Heaven②

古いアパートは築20年くらいだろうか。かんかんと、階段を歩く音が静かな空気に響いていく。
イルカはドアを開けた。
「狭くて汚いですが、どうぞ。...あ、すぐ片づけますね」
朝ちょっと寝坊しちゃって、急いでたんですよ、と、先に部屋に上がり落ちていた服を屈んで拾い上げるイルカの背中を、カカシは抱きしめた。
腕の内に入れたイルカの身体が、強ばったのが分かった。構わずカカシは項に唇を這わせ舌の先で舐め吸いつく。やってる事は非現実的なのに、イルカの汗の味と匂いは酷く生々しくて、カカシは誘われるままにまた首筋にキスをした。
そこで、イルカの筋肉が更に硬直し、小さな声を漏らした。
「スケアさん、...あの...、」
「なに?」
カカシは返答しながら愛撫はやめない。今までしたかった欲望のままに、また項へ顔を埋めた。
「あっ、...だめ、」
唇を少しだけ浮かして、カカシは笑った。
「ダメなわけないよね」
「え....?」
「だって、これはアンタの望みでしょ?」
違うわけがない、と、カカシは少し顔を上に向け、金色の瞳でじっと、イルカの顔を見た。
一瞬、イルカが息を呑んだ。そこから、イルカは首を捻り、肩越しにカカシへ視線を落とす。何秒か交わった視線。カカシも目線を逸らさないまま肌を強く吸った。鬱血してもおかしくない強さに、イルカは微かに眉を寄せる。
何も答えようとしないイルカは、カカシからしたら肯定しているようで。カカシも無意識に眉を寄せていた。
そこから抱きしめていた腕を動かし、イルカのベストのジッパーを下ろした。その動きにイルカが慌てた。
「ちょっと、...まって、」
もしかしたら、こんな事想像してなかったのかもしれないし、もう少し時間をかけて欲しかったのかもしれない。
色々な憶測がカカシの頭で飛び交うが、もうそんなのどうでもいい。
ベストを脱がしたところでイルカはもぞと身体を動かし、身体の向きをかえようとするのを、カカシは封じ込めてまた腕に力を入れた。顔を見たいのか、イルカは首を捻るように動かした。また、肩越しにカカシと目が合う。
カカシは微かに首を傾げ微笑んだ。
「もう話はなし。分かった?」
優しい口調に見せるカカシの微笑みに、顔を真っ赤にしたまま、イルカが困惑した顔のまま、目を伏せた。
自分で促したのに、またカカシはイルカに愛撫を再開させながら笑いが零れそうになった。
なんだ、やっぱりそうなんじゃない。
イルカの相手は、イルカを腕で封じ込めている自分ではない男、ーースケアにであって、カカシにではない。その現実が余計にカカシを苛立たせた。
ほとんど里にいない謎めいた男は、イルカにとっても、この関係を求める相手として都合がいいのだろう。イルカをそんな気持ちにさせているつもりなんかこれっぽっちもなかった。だから、自分の何が、イルカの気を引かせたのか、分からない。
それでも、俺みたいな姿の男を選ぶなんて。
物好きもいいとこだ。
ホント、可笑しい。
カカシは眉根を寄せながら、鬱気を拭う為にカカシは自分へ向きを変えさせると、カカシはイルカを床に押し倒した。アンダーウェアをぐいと押し上げながら肌に手を這わせる。迷わず突起に触れた。
「....んっ」
またイルカから声が漏れる。項に唇を這わせながらちらと見やると、また真っ赤にしたままの顔で目をぎゅっと閉じる。
緊張なのか、身体の筋肉は未だ固いのには何故かホッとしながら、カカシはイルカの突起を口で含んだ。舌で転がせばすぐにそこは固くなる。
自分の手で口を覆いながらも、イルカは絶えず声を漏らした。歯を軽くたてると、イルカが仰け反るように身体をビクつかせた。
「や、...!」
口から手へ突起の愛撫を変えながら、イルカの耳元へ顔を移動させた。
「やだって...それ、じらしてるの?それとも、イルカ先生は乱暴にされるのが好き?」
耳奥に囁くカカシの声に、イルカの身体が震える。また小さく声を漏らした。
「ん...っ、ちがっ、」
潤んだ目で首をふるふると振る。
「じゃ、もっと声、訊かせて」
首もとの肌に唇を落とし、強く吸う。きっと痕が残ると分かっているが。印を残す行為はカカシを興奮させた。
いつも遠くから見るだけだったイルカが、今、自分に組み敷かれている。考えただけで、下半身に甘い痺れが走る。思わず上唇を舐め上げた。

