love pop③

 執務室で報告を済ませてその建物から出る。
 少し歩いたところで、おい、と声をかけられ、カカシは歩いていた足を止めると、アスマがこっちを見ていた。
「どうすんだ?呑みに行くのか、いかねーのか」
 そこまで聞いて、歩きながらそんな話になっていたのかと気がつく。だが今はちょっと呑みに行くような気分にはなれない。どうしようか考えを巡らせようとしたら、アスマがため息混じりに煙草の煙を吐き出した。
「またアイツと喧嘩でもしたか」
 アイツとは勿論イルカの事を指していた。深く聞きたくはないと、顔にありあり出しながらも一応聞いてくる。カカシはそんなアスマを眺めながら、いや、と否定をすれば、それは予想外だったのか、片眉を上げた。そしてじっとカカシを見る。
「お前、最近ちゃんと寝てねーだろ」
 それは的を射ていた。だからカカシは黙って歩き出す。肯定している態度に、それに呆れながらも、アスマもまた歩き出した。
 イルカとは、喧嘩なんてしていない。喧嘩うんぬんの前に、ここ何日も顔を合わせていない。だから喧嘩なんて出来るはずもない。ただ、初めてキスをした後から、自分はイルカをなんとなく避けていた。
 誘われるままに夕飯を一緒に食べるが、その後どうしたらいいのか分からなくなる。
 その理由は勿論ある。ただ、説明出来るほど頭の整理は出来ていない。
 ーーキスをした翌日。報告所でイルカと顔を合わせた時、やばいと、そう感じた。
 前よりイルカから目を離せなくなっていて、何気ない動作一つ一つや、自分を見つめる黒い目や、その口元。そこから下へずらした時見えるイルカの首元が自分の目に映った時、身体の奥がずん、と熱くなった。
 それは過去媚薬を盛られた事があるがその感覚に似ていて。その場でイルカを押し倒したい衝動そのもので。動揺を隠しそのまま報告所を出て家に帰った。
 自分の衝動が未だ信じられなくて、落ち着きたくてシャワーを浴びた。そこから適当に夕飯を作って酒を飲んで。
 でも頭に浮かぶのはイルカの笑顔。屈託のない愛らしい笑顔なのに、深く口付けたあの感覚がどうしても浮かんで離れない。
 今度また本気のキスをしたら、それだけじゃきっと抑えられない。衝動のままイルカを押し倒したら、ーー。
 その先は想像は容易で、カカシは部屋で銀色の髪を軽く掻きながら、ため息を吐き出した。
 殴られるだけじゃなく、今度は口さえもきいてくれなくなる。
 ああ、それは困る、とふと一人で思い、大したことじゃないはずなのに、困ると思ってしまった自分になんだか可笑しくなった。
「なににやにや笑ってんだ?」
 気がつけば思い出した事に小さく笑ってしまっていた。アスマが怪訝そうにこっちを見ている。カカシは、いや別に、と返しながら、イルカとの約束を思い出した。一瞬躊躇うように視線を動かす。
 そこからアスマへ戻し、
「ま、呑みに行こっか」
 そう言ってカカシはニコリと笑った。


 夕日が沈み始め、だんだんと空が薄暗くなる。そんな中歩いていた時、
「カカシさん?」
 声をかけられカカシはぎくりとした。足を止め振り向くとそこには手には紙袋を抱えたイルカが立っている。
 ぎくりとした理由は色々あった。この前約束をすっぽかした事や、少し前からイルカを避けている事、ーーそれにここが花街への入り口だと言う事。
 立ったままイルカを見つめていれば、イルカは紙袋を持ったままこっちへ歩み寄る。久しぶりにしっかりと顔を合わせ、少しだけ逃げ出したいのに嬉しくて、目の前にきたイルカの顔をじっと見つめた。
 何を言われるのか。そう思っているカカシを前に、イルカの目線が少しだけ下がり、そしてその表情が僅かに険しくなる。
「怪我したんですか」
 言われて、思わず、へ?とそんな間の抜けた声が出ていた。そして言われて思い出し、イルカの見つめる先の自分の腕を上げた。
