mellow
「あ」
暖簾をくぐって声を出したのはカカシだった。
既にテーブルに座っていたイルカも、その声に顔を向けてカカシに気がつき、同じように声を出す。
「お疲れさまです」
そう続けたイルカに、うん、と応えるとカカシはテーブル席にいるイルカの前に座った。
「今日は混んでるね」
「ええ、時間帯が時間帯ですから」
イルカが視線を向ける店内の時計は、ちょうど正午を指していた。カウンターは既に別の客で席は埋まっている。カカシは腰を下ろすと、イルカの隣にいるナルトに目を向けた。
「お前昨日も昼にラーメン食べたって言ってなかった?」
眠そうな目を向けられる。
日頃から、カカシは自分に対してイルカ以上に食生活に関して口を出す。サクラにもサスケにもそうだが、自分には特に。
さりげなく何を食べたかを聞き出し、何が足りていないかを指摘する。
昨日もラーメンを食べたと答え、カカシから米を食べるようにと言われていたのを忘れていた訳ではなかった。
でも、今日は久しぶりにイルカに誘われたのだ。断る事なんて選択肢にはなかった。
「あー、うん。そうだけどさ」
誤魔化すように笑えば、カカシから返ってくるのは変わらない眼差し。そこに店主の声がかかった。注文を聞かれ、カカシは顔を後ろへ向ける。ちょっと安堵したのもつかの間。
「何だ、ナルト。お前カカシさんとそんな話しになってたのか」
何となく察したイルカに聞かれて、ナルトはまた笑うしかなかった。
「ああ、うん、でもよ」
「でもよ、じゃあないだろう」
「ああ、いいよ先生」
注文を終え、向き直ったカカシが手をおしぼりで手を拭きながら答える。
「全部自己責任だって事は、こいつが一番分かってる事なんだから」
ね、ナルト。
カカシにさらりと言われ、カチンとするもナルトはその言葉に重みを感じていない訳ではない。小さくうん、と答えて頷くしかなかった。
日頃の食生活は忍びである自分の日々の任務に直結してくる。それはアカデミー時代からイルカにも言われてきた事だが、実際に上忍であるカカシの下で任務をするようになってから、それは実感していた。
それに、里一の忍びであるカカシの言葉ほど重いものはない。イルカに日頃言われていた事と同じなのに、その温度差はかなり違う。
それは、正直に返せばカカシの口調が冷たいと、そうなるが。
その意味もナルトもよく分かっていた。
つい。気を緩めてしまった自分が間違っていると分かっている。
でも。イルカに誘われたのが嬉しかったのだ。
「夕飯はおにぎりにする」
あと野菜が入った味噌汁。そんな言葉を口にすると、
「うん、いいんじゃない」
と、立て肘をついてナルトを見ていたカカシが、にこりと微笑んだ。
「はい、お待ち」
先に注文していたイルカとナルトのラーメンが運ばれてくる。
「じゃあ、お先にいただきます」
イルカがそう口にして食べ始め、ナルトも同じように湯気の立つラーメンを啜った。
時折イルカはカカシと会話をするものの、ラーメンを黙々と食べる。
食べながら、ナルトはアカデミーを卒業して3人で食べる機会が増えてきている事を思い出した。たまたまなのかもしれないが、カカシもここのラーメンが好きなのだろう。
まだラーメンを運ばれてこないカカシは立て肘をついたまま、ラーメンを食べるイルカを見ている。
そのカカシの視線を、ラーメンを口に運びながら見つめた。
そうだ。
なんとなくこんな場面が何回もあって。
その度に感じていたけど。
カカシがイルカが何かを食べている時に、よくこんな目をする。
普段のカカシが見せることがない眼差し。自分といる時も。普通にイルカと会話をする時もその目は見せない。今みたいにイルカがご飯を食べている時にだけ。
何て言葉にしたらいいのか分からないけど。
(なんて言うか・・・・・・すごく・・・・・・)
優しい。
ああ、でも。
自分が食べている時にイルカが向ける眼差しにも、似ている。
それに気がついたら、何で?と素朴な疑問が沸き上がるのに、それを口に出すのは何故か躊躇われた。それを認めたくないし、気がつかないふりをしていたい。
いや、見なかった事にしたい。
そんな思いからふと目を伏せた時、
「イルカ先生って箸の持ち方、綺麗だよね」
