言葉を欲しがる君は
カカシは一人、居酒屋のカウンターで酒を飲んでいた。
ビールが入ったグラスを傾けながら、適当に頼んだつまみを箸で摘む。
今日のおすすめになっていた鰯の煮付けは骨まで柔らかく添えられた梅と良く合う。
きっとイルカが好きな味だろうと思いながら口に運ぶ。近いうちに連れてきて一緒に食べたい。
そこからふと思い出した事に、カカシは箸を止めた。
数日前のその日、朝食の食器を洗うイルカを、カカシは着替えながらその後ろ姿を見つめていた。
澄んだ横顔にきちんと結った髪、既に身につけた任服。明るい朝日が差し込む部屋で、食器を手際よく洗うイルカの姿は、昨夜の情事を感じさせない。
対して自分は。まだ眠く、時間が許すならまだ布団の中に潜っていたい。
服を着込みながら怠そうに欠伸を一つし、額当てを手に取る。寝癖が付いたままの銀色の髪に回すと、イルカが食器を洗う手を止め振り返った。
「もう行きますか?」
「うん」
額当てを結び終えたカカシに、タオルで手を拭いたイルカがカカシに歩み寄る。
「先生は直ぐ出るの?」
「授業の準備したいんで、いつもよりは早めに」
そっか、と目を細め答え、口布を上げて玄関へ向かう。靴を履き、
「じゃあ行くから」
「あ、はい」
と、立ち上がるカカシに。袖をイルカが小さく掴んでいた。
どうしたのかとイルカの黒い目を見つめながら言葉を待つも、イルカは戸惑うように一瞬その目を伏せた。
が、再びゆっくりと目をカカシに向けたイルカは微笑みを浮かべている。カカシから手を離した。
「いえ、何でも」
そのイルカの笑顔は送り出すイルカのいつもの笑顔。
だが、何かが引っかかり、見つめるカカシに、イルカはニコリと笑顔を見せた。
「いってらっしゃい」
「うん」
濁りのない笑顔に送り出され、カカシは扉を閉める。一歩歩いたところで足を止めカカシは振り返った。玄関の扉を数秒見つめ、もう一度そこからゆっくりと前を向く。歩き出した。
あのイルカの表情と言うのか、空気と言えばいいのか。何か言いたげなようで、そうでもない。少し前から気になっていた事に、またか、と感じたのが正直なところだった。
その日は出かける前だったが、寝る前や、ふと目が合った時やキスをした直後。少し前にはセックスの最中。何かを言いたげにするのは一瞬。でもそれに気がつかないほど自分はイルカに対して鈍いはずはない。
だから。
気になるなあ、とカカシはばんやり思った。
イルカとの関係は良好なはずだから、尚更疑問しか浮かばない。
イルカの性格上、隠し事も嫌いで、はっきりと意見を言う方だ。
それに、気になると言っても、僅かな表情の変化だから、それに気にし過ぎているだけならいいのだが。
と、カカシの隣の席に客が通される。
「あ、どうも」
視線を向けると自分と同じ忍服を着た男が頭を下げた。男の顔には見覚えがあった。記憶を探る程でもない、イルカとよく一緒にいるのを目にしている。いわゆる同僚。名前は覚えていない。軽く会釈を返しながら、カカシが向ける視線に含む意味に気がついたのか、
「イワシです」
自分の名前を口にしながら椅子に腰を下ろす。そこからようやく、イルカが話す中で時々口にする名前の一人だと結びつき、ああ、と反応を示したカカシに、予想していたのか、薄く笑顔を浮かべた。
イワシはカウンター越しにお絞りとお通しを受け取りなが、ビールを注文する。
「それ、鰯っすか」
自分の名前と掛け、くだらない事を言い出すのかと思うも、皿に盛られた鰯に素直に興味を示す視線を向けている。
「これね、今日のおすすめ」
言えば、手をお絞りで拭きながら納得したように、美味そうっすね、と言われ、カカシもまた頷く。
「梅がね、よく合ってるから美味いよ」
「ビールとも合いますよね」
「だね」
