彼を想う時

ある人を好きなった。

きっかけは昼休みにアカデミーの中庭で会った時だった。


イルカは作った弁当を外で食べようと外に出た。秋を間近に控え、暑さが和らぎ前日に降った雨のせいか、多少の湿度はあるが吹く風も涼しく気持ちが良い。
ふと見ると中庭にカカシを見かけた。木の根元に腰を下ろし、静かに本を読んでいる。
何とも絵になるくらい綺麗な横顔をしていた。
白くて長い指も高等な術を使う為に印を結ぶのだろう。
こう言ってはなんだが。同じ里の忍びなのに、俺とは全く違う人種みたいだ。
(別次元の人と言うか…)
気配に気がついたのか、カカシが顔をあげニコと笑った。彼はいつも優しい笑顔を見せてくれる。写輪眼のカカシとして他国に恐れられる忍びだが、それを鼻にかける訳でもなくいつものほほんと穏やかだ。
イルカも慌てて会釈を返した。
「イルカ先生」
いつもの調子でカカシはイルカの名前を呼んだ。彼に名前を呼ばれるのは嫌いではない。なんとも柔らかな物言いで呼ばれれば、誰だって嫌な気はしない。
「こんにちはカカシ先生」
イルカの言葉にカカシは嬉しそうに少し目を細めた。
「こんにちは、イルカ先生」
「…読書でしたか」
「うん、今日はアイツらと午後から任務だからその前にゆっくりしようかなって」
「そうですか。じゃあ俺はこれで」
邪魔してはいけない。立ち去ろうとすると手に持つ包みを指差された。
「イルカ先生はお昼?」
「はい、あ…でも俺はあっちで、」
「いいよ。ここ良かったらどうぞ」
イルカが木陰に入れるよう腰をずらされ、一瞬迷った。立ち上がり席を譲られるならまだしも。わざわざ横に座らなくとも広い中庭に、座れる場所はいくらでもある。
どうすべきか迷い悩むイルカにカカシは微笑んだ。
「どうぞ」
重ねて言われ、仕方なくイルカは、じゃあと頭を下げ促されるままにカカシの横に腰を下ろした。
イルカが横に座るのを確認すると、再びカカシは持っていた本を開き読み始めた。
すぐ触れれる事の出来る距離もそうだが、無言で本を読まれ、イルカはどうしていいものか考えた。
えーと、と口を開き、
「朝時間があったから作ったんですよ」
持っていた弁当を軽く持ち上げて笑えば、カカシは顔を上げイルカを見た。
「へぇ、凄いですね」
ニコと笑って再び本に目を落とした。
イルカは弁当を広げながらカカシを横目で伺った。なんとも言えない空気だ。友達でもない人間を隣に座らせてカカシは気まずくないのか。不思議に思いながら箸を持った。
変わってる人だ。
ちらとカカシを伺う。本に目を落とす為に伏せられた銀色の睫毛は意外に長い。同じ色の髪の毛は木漏れ日の光に照らされていた。きらきらとして、柔らかそうだ。
イルカの視線に気がついたのか、こちらに顔を向けられ、つい顔を逸らしてしまった。
「あ、あのカカシ先生お昼は?」
誤魔化すようにイルカは話した。
「あー…、あまり食欲なくて」
「え、じゃあ食べてないんですか?」
「はぁ、まあ」
心配になりカカシを見る。元々色白なカカシだが、そう言われて見ると顔色が悪い気もする。急にカカシのいつもの笑顔が弱々しく見えた。
「何か口にしないと。あ、俺の弁当で良ければ食べますか?」
思わずそんな言葉が口から出ていた。
カカシは差し出された弁当箱を見て、手を振った。
「いや、大丈夫ですよ」
ニコニコしながら手を振る。笑い事じゃない。目の前にいるカカシは自分のような内勤の忍びではない。いつ達が来て任務に就かなければいけなくなるか分からないのだ。スタミナ切れやチャクラ切れがあれば命に関わる。
緊張感のないカカシの顔にイルカは眉を寄せた。
「でも忍者は身体が資本です。三食食べないと身が持ちませんよ」
「いや、一食くらい抜いても平気ですから」
「でも、少しくらい食べてください。…卵焼き、食べますか?」
弁当箱から適当に一つ箸に取りカカシに差し出す。カカシは目の前に差し出された卵焼きを暫く見つめて、戸惑った顔をした。
そして気がつく。
覆面を下げなければ食べれるはずがない。イルカは慌てて箸を引っ込めた。
「すみません、つい」
「…じゃあ、一つだけ」
カカシはスルリと覆面を下げると、イルカの持っている箸に顔を近づけ、卵焼きをパクリと食べた。
素顔をさらした事も卵焼きを食べた事も自分で勧めたにも関わらず、イルカは驚いて見つめた。
「…美味しいです」
ニッコリと笑いイルカを見る。
イルカは心臓が高鳴るのを覚えた。急に胸が苦しくなり、頬が熱を持つのが分かった。
「イルカ先生?」
「あっ、美味しくて良かったですっ」
慌てふためくのが自分でも分かるのに、上手くコントロール出来ない。
なんだこれは。
カカシがイルカを見て可笑しそうに笑い、弁当箱を指差した。
「もう一つ貰ってもいいですか?」
「あ、はいっ。どれ…」
「この唐揚げ」
言われるままに箸で掴みカカシの口に運ぶ。カカシの初めて見る口は、もぐもぐと動き、唐揚げを飲み込んだのが分かった。
それだけで無性に嬉しさがこみ上げる。
「美味しい」
カカシが再びイルカを見た。
何故だろう。顔が熱いし身体も熱い。きっと自分の顔は真っ赤なんだろうと、恥ずかしくなる。
「はは、お世辞でも嬉しいです。...食欲、出たみたいですね」
「そうみたいです」
「じゃあ、これ食べてください」
イルカは弁当箱を両手でカカシの前に突き出した。カカシは目をパチクリさせた。
「いや、だってイルカ先生のじゃない」
「でも、せっかく食欲出てきたのに。俺は何か適当に食べるので大丈夫ですから」
見ると、カカシが苦笑している。必死な自分がいる事に気がつき、イルカは気まずくなり俯いた。
「すみません。迷惑ですね」
「...いいえ。じゃあいただきます」
カカシがイルカの手からお弁当箱を受け取り、ホッとする。
同時にチャイムが耳に聞こえてイルカは慌てて校舎を見た。
「しまった、授業だ。あ、じゃあカカシ先生はゆっくり食べてください」
そう告げてカカシに背を向けて走る。カカシが自分を見ている気がした。