カカシの言葉にナルトは顔を上げた。イルカも、顔を上げ少し驚いた顔をし、すぐに恥ずかしそうに笑った。
「そうですかね」
母が厳しかったんですよ、と照れながら笑うイルカをカカシは目を細めて見つめる。
「それだけ?」
そのカカシの眼差しに誘われるように、気がつけばナルトは口を開いていた。
「え?」
言われたカカシが不思議そうにナルトに聞き返す。
「それだけかって聞いたんだってば」
箸の持ち方だけじゃなくて。もっと他にあるはずだと。そう感じた。
カカシは少し考えるように視線を落とし、直ぐにまた上げた。
「箸だけじゃなくって、後食べる姿勢も綺麗だよね。あと、美味しそうに食べるなあって、」
そうですか?恥ずかしいなあ。と言うイルカの言葉を聞きながら。カカシの言葉にナルトは素直に納得する。
そうだ。そしてそれを見つめながら。カカシはすごく嬉しそうに。
そう、ーー幸せそうで。
「はいカカシ先生、お待ち。味噌ね」
店主の声にナルトの思考が途切れる。そこから麺が延びてしまうと、慌てて口に入れた。
カカシが遅れて食べ出し、イルカより少し遅れてナルトも食べ終わる。
満腹になったナルトはグラスの水を飲み干すと、お腹をさすりながら、テーブルにうつ伏せた。
「こら、ナルト。食べてすぐ寝るんじゃない」
直ぐに上がった声にナルトは口を尖らせてイルカへ顔を上げた。
「分かってるって、カカシ先生が食べ終わるまでちょっと休憩してるだけなんだってば」
ったく、と言うイルカの声を聞きながら、ナルトはまたうつ伏せながら足をぶらぶらとさせた。
イルカの言う通り眠くなるが、この後は七班の任務が入っている。いつもは平気で何時間も遅れてくるカカシだが、今日ばかりはこのまま一緒に向かえば遅刻はないだろう。
そうしてもらわなきゃ毎度毎度何時間も待つのはいい加減嫌だし、こっちの身になってもらいたい。
(ようし、そうするんだってばよ)
自分の考えに満足しながらふと顔を軽く上げれば、カカシがまだ食べている。カカシの箸の持ち方は普通で、どちらかと言えば、カカシがさっきイルカに言ったように、お手本の様に綺麗だ。
なんだ、とナルトは内心それに舌打ちして顔をテーブルに顎を乗せた。そんな些細な事までも、きちんとしているのは、正直悔しい。カカシだって人間だ。どこか駄目なところがあるはずなのに。
あ、でも遅刻ぐせは最悪だったと、ナルトは思い出してまた密かににししと笑い。
そのままふと隣のイルカへ顔を向け、イルカの浮かべている表情にナルトは微かに眉を寄せた。
イルカもまた、同じようにラーメンを食べるカカシを見つめている。
ただ、その顔が。
素顔が見れたから、とか。食べる姿勢が良いからとか。
そんな事を思っているのかもしれない。
でも、どうしてもそんな風に感じる事は出来なかった。
今まで見たことのない、イルカの眼差し。
さっきのカカシの眼差しとは違うと、何故か感じた。微笑むとは違う。時折食い入るような、熱が入ったような。
ナルトも自然と、イルカの目線を辿るようにカカシへ視線を向ける。
カカシが普通に下を向きながらラーメンを啜って食べていた。啜る事により、スープが多少唇の周りにつく。赤い舌がその唇を舐めた。そこからレンゲを持ち、スープを飲む。口布と繋がっているアンダーウェアに隠されている喉元が動く。飲み込むと同時にカカシの口が薄く開いた。
それは。自分でも、隣に座っているイルカでも。ここにいる客も。誰もがやる事で。
自然にやる行為なのに。
なのに。ーーそれを見つめるイルカの眼差しが。
胸の奥がちりちりと変な音を立てた。途端かあ、と身体が熱くなる。同時にすごくむず痒くなり、ナルトは動揺した。
困惑した顔を隠すように伏せ、イルカを見てないフリをした。
心臓がドキドキと嫌な音を立てる。見たくないものを見てしまった、そんな感覚に、ナルトは眉根を寄せた。
「ごちそうさま。お待たせ」
「ナルト、ほら、行くぞ」
カカシの声に続き、イルカに声をかけられ、ナルトは慌てて顔を上げると。そこにはいつものイルカがこっちを見ていた。
さっきの表情が微塵もなくて。
少し、ほっとしながらも、惚けたままイルカを見つめていると、イルカが首を傾げた。
「どうした」
ナルトは口を結んで直ぐに首を横に振る。
「なんでもない」
