犬の日2020
さてと、と纏まった書類片手に立ち上がったイルカに、隣で別の作業していた同期が顔を上げる。
「もしかして火影様のところか?」
「もしかしなくてもそうだって分かってんだろ」
頼まれていた資料を、時間を割いて作っていたのを知っているはずの同期にそう返せば、これも頼めるか、と横にあった書類の束を指さされ、イルカは呆れ混じりにため息を吐き出しだ。
月末はどこも提出書類が増えてそれなりに大変なのは分かっている。だから、突っ返したい気持ちになるが、お前なあ、と言いながらもイルカは書類を抱える。
「今度飯おごれよ」
そう口にしてイルカは職員室を後にした。建物を出て歩きながらイルカは良く晴れた秋空へ目を向ける。
書類をついでに頼まれたものの、午前中ずっと机に向かっていたからか、外の空気が気持ちいい。
今は到底さぼる時間はないが、さぼりたくなるのはいつもこんな時期で。アカデミーの生徒だった頃はよく授業を抜け出していた。そんな事を懐かしく思い出しながら、歩いている先に見えた銀色の髪に、イルカは目を留めた。
あの髪の色と座った猫背の後ろ姿に、見間違えるはずがない、直ぐにカカシだと分かる。昼休憩や任務の合間に時々里のどこかしらで一人でいるカカシを見かける事があったが、今日は珍しい、草むらにしゃがみ込んでいる。いつも持ち歩いている小冊子を読んでいる時でさえ、ごろんと横になったり、大きな木の幹に背を預けている事がほとんどで。
だから、こっちに背を向けあぐらを掻いて座るカカシに、何だろうと素直に不思議に思いながらイルカは歩み寄った。
「お疲れさまです」
そう言いながらしゃがんで背を見せていたカカシを覗くようにすれば。カカシはその声に後ろに立っているイルカへ顔を向ける。
「ああ、先生」
と返される声と同時に、目に入ったものに、イルカは少しだけ驚いた。
カカシの膝の上にいたのは子犬で。ころころとした可愛い子犬がカカシの膝の上で気持ちよさそうに寝ている。
「子犬ですね」
見たまんまの台詞を言うイルカに、カカシも、うん、と返す。
「ここで昼寝しようとしたらこの犬が近寄ってきてさ、膝の上に乗せて撫でてたら寝ちゃった」
まさか寝てしまうとは思っていなかったのか、カカシは眉を下げて笑う。
カカシは忍犬使いで犬の扱いは慣れているからだろう。安心した顔で寝ている子犬はすぴーすぴーと鼻息を立てている。その可愛らしさに目を細めて見つめた。可愛いですね、となんとなく小声で言えば、カカシも同じように小声で、でも中々起きないから困っちゃて、と言う。
確かにこれは困るよなあ、と思いながらも、見つめる先の子犬は直ぐに起きそうもない。夢でも見ているのか。前足をぴくりと動かしながら身じろぎするが深い寝息を立てている。カカシの膝の温もりを感じながら、安心したような子犬の寝顔と、その子犬に優しく触れているカカシの手を見つめていたら、
「いいなあ」
無意識にぼぞりとイルカの口から出たのはそんな言葉だった。
言った後、自分の台詞に、あれ、と思う。
カカシもまた、イルカの言葉に反応するように、え?とイルカへ視線を向けた。きょとんとした顔のカカシが少しの間の後、口を開く。
「・・・・・・ああ、じゃあイルカ先生も、」
「あ、あの、そうだ、俺、これ急ぎだったんだ!」
カカシの言葉を遮るように言うと、じゃあこれで俺は失礼します、と告げて頭を下げ早足で歩き出す。
書類を抱え、ずんずん歩きながら、イルカは未だ自分がさっき口にした言葉に困惑していた。
本当に無意識に出た言葉だった。
自分でもびっくりしたのは、いいなあ、と思ったのは子犬を膝の上に乗せているカカシにではなくて、カカシの膝の上で寝ている子犬にで。
それがなんとなく分かったから、混乱した。
そしてカカシの不思議そうな顔。
いや、きっと別に何とも思ってないだろうけど。
でも、
(・・・・・・なに言ってんだ、俺は)
こんな気持ちのいい気候なのに、顔が熱い。眉根を寄せる。
きっと顔が赤くなってるんだろうなあ、と思いながら、気持ちを切り替えるようにするしかなく、イルカは執務室に急いだ。
<終>
