First Night

 酒を飲み賑わう店内で一人、カウンターで一人縦肘をついて酒を飲む。
このグラスのビールがなくなったら帰ろうと思っていた時に、あら、と背中から声がかかる。
 肩越しに見えた紅やアンコを含むくノ一の面子に、カカシはただ眠そうな目を向けた。
「何、一人?」
 紅の声に、カカシは僅かに肩を竦めるだけに留まる。
「まあね」
 素っ気ないのはいつもだが、少しだけ機嫌が悪くとれるその口調に、紅はカカシの隣まで歩み寄った。
「イルカは一緒じゃないのね」
 立ったままカウンターに両肘をつけて、カカシの横顔をのぞき込むように口にした。
 まだ二人の関係を公にしていない事を気遣ってだと思うが、今はその話題には触れて欲しくなった。
 行儀悪く両肘をついたままグラスを傾け唇を湿らせる。
「見れば分かるじゃない」
 低い声に、紅は少しだけ目を丸くした。そこからアンコ達に振り向くと、先に行ってて、と声をかける。仲間が奥の個室へ行くのを見送る紅に、今度はカカシが紅へ顔を上げた。
「何、別にこれ以上話す事なんてないでしょ」
 迷惑だと、思い切り顔に出すカカシを眺めながら、紅はカカシの隣の席に座る。いいからいいから、とカウンター越しに店員へビールを頼み、それを受け取ると、紅は改めてカカシを見た。
「やめてよね。お節介なんて」
 前を向いたまま、姿勢悪くビールを飲みながら言うと鼻で笑われ、むっとして紅へ顔を向ける。
「そんなムキにならなくてもいいんじゃないの?」
 常に飄々としているくせにと、言わんばかりの紅の目にカカシは口を閉じた。イルカ相手だからと言うのがバレバレで、それが悔しいし、妙に居心地が悪くなる。
「で、どうしたのよ」
 なんだかんだで腐れ縁でつき合いが長い相手には、簡単に見透かされているらしい。カカシは諦めるように、ゆっくり息を吐き出した。
 
 イルカとつきあい始めたのは3ヶ月前。ナルトの元担任として知り合いそこから顔を合わせば話すようになり、飲みに行くようになり、そこから間もなく、イルカに告白された。
 自分としては、イルカをいいなあとは思っていたものの、そのイルカの許容範囲は異性であるとばかり思っていたから、酷く驚いた。ただ、告白をしてきたイルカのその緊張した表情と、生真面目で真っ直ぐなイルカが直向きに、純粋に自分に想いを寄せてくれた事が嬉しくて。その場で頷いた。
 つき合う前、飲んでいた話題でイルカが過去数人の女性とつき合っていた事は知っていた。その人数に、自分の想像と違いギャップを覚えたのだが。
 そして、イルカとのつきあいは至って順調だった。
「喧嘩でもしたの?」
 紅に問われ、カカシは首を振った。
「してない」
「まさかイルカが浮気でもしたとか?」
 冗談だと分かっていても、想像さえしたくない。キツい冗談に思わず睨んでいた。紅が肩を竦める。
「ごめん。でも、じゃあ何でそんなに落ち込むのよ」
 もっともな質問に、カカシは躊躇う。イルカのつき合ってきた過去の人数さておき、自分もそれなりに女とつき合ってきたが。
 他人とつき合う上で自分の今おかれている状況と悩みを、今まで持った事がなかった。他人にそれを知られるのも面倒だが、一人で悩んでも解決はしないのも分かっている。
「まあ、言いたくないならいいのよ。元々あんたは他人に相談するようなタマじゃないものね」
 黙ってしまったカカシにかけられる言葉。カウンターのテーブルへ落としたまま、カカシはゆっくりと口を開く。
「進まないんだよね」
「進まないって何?」
「だからそのまんまで、進んでないの」
 紅はグラスから口を離すと、カカシへきょとんとした顔を向ける。カカシの無表情にも見える、その真剣さを含む眼差しを受け、言っている意味を理解したのか、紅の口元が僅かに歪んだ。
「嘘でしょ」
「この状況で言うわけないでしょ」
