love

 執務室で報告を済ませ、カカシはアスマと並んで歩く。暑さが和らぐも昼間の日差しが強いのには変わらない。あちいな、とボヤくように呟くアスマは煙草を咥えながら少し遠くなった雲をぼんやりと見つめる。カカシもまた、空を見上げようとした時、大きな声が聞こえ、その視線を横へ向けた。
 少し離れた場所で子供達が笑いながらも走る、その後ろから追いかけているのは、イルカだった。子供達の顔を見れば悪戯をしたのは明らかで、待てコラ!と怒号しているイルカのこめかみには青筋が浮き立つ。唾を飛ばす勢いで怒鳴るも子供たちが堪える事はない。小さい体を利用し上手く飛び建物に上った子供達に、内心感心すれば、イルカもまた後を追いかける。それらを見つめていれば、やがて怒号も聞こえなくなり、その姿もまた見えなくなる。違う道へ足を向けながら、あれはあれで大変だよなあ、とアスマが苦笑いを零した。
 下忍のあいつらでさえ手を焼くのによ、とそう続けるアスマの言葉はあながち間違いではない。下に持った三人でさえ世話がかかるのは事実で。それより幼い子供を何十人と抱えているのだ。とは言え上忍師である自分たちとは立場も違い大変さは心中までは察することは出来ない。
 しっかしおっかねえな。こっちまで響いたイルカの怒号を思い出すように、冗談混じりに言うアスマに、カカシは、イルカが見えなくなった場所をしばらく見つめ、そーね、と小さく呟く。上忍待機室へ足を向けた。

 イルカと初めて見た時は、確かに、熱血先生だとは思ったし、ガイと似たような人間だとも思った。崖の上から蹴り落とすような事しかしない自分とは違い、真っ直ぐに向き合うひたむきなイルカははっきり言えば対極だ。よく笑い、よく怒る。ナルトがイルカ先生はどこにいても分かると言った通り、定食屋で見かけた時はどんぶりを掻っ込み、友人と笑うイルカの声はこっちまで聞こえた。そして今日は生徒を追いかけ、顔を真っ赤にするくらいの勢いで怒鳴るイルカの顔が脳裏に浮かぶ。
 昼間見た事を思いだしながら、ズボンから取り出した陰茎を緩く手で扱くと、先走りのぬめりが気持ちいいのか、息を短く詰めたのが聞こえた。顔を見れば、その通り、イルカが眉根を寄せている。頬を紅潮させているのは恥ずかしさに堪えている為で。伏せた目が見たくて、先生、と囁けば、視線をゆっくりこっちへ向けた。薄く潤んだ黒い目に自分が映り、そこに満足感を覚える。カカシは目元を緩めた。ベットにイルカを座らせて、露わにさせた陰茎を扱きイルカの表情を見つめながらカカシが顔を
近づければ、イルカもまた顔を近づけるから、望むように唇を重ねた。そこから舌で唇を軽く舐めればイルカの口が受け入れるように開く。イルカが望むようにゆっくりと舌を差し入れた。受付や報告所で笑顔を見せる度見える、健康的な歯を舌でなぞればイルカが甘い声を鼻から漏らす。そこから顔の向きを変えながらイルカの舌へ絡ませた。止める事がない手に、水っぽい音が部屋に響き、うっすら目を開ければイルカが切なげに眉を寄せ、伏せた黒い睫は微かに震えていた。
 カカシはゆっくりと舌を引き抜き、唇を浮かせる。
「先生、キスするの好きだもんね」
 意地悪な言い方だと思うが、間違った事は言っていないのに、開いた黒い目が困惑の色を見せるように揺れた。
 昼間には微塵も見せない、その目が、そそる。否定しないのはそれを認めている為で、それでも、何か言おうと開いたイルカの口をカカがまた塞ぐ。舌を絡めながら、手の動きを早めた。ぷっくりと膨らんだ先端が充血して大きさが増す。その先端を固い指の腹で擦った。イルカが苦しげに鼻から息を漏らすが、カカシは口づけを止めない。熱くなった舌を吸うとイルカがたまらず堪らず口づけの合間に切なげな快楽の声を上げた。吐息も絡め取るように口づけを繰り返し追い立てるように陰茎をこすり上げる。
 イルカが下腹部へ集中しているのが分かった。と言うか考えられないんだろう。果てたいと言う欲望。カカシの手の動きに合わせてイルカが腰を揺らす。
「だ・・・・・・っ、・・・・・・」
 たぶん、駄目、と口にしようとしたのだろう。それは言葉にならないまま、イルカは腰を何度も震わせカカシの手の中で精液を吐き出す。カカシの肩にかかった手がぎゅう、と強く上着を掴んだ。
 片手では押さえきれない精液がカカシの手を濡らし、ズボンを汚す。
 ここ最近、互いの仕事のすれ違いで一緒に過ごす時間がなかった。溜まっていたのはその為だろうけど、一人でしたっていいのに。前そんな事を言ったら、男同士なんだからそこまで恥ずかしがる事はないのに、耳まで真っ赤にして、んな事は分かってます、と返してきた。拗ねたような、その恥じらうポイントもまたカカシの心を簡単に刺激する。外で見る表情や態度のギャップったらない。
 本能のまま一度果てたのに、強請るような目でこっちを見上げるイルカの視線に、カカシは薄く微笑みを返す。ズボン脱いで、と優しく口にした。

 さっきまで耐えていただろうイルカの声は呆気なく大きくなった。
 硬く凝った陰茎で中を突き上げると、またイルカの唇から声が漏れる。
「カカシさ、ん・・・・・・、」
 声にならない声だったのに、イルカがカカシの名前を読んだ。腰を動かしながらイルカへ目を向ければ、薄く開いた口から、もっと、と言葉を零す。かあ、と頭に血が上ったのが分かった。これだけの事に胸が締め付けられ、鼓動が早くなる。言われるがまま激しく深く貫くと、部屋には肉の音が響いた。
 イルカの手がカカシの背中に回る。汗を掻いた肌にイルカの指が食い込んだ。本能のまま身体を繋げているだけなのに、なんでこんなに気持ちがいいのか。自分もまた誰でもない普通の人間だと実感する。イルカもまた、外では優しく真っ直ぐな教師だが、一人の男だ。さっき果てた陰茎が頭を持ち上げ、腹で擦れる度に透明な液体を零している。
「カカシさ、・・・・・・っ、カカシさん、」
 名前を繰り返し呼ばれ、カカシは律動しながら、その快感に瞑っていた目を開けた。突き上げる度に、中を擦る度にイルカが夢中に名前を呼ぶ。カカシは早い吐息を繰り返しながら、イルカを見た。
「先生、名前、呼ばないで・・・・・・、」
 何も考えられなくなっているのは分かる。でも、イルカは嬌声の合間に名前を呼ぶ事を止めない。
 好きな人に、この人にこんなにも名前を呼ばれたら、正直、情けないけど、持たない。
 カカシは甘い声を漏らしながら再び名前を呼ばれ、その開きっぱなしになったイルカの口をカカシは塞いだ。
 イルカの指にに自分の指を絡め、上から押さえつけるようにし、奥を何度も突き上げる。
 自分が果てるまではもうすぐ。放ってしまえば、それでもう終わりだ。分かっていても、自分はそれがしたい。単純な欲望にそこまでしがみつくのは、らしくないなあ、と思うが、この衝動は抑えられない。その高みへ上り詰めるように、カカシはイルカに口づけを繰り返しながら、律動を早めた。

<終>
 
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