きらきら②
教室ではイルカの指示に従い、掃除当番の生徒数人が教室を掃除している。
イルカもまた、それを眺めながら黒板消しを取り背を向け、腕を伸ばし黒板に書かれたものを消す。チョークの粉がぱらぱらと文字が消される度に下へ落ちる。
俺たち、つき合う?
どういうわけか、カカシのその言葉からつき合いが始まったのはつい先週の事だった。
今でもなんだか夢見心地で、そして、信じられない。イルカはむず痒さを感じて無意識に片手を動かしながら鼻頭を掻く。
どうしようもなく好きになってしまったカカシに、少しでも親しくなれればそれでいいと思っていたのに、そこから飛躍してまさかの恋人になるなんて。一生分の運を使い切ってしまったのかもしれない、そう思うくらの出来事だった。
(・・・・・・どうしよう)
嬉しさがこみ上げてくるのを抑えられず、頬が緩みそうになり、イルカはぐっと唇を噛んだ時、
「先生」
名前を呼ばれてイルカは手を止めた。気が付けば横に立っていた生徒へ顔を向ける。何だ?とそんな顔を向けたイルカに、
「何が可笑しいの?」
そう聞かれて、え?と聞き返す。顔に出していたつもりはなかったから、少しばかり動揺しながら、それを誤魔化すような顔をすると、目の前の男子生徒がじっとイルカの顔を見つめた。訝しそうに眉を顰める。
「何かにやにやしてたじゃん。気持ちわりいって」
「え、」
そこまで顔に出ていたのか、それとも生徒が敏感に感じ取ってしまったのか、どちらなのかは兎も角、上の空でカカシの事を考えていたのは確かで、思わず顔に手を当て、
「すまん」
と、イルカは情けない顔で苦笑いを浮かべながら生徒に謝った。
だって仕方ないよな。
誰に言うわけでもなくイルカは教材を抱え廊下を歩きながら言い訳を口にする。
だって、どう考えても。どう思い返しても。嬉しいものは嬉しい。
顔がにやけるのは仕方ない。
少しだけ頬を赤く染めながら、イルカは一人ゴチした内容に、うんうん、と頷く。
「イルカ」
名前を呼ばれ振り返れば、同じように授業を終えた同僚が教材を片手にイルカに手を上げる。横に並んだ。
「もう上がりだよな?」
「ああ」
「じゃあ今日は時間通りに行けそうか?」
聞かれてイルカはまた、たぶんな、と頷くと、じゃあ19時にな、と同僚に肩を叩かれる。
今日は、飲み会だった。男が六人で女性が六人。要は、合コンだ。ただそれは、カカシとつき合う前から入っていた予定で、人数会わせと言えど、自分に恋人が出来たからと、勝手に約束をやめる訳にはいかない。
つき合う事になった週末はカカシは里外で任務だった。そこから報告所で顔を合わせたものの、約束と言う約束はしていなくて、昨日、報告所の建物がある廊下でカカシに声をかけれた。
名前を呼ばれただけで、それだけで嬉しくて笑顔が勝手に零れる。書類を抱えたまま駆け寄ると、そんなイルカを見つめ、カカシもまた目を細めた。
「ね、今日は早く帰れそう?」
その台詞は、きっと自分と会う約束をしたいのだと分かり、それはきっとデートの誘いで、心の中で、わ、と歓声に近い声を上げる。わくわくする感情が沸き上がるも、自分のスケジュールを思い出してイルカは眉を下げた。
「実は、今日は夕方から会議が入ってまして、」
月に一回あるその会議は毎回時間が遅くなる。それを分かって会えるなんて言えない。
イルカの顔を見て、カカシもまた眉を下げ微笑む。
「そっか、じゃあ仕方ないね」
残念そうに言われ、やっぱりデートの約束だったんだと再認識し、それがまた嬉しいし残念で。イルカもがっかりしながら明日以降の予定を思い浮かべ、
「明日は、」
と口にしたのは同時だった。イルカが先に口を開く。
「俺、明日は同僚と約束があって」
「うん、俺も。どうしてもって言われて、」
その悲しい偶然に二人で苦笑いをする。
じゃあ明後日だね、と。そんな話になったのが昨日。