じゃあ、俺もこれください、とビールを運んで着た店員にカカシの皿を指差した。
適度な距離をとりつつも、さしてそこまで過剰に改まる訳でもない。写輪眼だと媚びを売る連中とも違う。類は友を呼ぶとも言うが、話しやすい空気を作る相手に、イルカの仲間なのだと感じ、内心感心する。
ただ、イルカと深い仲にならなかったら存在に気がつく事もなかっただろう、その事実に不思議な境遇を感じさえする。それはこの隣のイルカの同僚だけではない、アカデミーにいる職員から商店街の八百屋の店主まで。イルカの人間関係の深さには驚いた。
それは、イルカと付き合い始めて改めて気がつかされる事の一つだった。
イワシの前に、注文した鰯の煮付けが置かれれる。
「ああ。これ、イルカも好きそう」
箸で口に運び呟いた後、言った本人の目が僅かに開く。しまった、と言うような顔。
前述の通り、イルカに似たような分かりやすい顔に、カカシはまたしても感心しながら、大して反応を示す事無く、青みがかった目をイワシへ向けた。まあ、たぶん。自分とイルカとの仲を知らないはずがない。
「だよね、好きそう」
同意するカカシに、気まずそうにイワシが眉を下げた。
「あー、いや、……はい」
すんません、と小さく語尾に付け加えられた言葉に、そこにもまたカカシは思わず内心苦笑いを浮かべたが、イワシは気がつく事はない。
そこから黙って一人飲みを始めるイワシに、カカシも静かにグラスを傾ける。
「先生ってさ」
「あ、はい」
ぎくりとするイワシを無視してカカシは続ける。
「夜勤、いつまでだっけ」
今週いっぱいとだけ言っていたイルカの言葉を思い出しながら聞くと、イワシは少しだけ視線を宙に漂わせる。
「あ、……予定通りにいけば、明日までかと。その後俺なんで」
「そっか」
確認するようにカカシは頷いた。視線を自分の飲みかけのグラスに戻す。
上忍仲間のアスマなら兎も角、中々触れにくい話題でもあるし、その問いから、カカシは会話を広げるつもりはないと汲み取ったイワシは、また一人晩酌に戻る。
カカシもまた箸を動かしながら、鰯を口に入れた。
一口口にしただけでイルカが好きな味だろうと分かる辺り、同僚として付き合ってきた年月は自分より遥かに長い。
ふと目だけを横に向けると、イワシは手酌でビールをグラスに注いでいた。
視線に気がついたイワシに、カカシは顔を向け口を開く。
「あのさ、ーー」
2日後、カカシは廊下を歩きながら。イワシの言葉を思い出し、うーんと呟きながら頭を掻いた。
最近先生の様子で、ちょっと気になることがあるんだけど、と口にしたカカシに、イワシは、心当たりがあると言わんばかりに、あー、成る程、と独りごちするように呟いた。
はたけ上忍の事があまりにも好きすぎて、ちょっと色々不安みたいなんですよ。
返された言葉に、当たり前のように意味が分からず眉を寄せたカカシに、イワシは小さく笑った。
なんて言うか。あいつ、あんな顔して人一倍ロマンチストみたいで。
もし知ってたら、くらいの軽い気持ちで聞いたのに。
その後に続いた言葉に余りにも合点してしまい、カカシは思わず苦笑いを浮かべていた。
受付に入ると、カカシは真っ直ぐ座っているイルカの元に向かう。
書面に目を通していたイルカが顔を上げ、カカシに気がつき微笑みかける、カカシさん、と言いかけたイルカに、カカシは屈み唇を塞いだ。
イルカの目がまん丸に見開かれる。
イルカが固まったように、周りの空気もまた同じように固まり、たまたま居合わせた女性事務員やくノ一からから悲鳴混じりの声が上がった。
僅かに唇を浮かせ、呆然としているイルカを間近で見つめる。
「ねえセンセ。俺は好きな相手にしかこんな事しないよ?確かに言葉も大事かもしれないけど、」
瞬きする黒い目を優しく見つめ、
