恋をしている

 電子音でイルカは目を覚ました。目覚まし時計を止めるとイルカは起きあがろうとせず、天井を見つめ、そこからゆっくりと息を吐きながら目を閉じる。

 瞼の裏に浮かぶのは、一週間前の事。カカシに久しぶりに声をかけられた時、自分は酷く驚いた。上忍師の頃はよく互いに顔を合わせる事もあって、時間の合う時に飲みに行ったりもしたが、大戦終結後からは同じ里にいるにも関わらずろくに顔を見る事すらなくなった。
 カカシは綱手の後任として六代目火影に任命され、山ほどある課題やら引継ぎやら、自分では想像もできないくらいの仕事を抱えている。
 自分は自分でアカデミーの再建メンバーとしてずっとアカデミーと自宅を往復する日々で。任務に関する業務に携わったとしても、そこでカカシの顔を直接見る事は少なかった。
 だから。
「先生」
 呼び出された会議室で上司にあたる上忍に資料を渡しながら説明をし、部屋を出ようとした時に呼ばれ、それは一瞬自分なのか分からなかった。少し前はよく先生とカカシに呼ばれていたのに。カカシがまさか自分を呼び止めるとは思ってなかったから。そのまま背中を向け歩き出した時、
「イルカ先生」
 もう一度声をかけられ振り返ると、中断していて雑談やら色んな意見が飛び交い、込み合っている会議室の部屋の中からひょこんと顔を覗かせたのは、カカシだった。カカシの声だと分かっていた。でもやっぱり自分を呼び止めたとは思ってなく驚くイルカに、カカシは会議室を出てイルカのところまで歩いてくる。
 思わず、カカシさんどうかされたんですか、と言いそうになり、その言葉を飲み込んだ。
「火影様、あの、・・・・・・何かご用でしょうか」
 一番上に立つカカシから直接的に繋がりがある仕事は自分にはない。そして目の前に立つカカシの火影服を身に纏った姿から、自分から酷く離れてしまったのだと嫌でも再認識する。戸惑っているのがカカシに伝わったのか、一瞬そんなイルカを見つめたカカシはすぐに眉を下げた。
「うん、ごめんね忙しいのに」
 言われてイルカは慌てて、いえ、とんでもない、と首を横に振れば、それにもカカシは困ったように微笑んだ。
「そんな改まらないでよ」
 そう言われても、ここは執務室がある建物で、中断しているものの、今大きな会議の真っ最中で。はあ、しかし、と言いよどめば、カカシは参ったな、と銀色の髪を掻いた。変わらない癖にそれだけで心が緩む。じっと見つめていれば、カカシもまたイルカを見つめ、また微笑んだ。ねえ、とカカシが続ける。
「今夜、時間ある?」
 言われてイルカは目を丸くした。
「今夜、ですか」
 聞き返すと、カカシは、うん、と答えた。
「夕飯、一緒にどう?」
 懐かしい言葉とその響きに、一瞬少し前に戻った気がした。でも目の前のカカシの姿にそれは直ぐに消える。イルカは瞬きした。
「夕飯、と言いますと」
 会合か何か、それか接待の類か。その先を聞くべくそう問いかけると、カカシはそれも悟ったのか、えっとね、と続ける。
「二人で飯でも、と思ったんだけど、どう?残業あると思うけど、その合間でもいいし、」
 そうしないように努めようと思ったが、無理だった。自分の目が驚きに丸くなる。驚きながらも自分の事を言われているのに気がつき、イルカは慌てた。
「でも、火影様は、」
「うん、何とかなると思う」
 そうカカシが口にした時、シズネがカカシを呼んだ。中断していた会議が始まるのだ。カカシは振り返って、ちょっと待って、と言ったのが聞こえた。もう一度イルカに振り返る。
「お店はどこでもいいから、それはイルカ先生に任せてもいい?」
「え、あ、はい、・・・・・・でも、」
「じゃあ、また夜にね」
 カカシはにこやかに微笑み、背を向ける。そして閉まった扉をイルカはじっと見つめた。
 廊下で一人、イルカは手に資料を持ち廊下を歩き、未だ動揺を隠せないまま僅かに俯いた。
 カカシが火影に就任してから、もうこんな事はないと勝手に思っていた。戦後の処理は前代の綱手の時に概ね終えてはいるものの、里の復興はまだ終わってはいない。
 もうカカシとは深く関わる事はないのだろうと思っていたから、だから自分の中で色々心の整理をしたと言うのに。
 あんな風に前と変わらない表情で声をかけられるなんて。
 ついさっきのカカシの顔を思い出し、イルカは足を止める。窓へ目を向けそこから見える景色を見つめながら複雑な表情を浮かべた。 


