かった。
嫌われようが構わない。
「いいから、来てください」
半ば強引にカカシの腕を持って前に進んだ時、カカシのもう片方の腕がイルカの肩を掴んだ。
イルカは目を見開いた。
カカシは眉を寄せて、苦しそうにイルカを見ている。
「どっ・・、カカシさん?」
うろたえるイルカに、目を細めてカカシは息切れ切れに見つめる。
もう片方の手もイルカの肩に置いて、覆い被さるように囁かれた言葉。

「ヤラして」

熱い息がイルカの耳に入り、思わず体を竦めた。
とはいえ、自分の耳が悪くなったのか、言っている意味が分からない。もう一度カカシの顔をよく見る。
「・・・は?」
「どうもねぇ、無理みたい」
ゆっくりと口布を下ろしながら呟いた。
口の端を上げて薄く笑っている。
更にザラリと耳を舐められて、体中に出来る粟粒。
身震いをしてカカシから離れた。
「な?ななななな、なにするんですか!」
舐められた耳を押さえる。
「いい加減我慢の限界なんだよね。・・・せっかく家まで保つと思ったのに、アンタ俺に触るから」
その言葉に眉をしかめたとき、腕を掴まれ脇の林の中に押し倒されていた。
頭がまわって、思考も混乱する。
「ちょ、はっ、離れてくださいっ」
力を振り絞って抵抗するが、敵わない。その腕を押さえつけられて、涼しそうに上から見下ろされている。
「大丈夫、経験ないけどやり方なら知ってるから」
言い聞かせているつもりなのか、半強制的な言葉。その間にもカカシは自分の前をくつろげている。
頭の中が真っ白になった。
男にまたがれているという現実。
額宛を外したその赤く光る色違いの瞳に、引き寄せられる気がして鼓動が早くなる。
「優しくするから、ね?」
宥める優しい声とは裏腹に、鍛えられた腹までそそり立っているカカシ自身を目の前にして、体が硬直した。
「へっ変態!」
「変態なのはあの男ですよ・・・興奮剤なんて調合してんだよ?」
熱い息を吐きながらイルカに覆い被さってきた。その息が耳に入り、思わず声を上げた。
女みたいな声に、自分でも驚いて息を呑む。
「すごい・・・可愛い。駄目、乱暴しちゃいそう」
抵抗するイルカの腕を掴んむと、そのままグググと頭の上まであげられた。
「やめっ」
顔が近づいて、イルカは必死で顔を背けるが、むき出しのうなじを舐め上げられて体が跳ね上がる。
背中に走る感触が、自分では俄に信じがたい感覚。
カカシの熱い体が、イルカの体にぴったりと張り付き、確かめるようにうっとりとイルカの肌に指を這わせていく。
その光景さえ目に入れたくなくて、イルカは目を硬く瞑った。