 昨日任務で負傷した。そこまで深い傷でもないから、自分で処置をして、そのままだ。包帯で巻かれた自分の腕を見つめながら、カカシは、ああ、と相づちを打った。
「任務でね、ちょっと。でも大した怪我じゃないから」
 そう言うがイルカは眉根を寄せたままじっとその腕を見つめる。表情は変わらない。視線をカカシへ戻した。
「任務増やしたって聞きましたけど」
 そう言って、イルカはふと視線を外し地面に落とす。そしてまたカカシを見つめた。
「・・・・・・俺のせいですか」
 真っ直ぐ見つめられ、その責めるような、それでいて心配するかのような、真面目な眼差しに、カカシは僅かに息を呑んだ。
 勘ぐられるだろうとは思っていたが。直球で聞かれ、参ったなあ、と内心困りながらポケットに入れていた手を取り出し、髪を掻いた。
 イルカの恋愛経験なんて知らないが、わかりやすいくらいに避けていたのだから、気がつかないはずはない。ただ、イルカにどう説明したらいいのか分からなかった。それだけで。
 黙ったままのカカシに、イルカは怪訝そうにカカシの後ろへ視線を向けた。
「そこへ行くのも、俺のせいですか」
 イルカの視線は淡い暖かい色の提灯に火を灯し始めている花街に向けられている。予想通りの流れに思わず舌打ちをしたくなった。カカシは思わずイルカから視線を逸らす。
 イルカと付き合うようになってから色々気がつかされるが、自分がそこまで我慢強くないと知ったのも最近だ。
 今だって任務を終えて、その高ぶる気持ちや溜まってきたものがどうしようもなくて。それをイルカにぶつけたくなかった。
 全然してくれない、前女がそんな不満をを自分にぶつけてきた事を思い出す。あの時は何を言っているのか馬鹿らしいとさえ思ったのに。まさかそんな不満が自分も感じるなんて思ってもなかった。
 ただ、だからと言って、自分は寄ってくるくノ一を相手にはしなかった。
 頭に浮かぶのはやたらと言い訳がましいものばかりで。自分に苛立ちが募る。
 不機嫌そうに視線をイルカに戻した。
「そう、あなたの代わり。でも、商売女ならノーカンでしょ?」
 自分でも突き放した言い方だと思ったが、口から出てしまった。まさかそんな事を言われると思っていなかったのか。イルカの目が丸くなる。
 やば、と思ったのは、傷つけた、とそう感じたから。
 イルカの黒い目の奥が揺れ、そして苦しそうにぐっと口を結ぶ。
 そして紙袋を抱えていない方の手が上がり、当たり前だがまた殴られるのかと、そう思った。
 だが、上がったてはカカシに向かって伸び、そして怪我をしていない手を掴む。
「ちょ、なに、」
「いいから、来て下さい」
 驚きに目を見開くカカシの手を引っ張ったまま、イルカは歩き出した。




 連れてこられたのは古いアパートだった。当たり前だが花街から結構離れている。その距離を腕を掴まれ引っ張ってこられ、言い迷惑だと思いながらもカカシは黙ってついて来た。
 ずいぶんと寂れたアパートだな、と思っていれば、その一室の前で手を離され、イルカが自分のポケットの中を探り鍵を取り出す。
「・・・・・・ここもしかして先生の部屋?」
 ようやく合点した事を口にすると、イルカは鍵を開けながら、そうです、と答えた。
 扉を開けイルカは先に入っていく。玄関に足を踏み入れてすぐ鼻についたのはイルカの匂いだった。ここでイルカが生活をしているのだと感じる。それだけで、少しだけ妙な気持ちになってカカシは足を止めていた。ちょっと自分ではこの展開は予想していなかった。気持ちが急くばかりで、そしてイルカへのもどかしさがどうしようもなくて。自分の中で整理で出来なくなっていたから。あれで嫌われて、終わりなのかとばかり思っていたから。
 この状況をどうしていいものか分からず玄関に立ったままのカカシに、イルカは持っていた紙袋を奥に見える台所に置き、そして振り返る。
「上がらないんですか?」