お風呂に浸かっている時にふとカカシの覆面を取った顔が頭に浮かぶ。男の自分が言うのもなんだが。想像以上に端整な顔立ちだった。本を読んでいた時の横顔や、イルカの手からご飯を食べた顔。その後みせた笑顔。
カカシの事を考えただけで、ドキドキと胸が高鳴った。

ちょろいなぁ。俺。

ふとそう思った自分にはたとする。ちょろい?何言ってんだ俺は。
顔半分までお湯に浸かりながら考える。これは恋だろうか。もしかしたら勘違いなのかもしれない。相手は同性であり上官。いや、恋とはそんなものなのかもしれない。好きになりたいと思っからと言って相手を好きになれるものではない。
いや待て、だからと言ってどうこうするつもりはないじゃないか。彼に自分はホモです、なんて言って嫌われるのが目に見える。それが怖い。それに、常識的に考えて、実らない恋をするのはナンセンスだ。




そんな気持ちを知ってか知らずか、カカシは自分をよく飲みに誘うようになった。勿論悪い気がしないから予定や残業がはいっていない限りは彼の誘いに乗った。最初は弁当のお礼だからと理由をつけたが、今や普通に今日は何処に行く?など、さも当たり前の誘いを受ける。
イルカは隣でカカシと酒を飲みながらぼんやりと考えた。今彼に特定の相手がいないから俺が隣にいるのだろうが、彼女だったらきっとこんな感じなんだろうか。楽しそうに今日あった出来事を話して、くだらない事で笑いあう。当たり前のようにいつも隣で笑ってられる。だから、彼に彼女が出来たらこの場所は自分の場所でなくなる。そう思った途端無性に寂しさがこみ上げた。
顔に出しているつもりはなかったが、カカシがふとこっちを見て「どうしたの?」と聞かれ、微笑んで首を振った。
カカシの優しい目元を見ながら思う。きっと彼女には違う顔を見せるのだろう。もっと優しく語りかけるのかもしれない。甘い声で囁き、愛の言葉を紡ぐのだ。今俺が見ているカカシは知り合いとしての自分と付き合っているカカシなのだから。
恋だなんて気がつくんじゃなかった。不毛過ぎて叶わない恋だと思えば思うほど彼に恋い焦がれている。手に入らないほど欲しくなる。それでもカカシと一緒にいる時間は心地いい。恋人になればいつか別れるという期限がつくが、知り合いであればそれはない。大袈裟に言えば一生このままの関係でいられる。

