マカロニグラタン

「あー....やばいよな....」
部屋で一人ぼやいたイルカは、ベットに横になったまま体温計を持った腕を上げ、その表示される数値をぼんやりと見つめた。
喉の痛みに襲われたのは2日前。いつも喉からくる風邪に悩まされていたのだが、今回もまた。と、怠ったつもりはないが、体調管理がなっていなかったと反省しつつ。いつもの薬を飲んでマスクをして、アカデミーに向かった。
翌日は寒気に襲われていた。身体も怠く、ぞわぞわとした寒気に、やばいと思ったから、仕事終わってすぐに帰路に着き、夕飯も早々に床に就いたのが昨日。
昨夜寝苦しいくて何回か起きたが。でも、こんな熱が出るなんて予想してなかった。
でも出たものは仕方がない。
喉風邪で治まってくれたらどんなに楽だったか。
イルカは怠い身体を起こして半纏を羽織る。仕事を休む連絡を取るべく鳥を使って報せを送った。そこからまたベットに横になる。
朝ご飯を食べなくてはいけないと思うし、薬を飲まなければ、と、頭では思うのだが。
重い身体を布団に横たえた瞬間から、そこから這い出る選択はなくなっていた。
取りあえず寝たい。
仕事を休むと決めたからか、イルカの脳はしっかり休養を促しているようで。ただひたすらに襲う眠気に、イルカは素直に従う事にした。
頭が痛い。
きっと熱からくるものだろう。
ここ何年も熱を出した事がなかった。家に常備している風邪薬は熱に効果があっただろうか。
新しく買っておけば良かった。今度薬局のセールの時に買っておこう。あ、でも今欲しいんだけど。買いに行けるのは熱が引いた後になるだろう。
(...意味ないよな...)
身体も頭を瞼も重い。イルカの意識はすぐに遠のいた。

目を開ける。
どのくらい寝てしまったのか。カーテン越しからでも分かる。陽が落ち始めている。時計を見て驚いた。半日寝てしまっていた事になる。
休みの日でもそう寝ることはない。
しばらく残業続きだったからだろう。今月はずっと綱手に側に付いて仕事をしていたのもある。
そこは文句を言うつもりもない。
大変なのは自分だけではないと分かっているからだ。
頭はまだぼんやりとしていた。熱はまだ下がっていない。
額に手を当てその熱さに嘆息して、また布団に横になった。

2月。寒気は未だ緩むことなく、木の葉に覆っている。寒そうな北風が吹き付ける度に窓枠がかたかたと音をたてた。
太陽が出ていれば暖かさも感じるんだろうけど、あいにく陽も暮れどんよりと、雪雲だろうか。灰色の雲が空一面を覆っていた。
それだけで寒く感じる。
電気をつけようと思ったが。どうせ自分は今こうして布団の中だ。
暗くなりつつある部屋で一人、天井を見上げた。
どう見ても狭い部屋がいつもより狭く感じないのは。
分かってる。
体調が悪いからだ。
風邪をひくと、世界中で一人っきりってくらいに寂しい気持ちになるのは何でだろうか。
それは小さい頃、一人暮らしを始めた時からずっとだ。
いかん。体力だけでなく気持ちまでも風邪に吸い取られてしまいそうになっている。
イルカは気持ちを切り替えるように、目を瞑ると息を吐き出した。
でも、昔の自分と違うのはーー。
2日前、喉が痛いと言ったイルカに、服を着込んでいたカカシがその手を止め、振り返った。
「風邪?」
「そうみたいです」
いつもならこの朝早い時間にカカシが起きている事は珍しい。ただ今日は早朝からの任務に向かうため。しかも短期任務で黒いリュックが足下に置かれていた。そのカカシはイルカの返事を聞いて、ふーん、と呟いた。
「熱は?」
「ああ、今のところはまだ。まあ、いつも喉だけで終わりますし、今回もきっとそうだと思うんで」
カカシはそれを聞きながらベストのジッパーを上げて、そこからイルカに歩み寄った。
「ま、...それならいいけどさ。俺いないからって無理とかしないでよ」
え?と、聞き返すとカカシはまだ額宛を付ける前のぼさぼさの髪を掻いた。