 眉を寄せてカカシは紅から視線を外した。
 たぶん、想像もしていなかった言葉なのだろう。紅は、少し考えるように言葉を濁らせながら組んでいた足を反対の足に組み直す。
「ごめん、意味分からないんだけど。だったら、カカシが進めればいいだけの事じゃないの?」
 もしかして、イルカが嫌がってる?聞かれてカカシは直ぐに首を横に振った。
「俺はね、一応同性って事で、向こうから好きだって言ってきた手前、少し遠慮してたの。そしたら、全然そんな気配見せないからさ。今更自分から言い出しにくいって言うかさあ、」
 ぶっ、と小さく吹き出した声が聞こえたのは気のせいではない。素直なところは紅の良いところだとは思うが。
「そこ笑うところ?」
 責める眼差しに、紅はごめん、とまた笑って誤魔化した。
 ガキみたいな考えや悩みだって言うのも分かっている。でも、今紅に説明した通り、気がつけばイルカとつきあい始めて三ヶ月も経ってしまっていた。なかなかお互いの仕事上会う時間が取れていない、と言うのもあるが、その事実に焦るのは当然だった。イルカがそれくらい自分を求めていない、と言うことになる。
 自分は。それなりにイルカの気持ちを探っていた。つい数日前は、夕食を居酒屋で済ませた後、別れる前にキスをした。
 柔らかいイルカの唇に舌を差し入れたい欲情に囚われるが、イルカの口はいつも開かない。こういう時こそ、深いキスをすれば雰囲気やイルカの気持ちが高まるはずなのに。だからと言ってそれを口で説明するのもなんだかおかしいだろうと、考えている間にイルカはおやすみなさい、と頭を下げられ背中を向けられてしまった。
 そこから、イルカは夜勤で顔を合わせてもいない。
「・・・・・・大体さ、あの先生が告白するくらいに俺の事が好きなんだよ?だったらもっと積極的になってもいいと思わない?」
 むくれた顔で酒を飲むと、呆れたように少しだけ目を見開いた紅は、そこから手を口元に添え笑いを零した。
「やだ、なにそれ」
「いや、もっともな意見でしょ。あの人だって男なんだからさ」
「あー・・・・・・、はいはい、そうね」
 紅は笑いが止まらない。くすくすと笑いながらも、同調するのは明らかに本意ではないと分かる。それに言っている事がくだらないとは分かっていても、これは本音だった。同性の、しかもノーマルの俺に告白をする度胸はあっても、そこから進む事も出来ないだなんて。ちょっとそれはどうなんだろうか。経験ないだらまだしも、イルカは既に数人の女性と交際経験があるというのに。今までため込んできた不満をここぞとばかりに紅に吐き出すのは、やはり相手が紅だと言うこともあるし、酒が入っているから。
「もしかして先生婚前のセックスはしないってタイプ?」
 吹き出すのかと思った紅は以外にもそれを受け止め、それはないでしょ、と静かに微笑んだ。
「笑わないんだ」
「まあね」
 そこまで言うと紅は目の前のビールが入ったグラスを飲み干す。
「まあ、私はカカシが真剣だって分かって安心したけど」
 じゃあね。言い返す間もなく紅はカカシの肩をぽんぽんと叩き、奥の個室へと戻って行く。
 それこそ心外だと、カカシは一人でグラスを傾けた。




 ついてない。
 カカシはベットで天井を見上げながら息を吐き出した。
 予定と言うのは自分の予想通りにいかないもので、イルカが夜勤が終わった後に、今度は自分からアピールでもしてみようかしらと思っていたのに。
 任務でチャクラを使い果たして、イルカに会いにいくどころではなくなっていた。
 でもぎりぎり里に帰還できただけ良かった。
 体力がなく、部屋に帰ってくるのがやっとだったから、シャワーも浴びずにベストだけを脱いでそのまま身体をベットに横たえた。多少の汚れはあるものの、血や泥が付いていなかっただけ良かった。
 取りあえず今日はこのまま寝て、明日シャワーを浴びて。それからご飯食べたら、改めて執務室へ報告に行かなければならない。