少しだけおかしいとは思っていた。
イルカの快楽の顔が見たくて、先に一回射精させた。最初イルカは抵抗はしたものの、指で包み込み、動かせば、カカシの手によって簡単に追い立てられた。
濡れた指先で、固く閉ざされたままの場所を探した。またイルカは胸を上下させながらも、その場所を探り当てた時、イルカはギクリとして足を閉じようとしたが、間にカカシの身体があるため、それは適わない。
「スケアさん、やめ....っ、」
拒む言葉にカカシは聞く耳も持たずに、指を押し広げるようにして入れた。
「慣らさないと、....辛いのはあなただよ?」
その台詞に、イルカが潤んだ黒い目をカカシに向けた。カカシもその目を見つめ返す。
今更なにを拒もうとしているのか、処女をとやる面倒くささを他から訊いた事があったが、表すなら、今のイルカではないだろうか。
誘ったのはイルカだ。そう、目の前で足を広げているイルカだ。
カカシは指を入れながら、内側の感触を楽しむように動かす。その度にイルカの腰が痙攣した。
「あっ...ぁっ!」
思ったよりも、イルカ中はぬるぬるして、熱い。指に吸い付くような感触はカカシの気持ちを高ぶらせる。指を増やして上下に動かす。
またビクとイルカの身体が震えた。達して萎えたばかりのイルカ自身が、指である場所を擦る度に、起きあがってくる。
「スケアさん....っ!や...!」
内側の快楽に眉を寄せながら、イルカは頭を振った。
カカシは暫く中で動かし続け、指を引き抜く。上着こそ脱いではいたが、そこで漸くカカシは上着を脱いだ。黒の袖のないアンダーウェア一枚になる。そこからカチャと金属音を慣らしズボンと下着を腿のところまで引き下ろす。
指を抜いた場所へカカシ自身に押し入れた。ぬち、と音を立てながら、ゆっくりと入れれば、受け入れるように、イルカの肉がカカシを包む。が、その狭さに、堪らず眉を顰めた。
「うあ...っ、あぁ!スケアさ、...っ」
イルカも苦しいのか、短く呼吸を繰り返しながら、押し進んでくる熱に眉根を寄せた。
苦しいけど、中に挿れた気持ちよさが遙かに上回る。カカシは一番奥深い場所まで埋めると、身体を揺すった。
足を腕で広げさせれば、イルカの腿が震えていた。ふ、ふ、と浅い息を涙目になりながら繰り返している。
その様子をゆさゆさと腰を動かしながら暫く眺める。イルカの目から涙が零れた。
それは行為からくるものと分かってはいるが。
カカシは動きを止め、イルカの顔をじっと見つめた。
「...まさか」
ふと思い浮かんだ事にカカシはぽつりと口を開いていた。
いや、そんな事はない。と頭の中で否定してみるが、イルカの泣いたまま目を閉じたその顔から、どうしても拭いきれない。
イルカは、動きを止めた事に気が付いたのか、未だ苦しそうな表情のまま目を開き、カカシを見た。赤い唇が薄っすら開く。上気した顔は、まるで熱にうなされているようだが、艶めかしさが加わっていた。
「スケアさん...?」
「イルカ先生さ...もしかして、...あんた初めて、って事、ないよね?」
開いた目をのぞき込むように、上から見下ろしながら問うと、イルカがその黒い目を逸らした。
「....初めてです....」
ぽつりと呟いた。
嘘だろ。
動揺が一気にカカシの全身に広がる。その動揺を表に出さないよう努めながらも、微かに眉を寄せてしまっていた。
自分は知らなかったが、この流れはイルカの手口なのだと、思っていた。たまたま今の俺が好みだったから。
だから。誘ったんだと、思っていたのに。
胸の内に広がる動揺は消えないが、下半身の熱さは変わらない。誘うように中を収縮する刺激に、カカシは思考を止めた。
「...まあいいや」
そう呟いてイルカの足を持つ。
「せんせ、なるべく身体の力抜いて?呼吸もゆっくり、ね?」
そう告げると、カカシは引き抜き、また強引に奥に入り込む。
「あっ、あぁ、....!」
激しく身体を揺さぶる。狭いけど中の肉を擦る度に漏れるイルカの嬌声が自分を刺激する。快楽に流されるままに、カカシは何度も激しく突き入れた。
「あぁ、..っ、スケアさん、だめ...っ」
ただでさえ狭いのに、中の締め付けに眉を寄せながらイルカの唇を塞いだ。はあはあと漏れる吐息も奪うように、何度も口付ける。
「....っ、イルカせんせ...、中...すごく、きつ...」
カカシは苦しげに喘ぎ、顔を離すと再び腰を打ち付けた。
こんなにセックスが気持ちいいのは、いつぶりだろう。
いや、初めてなのか。
勃ちあがったイルカ自身のがぬるぬるとカカシとイルカの腹の間で擦れ、再び射精する。カカシも何度も律動させ、最奥に突き入れると、自身の熱をイルカの中に吐き出した。断続的に吐き出される熱に、イルカはその度にカカシの背中に、服の上から爪を立てた。
「カカシさ…」
掠れた小さな声を、カカシは聞き逃さなかった。
目を見開き、ピッタリと上下する胸に重ねていた自分の身体をがばと起こしイルカを見た。
吐精後からくる倦怠感でボーっとはしていたが、聞き間違いである訳がない。
イルカは自分が、何を言ったのか気がついていないのか、起き上がったカカシをボンヤリと見つめている。
「…スケアさん…?」
イルカの口からその名前で呼ばれ、カカシはハッとした。
今さっき聞こえたのは、やはり聞き間違いだったのか。いや、しかし。
困惑した表情のまま、火照った頬で見上げるイルカを凝視する。イルカもまた、黒い瞳にカカシを写した。
額には汗を薄っすらかき、未だ潤んだ黒い目と赤い唇に、困惑しながらもカカシは思わずごくりと喉を鳴らした。
その唇が、開く。
「スケアさん…」
誘われるままに、ぽってりとした唇に自分の唇を重ねる。イルカは受け入れるようにカカシの首に腕を絡ませた。
拙い動きを見せるイルカの舌を捉えて絡ませ、口内を荒らす。
頭の奥がじんとする。
心臓もセックスを覚えたてのガキみたいに、ばくばくと高鳴っている。

初めてですと言ったイルカの熱っぽい呟き。

…カカシさん…

確かに聞こえた自分を呼ぶイルカの声。
体温が再び上昇する。
黒い髪に手を動かし、口付けしながら取れかけたイルカの髪紐を解く。
イルカの中に入れたソレもまたしっかりと硬さを取り戻し始める。
意識ははっきりとしているのに、頭の中はぼんやりと霞かがったままだ。
でも。
それでもいい。
今はまだ、この天国に溺れていたい。
カカシは再び律動させながら、イルカの漏らす甘い声に目を瞑った。


<終>

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