 そう聞かれたら上がるしかなく、カカシは自分の靴を脱いだ。

「腕」
「え?」
 上がってすぐ言われ、聞き返していた。
「腕です。みせてください」
 怪我した箇所をイルカはさしていた。ああ、と答えながらもそこまでの怪我じゃないと躊躇って入れば、いいから、とその怪我をしている方の手をぐい、ととられ、ちゃぶ台の前に座らされる。
 カカシは仕方なしに座ってアンダーウェアを肘辺りまで捲った。
 何針か自分で縫っていた。包帯を解かれその傷口をイルカは見つめる。席を立ったイルカは濡らしたタオルと木製の箱を持ってくる。その濡れたタオルで一回傷口に当て、消毒液を垂らす。そして、その箱の中から軟膏らしきものを取り出した。
「これ、よく効くんですよ」
 イルカは静かに言うと、緑色の軟膏を指ですくい取るとカカシの傷口に塗る。
 黙って従っていると、ふとイルカがまた口を開いた。
「・・・・・・本当にあそこに行くつもりだったんですか?」
 面倒くさい気持ちになるのは当然自分に非があるからだが。だからと言ってこの状況では到底逃げ出せそうにない。カカシは小さく息を吐き出した。
「まあね」
 素直に認める。でも、とカカシは続けた。
「でも、仕方ないでしょ。先生を性欲処理の相手にしたくなかったんだから」
 イルカの手が止まる。驚いた目でカカシを見た。
「俺は・・・・・・カカシさんの恋人なんですよね?」
 真っ直ぐな目で聞かれ、胸の奥が騒ついた。眉を寄せる。少しの間の後、そうだね、と答えれば、イルカに見つめ返された。
「なのに、何で花街に行くのか、俺は分かりません」
 いかにもイルカらしい真っ直ぐな意見を向けられる。黒く強い意志がこもった目は相変わらず輝いていて、綺麗だな、と思う。
 そして何て説明しようか、カカシは考えるつもりのなかったその理由を頭の中で探り、そして、斜め横にずらした目をイルカに向けた。
「全然違うんだよね」
 短い言葉にイルカは反応を示す。
「何が・・・・・・ですか?あなたが誰かを抱く事自体それは何も変わらないじゃ、」
「そうじゃなくって」
 被せられ、イルカはそこで言葉を止めた。カカシは続ける。
「全然違う。商売女もそうだし、どの女も今までは中に出させればそれで良かったから」
 乱暴でいてあんまりな言い方に、イルカは、そんな、と呟く。困った様に眉根を寄せた。
「じゃあ、・・・・・・どう違うんですか」
「先生の裸が見たい」
 かあ、とイルカの頬が赤く染まった。
「なにを言ってるんですか、」
 はっきりと口にしたカカシにイルカは明らかに戸惑っているが、構わなかった。
「俺はね、先生。あなたのその服の下の肌が見たいし、触れたい。暖かい肌に指で触れて、感触を唇で確かめたいし、俺のだって痕を残したい。触れたら、先生がどんな風に感じて声を漏らすのか、聞きたい。それで・・・・・・その口で、俺が欲しいって、言って欲しい」
 そこまで言って、カカシはイルカを見つめ、
「そんな事どの女にも思った事ない。だから、・・・・・・全然違うでしょ?」
 首を微かに傾げ聞くと、またぐっとイルカの眉間に皺が寄った。
「何ですかそれ、・・・・・・ばかばかしい、・・・・・・っ、」
 困り果てたままふいと顔を背ける、そのイルカの手を掴んだ。
「ばかばかしくないって分かってるくせに。・・・・・・先生にだけ、欲情してるの。なのにあなたは俺を軽々しく家に入れて、」
 見つめ訴えるような眼差しに、黒い目が確かに揺れた。頬は赤く動揺しているのも分かる。なのに、その目にさえ酷く欲情している事実。
「ホント限界、」
 カカシは掴んでいた手を離してちゃぶ台にうな垂れるように顔を伏せた。独り言のように呟く。
「・・・・・・どうしたらいいんだろうね。あなたが中心で世界が回ってるみたい、」
くぐもった声で言い、カカシは小さく笑った。
「距離取ったのは自分たけど、あなたといないとそれだけで具合が悪くなりそう」
