灰色と黒

浴衣にしようと言ったのはカカシからだった。その言葉が妙にうわっついたどこかの恋人同士の会話のようで、いや、実際恋人同士だが、こそばゆく感じたイルカは、そんなものあるかどうか分かりませんよ、なんて顔を背けながら何の気なしにカカシに返した。
実際は押し入れの奥に、浴衣があるのは分かっていた。数年前、教師になったばかりの頃、手伝いをしたお礼にと、商店街の八百屋のおばちゃんが得意だと言った裁縫で仕立ててくれたものだ。
藍色の浴衣はサイズもぴったりで、でも浴衣に袖を通したのは子供の頃以来で。ひどく気恥ずかしかったのを覚えている。
あれから機会があれば年に一回は着てもいいとは思ったが、そんな機会はなく今に至り、あの浴衣姿をカカシに見せるのかと思ったらどうしようもなく恥ずかしかった。
祭りの当日、浴衣に袖を通して鏡を前にしたらやっぱり恥ずかしく、眉を寄せた。
そして、普段から支給服しか目にしないからか、カカシの浴衣姿もどうしても想像出来なかった。いや、しないようにしていたのかもしれない。
待ち合わせ場所にいけば、そこには既にカカシがいて、彼もまた自分と同じ浴衣姿なのに、いつものように小冊子を片手に読んでいて、何故か安堵しそれについ小さく笑ってしまった。
それに気がついたカカシが顔を上げこっちを見る。イルカは微笑みを浮かべながらカカシに歩み寄った。
すごく似合ってます。
2人で神社まで歩く道のりで、言うタイミングはいくらでもあったはずなのに、賑わってますね、と並ぶ屋台を眺めながらイルカが口にした言葉に、カカシがそう返してきて、一瞬何の事か分からなかった。だがそこまで鈍感でもない。頬が熱くなりそうで、イルカは、ありがとうございます、と小さく返すとカカシから視線をぎこちなく逸らした。

ある程度屋台の焼きそばや焼き鳥で腹を満たしビールで喉を潤す。ほろ酔いで歩けば時間も時間だからか、知り合いや、生徒や、その親と顔を合わせ、その度にイルカは足を止めて挨拶をしては、またカカシと歩く。
なんかすみません、と呼び止められる度に待たせてしまう事にカカシに謝ると、カカシは、いいよ、と微笑み、それに安堵した。

カカシに押し倒されたのは突然だった。不意に帰り道に手を掴まれ、人気の無い草が茂る場所でキスをされた。
一瞬拒むべきかと頭を掠めたが、今日の雰囲気に自分も酔っていた。この非日常を恋人である時間をカカシと過ごせ、口には出さないが、夢のようで。
口付けは深くなり、そしてそれだけでは終わらなかった。すぐ終わるから、と囁いたカカシはイルカの返事を待つまでもなく膝まである草むらに押し倒した。土と潰れた草の青い匂いが鼻に付く。乱れた浴衣の胸元を開き胸の先端を吸い、裾もまた荒々しく開き太股から下着に指を這わせる。そこな既に口付けだけで緩く立ち上がっていて、恥ずかしさにイルカは頬を紅潮させた。
ついさっきまできちんと着込んでいた浴衣は上も下もはだけ、露わになった肌を、上からカカシが見ている。その視線を痛いほど感じ、それに胸がドクドクと鳴った。愛撫して赤く固くなった先端を吸い舌で舐る。下着は既に下げられ触られてもいない場所が勃ち上がり先を濡らしている。胸を弄られる度に腰が揺れ、イルカは涙目になった。
胸から顔を上げると、カカシは自分の唾液で濡らした指を行くべき場所へ伸ばす。ゆっくりと中を押し広げられ、イルカは息を詰めたが、手の甲で自分の顔を覆うようにしながら、協力するように力を抜き呼吸を繰り返した。
(……焦ったい……)
イルカは心でぼんやり呟いた。
カカシによって引き起こされる快感も焦ったいし、内側がもどかしく熱いのも焦ったい。
ーーでもなにより焦ったくさせるのは。
熱っぽい息を吐きながらイルカは顔を覆っていた手を少し上げる。
潤んだ黒い目に映るのは、カカシだった。冷えた青みかがった目の奥は欲火が灯り、濃いグレー地の上品な浴衣姿で自分を見下ろしている。その光景に思わず目を細めた。
たぶん、自分はカカシ以上にこの姿を期待していた。そして、浴衣姿で待ち合わせ場所にいるカカシを見た時、言い表せない色気に密かに喉を鳴らした。
そんなカカシに今押し倒され、見下ろされてると思っただけで気持ちが昂ぶる。
そうとは知らないカカシは差し迫った表情で、自分とは違いそこまでまだ乱れてない浴衣の裾を性急に捲り上げる。
月に照らされる銀色の髪と眼差しと屹立した陰茎を取り出す、その様に痛いくらい心臓が高鳴り、
(……ずるい)
イルカは期待を含んだ熱っぽい目でカカシを見上げた。

<終>