「ここんとこ忙しそうだし。あんたの事だから平気で無理しそうだもん」
「...んな事ないですよ」
「もし熱出たら風呂は控えなよ」
「分かってます」
子供じゃないんですから。
そう口を尖らせると、カカシは笑ってイルカの頭を数回撫でる。
額宛を巻き、リュックを肩にかけるとイルカに向き直った。
「終わったらすぐに返ってくるから」
「大丈夫ですって。無理しないんで、ご心配なく」
言うと、カカシは悪戯っぽく微笑んだ。
「そう?俺がいなくなるから寂しいって、顔に書いてあるけど?」
「えっ」
かあ、と頬を朱に染まったイルカを前にカカシは口布をする。
「仕事も大事だけど、風邪しっかり直す事考えなよ」
じゃあね。
言い返す間もなく、カカシはそう言って玄関から出て行った。

頭撫でるとか、あり得ねえんだよ。
ただでさえ熱っぽいのに、そんな事を思い出して、イルカは頬が熱くなるのを感じた。
自分に甘えたりしてくるくせに、急にそんな言葉を口にしたり、こんな自分を甘やかすような仕草を見せる。
良い言い方すれば素直って事になるんだろうが、こっぱずかしいったらありゃしない。
暗くなった部屋で一人そんな事を考えて。
気が付けば寂しかった気持ちはどこかに消えてしまっている。
(でも。帰ってくるのは明日だっけ)
イルカは眉を寄せながら顔の半分を布団で埋めた。
今日一日何も食べていない。
いい加減腹に何かいれなければ。
イルカは起きあがって台所に向かう。冷蔵庫を開けた。
ご飯を一から作る気力はない。
正直、お腹が空いてるのか空いていないのかも分からない。取りあえず、とイルカは冷蔵庫を閉めると水をコップに汲んで飲み干す。
そこで食器棚の下に無造作に置かれたパンに目が留まった。カカシがいないのを良いことに、朝はパンで済ましてしまおうと思って買っておいたんだ。
すぐ食べれるなら何でもいい。
イルカは食パンを手に取ると今に戻りバターとハチミツを塗って口に入れた。ぼーっとする頭でそのパンをもぐもぐと噛んで飲み込む。
胃が満たされていく。それだけでいい。
黙って一人食パンを食べ、また水を飲む。
ほう、と息を吐き出した。
そこからまたイルカは火照った身体でぼーっとしたままベットに向かって布団に身体を埋めた。目を瞑る。
カチカチと時間を刻む時計の音だけが耳に入ってくる。
外の風が強くなったのか、強い風の吹く音と家を揺らす音も耳に入る。
不意にまた寂しい気持ちが沸き上がりそうで、イルカはその気持ちを遮るように起きあがった。
「風呂」
口に出してみる。
昨日も風呂に入るとか、それどころじゃななくて身体を休めるだけで精一杯だった。
まだ熱があるかどうかくらい自分でも分かる。身体は熱い。
だから、少し悩むように口を尖らせていた。
カカシが熱が出たら風呂に入るなとか言ってたのを忘れたわけじゃない。
まあ、でも今カカシがここにいるわけじゃないから、ぐだぐだ言われる事はない。
イルカはふらりと立ち上がって脱衣所に向かった。
風呂を沸かしながらイルカはパジャマを脱ぐ。
そうだよ。身体も綺麗にして服も綺麗になれば心身共にすっきりするんだから、間違った事していない。
そう自分を正当化する言葉を心で呟いた。
たっぷりお湯が張った風呂に身を沈める。
熱めにして正解だった。
イルカは熱でぼんやりしながらも、湯に浸かる気持ちよさに息を吐き出す。
「風呂さいこー」
ざばざばと顔を洗って風呂の縁に頭を置いて目を閉じた時。
風呂場の扉が勢いよく開いた。
湯の中で驚きに頭を上げ目を開けると、そこにすごい形相をしたカカシが立っていた。カカシに湯気がかかっているが、すごい顔をしている事には間違いがない。
「何で風呂入ってるの?!」
カカシの第一声が風呂場に響いた。
「カカシさん、今日帰還予定だったんでしたっけ...?」
ぼんやり聞き返すイルカにカカシは眉を寄せた。