 その夜カカシは少し時間が遅れたものの、店に姿を見せた。色々迷った挙げ句、昔二人で足を運んだ居酒屋にした。個室なんてあるわけがない。だから取りあえずカウンターの隅の席を取っていた。イルカの隣にカカシは座る。自分も同じように歳を重ねているのに、カカシがずいぶんと貫禄、とまではいかないが、それに似た落ち着いた雰囲気を感じた。
「先生は仕事は中断?」
 ビールを一口呑んだカカシがそう聞いてくる。イルカは首を横に振った。
「いえ、終わらせてきました。火影様は、」
「実は俺も、今日は大丈夫です」
 言われてホッとすれば、カカシはグラスを持ちながら横に座るイルカに顔を向ける。
「あのさ、前も言ったけど、火影様、じゃなく昔みたいにカカシさんって呼んで欲しいんだけど」
 就任したばかりの頃、そう呼んだら、同じ台詞を言われた。それは覚えていた。しかしカカシは昔と同じ上忍という階級だけではなく、火影なのだ。言われて酷く困った事を覚えている。同じ事をまた言われ、素直に明らかに困った顔をするイルカを見て、カカシは笑った。
 笑われイルカは頬を少し赤くしながらも、むっとする。
「そう言われても、」
「先生の気持ちも分かるよ。でもさ、昔から親しかった人にはそのままで呼んで欲しいものよ?」
 親しかった人。
 カカシから直接そう表現され嬉しくないわけがない。無性にむず痒くなる、それを誤魔化したくてイルカはグラスのビールを喉に流した。
「そっちはどう?」
 飲み干すと、そのグラスにカカシが瓶を傾けビールを注ぐ、軽く頭を下げイルカはその注がれたビールを受けながら、順調です、と答える。
 そっち、とは勿論アカデミーの事だ。アカデミーは復興で綱手の頃からどの建物よりも優先して建て直しをしてくれた。それはカカシに引き継いだ後も変わらない。忍を育てる事が何よりもこの里の基盤になる事はイルカにも分かっていた。その重要性も。他の里との和平交渉により繋がりが深くなった分、必要性に疑問視がされたものの、大戦が繰り返されてきたのは事実だった。この基盤を軽んじる事は出来ないのは誰でも分かっている。何よりそれが綱手の考えだった。
 そう言えば。カカシが火影になると聞いたのは綱手からだったと、イルカは思い出した。
 そうなるだろうと予想していたものの、聞いた時はやはり大いに驚いた事を覚えている。
「何?」
 イルカの漂わせた視線に気がついたカカシが声をかける。イルカはその視線をカカシに戻した。
「いや、カカシさんが火影に就任すると初めて聞いたのは綱手様からだったと思い出して、」
 グラスを傾けながらカカシが片眉を上げた。そのグラスから口を離す。
「へえ、あの人はなんて?」
「あいつはオールラウンダーだから大丈夫だろ、って」
 元々カカシにそのつもりがないのも知っていた。しかし受けるしかないのだとも分かっていたが、カカシはどうするのだろうと、その思考が顔に出て、それが不安そうに見えたのか。綱手が自分にそう口にした。
「ひどいな」
「いや、褒めてるんですよ」
「そうかなあ」
 カカシはイルカの言葉に小さく笑った。そしてまたビールを口にする。でも、強ちそれは間違いではない。
 里の復興の指揮や、木の葉の統制に、関わる全ての他の国との友好関係を自ら率先して行っている。
 カカシじゃなかったら務まらないだろうと思う。誰よりも優しく、親身だから、あんな今日みたいな会議も欠席せずに顔を出す。書類仕事も真面目にこなす。だからアカデミーに顔を出せないくらいに毎日が忙しくて、
「イルかせんせ?」
 カカシの声に思考が遮られる。慌てて顔を向けると案の定、カカシが不思議そうな顔でこっちを見ていた。
「仕事の事?」
「あ、いえ、違います」
 言われてイルかは思わず否定していた。
 仕事と言われれば間違ってはいないが、自分ではない、カカシの事だ。でも、せっかくこうして一緒に酒を飲めているのに、勝手に脱線してぼーっとしてしまっている自分が情けなくなる。イルカはメニューを取った。
「じゃあ、次は何を食べますか?」
 そう言ってメニューを広げた時、
「イルカ先生!」
 声をかけられイルカは振り返る。そこにいたのは後輩の教員だった。
 今日はこの店にいると、そう言ったのは自分だが。どうしたのだろうと思うと、一緒にカカシも振り返る。まさかそこに同席していたのが火影だと思わなかったのか、その後輩は一瞬ぎょっとし、そして慌てて頭を下げる。そこから明らかに戸惑っていた。それは同席していたのがカカシだったからだと分かる。
「どうかしたのか?」
「いや、ちょっと、」
 聞くと、まだ後輩は戸惑っている。イルカは椅子から立ち上がった。
「どうした」
「あの、上級生のクラスの生徒が問題を、」
 言いたい事は分かった。自分が担任で、この後輩は副担任だ。自分だけで対応しきれないからこうして顔を出したのだ。
「どこでだ?」
「でも、」
 それでもはっきりと答えない後輩に、イルカはため息を吐き出した。そして後ろ髪を引かれる自分がいると分かっているから、それを断ち切りたくて、ゆっくりともう一度息を吐きだした。カカシへ振り向く。
「すみません、ちょっと出なくちゃいけなくなって」
 カカシも今の会話で大体分かったのだろう。うん、と頷いた。
「俺の事は気にしなくていいから」
 そう言わざるを得ない事も分かる。でも、さっきカカシに心残りがないように、そう心で思ったのに。カカシの顔を見たら、途端に胸が痛くなった。そんなカカシはにこりと微笑む。
「いいから。また今度ゆっくり呑もう?」
「・・・・・・はい」
 財布を出すと、それもカカシはいいから、と断られる。イルカは頭を下げ居酒屋を出た。