 その後、イルカがいる受付に顔を出してみよう。それで夕飯を誘ってその後ーー、考えながらカカシは小さな欠伸を漏らした。眠気が全身をゆっくり包む。
 意識が落ちそうになった時だった。玄関の扉が叩かれたのは。その音でカカシは目を開ける。正直動けそうにないし動きたくない。火影からの火急の用でなければこのまま寝てしまおう。そう思ったのに。
 再び扉が叩かれ、
「カカシさん、いますか?俺です」
 カカシの耳に確かに聞こえたのはイルカの声だった。カカシは玄関へ顔を向ける。睡魔からくる聞き間違いではない。一瞬どうしようか悩んだが、悩む必要がないと直ぐに判断する。恋人が来て居留守を使うのはおかしい。
「先生、入って。鍵は開いてるよ」
 開けっ放しの扉の一番奥の部屋からは玄関が見え、その扉からイルカがそっと顔を覗かせた。ベットの上に横たわるカカシを目にした途端、表情が心配そうに変わる。
「カカシさん、」
「大丈夫だよ。入って」
 イルカに弱々しくも笑顔を浮かべると、イルカは戸惑いながらも扉を閉め部屋に上がる。カカシのいる寝室へ足を運んできた。
「カカシさん、怪我は、」
「ううん、ないよ。これはただのチャクラ切れ」
 眉を下げると、イルカはゆっくりと安堵の表情を浮かべた。
「あ、でも・・・・・・すみません、こんな体調悪いって、俺何も知らなくて、」
「別に具合悪い訳じゃないじゃないんだから、気にしないで」
 穏やかな笑みを浮かべながら、でもなんでイルカ先生が任務で直帰している事を知っているのか、自分の家さえまだ教えていなかったはずなのに。ふと頭に浮かんだ疑問が聞こえているかのように。
「紅上忍から聞いたんです」
 イルカが口にした。
 上忍であれは知っていてもおかしくはない。曖昧に頷くカカシにイルカもまた薄く微笑を返す。イルカの手元に視線を動かした。ビニール袋を持っている。
「それは何?」
「あ、えっと。ちょっとしたつまみとビールです。こんな状態だって知らなくて」
 袋を軽く持ち上げ申し訳なさそうに言う。
「そっか、ありがと。でも流石に今日は無理かも」
 ですよね、じゃあこれは冷蔵庫に入れておきます。と、イルカは冷蔵庫へ向かう。その後ろ姿をカカシは目で追った。
 あまり人を入れないこの場所にイルカがいるのは、なんか変な気もするのに、気持ちが穏やかになる。ましてや身体の動かないこの状態でさえ。 彼から告白を受け始まった交際だが、自分がいかにイルカの持つ空気や人柄に惚れている事を改めて感じる。そこに恥ずかしさを覚えむず痒い気持ちになった時、イルカがすぐに部屋に戻ってきた。
 わざわざ家に来てくれたのに、動けない事実に情けなくもなるが、だからと言って怠い身体が治る訳がない。イルカはその気持ちも汲んでくれているだろう。優しい微笑みを浮かべた。
 もう帰ります。その黒い目を緩ませて、きっとイルカはそう言うと思っていた。
 その通り、寝ているベットの脇にしゃがみ込んだイルカの手が伸び、カカシの手に触れる。
「ね、カカシさん。俺身体、拭きましょうか」
 見つめたまま、優しく囁いた。

 その意味を真っ直ぐに捉えていたから。
濡らし固く絞った布巾がカカシの手を拭く。そしてイルカの固い指がカカシの手を握り、する、とその指の腹で手のひらを撫でられた時、その感触に思わずイルカへ視線を向けていた。間近で視線が交わる。と、イルカはすぐにその目を伏せた。
「・・・・・・カカシさん、俺たち付き合ってもう三ヶ月ですよね」
 言いながら動かすその指が再びやんわりと手のひらを擦り、その柔らかな刺激に、カカシはどう捉えたらいいのか。ただ、イルカを見つめるしかなかった。うんそうだね、と答えるカカシに、イルカは指を手のひらから腕へ動かす。程良く筋肉のついた筋張った腕に触れた。指の動きがーー背中がぞくりとし、気がつかないわけがなかった。でもそれは自分の勝手な妄想に過ぎないとしか思えない。心臓が少し早く打ち始める。
