花火③

「え、何ですか?」
不思議そうに問うカカシを無視してイルカは再び口づける。
ゆるゆると何度も唇を重ねると、再びカカシの手が動き、イルカはまたその手を掴んでカカシの膝に戻した。
「カカシさんからは何もしないでください。勝手に俺に触ったら、ダメです」
「イルカ先生?」
「絶対です。触ったら。...絶交です」
目を見て、強い口調できっぱりと言い切られ、カカシは困った顔をしながら渋々小さく頷いた。
それを見て、イルカは再びカカシとキスを再開する。
普段リードする側のカカシが何も出来ないのは、ひどくもどかしいのかもしれない。
少しでもこれで懲りればいい。
イルカは拙いキスを繰り返して、唇をカカシの頬に移した。
カカシの身体がぴくりと動いたが、言われた通り、手を動かさない。
いつも好き勝手しているカカシが自分の言うことを聞いているのは、すごく変な気分にさせた。
アンダーウェア越しに鎖骨辺りを吸うと、カカシがゴクリと喉を鳴らしたのが聞こえた。
そこでカカシから顔を離す。
「イルカ先生...?ホントに、ダメ?」
頬を少し火照らせながら懇願するような顔に、イルカは微笑みを返した。
「さっき言ったでしょう」
「えぇ、だって」
カカシは悲しそうな声を上げた。それでもイルカは首を振りながら、考える。
お灸を据えると言う事は、もっと切迫した状況が必要だ。
これじゃ、ただ、愛撫をカカシに与えているだけ。カカシも自分も辛いだけだ。
じゃあ、どうすればーー。
ふと思い浮かんだ事に、少し躊躇した。
どう考えても普通だったらこんな事しない。
考えるだけで顔から火が噴きそうになるが。
イルカは、そっと自分のズボンに手をかける。そのままかちゃかちゃとベルトを外すイルカを、カカシはただ呆然と見つめていた。
「ね...イルカ先生...なにやってるの...?」
「さっきも言いましたが」
そこまで言って、黒い目にカカシをしっかりと映し、
「触ったら、絶交、ですから」
「まって、ズルい」
ズルいの意味が分からないと、笑いを零しながら、イルカは下着から陰茎を出す。見る限りカカシと同じぐらいだろうか、半ば勃ち上がっているそれを自分の手で掴んだ。
ぼおっとその光景に魅せられるように、カカシはイルカのその普段見ることもない姿を見つめていた。
そこからゆっくりと、イルカは手を動かす。
当たり前だが、こんなところ、人に見せたりする事は絶対にない。
頼まれたって絶対にしない。
なのに。今、自分はカカシの前でしっかりと固くなった自身を掴んで扱いている。
そう思っただけで頭が沸騰しそうになった。
身体が一気に熱くなり、体温も上がったのが分かる。
濡れた音が手を動かす度に自分の耳にしっかり届いた。
上気した頬に息を乱しながら、恥ずかしさに涙が目の際に溜まる。
カカシの視線が痛いくらいに自分に突き刺さっているのも、分かる。それだけでさらに恥ずかしさが増した。
それでも手を動かし続ける。
「...イルカ...先生...」
カカシは独り言のように呟きながら、でも、懇願するような声を出した。
「...んっ、ふっ....」
イルカはそれを無視して。誰の刺激でもない自分に与える自分自身の刺激に、イルカは溜まらず声を漏らした。
「先生...」
またカカシからぼそりと声が漏れる。
苦しそうな顔でカカシをちらと見ると、口を少し開けたまま、目だけがじっとイルカの手元を張り付くように見ていた。
ふとその視線が上がり、イルカの目を見つめる。
触りたいと口では言っていないのに、その気持ちがが嫌という位にイルカに伝わる。
何か言われる前に、イルカは口を開いた。
「駄目です、から」
見ているだけのカカシは、苦しそうに眉を寄せた。
荒くなった息を詰めながら言い、自分の指の腹が柔らかい先端を刺激する。
イルカは一人身体をびくつかせ、また声を漏らした。
熱い。そこまで部屋は暑くないはずなのに。
イルカの額には汗がにじみ始めている。
集中するように、カカシから視界を遮るように、イルカは目を閉じた。漏れる息も熱く、自分でも上がってきてきているのが分かる。
水っぽい音と、自分の息の声だけが部屋に響きわたる。
気持ちいいけど、足りない。それは分かっていた。
イルカは薄っすら目を開ける。
「先生、お願い。触らせて」
せっぱ詰まった声を出した。
イルカは口元を緩めながら、ゆっくり首を振った。
「触ったら、...絶交です」
妖艶にも見えるイルカの笑みに、カカシは苦しそうに眉根を寄せた。視線を下ろすと、カカシの股間がぱんぱんに張りつめているのが見える。
イルカはまた目をカカシの顔へ向けた。
「もう、...知らない女と、べたべたしないって。約束、出来ます?」
途切れ途切れに。言われた言葉に、カカシはこくこくと勢いよく頷いた。
「します。出来ますっ。だから、触らせてください」
「嫌です」
イルカは先走りで濡れた陰茎を包み込むように動かしながら、言い切った。
「触らせたらお灸もくそも....ないじゃないですか。だから、最後まで見ててください」
イルカは腰を上げると、自分のズボンを下着ごと下ろした。
晒された下半身に、カカシの喉が上下したのが見える。
イルカは目を伏せながら、後ろへ腕を回す。疼く自分の場所を指でゆっくり撫でた。
正直、自分で触るのは初めてだ。
いつもカカシはここを指で丁寧に解してくれているのは知っている。
自分でやっても痛いか気持ち悪いだけのはずだとばかり思っていたが。
少し指の先を入れただけで、イルカの身体が大きく跳ねた。
「イルカせんせ、」
「...っるさ...っ」
目を閉じて、指をゆっくりと挿入させる。
熱い。
きっと額には汗が浮かんでいるだろう。
身体も、指を入れるその中も、熱い。
「...もう無理」
カカシが低い声で呟いた。
え、と目を開けた時にはカカシに覆い被されていた。
「え...ちょ、」
床に押し倒され、急な動きに目を回す。
「待って、触らないって約束」
「もう十分、無理」
耳たぶを甘噛みして、囁かれ、イルカは身体を震わせた。噛みつくように荒々しいキスをされる。
野獣のようなカカシの目がイルカを見ていた。
自分の指の代わりに、カカシの長い指がゆっくりと入り込む。
「すごい、こんなに濡れてる」
「....っ、ぁっ」
指を1本から2本に増やされ、イルカは目を開けたまま声を漏らした。
「いつも一人でしてるの?」
耳元で聞かれ、イルカは首を振った。
「ちがっ....したことなんか、...ぁっ、」
もう片方のカカシの手が、びくびくと反応を示しているイルカの陰茎を包み込んだ。ゆるゆると動かす。
「先走りもすごいね。ね、もう挿れていい?」
頬に唇を押しつけ首もとを強く吸われ、イルカは頷くしかなかった。
そこから、野獣のように後ろから突き上げられた。
「は....ぁ、あ....っ」
余裕を感じない動きにイルカは呼吸をするだけで精一杯になる。
一番感じる箇所を何度も何度も激しく擦られ、腰を使われる。
前も手で扱われ、イルカは直ぐに達した。
カカシもその後しばらくして声を詰まらせイルカの中で果てる。余韻で震えている自分の手をぼんやりと見つめた。
後ろから抱きしめていたカカシが、その手に自分の手を重ねた。