 結果、生徒が母親と喧嘩して家を飛び出し、アカデミーの屋上でイルカ先生じゃないと話をしないとゴネていた。今回の大戦でも多くの命が失われた事には代わりはない。自分と同じように孤児になった子もいれば、片親になった子もいないわけではない。
 だが、この子には母親がいる。暖かい母親の腕に抱きしめられる生徒を見つめ、その母親に頭を下げられ、イルカはそれに会釈をかえしながらその生徒の家を後にした。そして家に向かいながら。ふと浮かんだのはカカシだった。
 自分のくすぶっていた気持ちと心に傷を追った子供とじゃ天秤にかける事さえおかしくて、イルカは苦笑いを浮かべ軽く首を横に振った。
 
 それが一週間前の事だ。
 そこからカカシの顔は見ていない。偶然顔を合わせる事があれば珍しいくらいで。
 あれから毎朝、こんな感じで目が覚める度にもう戻れることはない、一週間前の事を考えてしまう。
 ーーいい歳して。
 イルカは自嘲気味に笑い、そして息を吐き出す。一日を始めるべく、ベットから起きあがった。
 
 日がすっかり沈んだ頃、イルカは商店街を歩いていた。時間的に閉まっている店もちらほらあるが、スーパーや惣菜を扱う店はまだ営業している。そしてコンビニも。
 これから夜食を持ってアカデミーに戻り今からまた仕事が待っている。
「イルカ先生、今帰りかい?」
 声をかけられ足を止めると、そこで肉屋の店主がこっちを見ていた。いや、今日はまだ、と答えながら足を止める。
「カカシさんは元気?」
 聞かれて、急にその名前を出され、え?と聞き返していた。店主が笑う。
「ああ、違った。火影様、だね。つい昔のクセでそう言っちまう。で、今日帰ってきたんだろ?」
「・・・・・・え?」
 また同じように聞き返していた。カカシが他国へ足を運んでいる事は知ってはいたが、帰還する日は知らされていなかった。ぽかんとするイルカに店主は続ける。
「今日帰ってくるのを見かけたって、商店街の連中が言ってたからさ、」
 屈託のない笑みにイルカもつられて、そうですか、と微笑んだ。
 カカシの帰国をここで知るくらい、自分はカカシと離れた仕事をしているんだと思い知らされる。そしてあの人は忙しい。帰ってきて早々、きっと書類に囲まれながら仕事をしているのだろう。自分の中では一週間前の事が悔やまれてならないが、立場があまりにも違ってどうにもならない。
 それなのに、ーー会いたいなあ、と、そう思ってしまう自分が本当に可笑しくて仕方がない。
 そこで、自分がどんなに心残りなのかと気がつく。
(・・・・・・謝ろう)
 不意にそう思った。
 こんなに引きずるのは、あの時途中で席を外してそのままにしてしまったからで。
 その無礼を詫びれば、きっと自分も吹っ切れる。
 よし、と心で呟くと、イルカはそのまま執務室がある建物へ向かった。
 当たり前にその部屋には電気が灯っていた。イルカはコンビニの袋を持ったまま階段を上がり廊下を歩く。昼間より人は少ない。謝るだけなら、きっとカカシは嫌な顔をしないだろう。
「あれ、カカシ先生?」
 執務室の外で扉を叩こうとして、背後で聞こえた声に驚き振り返る。カカシもまた少し驚いた顔で立っていた、が直ぐにその顔が綻ぶ。
「こんな時間に、どうしたの?」
 緊迫していた自分とは違い、相変わらず和やかで暖かい口調に何故か気持ちが焦る。頬が熱くなりそうで、イルカは口を開いた。
「あの、急にすみません、帰ってきたばかりでお疲れなのに、」
 イルカの言葉にカカシは、ああ、と軽く頷きそして微笑む。
「思ったより早く話が纏まってね。一日早く帰ってこれたの。そんなきついスケジュールでもなかったし、そこまで疲れてはないよ」
 素直にそう口にしているのは分かるが、あまりにも言い方が優しくて。イルカは眉根を寄せていた。そんな顔を見られたくなくてイルカは俯く、小さく息を吐き出し、再びカカシへ顔を向けた。
「俺は、ただ、謝りたくて、」