不意に、イルカ自身を触られて体が硬直した。
「カっ、カカシさん、なに・・を?」
目を見開いて起きあがろうとしたが、片腕で押し戻される。
「へえ、アンタも濡れてんだ」
「え、ちがっ・・」
イルカの体が、気持ちとは全く正反対に表れていた。
半分起ちかけているイルカ自身の先は濡れている。カカシの指がぬるりと滑った。
「ひっ・・・」
背中を大きく仰け反り呼吸がままならなくなる。
カカシの指は止まらない。優しいようで、激しく攻め立てられて無様にもカカシの手の中で熱く震えている。
イルカは苦しそうに息を漏らした。
こんな事で感じている自分を悟られたくない。歯を食いしばって手に触れていた草を握りしめる。
薬のせいなのか、カカシは荒い息を噛みしめるように息を吐き、イルカの耳を噛んだ。
「腰、上げて」
囁かれた声ははっきりとイルカの脳に伝わる。カカシの大きな手がイルカの腰を掴んでいた。
「い、いやですっ」
拒むように力を入れたその腰を片手で持ち上げ、熱い肉棒がイルカの中へと押し入れられる。
「ああぁ、・・ん・・っ」
今まで感じたこと無い重い痛みと圧迫感。こぼれ落ちる涙がこめかみへと伝わる。
じっとりと濡れているイルカの中が、カカシの肉棒と擦れる感触にイルカは思わずカカシにしがみついた。
「・・・・・やば、気持ちイイ・・・」
熱っぽく、息を吐きながらカカシは呟いた。強ばらせているイルカの背中を優しく指で撫でる。そのまま深くカカシは突き入れた。
「はあっ、んっ・・・」
カカシの肩に必死にしがみつきながらイルカは唇を噛んだ。止めようとしても声が漏れる。それが自分の思考を狂わせているようで怖かった。
まだ自分の意識があるうちにこの行為から逃れたい。
「カカシさっ、おねが・・・、ぬ、抜いて・・・」
「ダメ、抜かないよ」
変わらない口調で返され、その顔はうっとりとした表情で、イルカを見下ろしている。
イルカの目には涙が際で零れそうに溜まっている、その潤んだ瞳を見てほくそ笑んだ。
勢いのまま自分の逞しい腰を、イルカの双尻に一気に叩きつける。
「--------ひぁっ、ぁあ・・・」
ゆっくりとカカシの腰が動き始める。やがて、激しい旋律にイルカの視点がぼんやりと霞み、声にならない悲鳴が口から漏れた。
何度も激しく突き上げてくるカカシに、朦朧とした頭でそれでも必死にしがみついた。
熱に浮かされた声でイルカはカカシの背中に爪を立てる。
「・・・あっ・・・やっ・・・カカシ・・・・さ、・・・ん・・・」
イルカは訴えるような目でカカシを見上げた。
再び近づいた唇がイルカの口を塞ぐ。甘い痺れが背中を走り、耐える間もなくイルカは達した。
「・・・・・・くっ・・」
同時に熱い体液がイルカの中で放たれる。
荒い息を繰り返しながら、何かに捕らわれていた欲を解放するかのように、カカシはゆっくりと息を吐いた。







×××









イルカの頭は混乱していた。
2日、イルカはアカデミーを休んだ。
自分に何が起こったのか、どうしてそうなったのか。
ようやく出勤した今日もイルカはの顔は暗い。

どうにも整理しきれないまま、重い足を教室へ向けて足を向けた。
廊下正面から歩いてくる人影がカカシで、自分に向かって微笑みかけているのだと知ったのはカカシがその通りの半分も来てからだった。


あれは事故だった。


飲まされた薬がそういう薬で、カカシはそれを抑える事が出来なかった。


だから、防ぎようがない事故。


そう、事故なんだ。



いつもと変わらないカカシの笑顔。人の良さそうな、以前も見たことのある表情。その表情を見て、まるでアノ事は夢の中で起こった出来事の様に思えた。
イルカの目の前で足を止めて、ニコリと笑う。

「ああ、イルカ先生。もう体の方はいいんですか?」

その言葉に、イルカは安堵して微笑んだ。

「ええ、まあ・・・」

カカシ自身反省をしているのだろうか。いや、そうでなくては困る。イルカ自身が一番の被害者なのだから。
出来ればしばらく顔も会わせたくなかったけど、会ったからには一つや二つの謝罪が欲しい。
笑顔が消える事のないカカシの顔を、ぎこちない微笑みで見返した。

「でも、なかなか良かったですよ」

変わらぬ笑顔で言ったカカシの言葉にイルカの顔に笑顔が張り付く。

「・・・・は?」

「いやね、アンタとの体の相性があまりに良かったから、癖になりそうです」


イルカからの返事は無かった。


今のは------聞き間違い?

相性?

癖?

笑顔が消えて、化け物を見つめるかの様な顔をしているイルカを見つめ、後頭部を掻きながら一歩イルカに近づく。

「ヤダナー、とぼけちゃって。そうそう、今日あたりイルカ先生の家に行ってもいいですよね?」

嫌な汗がイルカの体から拭きだしてくる。
目の前にいる上忍の言葉を理解できなかった。
いや、言葉自体をイルカの頭が拒否をしているのか。

始業のチャイムがアカデミーに響き渡り、微妙な空気の二人を不審な面もちで生徒が早足で通り過ぎる。

「授業始まっちゃいましたね。じゃあ、また後で」

カカシが居なくなった後もイルカはその場に立ちつくしていた。




なぜあの時、カカシに毒薬を飲ませなかったんだ。

なんで・・・・。

------恨んでやる。


既にあの世にいる男に向かって、怒りの言葉を心の中で叫ぶ。


重い足を教室へと向ける。じわじわと沸き上がる殺意と後悔を渦巻きながら。


<終>


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