知り合いとして。




アカデミーの授業も終わり、イルカは本を持ち書庫へ向かった。この本を片せば今日は終わりだ。書庫室に入り、奥の棚へ向かい本を入れる。廊下で話し声が聞こえた。聞き覚えがある。同僚である女性と後輩にあたる女性が2人、いわゆる女子トークをしながら書庫室へ入ってきた。少し気まずさを感じたが、奥にいる自分に気がついていない。イルカは本を持ち棚に手を伸ばした。
「じゃあ、今度合コンしましょうよ、先輩」
「でも、なんかパッとしなくて、やる気ないな」
「まあ、確かに。...そうだ、最近よくアカデミーではたけ上忍見るじゃないですか」
イルカの心臓が跳ね上がった。カカシの名前が出るとは思わなかった。出るに出れなくなり、不本意だが、気配を消し聞き耳を立てる事になった。
「そう、私も思った。先輩合コン誘ってくださいよ」
「え、私が?ん〜...、でも最近いっつもイルカと一緒にいるのよね」
ドキリとし、イルカは持っていた本を落としそうになり両手で抱えた。
「あ、確かに」
「もしかして、付き合ってたりして」
彼女達の笑い声を聞きながら、冗談だと分かっていてもイルカの心臓は激しく鼓動を打っていた。
「でもね、モーションかけてもあの人、全然反応ないのよね」
話している同僚は綺麗な女性だった。零れ落ちそうな大きな目が魅了的で、イルカの周りからも人気があった。
「先輩でもかあ。びっくりですね」
「...さっき言った事なんだけどね、イルカといる時が多いし、もしかして趣向が男に変わったのかなって」
「え〜、まさか」
ケラケラと笑う。
「だとしたらがっかり」

扉が開閉され3人の声が遠ざかる。聞こえなくなってもイルカはその場を動けなかった。
がっかり
呆然としていた。自分といることでカカシが誤解を受けている。それは何よりもショックだった。彼にはそんな気持ちがあるわけでもないが、確かに自分はカカシを好きで。恋をしていると自覚していた。それだけに彼女達の言葉はイルカを打ちのめした。
同時に自分のカカシへの気持ちは間違っているのだと言われた様だった。

その日からカカシを避けるようになった。なるべく彼の任務帰還日には報告所にいないようにした。
アカデミーでの仕事を増やし、意味なく残業もするようにした。
明らかな態度の変化にも関わらず、カカシはイルカを誘う事をやめなかった。周りに女性がいるだけで、変に意識して冷たくなってしまう。カカシは少しさみしそうな顔をするが笑顔で「じゃあまた今度ね」、と言い残して去っていく。
それが堪らなく辛い。
本当は行きたい。一緒にご飯を食べて酒を飲んで。たわいのない事で笑って。一緒に時間を過ごしたい。
でもそれは自己満足に過ぎない。カカシの為にならない。
だから、これでいいんだ。