「早く終わったんで飛んで帰ってきたんですよ。報告してたらあんた今日熱があるからって。それで仕事休んだって言うじゃないですか」
「はあ...」
受付で仕入れたネタのだろうか。
でもカカシの言う事はその通りで、カカシの着ている服は戦闘後のままに薄汚れている。
「なのに、何のんきに風呂入ってるの?」
カカシは風呂場にずかずかと足を踏み入れ、手甲をつけたままの手でイルカの額に触れた。
「熱下がってないじゃない」
ずばり言われてイルカは何て言おうか、取りあえず薄ら笑いを浮かべた。
「どうしても入りたくなっちゃって」
それを聞いてカカシは目に見て分かるような大きな嘆息を漏らし、ジロリとイルカを睨む。
「子供じゃないんだからさ...」
「...すみません」
イルカは反論の余地もなく謝ると、まあいいですよ、と、むすっとした顔のまま呟いた。
「ちょっと待ってて」
「え?」
「俺洗ってあげるから」
「...え」
驚いた。怒ってるカカシからそんな言葉が出ると思わなかった。
それに、任務で疲れて帰ってきたカカシに身体を洗ってもらうのは流石に気が引ける。
まだ額宛も外していないカカシの青い右目がイルカを見た。
「熱下がってないんだよ?それで湯あたりでもされたら堪らないですからね」
ただでさえ湯に浸かるだけでも体力取られてるんだからさ。
追加してそう言われ。責めるような眼差しに、はあ、とイルカは申し訳なく力なくそう答えれば、カカシは、だから待ってて、とイルカに告げると風呂場から出て行った。


「どう?」
「はい。気持ちが良いです」
カカシの長い指がイルカの髪を洗っていた。頭皮を揉むように思った以上に優しいカカシの指に、イルカは目を閉じて答えた。
湯船に浸かりながら浴槽から洗い場に頭を出し、カカシが洗い場でしゃがんでいる。
ふと目を開けると、アンダーウェアを肘まで捲ったカカシと目が合った。
額宛も口布もしてないカカシはベストを脱いだだけの服装だ。
てっきり一緒に風呂に入るとばかり思っていたから。
この格好で現れた時は驚いた。
カカシに、もしかして一緒に入りたかった?と聞かれ、思わずぶんぶんと頭を降ったら、まあいいけど、と、どう受け取ったのか分からないが、カカシは笑った。
「流すよ」
言われて、イルカは我に返り慌てて、はい、と答えて目を再び閉じる。
ゆっくりとシャワーで泡が流されていく。
洗う行程はさしていつも自分で洗うのと変わりないはずなのに。何でこんなに気持ちがいいんだろうか。
でも。
(やっぱり...こんな事してもらっていいのかな)
里を誇る忍びに、任務から帰ってすぐにこんな事をさせているのは自分だ。
後ろめたい気持ちがイルカを包むが。
カカシがお湯でシャンプーを流しながら長い指で髪をとかす。
気持ちよさにイルカは小さく口を開けて息を吐き出した。
シャワーを止める音が聞こえた。
「終わったよ」
「あ、はい」
目を開けると、
「じゃあこっちきて。身体洗うから」
当たり前のように言われてイルカは身体を起こしながら、困った。
「身体は自分で洗います」
「何で?」
「だって、ほら、俺いい大人ですし、」
そこまでやっていただくわけには。
口ごもるイルカに、カカシは不思議そうな顔をした。
「恋人同士なんだから、いいでしょ」
イルカはその台詞に恥ずかしさがぐうっと沸き上がった。
だから。恥ずかしい事を何でもないような顔して言うなよ。
しかも俺だけ裸って。
「いいから、早く」
手を差し出される。
強引な感じなのに、優しいところが気にくわない。
イルカはあきらめて湯船から上がった。

「じゃ洗いますねー」
カカシは少しふざけたような口調で、ボディソープを泡立てた手で背中に触れた。イルカが小さく笑うと、カカシも合わせるように笑った。
「やっぱまだ身体熱いね...これで直ぐに布団で寝なきゃね」
「...はい」
ぬるぬると背中を指圧するように指で擦った。
「気持ちいい?」
言われてイルカは素直に頷く。