 情けないぐらいに本音が漏れる。うな垂れたように顔を伏せるカカシの前で、イルカがゆっくり息を吐き出したのが聞こえた。
「俺を好きだって、そう言えばいいんですよ」
 その言葉を聞いて驚き、カカシはゆっくりと顔を上げる。そこには、口にした言葉とは裏腹に、酷く恥ずかしそうな顔をしたイルカがいた。
 じっと見つめたその少しの間の後、見つめる先でイルカは僅かに開いていた口をぎゅっと結んだ。そしてゆっくりと手を伸ばし、カカシの指に触れ、そこから自分の指を絡ませる。その仕草に心臓が痛いほど高鳴った。湧き上がるのは単純なほどの欲望で。恐る恐るイルカを見つめた。
「・・・・・・いいの?」
 この人に関しては歯止めが効かなくなりそうで、怖い。その真意を知ってか知らずか、頬を赤く染めたイルカはカカシの台詞に僅かに眉を寄せた。戸惑いの色を見せながらも、
「・・・・・・いいですよ。だって、・・・・・・そのつもりで入れたんですから」
 カカシの目が丸くなる。
「・・・・・・え?」
 聞き返しながらも少し拍子抜けして、目を少し丸くしたカカシをじっと見つめ返した。
「俺だって馬鹿じゃないんです。でも、かけひきなんて器用な真似も出来ない。あなたが花街に行こうとした事は正直腹が立ってます。でも、」
 言葉をそこで切ったイルカはカカシににそっと近く。
「でも、あなたがあんなキスをするから、」
 驚いたままのカカシをイルカは悔しそうに見つめ、ぐっと眉を寄せる。
「・・・・・・だからっ、この前みたいなキス、してください」
 絞り出す様に、言った。

 
 キスをしているだけなのに、勝手に息が上がる。
 イルカは口付けを必死に受け入れているのが分かっていた。それでも、自分の気持ちが高まって仕方がない。キスをしながら壁側に置かれたソファにイルカを押さえつける。一回離した唇をもう一度塞いだ時に額に当たったのは、木の葉の忍の証である額当てだった。が、今は邪魔だ。カカシは自分のそれを外すと床に投げる。口付けで少し位置が歪んだイルカの額当ても掴むと取り、同じように床に投げる。そこでイルカを見ると目が合った。黒い目がカカシの顔を見つめ、その表情に酷く胸が高鳴った。耳まで真っ赤にして目が潤んでいるのは、口付けからくるものだ。でもそれが堪らない。
 頬に手を添えまた深く口づける。欲望のままに口内を荒らした。
「・・・・・・あんたの歯が好き」
 高まる気持ちのまま呟くとイルカが眉を寄せた。
「・・・・・・っ、変態かよ、」
「だねえ」
 悪態にもカカシは嬉しそうに顔を緩めた。そこから自分のベストのジッパーを下げ脱ぎ捨てると、イルカの肩を抱き寄せる。
「待って、」
 言われても何の待ってなのか分からない。カカシは困ったように眉を下げ、薄く微笑む。
「ごめんね、無理」
 そう言って、イルカを引き寄せ再び唇を奪った。


 傷口につけた軟膏をイルカの後孔に塗りつけ、時間をかけてそこを慣らす。カカシの中指が入り奥に潜り込ませると、イルカが背中を震わせた。普段こんな用途として使う場所ではないそこは、慣れていないからか、カカシの指を締め付ける。
「あ、あっ、カカシさ、」
 ひくひくと収縮する動きを見せる度、急かされた気持ちになった。切なそうに名前を呼ばれ自然カカシの息も上がる。勃ち上がったイルカの陰茎もまた先走りで濡れながらも僅かに震えている。それを手で包んだ。上下に動かすとぐちゅ、と音が鳴り、イルカが息を呑んだ。そこから指を広げ二本に増やす。
「・・・・・・せんせ、気持ちいい?」
「わかん、な、 ・・・・・・っ」
 軟膏のおかげで滑りがいいそこは、二本の自分の指を難なく呑み込んでいる。恍惚とした表情でそこを見つめた。
 今まで男を相手にした事がなかった。だいぶ慣れてきたかとは思うがイルカに痛い思いはさせたくない。