「これじゃ、駄目?」
カカシは緩く目を細める。
ほわあ、とイルカの頬も、耳も、首元まで赤く染まり、
「……駄目じゃ、ないです。けど、」
周囲の視線を浴びながら、震える声で呟くイルカは今にも湯気がでそうな顔で。カカシも眉を寄せてイルカの額当てに、こつんと自分の額を当てた。
「……実はね、俺も限界」
息がかかる距離でイルカに囁く。恥ずかしさを隠すように苦笑いを浮かべると、イルカもまた、真っ赤な顔で目を細め、笑った。
「好き」だと言われない
友人にポツリと漏らしたイルカの言葉。
イルカの時々見せる少女らしい恋愛っぷりに呆れるも。
それが可愛いなんて思えるあたり、それに折れちゃうあたり、既に部が悪い。
自分だって、人前でキスなんて。イルカじゃなかったら絶対にやらない。
いや、イルカでなければーー。
と、歩きながらふと前を見ると、いつかのイルカの同僚が少し先に立っていた。
自販機の前で自分の財布を閉じた後、ポケットを探っている。
カカシはポケットから財布を引っ張り出すと小銭を取り出した。
「コーヒー?」
不意に背後で聞こえた声にイワシがびくりとする。カカシは腕を伸ばし自販機に小銭を入れた。
カカシに驚きながらも、問われた事に頭を回転させ、はい、と答える。
カカシはイワシの分と自分のコーヒーを買い、イワシに一本差し出した。
「あ……すみません。お金はお返しします」
頭を下げて両手で受け取るイワシに渡すと、
「いいよ、別に」
カカシは自分の缶コーヒーのプルトップを開ける。
居酒屋の時と同じく、相手に構わず口布を下ろし素顔を晒すカカシに、イワシは遠慮がちに視線を下にずらした。いただきます、と口にしてコーヒーを飲む。
「良かったですね」
青みかがった目を向けると、
「あー、あの、うまくいったみたいで」
と続けた。カカシは、まーねえ、と答え、
「……先生の事良く分かってんだね。ちょっとジェラシー」
冗談交じりのカカシの言葉に、冗談だと分かっているはずのイワシが、え、と反応した。
「いや、なんて言うか。俺も似たような感じなので分かるって言うか、」
あ、逆なんですけど、俺の場合。
慌てる素振りを見せられ、カカシはそんなイワシを見つめた。
「……へー、彼女?」
「へ、彼女?いやっ、そんなっ、まあ、」
缶コーヒーを持ったまま思った以上の反応を見せる。静かに冷静に送るカカシの視線に耐えられなくなったのか、それじゃあ、と会話を終了させると、頭を下げ建物の中へ消えて行った。
彼女がいない奴らばかりだと、イルカが言っていたのは最近の話だ。
その通り、目に入る限りは女っ気がない連中に囲まれ、いるとしてもアクが強い上司ばかり。
缶コーヒーを飲みながら、些細な事に焦りまくるイワシを思い出したカカシは、息を漏らすように小さく笑った。
あれは、丸でまだ部下になったばかりのナルト達だ。からかった相手に向きになるような。
青いなあ、と思いながら、
「……ま、自分も似たようなもんか」
カカシは風が吹く青空を見上げる。可笑しそうに一人で笑い、呟いた。
<終>
さてさて、今回は中忍仲間を愛するえみるさんの為にこんな話を書きました。
イルカ先生と中忍たち。そしてイワアン(イワシ×アンコ)の萌えをいただき、私もそれに思い切りハマってしましました///。
えみるさん素敵萌えをありがとう!受け取ってくれてありがとう!
今まで自分の中で一度も書いた事のなかったイワシさんを書いてみたのですが、喜んでくれて嬉しかったです^^
NARUTOの世界にあるカカイルを彩るような様々なカプが素敵過ぎ///
そしてえみるさんがこの話の隙間的な漫画を描いてくれました!全然隙間じゃないんだけども!
私の話をえみるさんの漫画で補ってもらったような。有難い―!!