カカシの口布は既に戻されていて、同じようにいつもの眠そうな眼差がナルトを見ていた。
「なに、ナルト。もしかして寝てたの?」
カカシに聞かれて、またふるふると首を振る。
「ちげーってば」
ふうん、と答えたカカシは気にする事もなく背中を見せイルカと共に歩き出す。
カカシさん俺が今日奢ります。いやなんで、いいよ。でも、と言う二人のやりとりを、ナルトは少し遠くでぼんやりと見つめる。
2人は変わらない、普通にいつもの2人だ。
でも。さっきのイルカの表情が頭から離れない。
心も、身体も。もやもやしている。
そんな自分が恥ずかしくて。
どうしたらいいのか分からなくて。ナルトは口をぐっと結び、
「カカシ先生、先に行ってるってばよっ」
走り出した。
勢いよく走り出したナルトに、イルカは驚き名前を呼ぶも、どんどんその背中は小さくなり。
やがて見えなくなると、イルカは小さく息を吐き出した。
「食べてすぐあんなに走って。大丈夫なのかあいつは。ねえカカシさん」
振り返ると、勘定を済ませたカカシが財布を仕舞いながらイルカに歩み寄る。
「いや、イルカ先生。あれはあなたのせいでしょ」
「・・・・・・え?」
言われキョトンとするイルカに、カカシは少し呆れながら銀色の頭を掻いた。
「・・・・・・まあいいですよ。それより今日あなたの家行きますから」
「え?今日ですか」
素の対応にカカシはどうしようか考えながらカカシはイルカに顔を近づけた。
「それとも今からする?」
からかう口調にぼそりと呟かれた言葉。イルカの目が丸くなり、一瞬間が空く。そこから一気に健康的な肌が赤く染まった。
「・・・・・・なっ」
カカシは小さく笑いを零し、イルカを見つめる。
「じゃあ今日夜行くから。ね、いいでしょ?」
優しい口調で言われイルカは眉を寄せ、俯いた。
「・・・・・・はい」
イルカは困惑しながらも頷くものの、その顔は真っ赤で耳まで赤く。
(ま、いい意味で牽制になったから俺はいいんだけど)
ナルトの表情を思い出し、カカシは密かにほくそ笑んだ。
<終>
暖簾をくぐって声を出したのはカカシだった。
既にテーブルに座っていたイルカも、その声に顔を向けてカカシに気がつき、同じように声を出す。
「お疲れさまです」
そう続けたイルカに、うん、と応えるとカカシはテーブル席にいるイルカの前に座った。
「今日は混んでるね」
「ええ、時間帯が時間帯ですから」
イルカが視線を向ける店内の時計は、ちょうど正午を指していた。カウンターは既に別の客で席は埋まっている。カカシは腰を下ろすと、イルカの隣にいるナルトに目を向けた。
「お前昨日も昼にラーメン食べたって言ってなかった?」
眠そうな目を向けられる。
日頃から、カカシは自分に対してイルカ以上に食生活に関して口を出す。サクラにもサスケにもそうだが、自分には特に。
さりげなく何を食べたかを聞き出し、何が足りていないかを指摘する。
昨日もラーメンを食べたと答え、カカシから米を食べるようにと言われていたのを忘れていた訳ではなかった。
でも、今日は久しぶりにイルカに誘われたのだ。断る事なんて選択肢にはなかった。
「あー、うん。そうだけどさ」
誤魔化すように笑えば、カカシから返ってくるのは変わらない眼差し。そこに店主の声がかかった。注文を聞かれ、カカシは顔を後ろへ向ける。ちょっと安堵したのもつかの間。
「何だ、ナルト。お前カカシさんとそんな話しになってたのか」
何となく察したイルカに聞かれて、ナルトはまた笑うしかなかった。
「ああ、うん、でもよ」
「でもよ、じゃあないだろう」
「ああ、いいよ先生」
注文を終え、向き直ったカカシが手をおしぼりで手を拭きながら答える。
「全部自己責任だって事は、こいつが一番分かってる事なんだから」
ね、ナルト。
カカシにさらりと言われ、カチンとするもナルトはその言葉に重みを感じていない訳ではない。小さくうん、と答えて頷くしかなかった。
日頃の食生活は忍びである自分の日々の任務に直結してくる。それはアカデミー時代からイルカにも言われてきた事だが、実際に上忍であるカカシの下で任務をするようになってから、それは実感していた。
それに、里一の忍びであるカカシの言葉ほど重いものはない。イルカに日頃言われていた事と同じなのに、その温度差はかなり違う。