「なら良かった」
カカシは嬉しそうに言う。
何かずるいんだよな。
そっけない所と、優しい所を上手く使いこなされこれだけの事で胸がときめく。しかも悔しいのはカカシが無意識だってところだ。
いい大人の男が胸がときめくってのもおかしいけど。
そうなのだから仕方がない。
(格好良いよな)
選ぶ相手は山のようにいたはずなのに。
なんでカカシは俺を選んだのか。
その気になればどんな女でも、かなりの可能性でカカシに振り向くはずだ。
自分のような。ぱっとしない中忍をカカシは好きだと言った。
 俺の恋人になって
その時の事を思い出して、うっかり胸が激しく打ち始めた。
同時にカカシの手が胸に回っていた。
「...気分悪い?」
自分の鼓動に気が付いたカカシにそう聞かれ、前を向きながら首を振った。
「いえ、違います」
否定して、カカシの指の腹が胸の先端に触れた。洗う行程の何気ない行為だって分かっているのに。自分の身体が揺れた。
顔を上げれば鏡越しにカカシと目が合う。
(くそ、)
熱で顔が赤くて良かった。
イルカはぎこちなく目線を外した。
腹筋あたりをカカシが洗い、そこからまた背中にカカシの手は移り、背中の傷跡に触れた。
ぞくぞくと寒気がイルカの背中を走った。
熱からくる寒気ではないのは明白で。
思わず身体に力を入れた。短絡的な自分が嫌になる。
ぎゅっと目を閉じる。ふとカカシの手が離れた。
「後は自分で出来るよね」
その言葉に目を開け、振り向く。
いつものカカシの顔なのに。驚き微かに息を呑んだのは。
熱を帯びたような目だったからだ。
自分だけが勝手にそんな気持ちになってしまっていると思ったのに。
ーーやはり気づかれていた。
そう分かった途端、イルカはかあ、と顔が熱くなるのが分かった。
そこからゆっくり口を開く。
「...自分で、出来ます」
「...うん。じゃあ、...」
カカシはそれだけ言うと洗い場から出て行ったが。その動きは少しだけぎこちなかった。
カカシがさっき言ったように、恋人同士なのだからそんな気持ちになる事は変じゃないのに。
いつもだったらカカシは行為に及んでる。
そんな男だ。
でも、自分は今日熱があって、体調が悪い。だからカカシは気持ちを隠して我慢している。
それが分かってしまった。
いつもと違う風のカカシに、うっかりまた自分はそこで胸が苦しくなってしまっていた。
(ああ、もう)
イルカは茹だっているような頭を振ると身体にお湯をかけた。

風呂から上がると、脱衣所に自分は用意していなかった新しいパジャマと下着が置かれていた。カカシが用意してくれていたのは明らかだ。
言葉に出来ないむず痒い気持ちでパジャマに袖を通す。
着終わって扉を開けると、台所に立っているカカシが振り返った。
さっきの風呂場の格好のまま、缶ビールを片手に持っている。
「すみません、待たせてしまって」
「ううん。じゃあ、俺も入るから」
カカシはビールを飲み干すとイルカの横を通り過ぎ脱衣所に消えていく。
カカシが風呂に入った音がして、そこで初めて息を吐き出した。
まだどきどきしている。
男同士なんだから何もおかしい事もないのに。
でも、やはりカカシの前ではどうも調子が狂ってしまう。それが女みたいでどうも気持ち悪いし恥ずかしいし。
イルカはタオルで髪を擦りながらコップに水を汲んで飲み干す。
また、はあ、と息を吐き出した。
寝室へ足を向け、布団の上にバタリと寝ころんだ。
布団が整えられているのは。カカシがこれもやってくれたのだ。
そんな気持ちになってはいけないと思えば思うほど、もどかしい気持ちになってしまう。
どうしよう。
と思うも、どうしようもクソもないのは分かっている。
うつ伏せになって枕に顔を埋めた。
「イルカ先生」
カカシの声に胸がドキリと音を立てた。
顔を上げると、カカシが眉を寄せてこっちに歩いてくる。
「髪乾かさずに寝ちゃ駄目でしょ?」
風邪引いてるって自覚ある?