見てもらったらわかるのですが。イルカ先生もイワシさんもめっちゃ格好いい。こんな友人関係なんだなあ///と、そこでまた妄想が走り出す。。
そして親友!イルカ先生の親友!そこ大事です。アンコさんも可愛い///アスマと紅とはまた違う2人で、書いていて楽しかったです。
えみるさんの描いてくれた漫画はこちら→★
ビールが入ったグラスを傾けながら、適当に頼んだつまみを箸で摘む。
今日のおすすめになっていた鰯の煮付けは骨まで柔らかく添えられた梅と良く合う。
きっとイルカが好きな味だろうと思いながら口に運ぶ。近いうちに連れてきて一緒に食べたい。
そこからふと思い出した事に、カカシは箸を止めた。
数日前のその日、朝食の食器を洗うイルカを、カカシは着替えながらその後ろ姿を見つめていた。
澄んだ横顔にきちんと結った髪、既に身につけた任服。明るい朝日が差し込む部屋で、食器を手際よく洗うイルカの姿は、昨夜の情事を感じさせない。
対して自分は。まだ眠く、時間が許すならまだ布団の中に潜っていたい。
服を着込みながら怠そうに欠伸を一つし、額当てを手に取る。寝癖が付いたままの銀色の髪に回すと、イルカが食器を洗う手を止め振り返った。
「もう行きますか?」
「うん」
額当てを結び終えたカカシに、タオルで手を拭いたイルカがカカシに歩み寄る。
「先生は直ぐ出るの?」
「授業の準備したいんで、いつもよりは早めに」
そっか、と目を細め答え、口布を上げて玄関へ向かう。靴を履き、
「じゃあ行くから」
「あ、はい」
と、立ち上がるカカシに。袖をイルカが小さく掴んでいた。
どうしたのかとイルカの黒い目を見つめながら言葉を待つも、イルカは戸惑うように一瞬その目を伏せた。
が、再びゆっくりと目をカカシに向けたイルカは微笑みを浮かべている。カカシから手を離した。
「いえ、何でも」
そのイルカの笑顔は送り出すイルカのいつもの笑顔。
だが、何かが引っかかり、見つめるカカシに、イルカはニコリと笑顔を見せた。
「いってらっしゃい」
「うん」
濁りのない笑顔に送り出され、カカシは扉を閉める。一歩歩いたところで足を止めカカシは振り返った。玄関の扉を数秒見つめ、もう一度そこからゆっくりと前を向く。歩き出した。
あのイルカの表情と言うのか、空気と言えばいいのか。何か言いたげなようで、そうでもない。少し前から気になっていた事に、またか、と感じたのが正直なところだった。
その日は出かける前だったが、寝る前や、ふと目が合った時やキスをした直後。少し前にはセックスの最中。何かを言いたげにするのは一瞬。でもそれに気がつかないほど自分はイルカに対して鈍いはずはない。
だから。
気になるなあ、とカカシはばんやり思った。
イルカとの関係は良好なはずだから、尚更疑問しか浮かばない。
イルカの性格上、隠し事も嫌いで、はっきりと意見を言う方だ。
それに、気になると言っても、僅かな表情の変化だから、それに気にし過ぎているだけならいいのだが。
と、カカシの隣の席に客が通される。
「あ、どうも」
視線を向けると自分と同じ忍服を着た男が頭を下げた。男の顔には見覚えがあった。記憶を探る程でもない、イルカとよく一緒にいるのを目にしている。いわゆる同僚。名前は覚えていない。軽く会釈を返しながら、カカシが向ける視線に含む意味に気がついたのか、
「イワシです」
自分の名前を口にしながら椅子に腰を下ろす。そこからようやく、イルカが話す中で時々口にする名前の一人だと結びつき、ああ、と反応を示したカカシに、予想していたのか、薄く笑顔を浮かべた。
イワシはカウンター越しにお絞りとお通しを受け取りなが、ビールを注文する。
「それ、鰯っすか」
自分の名前と掛け、くだらない事を言い出すのかと思うも、皿に盛られた鰯に素直に興味を示す視線を向けている。
「これね、今日のおすすめ」
言えば、手をお絞りで拭きながら納得したように、美味そうっすね、と言われ、カカシもまた頷く。