残業をした帰り道、家で食べるのも面倒くさく、どこかでラーメンでも食べて行こうと思っていた時、前に人影を見た。
上忍が数人たむろして、その中にアスマとカカシがいるのが分かりイルカは息を呑んだ。
驚いたのはカカシがいた事ではない。その中にあの同僚の女性もいたからだ。
無意識に顔を顰めて。肩にかけていた鞄の紐をギュッと力を入れると、足早にイルカは歩き出した。
何か話しをして盛り上がっている。そのまま通り過ぎれば気づかれる事もない。
それは無情にもアスマの声で呼び止められた。
「おう、イルカ」
その声に立ち止り、どうすべきか悩んだが、振り返った。どうしてもカカシを見れない。
「今帰りか」
「...はい」
「ね、イルカ先生」
カカシの声に体が強張った。顔を向けざるを得ない。イルカがチラと見るといつものように微笑んでいるカカシがいた。
「アスマがねいいお店を見つけたって言うんです。よかったら一緒にどうですか?」
ニコニコと。屈託のない笑顔で。
行きたいです。
心の中で応えた。
カカシの隣にいる同僚の女性の存在が嫌と言うほどイルカの全てを縛っていた。
「すみません...今日はちょっと...」
俯いたままのイルカにアスマが片眉を上げた。
「どうした、お前ら仲いいんだから、」
「仲良くなんかない!」
口からついて出ていた。自分でも驚いた。
「っ...すみません。失礼します!」
ハッとしてイルカは頭を下げて走り出した。
逃げ出したに近かった。カカシと仲良くしてはいけない。否定しなければいけない。そう思ったら口に出ていた。近くにいればいるだけ、一緒にいればいるだけ辛くなる。周りがカカシを好奇の目で見て欲しくなかった。経験浅い自分が恨めしくなる。相手を傷つける事なく出来ればどんなにいいだろう。なのに、自分は拒絶しか出来ない。最低だ。カカシはどう思ったのだろう。嫌われても仕方がない事をした。
アカデミーへ戻り、夜勤札を探した。その下に掛けてある名前を確認してその相手の探す。
「あれ、イルカさっき帰ったんじゃないの」
「いや、あのさ、お願いがあって」
イルカは夜勤をする為に交代してもらった。顔を合わせたくなかったからだ。上手く離れていく事が出来ないなら、距離を出来るだけとるしかない。そう思った。