「もしかして火影様のところか?」
「もしかしなくてもそうだって分かってんだろ」
頼まれていた資料を、時間を割いて作っていたのを知っているはずの同期にそう返せば、これも頼めるか、と横にあった書類の束を指さされ、イルカは呆れ混じりにため息を吐き出しだ。
月末はどこも提出書類が増えてそれなりに大変なのは分かっている。だから、突っ返したい気持ちになるが、お前なあ、と言いながらもイルカは書類を抱える。
「今度飯おごれよ」
そう口にしてイルカは職員室を後にした。建物を出て歩きながらイルカは良く晴れた秋空へ目を向ける。
書類をついでに頼まれたものの、午前中ずっと机に向かっていたからか、外の空気が気持ちいい。
今は到底さぼる時間はないが、さぼりたくなるのはいつもこんな時期で。アカデミーの生徒だった頃はよく授業を抜け出していた。そんな事を懐かしく思い出しながら、歩いている先に見えた銀色の髪に、イルカは目を留めた。
あの髪の色と座った猫背の後ろ姿に、見間違えるはずがない、直ぐにカカシだと分かる。昼休憩や任務の合間に時々里のどこかしらで一人でいるカカシを見かける事があったが、今日は珍しい、草むらにしゃがみ込んでいる。いつも持ち歩いている小冊子を読んでいる時でさえ、ごろんと横になったり、大きな木の幹に背を預けている事がほとんどで。
だから、こっちに背を向けあぐらを掻いて座るカカシに、何だろうと素直に不思議に思いながらイルカは歩み寄った。
「お疲れさまです」
そう言いながらしゃがんで背を見せていたカカシを覗くようにすれば。カカシはその声に後ろに立っているイルカへ顔を向ける。
「ああ、先生」
と返される声と同時に、目に入ったものに、イルカは少しだけ驚いた。
カカシの膝の上にいたのは子犬で。ころころとした可愛い子犬がカカシの膝の上で気持ちよさそうに寝ている。
「子犬ですね」
見たまんまの台詞を言うイルカに、カカシも、うん、と返す。
「ここで昼寝しようとしたらこの犬が近寄ってきてさ、膝の上に乗せて撫でてたら寝ちゃった」
まさか寝てしまうとは思っていなかったのか、カカシは眉を下げて笑う。
カカシは忍犬使いで犬の扱いは慣れているからだろう。安心した顔で寝ている子犬はすぴーすぴーと鼻息を立てている。その可愛らしさに目を細めて見つめた。可愛いですね、となんとなく小声で言えば、カカシも同じように小声で、でも中々起きないから困っちゃて、と言う。
確かにこれは困るよなあ、と思いながらも、見つめる先の子犬は直ぐに起きそうもない。夢でも見ているのか。前足をぴくりと動かしながら身じろぎするが深い寝息を立てている。カカシの膝の温もりを感じながら、安心したような子犬の寝顔と、その子犬に優しく触れているカカシの手を見つめていたら、
「いいなあ」
無意識にぼぞりとイルカの口から出たのはそんな言葉だった。
言った後、自分の台詞に、あれ、と思う。
カカシもまた、イルカの言葉に反応するように、え?とイルカへ視線を向けた。きょとんとした顔のカカシが少しの間の後、口を開く。
「・・・・・・ああ、じゃあイルカ先生も、」
「あ、あの、そうだ、俺、これ急ぎだったんだ!」
カカシの言葉を遮るように言うと、じゃあこれで俺は失礼します、と告げて頭を下げ早足で歩き出す。
書類を抱え、ずんずん歩きながら、イルカは未だ自分がさっき口にした言葉に困惑していた。
本当に無意識に出た言葉だった。
自分でもびっくりしたのは、いいなあ、と思ったのは子犬を膝の上に乗せているカカシにではなくて、カカシの膝の上で寝ている子犬にで。
それがなんとなく分かったから、混乱した。
そしてカカシの不思議そうな顔。
いや、きっと別に何とも思ってないだろうけど。
でも、
(・・・・・・なに言ってんだ、俺は)
こんな気持ちのいい気候なのに、顔が熱い。眉根を寄せる。
きっと顔が赤くなってるんだろうなあ、と思いながら、気持ちを切り替えるようにするしかなく、イルカは執務室に急いだ。
<終>
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