カカシは、呆れた口調でそう言うと。起きあがったイルカの肩からタオルを取り髪を拭き始めた。
風呂上がりで石鹸の香りがカカシから匂う。
黙ってそれに従うイルカに、ったく、と呟くカカシを見上げた。その視線にカカシが気が付く。
「なに?」
髪を拭かれながら見上げるイルカを見つめ、手を止めた。
「...しませんか?」
「え?」
何を言っているのか、と、聞き返すカカシに、イルカは火照った顔のまま、また口を開いた。
「今日、したいです」
黒い目がじっとカカシを見つめる。
驚きからか、一瞬言葉を失ったカカシの目に葛藤の色が浮かぶ。そこから、ゆっくり薄い唇が動いた。
「何言ってるの。あんた今日熱あるって分かってる?」
「分かってます」
そう言われても口に出してしまったら中々引き下がれない。黒い目に赤く上気した頬で見上げると、カカシは一瞬惚けたような目を見せた。
カカシの喉が上下する。
いつもは。多少なりとも強引に、身体を求めるのに。
イルカを見下ろしたままカカシは暫く考え、
「じゃあ挿れないで...する?」
それが自分の為だと、それが分かる。
カカシの提案に。それでもいい。カカシの肌が恋しい。
こくりとイルカは頷いた。

「....んん...っ」
「後ろ向いて」
パジャマを脱がし愛撫を加えながらカカシはイルカをうつ伏せにさせた。
いつも以上に熱く火照る身体は怠いが、カカシとのその行為に陶酔しているかのように心は満たされていくのを感じる。
風呂場で触れられた時とは違う、愛撫する指に胸を触られるだけで声が漏れる。剥き出しになった尻をカカシは掴んだ。広げられ、ただ、指の腹で擦る。
それだけで目眩がした。
挿入されないと分かっていても、その箇所をカカシに見られていると思うだけで恥ずかしくなる。粘膜を擦っただけで指は離れ、太股の間に熱いカカシの陰茎が触れた。ローションを塗ったそれはぬちゅ、と厭やらしい音をたてながら閉じられた腿の間に割り込んでくる。
「んっ」
いつもと違う感覚に、心臓が高鳴った。いつも内部で感じるカカシの大きさが、自分の腿で動く度に硬さを増していく。後ろからカカシの手が胸を触り、イルカは震えた。
掴まれ潰されその刺激に身体がびくびくと反応する。
ゆるゆるとカカシが腰を動かす。
「....ん...ふっ、」
気持ちいいのは自分ではなくカカシなのに。荒くなる息づかいが聞こえるだけで、興奮する。イルカは自分の陰茎に触れた。半ば立ち上がっている。自分の手のひらでカカシの腰の動きに合わせて動かすが、求めている快感とは違うと気が付いていた。
下半身の奥でくすぶり続けている。じわじわと。
その求める快感を抑えるように陰茎をこすりあげる。そのイルカの手にカカシの手が重なった。
「...や」
何故か拒否する言葉が自分から出ていた。
背中でカカシがクスリと笑った声が聞こえた。そのイルカの拒否は受け入れられず、カカシの手が代わりにイルカの震える陰茎を包み込んだ。
「あ、ぁ...っ、あ」
言葉にならない声が漏れた。
気持ちいい。
だから、これでいいと思っているのに。
「だ、め」
出したらそれで終わりだって分かっている。だから少しでも。
イルカはカカシの手を振り払おうとする。イルカの意図が分かったのか、カカシは手を離し、今度はイルカの尻を掴んだ。
熱いカカシの陰茎が腿で強く擦られる。
再び身体の奥でくすぶり始める。
ーーもどかしい。
イルカは眉根を寄せた。
カカシの動きがぴたりと止まる。どうしたのか。
イルカが首を捻ってカカシを見ると、気むずかしそうな顔でこっちを見ていた。
「ーー?なに、」