その後、たまたま人気が少なくなった廊下のすみで、カカシは少しだけイルカに顔を近づけた。明後日は店どこにしよっかと囁かれるように聞かれ、どこでも、と囁きながら返すと、カカシは確かにそうだよね、と目を細め、それにどきんと心臓が鳴った。体温が一度か二度上昇しているのを感じながら、楽しみだね、と続けて言われ、イルカは笑顔を浮かべる。はいっ、と頷いた。
そんなやりとりを思い出しながら、デートは明後日かあ、とまた心で呟く。イルカは職員室に入り自分の席に戻った。
きっと時間帯的にどこかで一緒に夕飯を食べるくらいなんだろうが、楽しみで仕方がない。まだお互いに急に仕事が入るかもしれないから、ちゃんと考えていないが、どんな店がいいかなあ、などと思考を巡らせない訳にはいかない。まあ、自分が知っている店はどれも小お洒落れてもなく、ごく普通の居酒屋や定食屋ぐらいしか知らないが。
と言うか、どこでもいい。一緒に時間を過ごせるだけで、それだけで十分嬉しい。
気分が高揚するが、さっき生徒に顔に出ていたと指摘されたばかりだ。イルカは気持ちを切り替える為に、息を吐き出すと時間内に出るために机の上の後かたづけを始めた。
店の奥にある座敷に顔を出した時はまだ男性陣しかいなかった。そこに見知った上忍がいて、イルカは頭を下げる。同僚は、今回は上忍の先輩が入りたいって言われたからさ、と言われ、イルカはなるほどなあ、と納得して席に座る。上忍でも中忍でも恋人が欲しいのは同じだ。
だけど、次に座敷に入ってきた上忍の顔を見て、イルカは目を丸くした。カカシだったからだ。隣の同僚も聞いてなかったからか、意味は違えど同じように驚きに目を丸くしている。カカシも僅かだが、イルカを見て少しだけ目を見開いたのが分かった。つきあい始めたばかりで誰一人二人の関係は知らない。既にいた上忍が、こいつは人数合わせ、と説明を加えた。カカシが来るって言うと女の質が上がるからさ、急遽昨日頼んだ。と、まだ女性陣が一人もいない事を良いことに、そんな冗談ではない冗談を上忍は口にする。
「ああ、イルカも同じ様なもんです」
と、同僚が言った。こいつこういうの興味ないんですが無理矢理、とイルカの肩を叩いて口にする。互いに人数合わせで連れてこられた飲み会に顔を合わせてしまった事に、視線を合わせた時、女性の声がして座敷の襖が開く、飲み会が始まった。
飲み会が盛り上がりを見せる中、イルカはビールを飲みながら、成る程なあ、と納得していた。カカシが参加するからと聞いたからだろうか、女性が予定の人数よりも三人多い。広い座敷に増えた人数は問題はないものの、さっき上忍が言っていた都合のいい結果はここに出ている。
カカシと言えば、やたら女性に話しかけられるものの、そう、とか、別に、とか、へえ、とか。短い相づちに徹底していて、飲み会に本腰を入れていないのは丸わかりだ。
そんなわかりやすくしたら女性に失礼だろうと思うが、女性の興味がカカシから上忍や他の男に向かうのだから、あながち間違った行動とは言えない。
自分は自分でそれなりに刺身だの焼き鳥だの、美味い食事を適当につまみ、ビールを飲む。
時々ふと上げるとカカシと目が合う。その視線は優しくて、イルカは思わず恥ずかしくなって視線を下げ、また目の前にある焼き鳥を頬張る。
話が上手い上忍の話題に盛り上がる中、イルカはそっと立ち上がり座敷を出た。
廊下を歩くと、まだ週の半ばだからか、他の座敷に客の気配は見あたらない。そのまま突き当たりにあるトイレに入った。
手を洗い、ハンカチで手を拭きながら、ふう、と一息着いた時、トイレに入ってきたのはカカシだった。
カカシも同じように、意味もなく隣で手を洗う。そして視線を向けたイルカに顔を上げ、目が合った瞬間に、二人で吹き出した。
本当はあの場所で、カカシが座敷に入ってきた時に、こんな風に笑ってしまいそうだった。互いにデートしたいにも関わらず、二人で同じ様に仲間に誘われてしまったが為に、こんな場所で居合わせて。
でもつき合ってるなんて周りに言える訳がなくて。