「あの、・・・・・・イルカ先生?」
 少し不安げに名前を呼ぶと、イルカの目がふっと上がる。再び黒い目がカカシを映した。
「俺、今日そのつもりで来たんです」
 カカシの耳に聞こえた。はっきりと。欲しかった言葉にカカシの心拍はさらに上昇する。が、でも、と思わず声を出していた。だって状況が状況で、何か言わなきゃいけないのに。声が出てこなかった。先生から、ひどく、目が離せない。
「流石にこの状態はって、分かってるつもりなんですーーでも、あなたの身体に触れたら俺、無理・・・・・・かも」
「・・・・・・・・・・・・え、」
 頬を染めながらじっとカカシを見下ろす、その眼差しと、イルカの口から出る言葉に。自分ではないと思えるほどに、思考が動かなくなった。照れ屋で、生真面目で、ちょっとした事がすぐ顔に出て、それを誤魔化すように笑うイルカは、今目の前にいるイルカと同じなのだろうか。
 必死に理解しようとしているが、流石に無理だった。何かを答える間もなく、イルカの手が再び動く。
 膝立ちになったイルカは、ノースリーブでむき出しになった腕に指を滑らせ、腕から胸へ、薄い黒い布で出来たアンダーウェアの上からゆっくりとその指を動かす。固い筋肉を確かめるように胸の上を厭らしく動き、
「・・・・・・心音が早い・・・・・・」
 ぼそりと呟くイルカに、自分の体温が上がったのが分かった。なのに、怠い身体はろくに動かすことも出来ない。もどかしさにカカシは眉を寄せイルカを見上げた。
 これは、冗談がきつい。
「・・・・・・っ、先生、今度にしよ?」
 イルカ先生に対して、この人と繋がれるなら上でも下でもどちらでもいいけど、これは違う。
 ね?と、懇願するカカシをイルカは見つめる。いつもなら、先生の考えている事なんて手に取るように分かるのに。いや、分かっていたつもりだったのか。そこまで思ってその事実に気がつく。
 先生が俺に好意を持っている事までは分かったけど、自ら付き合おうと言うとは思っていなかった。だから今回も。これはーー本気?
「・・・・・・俺だってずっと待ってたんですよ。でも、カカシさん、なかなかそんな気配も起こさないから、俺てっきりーー、」
 そこで言葉を切ったイルカは立ち上がる。ただ不思議そうに目で追っていると、イルカが上に跨がり、目を見開いた。
「まっ、」
「俺としたいんですよね」
 跨がったまま、言う。またしてもカカシは言葉を失っていた。固まったままのカカシに、イルカは僅かに首を傾げる。
「セックスです」
 イルカの口から出たその言葉に、かあ、と顔が赤く染まり反応する。イルカの頬も同じように赤い。
「・・・・・・そりゃしたいに決まってるでしょ」
 ようやくこぼれ落ちたカカシの言葉に、イルカは頬を染めたまま片眉がぴくりと動いた。
「・・・・・・だったら俺に言えばいいのに。紅上忍になんかに言ってどうするんですか」
 ーーああ、そう言う事。理解した事に項垂れそうになった。
 友人だからとつい口を滑らせた自分に落ち度があるが。
「だけど先生、そんな事で、」
「そんな事で火がつくのは、おかしいですか?」
 イルカの手が、カカシの下半身に触れる。カカシの言葉が思わず止まった。
「・・・・・・っ、」
 ゆるゆると、手がズボンの布越しに動く。イルカの手だと言うだけで、その手で触られているだけで、頭に血が巡る。
「ね、先生、ホントに待って、」
「駄目です」
 俺は今日その気だって、言いましたよね。きっぱりと言い除けるその言葉に戸惑いはみられない。言いながら、イルカはカカシのズボンを寛ぎ始め、やがて緩く勃ち始めたカカシの陰茎を口に含んだ。下肢から伝わってくる甘い痺れに思わず眉根を寄せていた。数回口で扱かれただけで、素直に反応をし硬く勃ち上がる。イルカの口内のぬめりが殊の外気持ちがいい。カカシは息を漏らした。