 カカシは僅かに顔を傾げた。
「・・・・・・謝るって、何を?」
「この前の事です。あの、飲み始めてすぐ逃げ出すみたいになって、」
 言っている途中で、カカシは、ああ、と軽く頷き、そして今度は首を横に振った。
「そんな事ないよ」
「いえ、失礼でした」
 イルカは頭を下げる。前でカカシが戸惑っているのが分かったが、続ける。
「でも、どうしても、仕方がなかったんです。本当に俺は楽しみにしてて、」
「じゃあまた今度ご飯食べに行こうよ」
「・・・・・・え?」
 ゆっくり顔を上げるとカカシはイルカを見つめていた。
 そう言ってくれるのは嬉しい。でもそれは自分からはどう答えたらいいのか分からなかった。睡眠時間を削って仕事をしている事も知っているから。ただ、これが社交辞令でも嬉しい。イルカも少しだけ微笑む。
「・・・・・・じゃあまた時間が出来た時に」
 上忍師時代の時のように。二人が簡単に合わせれる時間なんてそう出来る訳がない。
 だが、やはり素直にそう言ってくれた事が嬉しかった。
 そう言っている間に、カカシの後ろに暗部が現れる。カカシが視線を向けた。
 イルカは笑顔を浮かべる。
「じゃあ、また今度」
 ぺこりと頭を下げ、カカシに背を向ける。イルカは足早に廊下を歩き出した。
 ちゃんと謝る事が出来た。
 イルカはその事に安堵し、歩きながら一人微笑む。
 カカシも分かってくれているから、これでもう悩む必要はない。だから自分も気持ちを切り替えて、今から残業して、
「待って!」
 建物を出ようとしたその時、かけられた声と同時にぐいと腕を掴まれた。振り返ると、カカシで。少しだけ息を切らしている。イルカは瞬きをした。目を丸くしているイルカを見つめ、カカシは息を整え、そして口を開く。
「今日、もう一度夕食に行こう?」
「・・・・・・え?」
 カカシが何を言い出したのか。不思議な顔を見せるイルカの前でカカシは眉を寄せ視線を一回廊下に落とし、そしてイルカへ視線をもう一度向ける。
「今夜じゃなきゃ、二度とない」
 そう言われても上手く返せる言葉が直ぐに見つからなかった。
「そう・・・・・・なんですか?」
 聞き返すと、カカシは頷く。
「だって、お互いにしがらみの多い生活だから、」
 そう言われ納得しようとすれば、カカシの後ろに今度は側近の暗部が姿を見せる。向こうが何か喋る前にカカシは、後ろへ向いた。
「後にして」
 強い口調で相手に向かって言う。普段あまり聞くことがない、カカシの強い命令を含む口調に、その側近の暗部は直ぐに姿を消す。それを確認して、カカシはイルカへ向き直った。
 まさか人払いをするなんて思ってなくて。ぽかんとしているイルカにカカシは一歩近づく。そして銀色の髪をがしがしと掻いた。
「俺、思うんです。今この時を逃したらもうチャンスもタイミングもないって。だからね、」
 一回言葉を切り、もう一度口を開く。
「五分でも十分でもいい、一緒にあなたと過ごしたい」
 真っ直ぐ見つめられ、イルカは視線を外していた。廊下に視線を落としたまま、言葉を探そうとするが、頭の中は真っ白で、見つからない。じわじわと頬が赤くなるのも止められない。
 チャンスとか、タイミングとか。一緒に過ごしたいとか。自分のキャパを一気に越えていた。ただ自分が勝手に都合良くカカシの言葉を捉えてしまう。
「先生も同じだって、言って?」
 そう口にしたカカシの声が余りにも力なくて、イルカは勢いよく顔を上げていた。
 ずっと、ずっとカカシを想っていた。自分の気持ちに気がついたのはカカシがナルト達の上忍師を解かれた時で。今更だと、自分に言い聞かせて。諦めていた。
 言葉にならなくて、イルカはこくこくと頷く事しか出来なかった。それを見て、カカシがほっとした表情を見せながらも、ホントに?、と念を押される。
「本当です」
 今度はしっかりと口出すと、カカシは安堵からか、ほう、と息を吐き出した。
 