「梅がね、よく合ってるから美味いよ」
「ビールとも合いますよね」
「だね」
じゃあ、俺もこれください、とビールを運んで着た店員にカカシの皿を指差した。
適度な距離をとりつつも、さしてそこまで過剰に改まる訳でもない。写輪眼だと媚びを売る連中とも違う。類は友を呼ぶとも言うが、話しやすい空気を作る相手に、イルカの仲間なのだと感じ、内心感心する。
ただ、イルカと深い仲にならなかったら存在に気がつく事もなかっただろう、その事実に不思議な境遇を感じさえする。それはこの隣のイルカの同僚だけではない、アカデミーにいる職員から商店街の八百屋の店主まで。イルカの人間関係の深さには驚いた。
それは、イルカと付き合い始めて改めて気がつかされる事の一つだった。
イワシの前に、注文した鰯の煮付けが置かれれる。
「ああ。これ、イルカも好きそう」
箸で口に運び呟いた後、言った本人の目が僅かに開く。しまった、と言うような顔。
前述の通り、イルカに似たような分かりやすい顔に、カカシはまたしても感心しながら、大して反応を示す事無く、青みがかった目をイワシへ向けた。まあ、たぶん。自分とイルカとの仲を知らないはずがない。
「だよね、好きそう」
同意するカカシに、気まずそうにイワシが眉を下げた。
「あー、いや、……はい」
すんません、と小さく語尾に付け加えられた言葉に、そこにもまたカカシは思わず内心苦笑いを浮かべたが、イワシは気がつく事はない。
そこから黙って一人飲みを始めるイワシに、カカシも静かにグラスを傾ける。
「先生ってさ」
「あ、はい」
ぎくりとするイワシを無視してカカシは続ける。
「夜勤、いつまでだっけ」
今週いっぱいとだけ言っていたイルカの言葉を思い出しながら聞くと、イワシは少しだけ視線を宙に漂わせる。
「あ、……予定通りにいけば、明日までかと。その後俺なんで」
「そっか」
確認するようにカカシは頷いた。視線を自分の飲みかけのグラスに戻す。
上忍仲間のアスマなら兎も角、中々触れにくい話題でもあるし、その問いから、カカシは会話を広げるつもりはないと汲み取ったイワシは、また一人晩酌に戻る。
カカシもまた箸を動かしながら、鰯を口に入れた。
一口口にしただけでイルカが好きな味だろうと分かる辺り、同僚として付き合ってきた年月は自分より遥かに長い。
ふと目だけを横に向けると、イワシは手酌でビールをグラスに注いでいた。
視線に気がついたイワシに、カカシは顔を向け口を開く。
「あのさ、ーー」
2日後、カカシは廊下を歩きながら。イワシの言葉を思い出し、うーんと呟きながら頭を掻いた。
最近先生の様子で、ちょっと気になることがあるんだけど、と口にしたカカシに、イワシは、心当たりがあると言わんばかりに、あー、成る程、と独りごちするように呟いた。
はたけ上忍の事があまりにも好きすぎて、ちょっと色々不安みたいなんですよ。
返された言葉に、当たり前のように意味が分からず眉を寄せたカカシに、イワシは小さく笑った。
なんて言うか。あいつ、あんな顔して人一倍ロマンチストみたいで。
もし知ってたら、くらいの軽い気持ちで聞いたのに。
その後に続いた言葉に余りにも合点してしまい、カカシは思わず苦笑いを浮かべていた。
受付に入ると、カカシは真っ直ぐ座っているイルカの元に向かう。
書面に目を通していたイルカが顔を上げ、カカシに気がつき微笑みかける、カカシさん、と言いかけたイルカに、カカシは屈み唇を塞いだ。
イルカの目がまん丸に見開かれる。
イルカが固まったように、周りの空気もまた同じように固まり、たまたま居合わせた女性事務員やくノ一からから悲鳴混じりの声が上がった。
僅かに唇を浮かせ、呆然としているイルカを間近で見つめる。
「ねえセンセ。俺は好きな相手にしかこんな事しないよ?確かに言葉も大事かもしれないけど、」
瞬きする黒い目を優しく見つめ、
「これじゃ、駄目?」
カカシは緩く目を細める。