 それに、今日こんな事になるとは夢にも思っていなかった。ずっと欲していた、こうしてイルカの肌に触れ、自分の愛撫で感じ、イルカの陰茎が物欲しそうに勃ち上がっている。それをゆるゆると動かしながら舌で舐め上げた。側面を唇で触れ舐め先端を吸う。イルカが絶え間なく声を漏らした。それを抑えたいのか、手の甲で自分の口を塞いでいる。が、その手をずらし、イルカが顔を上げ屈んでいるカカシへ目を向けた。
「カカシさ、・・・・・・」
「・・・・・・なに?」
 お互いに余裕がない。自分の頬も火照っているのが分かる。陰茎を舐め唇を濡らしたままのカカシを見つめ、イルカは震えながら口を開いた。
「もう、・・・・・・入れて」
「・・・・・・え?」
「だから、おねが、もう入れてくだ、さ、っ」
 イルカの言葉を聞き届けると同時に、かあ、と頭に血が上った。
 こういう時はゴムを使った方がいいのかとか、色々巡っていた考えがどうでもよくなった。指を引き抜くと更にイルカの足を開かせる。カカシは既に固く屹立しているそれを後孔へ押しつけた。
 先がじょじょにそこを押し広げ、入っていくと、イルカが切なげに息を吐き出した。
 圧迫感で苦しいのか、でも、自分も余裕がなかった。押し込んでいけば、熱い熱量をみるみる飲み込んでいく。
「あ、あ、・・・・・・っ、んっ」
 声を漏らすその唇にキスをして、全部埋めてから、その中の感覚に、カカシは思わず熱っぽい息を吐き出した。イルカが反応して身体をぶりと震わせる。
「やば・・・・・・きもち、い・・・・・・」
 その気持ちよさに目眩がした。今まで感じた事がなくて、それが信じられなくて、今までのセックスがなんだったのか。そんな事を思うが、すぐにどうでも良くなった。快感の波に呑まれる。
 眉根を寄せ、イルカを両肘で囲うようにして、そこからゆっくりと腰を動かした。苦しくないのか、揺すり上げながらイルカの顔を見たいが、しがみついたまま、絶え間なく甘い声を漏らしている。そのイルカの声を聞きながら、心地よさに、カカシもまたぎゅっと目を閉じ眉根を再び寄せた。こみ上げる快感に下腹部が疼く。突き上げると、イルカが背中で爪を立てた。
 突き上げる度に腹の間で挟まれ擦られ、イルカは溜まらず熱をそこで放った。同時に中を締め付けられ、カカシもまた身体を強ばらせ中に欲望を吐き出す。
 荒い呼吸だけが、部屋に響いた。
 その通り、滅多にそこまで汗を掻かないのに、今は額にも背中にもじっとり汗を掻いている。背中にしがみついてたイルカの手の力が抜け、カカシもイルカの首もとに埋めていた顔を上げる。イルカも同じように汗を掻いていた。そして、そこで目が合った時、自分の中の色々なものが解放され身体の力が抜けていて、思わずカカシは笑っていた。
 イルカもはあはあと息をきながら、不思議そうにカカシを見て、何ですか?と口にする。
「いや、なんか、先生とのセックスが気持ち良すぎて」
 そう素直に白状すると、イルカが目を一瞬丸くした。
「……散々遊んでいた人の言葉には聞こえないですね」
 嫌味混じりのその言葉に、カカシは眉を下げるしかなかった。

 数日後、カカシはイルカと一緒に定食屋で昼飯を食べる。
 いつものように、運ばれた定食を前にして口布を下げ食べているとイルカがこっちを見た。目を細めるように微笑むと、単純にもイルカは顔を赤くする。そんなイルカを見ながら思うのは、イルカから告白をされ、どこが好きなのか敢えては聞いてはないが。見た目も入っているんだろうなあ、とそれは分かっていた。ただ、それが嫌だと思えないのは、自分もまたイルカの容姿に惹かれているから、と言うのもある。あとは、ーー、
「どうしたんですか?」
 ご飯、冷めちゃいますよ。箸を止めたカカシにイルカが問いかける。うん、とカカシは答えた。そしてもう一度口を開く。
「俺さ、この顔で女が寄ってくるから鬱陶しいけど便利だとは思ってたんだよね」