イルカに差し出されたハンカチでカカシも濡れた手を拭いて、それからカカシはイルカを抱き寄せた。そして腕を緩め、お互いに顔を近づけ、二人でくすくすと、可笑しそうに笑いを零す。
「何だかね」
カカシの言葉にイルカも可笑しそうに、ええ全く、と答える。
「俺たち似てるのかね」
そう言われて、まだ笑いながら、イルカは首を傾げた。
「どうでしょう」
と、鼻が触れるくらいにカカシの顔が近づく。そこでようやく、顔をほわりを赤らめたイルカに、カカシは目を細めながら口布を人差し指で下ろし、戸惑いを見せるイルカに唇を重ねた。
まさかここでキスされるなんて思ってもみなくて。一応、ではなくカカシと初めてのキスだ。でも、拒む理由もなく、こうして肌に触れるくらい近くにいたいと思ったのは事実だから、こそばゆくて嬉しくて。イルカは目を閉じ、受け入れる。柔らかいカカシの唇の感触に頭の奥がじん、とした。カカシは、ちゅ、と音を立ててキスを繰り返した。
と、背中に回っていたカカシの手がイルカの腰を掴む。わっ、と声を上げるイルカを軽々抱き上げ、洗面台の横にあるすこし低いスペースにイルカを乗せた。
びっくりしながらもカカシを見下ろす形なったイルカに、カカシはその腰に手を回したまま、顔を上げ嬉しそうに悪戯っぽい笑顔を見せる。
「ね、このまま二人で消えちゃおっか」
そう言われ、え、と少しだけ驚いた反応を見せると、あいつら話盛り上がってるみたいだし。俺たちはもうお役ごめんでしょ。と付け加えられる。それに素直に納得して、確かにそうか、と思うと、再びカカシの顔が近づいた。
ゆっくりと唇を重ね、そこから少しだけ深くお互いに口付けを交わす。
カカシさんとキスをしている。優しくて甘いキスに、その事実に、胸が熱くなり頬が火照るようにじわじわ熱くなる。
唇を浮かせたカカシに、いい?と聞かれ、イルカは赤らめた頬を緩ませ、はい、と素直似答える。
そこから二人は、笑いって見つめ合い、口付けを交わしながら、煙と共に姿を消した。
<終>
イルカもまた、それを眺めながら黒板消しを取り背を向け、腕を伸ばし黒板に書かれたものを消す。チョークの粉がぱらぱらと文字が消される度に下へ落ちる。
俺たち、つき合う?
どういうわけか、カカシのその言葉からつき合いが始まったのはつい先週の事だった。
今でもなんだか夢見心地で、そして、信じられない。イルカはむず痒さを感じて無意識に片手を動かしながら鼻頭を掻く。
どうしようもなく好きになってしまったカカシに、少しでも親しくなれればそれでいいと思っていたのに、そこから飛躍してまさかの恋人になるなんて。一生分の運を使い切ってしまったのかもしれない、そう思うくらの出来事だった。
(・・・・・・どうしよう)
嬉しさがこみ上げてくるのを抑えられず、頬が緩みそうになり、イルカはぐっと唇を噛んだ時、
「先生」
名前を呼ばれてイルカは手を止めた。気が付けば横に立っていた生徒へ顔を向ける。何だ?とそんな顔を向けたイルカに、
「何が可笑しいの?」
そう聞かれて、え?と聞き返す。顔に出していたつもりはなかったから、少しばかり動揺しながら、それを誤魔化すような顔をすると、目の前の男子生徒がじっとイルカの顔を見つめた。訝しそうに眉を顰める。
「何かにやにやしてたじゃん。気持ちわりいって」
「え、」
そこまで顔に出ていたのか、それとも生徒が敏感に感じ取ってしまったのか、どちらなのかは兎も角、上の空でカカシの事を考えていたのは確かで、思わず顔に手を当て、
「すまん」
と、イルカは情けない顔で苦笑いを浮かべながら生徒に謝った。
だって仕方ないよな。
誰に言うわけでもなくイルカは教材を抱え廊下を歩きながら言い訳を口にする。
だって、どう考えても。どう思い返しても。嬉しいものは嬉しい。
顔がにやけるのは仕方ない。
少しだけ頬を赤く染めながら、イルカは一人ゴチした内容に、うんうん、と頷く。
「イルカ」