「・・・・・・大きい・・・・・・」
 ぽつりと呟くイルカの熱っぽい声に、カカシはぎゅっと目を一回閉じた。
「っ、先生、やめよ・・・・・・っ」
「凄い自制心ですね。でも俺はそういうの無理なんです」
 陰茎の側面を舌で舐め上げ柔らかい部分を吸い上げる。その快感にカカシは耐えるように、身体に力を入れた。
「カカシさんが前言った通り、俺は忍らしくない人間なんです・・・・・・俺は、あなたで気持ちよくなりたい」
 起き上がり腰を浮かせたイルカは自分のズボンを脱いでいく。下着を脱いだイルカのそこもまた同じように既に勃ち上がっていた。雄臭いイルカのそれに触れ、抱きしめたい衝動に駆られる気持ちを必死で抑ええる。表情に浮かんだのか、イルカはカカシを見つめ、薄く微笑んだ。
 勃ち上がったそこはイルカは自分で触りもしない。自分のポーチから小さな瓶を取り出すと、液を手のひらに零す。
 そこからは、カカシはただ見てるしかなかった。
 
「・・・・・・っ、よく分かんな・・・・・・っ」
 それはたぶん、後ろの解れ具合を言っている。カカシに跨がり勃った先を濡らしながら、奥に指を入れ、イルカはその度に苦しそうに息を吐く。お互いに同性が初めてなのだから、カカシも見ているだけでは分からなかった。でも酷く艶めかしくて、目が離せない。ただ、凝視するしかなかった。ただ見ているだけなのが、こんなに辛いものだとは思わなかった。
 これが何かのプレイなのだと括れるのかもしれないが、こんなの性に合わない。
 カカシは張り付けていたイルカから視線を外し、ベットの脇にあるイルカが投げ捨てたポーチへ目を向ける。
 怠さを押しのけるように、カカシはそのポーチへ手を伸ばした。

 たぶんイルカがぐるりと目を回したのは一瞬。
 自分の後ろを解すイルカの手を掴み、カカシはそのままイルカをベットに押し倒した。ひゃ、と声を漏らしたイルカは、布団の上に身体を乗せ、驚きにぽかんとカカシを見上げていた。
「これ、中々即効性があって助かりました」
 唖然とした表情を眺めながらカカシは苦みを残した口内から舌を出し、自分の薄い上唇を舐める。
「・・・・・・あ、」
 そこでようやく気がついたイルカが、自分のポーチへ視線を向けた。内勤であとうろ忍が兵糧丸を持ち歩かない訳がない。自作する人により、その性能が様々だが。流石アカデミーの教師と言うべきか。効能は申し分なかった。多少であれば無理をすれば動ける事に、カカシはにんまりと笑みを浮かべる。
 未だ驚きを隠せないイルカを見下ろし、カカシはイルカの持っていたローションの残りを自分の手のひらに取り、中身を空にするとそれを床に捨てる。そこから、ゆっくりと手のひらに伸ばし、自分の陰茎に塗った。
 逆の立場になったイルカが、痛いくらいにカカシのそこに視線を注いでいるのが分かった。案の定、ちらと視線を向けると、イルカと目が合う。
「俺ね、先生。させるのもいいけど、やっぱり俺はする方が性に合ってるみたい」
 ぐぐ、と右手を添えた陰茎をゆっくりと入り込ませた。解されてはいるものの、その肉の狭さときつさに眉が寄る。一番奥まで潜り込ませると、
「ーーーーぁ、」
 イルカから声にならない声が漏れた。圧迫感からか、不安げな表情を浮かべている。熱い肉に覆われ、早く動かしたいと逸る気持ちを抑えながらカカシもまた息を吐いた。
「大丈夫・・・・・・、ゆっくり、息を吐いて」
「ん・・・・・・、ふ、ぅっ、」
 少しずつ、ゆさゆさと腰を動かす。内部を擦る度にイルカの声がまた漏れた。
「気持ちいい・・・・・・ですか?」
 聞かれ、伏せていた目をイルカに向けると、脂汗を額に浮かべながらイルカがカカシを見上げている。カカシは思わず微笑んだ。
「うん、・・・・・・すごく、いい」