 建物の裏庭のベンチで、二人並んで座る。暗いが建物からの明かりでなんとか見えるし、今は見えない方がかえって都合がいい。
 イルカはコンビニで買ったお握りを一つカカシに渡した。そして自分も頬張る。何でもないコンビニのお握りがこんなに美味しいなんて思わなかったし、何より火影になったカカシとこんな場所でお握りを食べているのが可笑しい。ふっと微笑んだ時、
「・・・・・・滅多にないかも」
 力が抜けた声に反応してイルカは横に座るカカシの顔を見た。
「何がですか?」
 不思議そうに問うと、カカシもまたイルカを見つめる。
「人を追いかけた事」
 白状したようなカカシの言い方に、イルカは驚く。そしてその通り、ついさっきカカシが息を切らして自分を追いかけてくれた事を思い出す。その時の真剣な表情も。それがなんだか無性に可愛く思えてきた。
 そこから自分もまた、あんな風にせっぱ詰まった行動に出た事を思い出す。たぶん相手がカカシじゃなかったらこんな風にはならない。
 そこまで思って、前も、そして今もカカシに恋をしているんだと、改めて思い知らされる。
 そう、ーー今もカカシに恋をしている
 星が輝く夜空を見上げる。そしてイルカは幸せな気持ちになりながら、カカシの隣でお握りを頬張った。

<終>
 
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