名前を呼ばれ振り返れば、同じように授業を終えた同僚が教材を片手にイルカに手を上げる。横に並んだ。
「もう上がりだよな?」
「ああ」
「じゃあ今日は時間通りに行けそうか?」
聞かれてイルカはまた、たぶんな、と頷くと、じゃあ19時にな、と同僚に肩を叩かれる。
今日は、飲み会だった。男が六人で女性が六人。要は、合コンだ。ただそれは、カカシとつき合う前から入っていた予定で、人数会わせと言えど、自分に恋人が出来たからと、勝手に約束をやめる訳にはいかない。
つき合う事になった週末はカカシは里外で任務だった。そこから報告所で顔を合わせたものの、約束と言う約束はしていなくて、昨日、報告所の建物がある廊下でカカシに声をかけれた。
名前を呼ばれただけで、それだけで嬉しくて笑顔が勝手に零れる。書類を抱えたまま駆け寄ると、そんなイルカを見つめ、カカシもまた目を細めた。
「ね、今日は早く帰れそう?」
その台詞は、きっと自分と会う約束をしたいのだと分かり、それはきっとデートの誘いで、心の中で、わ、と歓声に近い声を上げる。わくわくする感情が沸き上がるも、自分のスケジュールを思い出してイルカは眉を下げた。
「実は、今日は夕方から会議が入ってまして、」
月に一回あるその会議は毎回時間が遅くなる。それを分かって会えるなんて言えない。
イルカの顔を見て、カカシもまた眉を下げ微笑む。
「そっか、じゃあ仕方ないね」
残念そうに言われ、やっぱりデートの約束だったんだと再認識し、それがまた嬉しいし残念で。イルカもがっかりしながら明日以降の予定を思い浮かべ、
「明日は、」
と口にしたのは同時だった。イルカが先に口を開く。
「俺、明日は同僚と約束があって」
「うん、俺も。どうしてもって言われて、」
その悲しい偶然に二人で苦笑いをする。
じゃあ明後日だね、と。そんな話になったのが昨日。
その後、たまたま人気が少なくなった廊下のすみで、カカシは少しだけイルカに顔を近づけた。明後日は店どこにしよっかと囁かれるように聞かれ、どこでも、と囁きながら返すと、カカシは確かにそうだよね、と目を細め、それにどきんと心臓が鳴った。体温が一度か二度上昇しているのを感じながら、楽しみだね、と続けて言われ、イルカは笑顔を浮かべる。はいっ、と頷いた。
そんなやりとりを思い出しながら、デートは明後日かあ、とまた心で呟く。イルカは職員室に入り自分の席に戻った。
きっと時間帯的にどこかで一緒に夕飯を食べるくらいなんだろうが、楽しみで仕方がない。まだお互いに急に仕事が入るかもしれないから、ちゃんと考えていないが、どんな店がいいかなあ、などと思考を巡らせない訳にはいかない。まあ、自分が知っている店はどれも小お洒落れてもなく、ごく普通の居酒屋や定食屋ぐらいしか知らないが。
と言うか、どこでもいい。一緒に時間を過ごせるだけで、それだけで十分嬉しい。
気分が高揚するが、さっき生徒に顔に出ていたと指摘されたばかりだ。イルカは気持ちを切り替える為に、息を吐き出すと時間内に出るために机の上の後かたづけを始めた。
店の奥にある座敷に顔を出した時はまだ男性陣しかいなかった。そこに見知った上忍がいて、イルカは頭を下げる。同僚は、今回は上忍の先輩が入りたいって言われたからさ、と言われ、イルカはなるほどなあ、と納得して席に座る。上忍でも中忍でも恋人が欲しいのは同じだ。
だけど、次に座敷に入ってきた上忍の顔を見て、イルカは目を丸くした。カカシだったからだ。隣の同僚も聞いてなかったからか、意味は違えど同じように驚きに目を丸くしている。カカシも僅かだが、イルカを見て少しだけ目を見開いたのが分かった。つきあい始めたばかりで誰一人二人の関係は知らない。既にいた上忍が、こいつは人数合わせ、と説明を加えた。カカシが来るって言うと女の質が上がるからさ、急遽昨日頼んだ。と、まだ女性陣が一人もいない事を良いことに、そんな冗談ではない冗談を上忍は口にする。
「ああ、イルカも同じ様なもんです」