2人でベットに横になれたのは、だいぶ時間が経った後だった。
一回達した後も、身体の奥がくすぶっていたのは、カカシも同じだったらしく。
汗の引かない身体のまま、イルカは布団の上にごろりと身体を横たえて、呼吸を整える。
カーテンの隙間から見える夕暮れだった空は夜空に変わり、星が綺麗に瞬いている。
「もう...あんなお灸はごめんです...」
思い出したようにカカシは呟いた。
カカシにはしっかりと効いたようで、功を奏したようでよかったが。正直それは自分だって同じだ。あんな事二度としたくはないとは思う。
痴態に変わりない、教師としてあるまじき行為だと、今更ながらに恥ずかしさが襲い始めて、イルカは布団に顔を潜らせた。
「ねぇ、イルカ先生」
そのイルカに、にゅっと腕を伸ばしでカカシが後ろから抱きつくように肌を密着させる。
「お灸を据えるなんて、イルカ先生が思いついたの?」
ドキンと心臓が高鳴る。
「...そりゃそうでしょう」
静かにイルカは返した。
「まさか暗部の猫面の男が入れ知恵したって事、ないよね?」
「まさか」
囁かれる低い声に背筋が震えるも、イルカは素知らぬ風を装った。
猫面だと分かっているのが怖い。もしかしたら、カカシはその暗部が誰なのか、分かっているのだろう。
そこから黙ることを選んだイルカに、カカシも無言で抱きしめて。
そっか、と小さく呟く。
イルカはもぞもぞと向きを変え、カカシに向き直った。
「そんな事より。今度花火しましょうか」
「え?」
聞き返され、イルカは少し強い目線でカカシを見つめる。
「やっぱり忘れちゃってたんですね」
去年買った花火、まだ仕舞ったままだって覚えてないですか?
そこまで言って、カカシは思い出したのか。ああ、と声を上げた。
「そう言えば買いましたねえ」
カカシは呑気そうに天井を見上げ、
「もう湿気ちゃったりしてるかなあ」
心配そうな目を向けられ、イルカは微笑んだ。
「封も開けてないし、湿気の少ない場所に仕舞ってあるのできっと大丈夫ですよ」
「そっか」
眉を下げ安心したような笑顔を見せられ、イルカもつられてまた微笑んでいた。
本当ーー子供っぽいくて。可愛い。
「じゃあ、今からやりますか?」
「ーーカカシさん」
カカシの冗談交じりの誘いに、無理だって分かって言われてつい呆れた声で名前を呼んでいた。でも甘やかすような優しい声だと、自分でも分かっている。
梅雨が明けたら、花火をやろう。
そしてまた来年も、カカシと一緒に出来たらいい。
イルカは布団に潜り込んで、カカシへ腕を回した。
気持ちがいい、温もり。
「楽しみですね、俺、実はほとんどやったことないんですよ」
嬉しそうなカカシの声も、心地いい。
折角なんでナルト達を呼んで一緒にやりましょうか。
カカシの顔を見上げて。
その時見せたカカシの悲壮感ただよう表情を見て、イルカは笑いながら目を閉じる。

あの黒髪の暗部の男。
名前はなんと言うのだろうか。
カカシは勿論知ってるだろうが。
また、いつか。
会った時に。
2人だけで花火やりましょうよ。
囁きかけるカカシの声を遠くに聞きながら。
イルカは眠りに落ちていった。

<終>
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