ほわあ、とイルカの頬も、耳も、首元まで赤く染まり、
「……駄目じゃ、ないです。けど、」
周囲の視線を浴びながら、震える声で呟くイルカは今にも湯気がでそうな顔で。カカシも眉を寄せてイルカの額当てに、こつんと自分の額を当てた。
「……実はね、俺も限界」
息がかかる距離でイルカに囁く。恥ずかしさを隠すように苦笑いを浮かべると、イルカもまた、真っ赤な顔で目を細め、笑った。
「好き」だと言われない
友人にポツリと漏らしたイルカの言葉。
イルカの時々見せる少女らしい恋愛っぷりに呆れるも。
それが可愛いなんて思えるあたり、それに折れちゃうあたり、既に部が悪い。
自分だって、人前でキスなんて。イルカじゃなかったら絶対にやらない。
いや、イルカでなければーー。
と、歩きながらふと前を見ると、いつかのイルカの同僚が少し先に立っていた。
自販機の前で自分の財布を閉じた後、ポケットを探っている。
カカシはポケットから財布を引っ張り出すと小銭を取り出した。
「コーヒー?」
不意に背後で聞こえた声にイワシがびくりとする。カカシは腕を伸ばし自販機に小銭を入れた。
カカシに驚きながらも、問われた事に頭を回転させ、はい、と答える。
カカシはイワシの分と自分のコーヒーを買い、イワシに一本差し出した。
「あ……すみません。お金はお返しします」
頭を下げて両手で受け取るイワシに渡すと、
「いいよ、別に」
カカシは自分の缶コーヒーのプルトップを開ける。
居酒屋の時と同じく、相手に構わず口布を下ろし素顔を晒すカカシに、イワシは遠慮がちに視線を下にずらした。いただきます、と口にしてコーヒーを飲む。
「良かったですね」
青みかがった目を向けると、
「あー、あの、うまくいったみたいで」
と続けた。カカシは、まーねえ、と答え、
「……先生の事良く分かってんだね。ちょっとジェラシー」
冗談交じりのカカシの言葉に、冗談だと分かっているはずのイワシが、え、と反応した。
「いや、なんて言うか。俺も似たような感じなので分かるって言うか、」
あ、逆なんですけど、俺の場合。
慌てる素振りを見せられ、カカシはそんなイワシを見つめた。
「……へー、彼女?」
「へ、彼女?いやっ、そんなっ、まあ、」
缶コーヒーを持ったまま思った以上の反応を見せる。静かに冷静に送るカカシの視線に耐えられなくなったのか、それじゃあ、と会話を終了させると、頭を下げ建物の中へ消えて行った。
彼女がいない奴らばかりだと、イルカが言っていたのは最近の話だ。
その通り、目に入る限りは女っ気がない連中に囲まれ、いるとしてもアクが強い上司ばかり。
缶コーヒーを飲みながら、些細な事に焦りまくるイワシを思い出したカカシは、息を漏らすように小さく笑った。
あれは、丸でまだ部下になったばかりのナルト達だ。からかった相手に向きになるような。
青いなあ、と思いながら、
「……ま、自分も似たようなもんか」
カカシは風が吹く青空を見上げる。可笑しそうに一人で笑い、呟いた。
<終>
さてさて、今回は中忍仲間を愛するえみるさんの為にこんな話を書きました。
イルカ先生と中忍たち。そしてイワアン(イワシ×アンコ)の萌えをいただき、私もそれに思い切りハマってしましました///。
えみるさん素敵萌えをありがとう!受け取ってくれてありがとう!
今まで自分の中で一度も書いた事のなかったイワシさんを書いてみたのですが、喜んでくれて嬉しかったです^^
NARUTOの世界にあるカカイルを彩るような様々なカプが素敵過ぎ///
そしてえみるさんがこの話の隙間的な漫画を描いてくれました!全然隙間じゃないんだけども!
私の話をえみるさんの漫画で補ってもらったような。有難い―!!
見てもらったらわかるのですが。イルカ先生もイワシさんもめっちゃ格好いい。こんな友人関係なんだなあ///と、そこでまた妄想が走り出す。。
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