 先生も気持ちいい?イルカの鈴口から透明な液を垂らしている陰茎に触れ、手のひらに包み込む。擦り上げるとイルカがぶるりと震えた。内部がきつく締まる。カカシはじょじょに動きを早めた。
「ぁあっ、駄目・・・・・・っ、俺が・・・・・・」
 クスっと吐息のような笑いをカカシは漏らした。
「今この状態を俺が譲るわけないでしょ・・・・・・いいんですよ、このまま一緒に気持ちよくなろ・・・・・・?」
 カカシはイルカの腰を掴みゆるやかに突き上げた。イルカのいい場所だと思える箇所を何度もじらす早さで突く。
「うっ、あ、やぁ・・・・・・あっ」
 顔を赤くしながら、イルカは目に涙を浮かべカカシと一緒に腰を揺らしていた。それが酷く淫らで、可愛くて、滅茶苦茶にしたくなる。覆い被さりイルカの唇を塞いだ。舌を差し入れると、イルカの舌と絡み合う。幸せな気持ちに満たされた。
 肉のぶつかる音と水っぽい音が部屋中に響く。
「カカ、シ、さっ、も・・・・・・、っで、ちゃ・・・・・・うっ」
「うん・・・・・・俺も、いっちゃいそ・・・・・・」
 知らされた限界に、イルカの目の際に溜まっている涙を舌で掬うと、カカシはイルカの腰を掴む。がつがつと腰を激しく振った。
「うあっ、あ、あぁっ、あ・・・・・・っ、」
 感極まった声と共にイルカが精液を吐き出す。同時に内部を締め付け、カカシは短く呻いた。内部へ熱いものが幾度となく叩きつけると、イルカがぶるりと震える。脱力し、うっとりとしたイルカの表情をカカシは見つめた。

 流石にもう限界だった。久しぶりに感じる酷い疲労感に、イルカの上に覆い被さりそのままずるんと身体を横にした。イルカがカカシへ身体を向ける。上気した頬に満足そうな笑みを浮かべながら、カカシの銀色の髪を撫でた。
「・・・・・・あんたって人は・・・・・・」
 こんなに無理したのはいつぶりだろうか。セックスでは、たぶん一度もない。呆れるも、声に力すら入らない。イルカはじっとそんなカカシを見つめた。
「・・・・・・大丈夫ですか?」
 大丈夫なわけがない。そう言いたかったが、ただ、疲労感よりも幸福感に包まれているのは事実だった。カカシは言い淀みながら、息を吐き出す。
「・・・・・・ま、あなたがセックスをしたかったのが分かって良かったですよ」
 ため息混じりに言うと、イルカは目を少し丸くした。そして口を尖らせ、
「したいに決まってます」
 当然のように言った。
「だから、俺は俺なりにいつでも出来る様にって、ない知識寄せ集めて準備してたんですから」
「え、準備って、」
 聞くまでもない。イルカが自分の指で後孔を慣らしていたあの光景。思い出しただけでカカシは自然喉を鳴らしていた。ただ、脳裏に焼き付いたあの光景には、自分を受け入れようとするイルカの気持ちがあった事にも気が付き、それは胸を熱くさせる。
「なのに・・・・・・、あなたが紅上忍に言うから」
 膨れた顔で言い、あんな相談は誰にもしないでください。
 付け加えられた言葉に、カカシは少し目を見開いた。
「・・・・・・まさか紅に嫉妬、」
「してませんっ」
 ぷいと顔を背けるその言動は、肯定しているとしか言いようがない。カカシは声にならない笑いを漏らした。
 初めてのエッチで、まさか先生に襲われるなんて思いも寄らなかったけど。
 正直ロマンチックな甘いセックスより、雄らしいセックスは、何というかーーイルカに求められている感があって、嬉しかった。
 なんて言ったらまた同じ事されそうだから言わないけど。
 呑気に心でそう呟き、イルカの額に唇を落としたカカシは抱き寄せる。イルカは鎖骨辺りにぴったりと頬を寄せた。安堵感から眠気に襲われたカカシはイルカの手を取り、幸せそうに瞼を閉じた。
 
<終>
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