それは、正直に返せばカカシの口調が冷たいと、そうなるが。
その意味もナルトもよく分かっていた。
つい。気を緩めてしまった自分が間違っていると分かっている。
でも。イルカに誘われたのが嬉しかったのだ。
「夕飯はおにぎりにする」
あと野菜が入った味噌汁。そんな言葉を口にすると、
「うん、いいんじゃない」
と、立て肘をついてナルトを見ていたカカシが、にこりと微笑んだ。
「はい、お待ち」
先に注文していたイルカとナルトのラーメンが運ばれてくる。
「じゃあ、お先にいただきます」
イルカがそう口にして食べ始め、ナルトも同じように湯気の立つラーメンを啜った。
時折イルカはカカシと会話をするものの、ラーメンを黙々と食べる。
食べながら、ナルトはアカデミーを卒業して3人で食べる機会が増えてきている事を思い出した。たまたまなのかもしれないが、カカシもここのラーメンが好きなのだろう。
まだラーメンを運ばれてこないカカシは立て肘をついたまま、ラーメンを食べるイルカを見ている。
そのカカシの視線を、ラーメンを口に運びながら見つめた。
そうだ。
なんとなくこんな場面が何回もあって。
その度に感じていたけど。
カカシがイルカが何かを食べている時に、よくこんな目をする。
普段のカカシが見せることがない眼差し。自分といる時も。普通にイルカと会話をする時もその目は見せない。今みたいにイルカがご飯を食べている時にだけ。
何て言葉にしたらいいのか分からないけど。
(なんて言うか・・・・・・すごく・・・・・・)
優しい。
ああ、でも。
自分が食べている時にイルカが向ける眼差しにも、似ている。
それに気がついたら、何で?と素朴な疑問が沸き上がるのに、それを口に出すのは何故か躊躇われた。それを認めたくないし、気がつかないふりをしていたい。
いや、見なかった事にしたい。
そんな思いからふと目を伏せた時、
「イルカ先生って箸の持ち方、綺麗だよね」
カカシの言葉にナルトは顔を上げた。イルカも、顔を上げ少し驚いた顔をし、すぐに恥ずかしそうに笑った。
「そうですかね」
母が厳しかったんですよ、と照れながら笑うイルカをカカシは目を細めて見つめる。
「それだけ?」
そのカカシの眼差しに誘われるように、気がつけばナルトは口を開いていた。
「え?」
言われたカカシが不思議そうにナルトに聞き返す。
「それだけかって聞いたんだってば」
箸の持ち方だけじゃなくて。もっと他にあるはずだと。そう感じた。
カカシは少し考えるように視線を落とし、直ぐにまた上げた。
「箸だけじゃなくって、後食べる姿勢も綺麗だよね。あと、美味しそうに食べるなあって、」
そうですか?恥ずかしいなあ。と言うイルカの言葉を聞きながら。カカシの言葉にナルトは素直に納得する。
そうだ。そしてそれを見つめながら。カカシはすごく嬉しそうに。
そう、ーー幸せそうで。
「はいカカシ先生、お待ち。味噌ね」
店主の声にナルトの思考が途切れる。そこから麺が延びてしまうと、慌てて口に入れた。
カカシが遅れて食べ出し、イルカより少し遅れてナルトも食べ終わる。
満腹になったナルトはグラスの水を飲み干すと、お腹をさすりながら、テーブルにうつ伏せた。
「こら、ナルト。食べてすぐ寝るんじゃない」
直ぐに上がった声にナルトは口を尖らせてイルカへ顔を上げた。
「分かってるって、カカシ先生が食べ終わるまでちょっと休憩してるだけなんだってば」
ったく、と言うイルカの声を聞きながら、ナルトはまたうつ伏せながら足をぶらぶらとさせた。
イルカの言う通り眠くなるが、この後は七班の任務が入っている。いつもは平気で何時間も遅れてくるカカシだが、今日ばかりはこのまま一緒に向かえば遅刻はないだろう。
そうしてもらわなきゃ毎度毎度何時間も待つのはいい加減嫌だし、こっちの身になってもらいたい。
(ようし、そうするんだってばよ)
自分の考えに満足しながらふと顔を軽く上げれば、カカシがまだ食べている。カカシの箸の持ち方は普通で、どちらかと言えば、カカシがさっきイルカに言ったように、お手本の様に綺麗だ。