聞くイルカに、カカシの手が動き、イルカの粘膜に指が触れた。
「あ、」
不意に触れられ腰が揺れる。
「さっきから、ここが動くんだよね。ーー誘ってるみたいに」
かああ、と顔が熱くなった。
カカシの指が擦りながら第一関節まで指を埋めた。
途端ぞくぞくとしたものがイルカの背中を走り、思わず背中をしならせた。
ごくりとカカシが唾を呑んだ音が聞こえた。そのまま指を根本まで入れ内膜をゆっくりと押し広げた。
「ん、ん、ん」
イルカは顔をシーツに埋めて尻を高く上げたまま指が動く度に声を漏らす。
「...ね...挿れたくなっちゃった。...駄目?それとも身体、辛い?」
甘い声で強請るように聞かれる。
駄目な訳がない。
だって、ずっとそれが欲しかった。
「...挿れて...欲しいです」
「良かった」
イルカが答えるとカカシが後ろから覆い被さり耳元でささやいた。耳たぶを甘噛みする。
その刺激だけでまたイルカが声を漏らした。
右手を添えた陰茎がゆっくりとそこに入り込む。
これをずっと望んでいた。
「はっ.....んっ、」
前立腺が圧迫され脳が溶けるような気持ちよさ。
たまらない。
「あつ...」
根本まで押し入れたカカシから言葉が漏れた。
そこから腰を掴まれ激しく突き上げられる。そこから行為に夢中になった。それはカカシも同じだったのだろう。
愛するという行為は決してこれだけじゃないと分かっているのに。
それでも彼の手が自分の身体に這い、自分を求める肉棒が自分を貫く度に動物的な単純で純粋な求愛に、自分は満たされている。
嬉しいのは、カカシが同じくらいに没頭していると言うこと。
理性と葛藤してさえも、また自分をカカシが求めてくれた。
他はどうでもいい。
最奥へ何度も貫かれ、イルカはすぐに達した。カカシも同時に熱いものを注ぐ。シーツが汚れ、ぐしゃぐしゃになっている。でもそれはどうでもよかった。
満たされたイルカは目を閉じそのシーツの中に身を埋めた。

「カカシさん?」
行為の後ベットから起きたカカシはスェットを着込むと外に出て行っていた。
数分してすぐに戻ってきたカカシは台所で水を汲んだグラスを、寝室にいるイルカに持ってくる。
浮かない表情が気になって名前を呼ぶが、カカシは気まずそうなまま。
イルカはカカシから受け取った水を飲んだ。
喉から染み渡る冷たい水が気持ちが良い。
「外に何か忘れものだったんですか?」
「ん?いや、ちょっと、...煙草をね」
驚く。あまりカカシが煙草を吸うなんて事はほとんどなかったからだ。
カカシはため息をついて頭をがしがしと掻いた。
「熱出た時くらいはって我慢したかったのに。ごめん」
口惜しそうにカカシは言う。
でも、それは俺が最初誘ったからだって、忘れてしまったのだろうか。
そんな気を使ってくれていたんだと、改めて知って。イルカは嬉しく微笑んだ。
カカシがそのイルカの笑顔を見てむっとする。
「なに、人が謝ってるのに」
「だってらしくないなあって」
イルカは汚れた布団にくるまりながらくすくすと笑った。カカシはますます納得いかない顔をした。
熱がまだあっても、身体は怠くても。一人で部屋にいた時と全然違う。
この安心感はかけがえのないものだと、気づかされる。
俺にとって、この人は。
「カカシさん、俺お腹空きました。マカロニグラタン食べたいです」
「あんたねえ」
呆れた声が返ってくるも、カカシは諦めたのか、息を吐き出してイルカの横に座った。
「取りあえずはお粥か煮込みうどん」
そこは譲らないから。
真面目な顔で言われる。
やばい。可愛い。
って言ったら何も作ってくれなくなる。
イルカは破顔して笑顔のまま頷いた。

<終>