と、同僚が言った。こいつこういうの興味ないんですが無理矢理、とイルカの肩を叩いて口にする。互いに人数合わせで連れてこられた飲み会に顔を合わせてしまった事に、視線を合わせた時、女性の声がして座敷の襖が開く、飲み会が始まった。
飲み会が盛り上がりを見せる中、イルカはビールを飲みながら、成る程なあ、と納得していた。カカシが参加するからと聞いたからだろうか、女性が予定の人数よりも三人多い。広い座敷に増えた人数は問題はないものの、さっき上忍が言っていた都合のいい結果はここに出ている。
カカシと言えば、やたら女性に話しかけられるものの、そう、とか、別に、とか、へえ、とか。短い相づちに徹底していて、飲み会に本腰を入れていないのは丸わかりだ。
そんなわかりやすくしたら女性に失礼だろうと思うが、女性の興味がカカシから上忍や他の男に向かうのだから、あながち間違った行動とは言えない。
自分は自分でそれなりに刺身だの焼き鳥だの、美味い食事を適当につまみ、ビールを飲む。
時々ふと上げるとカカシと目が合う。その視線は優しくて、イルカは思わず恥ずかしくなって視線を下げ、また目の前にある焼き鳥を頬張る。
話が上手い上忍の話題に盛り上がる中、イルカはそっと立ち上がり座敷を出た。
廊下を歩くと、まだ週の半ばだからか、他の座敷に客の気配は見あたらない。そのまま突き当たりにあるトイレに入った。
手を洗い、ハンカチで手を拭きながら、ふう、と一息着いた時、トイレに入ってきたのはカカシだった。
カカシも同じように、意味もなく隣で手を洗う。そして視線を向けたイルカに顔を上げ、目が合った瞬間に、二人で吹き出した。
本当はあの場所で、カカシが座敷に入ってきた時に、こんな風に笑ってしまいそうだった。互いにデートしたいにも関わらず、二人で同じ様に仲間に誘われてしまったが為に、こんな場所で居合わせて。
でもつき合ってるなんて周りに言える訳がなくて。
イルカに差し出されたハンカチでカカシも濡れた手を拭いて、それからカカシはイルカを抱き寄せた。そして腕を緩め、お互いに顔を近づけ、二人でくすくすと、可笑しそうに笑いを零す。
「何だかね」
カカシの言葉にイルカも可笑しそうに、ええ全く、と答える。
「俺たち似てるのかね」
そう言われて、まだ笑いながら、イルカは首を傾げた。
「どうでしょう」
と、鼻が触れるくらいにカカシの顔が近づく。そこでようやく、顔をほわりを赤らめたイルカに、カカシは目を細めながら口布を人差し指で下ろし、戸惑いを見せるイルカに唇を重ねた。
まさかここでキスされるなんて思ってもみなくて。一応、ではなくカカシと初めてのキスだ。でも、拒む理由もなく、こうして肌に触れるくらい近くにいたいと思ったのは事実だから、こそばゆくて嬉しくて。イルカは目を閉じ、受け入れる。柔らかいカカシの唇の感触に頭の奥がじん、とした。カカシは、ちゅ、と音を立ててキスを繰り返した。
と、背中に回っていたカカシの手がイルカの腰を掴む。わっ、と声を上げるイルカを軽々抱き上げ、洗面台の横にあるすこし低いスペースにイルカを乗せた。
びっくりしながらもカカシを見下ろす形なったイルカに、カカシはその腰に手を回したまま、顔を上げ嬉しそうに悪戯っぽい笑顔を見せる。
「ね、このまま二人で消えちゃおっか」
そう言われ、え、と少しだけ驚いた反応を見せると、あいつら話盛り上がってるみたいだし。俺たちはもうお役ごめんでしょ。と付け加えられる。それに素直に納得して、確かにそうか、と思うと、再びカカシの顔が近づいた。
ゆっくりと唇を重ね、そこから少しだけ深くお互いに口付けを交わす。
カカシさんとキスをしている。優しくて甘いキスに、その事実に、胸が熱くなり頬が火照るようにじわじわ熱くなる。
唇を浮かせたカカシに、いい?と聞かれ、イルカは赤らめた頬を緩ませ、はい、と素直似答える。
そこから二人は、笑いって見つめ合い、口付けを交わしながら、煙と共に姿を消した。
<終>
スポンサードリンク