なんだ、とナルトは内心それに舌打ちして顔をテーブルに顎を乗せた。そんな些細な事までも、きちんとしているのは、正直悔しい。カカシだって人間だ。どこか駄目なところがあるはずなのに。
あ、でも遅刻ぐせは最悪だったと、ナルトは思い出してまた密かににししと笑い。
そのままふと隣のイルカへ顔を向け、イルカの浮かべている表情にナルトは微かに眉を寄せた。
イルカもまた、同じようにラーメンを食べるカカシを見つめている。
ただ、その顔が。
素顔が見れたから、とか。食べる姿勢が良いからとか。
そんな事を思っているのかもしれない。
でも、どうしてもそんな風に感じる事は出来なかった。
今まで見たことのない、イルカの眼差し。
さっきのカカシの眼差しとは違うと、何故か感じた。微笑むとは違う。時折食い入るような、熱が入ったような。
ナルトも自然と、イルカの目線を辿るようにカカシへ視線を向ける。
カカシが普通に下を向きながらラーメンを啜って食べていた。啜る事により、スープが多少唇の周りにつく。赤い舌がその唇を舐めた。そこからレンゲを持ち、スープを飲む。口布と繋がっているアンダーウェアに隠されている喉元が動く。飲み込むと同時にカカシの口が薄く開いた。
それは。自分でも、隣に座っているイルカでも。ここにいる客も。誰もがやる事で。
自然にやる行為なのに。
なのに。ーーそれを見つめるイルカの眼差しが。
胸の奥がちりちりと変な音を立てた。途端かあ、と身体が熱くなる。同時にすごくむず痒くなり、ナルトは動揺した。
困惑した顔を隠すように伏せ、イルカを見てないフリをした。
心臓がドキドキと嫌な音を立てる。見たくないものを見てしまった、そんな感覚に、ナルトは眉根を寄せた。
「ごちそうさま。お待たせ」
「ナルト、ほら、行くぞ」
カカシの声に続き、イルカに声をかけられ、ナルトは慌てて顔を上げると。そこにはいつものイルカがこっちを見ていた。
さっきの表情が微塵もなくて。
少し、ほっとしながらも、惚けたままイルカを見つめていると、イルカが首を傾げた。
「どうした」
ナルトは口を結んで直ぐに首を横に振る。
「なんでもない」
カカシの口布は既に戻されていて、同じようにいつもの眠そうな眼差がナルトを見ていた。
「なに、ナルト。もしかして寝てたの?」
カカシに聞かれて、またふるふると首を振る。
「ちげーってば」
ふうん、と答えたカカシは気にする事もなく背中を見せイルカと共に歩き出す。
カカシさん俺が今日奢ります。いやなんで、いいよ。でも、と言う二人のやりとりを、ナルトは少し遠くでぼんやりと見つめる。
2人は変わらない、普通にいつもの2人だ。
でも。さっきのイルカの表情が頭から離れない。
心も、身体も。もやもやしている。
そんな自分が恥ずかしくて。
どうしたらいいのか分からなくて。ナルトは口をぐっと結び、
「カカシ先生、先に行ってるってばよっ」
走り出した。
勢いよく走り出したナルトに、イルカは驚き名前を呼ぶも、どんどんその背中は小さくなり。
やがて見えなくなると、イルカは小さく息を吐き出した。
「食べてすぐあんなに走って。大丈夫なのかあいつは。ねえカカシさん」
振り返ると、勘定を済ませたカカシが財布を仕舞いながらイルカに歩み寄る。
「いや、イルカ先生。あれはあなたのせいでしょ」
「・・・・・・え?」
言われキョトンとするイルカに、カカシは少し呆れながら銀色の頭を掻いた。
「・・・・・・まあいいですよ。それより今日あなたの家行きますから」
「え?今日ですか」
素の対応にカカシはどうしようか考えながらカカシはイルカに顔を近づけた。
「それとも今からする?」
からかう口調にぼそりと呟かれた言葉。イルカの目が丸くなり、一瞬間が空く。そこから一気に健康的な肌が赤く染まった。
「・・・・・・なっ」
カカシは小さく笑いを零し、イルカを見つめる。
「じゃあ今日夜行くから。ね、いいでしょ?」
優しい口調で言われイルカは眉を寄せ、俯いた。
「・・・・・・はい」
イルカは困惑しながらも頷くものの、その顔は真っ赤で耳まで赤く。
(ま、いい意味で牽制になったから俺はいいんだけど)
ナルトの表情を思い出し、カカシは密かにほくそ笑んだ。
<終>
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