 イルカが唐揚げを食べていた手を止めこっちを見た。
「でも、あなたが俺を見てドキドキしてくれるなら、初めてこの顔で生まれてきて良かったなあって」
 本音をボソリと漏らしたら、イルカはきょとんと目を丸くした後、ゲラゲラ声を立てて笑い出した。そりゃあ良かったです、と言うイルカは目に涙さえ浮かべている。
 そんな可笑しい事を言ったつもりはない。その笑い様に一瞬ムッともしたが、でもイルカが幸せそうで、これでいいんだと感じる。だから、カカシもまた嬉しそうにイルカを見つめ共に笑った。



<終>







(ずるい・・・・・・)
 はあはあと息を吐き出しながら、イルカは波のようにうねる快感に強く眉根を寄せた。
 ズボンを膝下あたりまで下げられ、むき出しになった尻をカカシの大きな手が掴んでいる。引き寄せられるように肉棒を奥まで差し込まれ、イルカは、ひっ、と息を上げた。目には涙が溜まる。
「あっ、んっ、んっ」
 揺すり上げられ、声にならない声がまた自分の喉から漏れた。
 こんな事するつもりじゃなかった。
 イルカは途切れ途切れになりそうなりつつも、そんな事を思う。
 後悔したって遅いのも分かっている。書庫室独特の匂いに混じり、自分の吐き出された精液と汗の匂い、そして肉のぶつかり合う音がひっきりなしに部屋に響き感覚を鈍ら、高まらせる。
 全部、ーーカカシが悪い。イルカは嬌声を漏らしながらそう思った。
 自分は嫌だと言ったんだ。ちょっとでもにやけた顔で人を茶化すような顔でもしてくれれば、ぶん殴ってやったのに。それなのに、勝手にそんな気持ちになったカカシはやけに切迫した顔なんかするから。一瞬でもそれに絆されキスを受け入れてしまった。
 ーーそれに、浮かぶのは昨日の昼間の情景。
 昨日の昼間、報告所で報告書を受け取り目を通していた時に、ねえ、と声をかけられた。それは目の前に立って自分に報告書を渡したくノ一で。目鼻立ちがくっきりとした綺麗な顔をこっちに向けている。ただ、顔を知らない筈がない。自分とカカシが付き合う事になった翌日、廊下で発情期の猫の様にフェロモン出しながらカカシに擦り寄っていたくノ一だ。ただ、自分とは関係はない。
 だからなんだろうと思えば、自信たっぷりの表情のままじっと顔を見つめ、赤い唇の口角を上げ、
「カカシっていいでしょ、」
 そう口にされ、イルカの目が少し丸くなった。
 挑発的な口調だが、いいでしょ、の意味がよく分からないと思っていれば、セックス上手いものね、と付け加えられる。
 面倒臭いな。
 イルカは内心舌打ちをした。立場的にカカシとの事は公にはしていないし、そんな風に見せたつもりもなかった。今、同僚が席を外して良かった、なんて別の方向に思考が向かう。
「飽きたらさっさと別れてね」
 黙って反応を示さないイルカにくノ一はそう告げると受領前だと言うのにそのまま部屋を出て行った。
 角度を変えられる深く挿入され、思考が引き戻される。
 自分がこんな気持ちになってるなんて知るわけがないカカシは、セックスに没頭してひっきりなしに腰を激しく打ち付ける。どうにかなってしまうくらいに気持ちがいい。そして、滅多に聞かないカカシの荒い呼吸に、それだけで下半身が疼いた。
 カカシが小さく息を呑んだ。動きを緩める。
「せんせ、締めないで、・・・・・・」
 熱に浮かされた声で言われ、分からないから、そんなの知らない、とそう返したいのに、緩いじれったい動きに溜まらず小さく声にならない声がだけが出た。
 呼吸を整えるように、張りつめた陰茎をゆっくりと抜き差しする。ぐちゅぐちゅ、と水音が淫靡に耳を刺激する。じれったくて腰を捩らせたら、背中をカカシの手で上から押さえられた。
「だめだよ先生、ほら、もっと腰だけ上げて」
 四つん這いになった姿勢で、尻だけを突き上げる。カカシからは全てが見えている。羞恥に身体が熱くなった。きっと、耳まで赤い。