1週間が過ぎた。受付は夜勤に徹していたが、勝手にアカデミーの授業を変更する事はできない。授業の合間に仮眠を取りつつ、休みの日には家に帰った。いい加減自分の体力にも限界を感じていた。
最終の授業が終わり、イルカは一人教室で教材を整理していた。
入り口に気配を感じて顔を向ける。カカシが立っていた。自然と顔が強張る。
「イルカ先生、話があるんですがいいですか?」
すぐに言葉が出てこなかった。
「...あ、...えっと、今授業の片付けをしてて」
「待ちます」
ハッキリとした口調だった。逃げることは許さないと言われた気がした。
「はい、分かりました...」
黒板消しを取り、黒板に向かう。
カカシは黙ったまま教室に入ると、周りを眺めるようにぶらぶらと歩いている。
背後でカカシの気配を感じながら黒板を消した。何を話せばいいのだろう。カカシは何を言うのだろう。
不意に後ろのドアが開き、パンと何かが爆ぜる音と水音が聞こえ振り返った。見るとカカシが頭を抑えている。
「あの、...どうされましたか?」
近づきイルカは口を開けた。生徒のイタズラが後ろのドアに仕掛けられていたままになっていたのだ。
「あー、...やられました...」
頭を濡れているのを確認するように触り、カカシが呟いた。
カカシの言葉に弾かれるように掃除用具の扉を開けた。
「すみませんっ、気がつかずそのままにして、すぐに拭きます」
雑巾を取り出して床を拭く
「ガキのイタズラはどうも分かりにくくて、...いいですよ。オレが拭きますから」
カカシがしゃがみ込み、イルカの雑巾に手を掛けた。
カカシが近い。カカシの指が視界に入り、イルカは一瞬身体が止まる。
駄目だ、側にいてはいけない。ぐるぐると思考が回転する。立ち上がろうと身体を動かした時、カカシの手がイルカに触れた。
「イルカ先生、逃げないで」
カカシの指が雑巾を拭くイルカの手に重なった。
驚いて目を開いた。しゃがみこんだまま、触れられているカカシの指を見つめる。暖かく長いカカシの指が微かに震えているのが伝わってきた。
「...お願い、逃げないで」
イルカは胸が苦しくなる。唇をぎゅっと噛んだ。
「イルカ先生。...オレね、イルカ先生が好きです」
「...え...」
カカシの言葉がイルカの顔を上げさせた。
間近にあるカカシの顔。顔を合わせなくなってからそんなに経っていないのに、ひどく疲れているように見えた。
「俺は、ずっとずっとずっと...っ、アンタが好きなんです。こんな風に避けられるくらいなら早く言えば良かった」
カカシは触れていたイルカの指を強く握りしめた。
嘘みたいだ。カカシからそんな言葉がでるなんて。
今だ信じられずにどう返答したらいいのかわからない。黙ってると、カカシが覗き込んだ。
「オレが嫌いですか?」
「...そんなこと、」
「じゃあ何で?避ける理由はなんですか」
こんな感情的になるカカシを見たのは初めてだった。圧倒されながらも、どう答えるべきなのか整理がつかない。
「ねえ、何で?」
「だって、...俺といたら...カカシ先生の評判が、」
「評判?...なに、評判って。噂か何かですか」
黙って頷くと、カカシは溜息をついた。
「オレの噂を気にしてたの?...そんな噂より、イルカ先生に避けられる方がずっと辛いです。それともイルカ先生自体が嫌なの?」
「ちがっ、違います!」
「だったらもう避けないで。周りなんてどうでもいい」
ぐいと握られていた手を引っ張られ、気がつけばカカシの腕の中にいた。
「イルカ先生好きです。大好き」
何度も耳元で好き好きと呟くカカシがあまりにも子供みたいで、イルカは頬を緩ませた。
あれ程悩んでいた事は、カカシの一言で吹き飛ばされていた。
「...俺も、カカシ先生が好きです」
「それって、恋愛感情として、ですよね」
腕を離し顔を覗かれ、思わず吹き出してしまった。
「はい」
ポケットを探りハンカチを取り出すと、濡れているカカシの髪を拭いた。
「少し前から...カカシ先生の事が好きだって気が付いて。でも、どうしても言い出せなくて」
イルカを離したくないのか、片手はイルカの手を掴んだまま。指を絡ませながら呟いた。
「じゃあ、俺たち両想いだったんですね」
子供の様な顔で微笑み、指でくいと覆面を下ろした。躊躇なくイルカの唇に唇を重ねる。柔らかく薄い唇が重ねられる度に胸が一杯になるのを感じた。
そのままカカシの手が腰にかかり、ゆるゆると服の中に入り込む。イルカは慌ててその手を掴んだ。
「ちょ、なに、」
「ずっと気持ち抑えててイルカ先生だけを見てたんですから、もう我慢できません」
イルカは別の生き物のように動く手を、両手で制した。
「な、何言ってるんですか、ここ教室ですよ?」
「構いません。さっき言ったじゃないですか。オレは周りなんかぜーんぜん気にしませんから」
力では敵うはずがないカカシに、イルカは顔を赤くしながらも腰に回された手を抓りあげた。
「イタタタタっ、イルカ先生、痛いです」
「駄目なものは駄目です」
「さっきキスしたじゃないですか」
口を尖らせるカカシから手を離して立ち上がる。見下ろしながらニヤリと笑った。
「あれは特別です」
その顔が余りにも艶めいていてカカシは思わずゴクリと喉を鳴らした。
「さ、帰りましょう。カカシ先生。俺寝不足なんです。カカシ先生もお疲れでしょう?」
教壇ににある教材を揃えながらイルカは言った。
「明日は休みなんです。俺の家でゆっくりしてください」
カカシはその背を見ながら目を見開いた。顔は見えないが、イルカの耳は真っ赤だ。
「...はい、オレも休みです」
そう呟くカカシも顔が熱い。
勢いよく立ち上がりイルカに駆け寄った。

外を出た時にはもうすっかり日は落ちて風が肌寒いくらいに涼しい。
もう秋ですね。
そう呟いたカカシにそうですね、と相槌を打つと、カカシは幸せそうに微笑んだ。
それはいつも近くで見ていた彼の笑顔。
恋人同士になったからと言って変わらない、いつもの笑顔にイルカは心から安らぎを感じた。

<終>




eggnog flavorの繭さんへ相互リンク記念として差し上げました。
繭さん、ありがとうございました!これからもよろしくお願いします。
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