はじまりとは 追記④

 夕日が西の山に沈む頃、イルカは商店街で買った袋を下げ、暗くなりかけた道を歩く。
 左は野菜で、右手に持っているのは少し奮発して買った肉だ。後は昨日大家さんからもらった野菜をどう料理しようか考えながら歩けば、自分の家までは直ぐだった。アパートが見えてきた辺りで気配を感じ顔を上げる。
 ちょうど別の道から歩いてくるカカシがそこにいた。
 自分の家でシャワーを浴び、身体を休めてからここへ来たのだろう。着替えてはいるだろうが、昼間見た、いつもと変わらない支給服に身を包んでいる。カカシもまたイルカに気がつき顔を向けた。
 つい数時間前、顔を合わせたばかりなのに。
 でも、あれは本当にあっという間の出来事ので、純粋に互いの熱を奪い合った行為は、すごく濃厚で。
 自分らしくないと思うのに、満たされた時間だったのは間違いがない。
 互いに歩み寄り、イルカは恥ずかしさに顔を赤らめながら、笑顔を浮かべた。カカシもまた少しだけ照れくさそうににこりと微笑む。イルカはその顔をじっと見つめた。
「買い物してきたの?」
 手に持った袋に視線を向け、そう聞かれ、イルカは、はい、と頷く。
「すき焼きなんかどうかなあ、と思いまして」
 笑うイルカにカカシは、そうなの?と聞き返す。まあ、普通真夏にすき焼きなんかやらないのかもしれないが。自分がそんな気分だった。
 幼い頃。何か嬉しい事があると、母は決まってすき焼きを作った。季節関係なく。自分にとってはそれが特別な味で。家族で食卓を囲んで食べれる事が出来る事も素直に嬉しかった。
 イルカはその暖かい情景を思い出しながら、でも夏にはちょっと不向きですかね、と口を開こうとした時、
「いいね、楽しみ」
 カカシがそう言い、微笑む。イルカは嬉しそうに小さく頷いた。二人で一個ずつ買い物袋を持ちながら、アパートに向かう。
 アパートの階段を上りながら部屋の鍵を鞄から探っていれば、そう言えば、とカカシは口にした。顔を向け、え?と聞けば、身体は平気?
 そんな事を聞かれ。少しだけ目を丸くした後、イルカは赤面した。そんな事改めて言わなくていいじゃないか、と思いながらも、大丈夫と聞かれるが、そんな無茶な事をしたっけ?と自問するのは。あまりにもあの時、その行為に没頭していたからなんだと、改めて思い知らされる。更に顔をが熱くなった。誰かがいつ来てもおかしくない、用具室で。服さえ脱がず、必要な箇所だけを晒し、何度も繋がった。
 ただ、そんな事を聞くカカシは少しも茶化す風でもなくて。それがまた、なんだかもどかしい。
 答えを必死に考えながらも、イルカは一回外した視線をカカシに戻した。口を開く。
「・・・・・・まあ、なんと言うか、あん時は嵐の中にいたみたいで、でも、」
 と、そこで一回言葉を切ってカカシを見つめる。
「すごく良かったです」
 平気と言う言葉の代わりを探して口にしたイルカに、カカシは一瞬驚いたように目を開いた後、眉を下げて、なら良かった、と嬉しそうに笑った。

<終>
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