 キスを迫る前に見せたあのせっぱ詰まった表情を見せた、あのカカシと同じとは思えないくらい、少しだけ乱暴に貪るようなセックスを強いられ、ついて行くのに精一杯だった。
 それに外でなんかでセックスなんて天地がひっくり返ってもあり得ないと思っていた自分とは違い、慣れた動作が気に入らない。元々女遊びが激しかったのは知っているが。
 悔しいくらいに、身体が翻弄されている。
 掴み直された尻に陰茎で激しく突き上げる。締まる肉の間を擦される快感に、抑えようとしても無理だった。
「ひ、や、あぁ・・・・・・っ、あっ」
 イルカから大きな声がひっきりなしに漏れる。と、カカシがイルカの身体をぐるりと回し仰向けにさせた。背中が床につく。ひやりとした感触は一瞬だけだった。カカシがイルカに覆い被さる。濡れそぼった陰茎を物欲しそうにひくつかせている後孔へ押し込んだ。精液でぬめったそこはずぶずぶと飲み込んでいく。
「あ、あ、あ、・・・・・・っ、」
 ぶるりと背中を震わせれば、カカシは手甲をつけたままの手でイルカの口元を隠すように覆った。
「声、漏れちゃうから、」
 カカシが小さく熱っぽく呟く。
 それがやけに自分勝手に聞こえた。だって、ちょっとだけって、言ったくせに。嘘ばっかだ。既に何回か奥に吐き出されている。 
 急に体勢を変えられ顔が見えるようになった、そのカカシを責めるような目で睨めば、息が上がったままの顔でカカシは困ったような笑みを浮かべた。
 そこから向かい合わせになってカカシに散々突き上げられ、すごい勢いで追い立てられ中を激しく擦られる。触れられていないのに、イルカはカカシの指を噛みながらまた達した。床がまた無惨に汚れる。カカシもまたその後直ぐに短いうめき声を漏らし、最後はそれを引き抜き服を捲り上げられたイルカの腹の上に放った。
 乱れた服と荒い呼吸音と、漂うのは淫靡な空気。
「・・・・・・あんた、何回やってんだ、」
 やっとの事で責める言葉を口にしたイルカに、精液を放った後の倦怠感を纏った目でイルカをじっと見つめていたカカシは、情けない笑みを浮かべ、ごめん、と言った。


「あー腹減ったなあ」
 汚れた部屋を掃除して、やりかけた仕事をようやく全て終え、建物を出たらすっかり夜が更けていた。
「だから、ラーメン奢るって言ったじゃない」
 イルカのわざとらしい台詞に、隣を歩いていたカカシが、小さく笑いながら拗ねるように言う。
 まあ、あの後散々カカシをこき使ったのだから、そこまで腹は立ってはいないが。カカシを責めたくてこうして責めてはいるが、なんだかんだで流されてセックスした自分も自分だ、と言うことはよく分かっている。
 あのくノ一の言ってることはまあ、正しく、そしてただ言えるのは、ざまあみろ、言う事。
 そして、疲れた。イルカが両腕を上げ背伸びをすると、カカシが、何でかなあ、と小さく呟いた。
「何がですか?」
 イルカは腕を戻しカカシへ顔を向けると、カカシもイルカを見た。
「いやね、俺そこまで性欲ない方だったのに。先生を前にすると今までの全てが覆されるって言うか、」
 不思議そうにでも淡々と言う。
 一体何を言い出したのかと顔を赤らめながら見つめると、カカシはニコリと笑った。
「ま、これからもよろしくね、イルカ先生」
 そんな事を言われ、何とも言えなくなって、蹴ってやりたくもなるが、それも躊躇われて。
 でも仕方ない。
 カカシが好きなのだ。
 あんな事を許してしまうくらいに。
 イルカは黙り込んで、そして顔を赤く染めながら夜空を見上げ、分かってます、と大きく一声口にした。そこからカカシへ顔を戻す。
「じゃ、ラーメン食いにいきますか」
 白い歯を見せて笑うイルカに、カカシは少しぽかんとしたが、すぐに嬉しそうに笑った。

<終>
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