メルヘン

「サクラ」
 七班の任務の帰り道、茜色に染まる西の山の山道を抜け歩道へ入った時、名前を呼ばれサクラは振り返った。
 今日はラーメン食べるんだと意気込んでいるナルトは一番前を歩き、その少し後ろを距離を保ちながらサスケが続く。更にその後ろを自分が歩いていた。道のりが長いほど最初まとまっていたのに、歩くにつれそれぞれに距離が出来始めるのはいつもの事で。本当はもっとサスケの近くを歩きたいし隣にいきたいけど、向こうがそれを望んでいないから叶うはずもない。
 そんな時名前を呼ばれ、サクラは一番後ろをゆっくり歩いていたカカシへ顔を向けた。
「何ですか?」
 返事をする。
 一番後ろを歩いているのは、引率の為なのか、何なのか。アカデミーの教師とは違う目線だと分かっていても、カカシは他の上忍師の誰よりも思考が読めない。
 不意に名前を呼ばれ、返事をしたサクラにカカシは歩調を合わせる。隣へ並んだ。
「どーかした?」
 聞かれて何が?と思うが当たり前に自分の事を聞いてきているのは分かる。何となく、合わせるように、サクラは口を開いた。
「並んで歩きたいのはカカシ先生ではなくサスケ君がいいなあって思ってただけです」
 そう口にすれば、そうじゃなくって、と言うから、当然よく分からなくなり、不思議そうな顔をするサクラに、カカシは続けた。
「ほら、今日一日見てたけど何か浮かない顔だったから」
 だからどうしたのかなって。
 何の気なしに、のんびりとした口調で言われ、そうだったかな、と自分自身思いを巡らし、そこで思い当たった事に、思わず、ああ、と声を零していた。カカシへ顔を向ける。
「今度の日曜日、お父さんの誕生日なんです、」
 そう口にして、サクラは照れくさそうに小さく笑った。
「でも何プレゼントしたらいいのか分からなくて、小さい頃から色々あげてきて、もう案がなくて」
 本人に直接聞いて、それで別に何でも良いって言われたそれまでなんですけど。
 苦笑いをサクラは浮かべる。
 基本父は昔からこれが欲しい、何て言うタイプではない。自分の誕生日すら忘れているくらいで、そこまで特別な日だとも思っていない。母や私の誕生日は忘れてないのに。
 何をあげようか、そればかり今週頭の中を巡っていたのだが、それがカカシから見たら浮かない顔に見えていたのだと、改めて少し納得すれば、へえ、とカカシが口にする。そうなんだ、続けられ、その口調がまた何とも呑気に聞こえ、聞かれたから答えたものの、話す相手ではなかったと思えば、そーだねえ、とカカシが呟いた。
 顔をカカシに向けると、その言葉に似合っているかは分からないが、意外にも思案した顔を浮かべていて、考えてくれている事に内心驚いた。自分とは違う、また違う発想や答えを返してくれる。そう勝手に思ってしまっていたから。
「サクラが何かご飯を作ってあげればいいんじゃない?」
 そう言われ、思わず肩の力が抜けた。
 それが思い切り顔に出たのか、あれ?とそんな顔をしたカカシに、サクラはため息を漏らす。
「何でですか」
 非難めいた言葉が自分から出ていた。
 だって、料理は元々好きではない。好きではないのは、苦手だからだ。母の作った料理の方が上手いに決まっているし、自分が作れる料理なんて限られている。だから作った事もあるが、それは遙か昔だ。それほど記憶の奥にあるくらい、料理は自分の頭になかった。
 せめてハンドタオルとか、マグカップとか。日常使いで使えそうな小物とか、妥当なものを助言して欲しかった。
 不満そうなサクラに、カカシは笑った。顔を向けるサクラに、だってさ、と口を開く。
「美味しいもの食べると元気が出るでしょ?」
 当たり前のように、カカシは言った。
 カカシはサクラに視線を向け、露わな右目を緩ませる。瞬きをしながら見つめ返し、優しく微笑むそのカカシの目の奥に、何故か父を見た。
 昔作った料理は自信もなく、出来もイマイチだったけど。父は本当に嬉しそうで。ああ、そう言えばそうだったな、とサクラは父の笑顔を思い出す。
 苦手だからと言うだけで、選択肢から排除していた料理を、作ってみてもいいんだと、思えてくる。
 サクラは漂わせていた視線をカカシへ向ける。
「ですね」
 笑顔で答えた。

 任務の報告をするからと、里の町中に着いて早々に、カカシは姿を消した。帰り道に行くと豪語していた通りにナルトは走ってラーメン屋に向かい、サスケはカカシと同様、早々に姿を消す。そんなツレないサスケに、がっくりしながら、今日は任務も何だかんだで疲れたし、サスケ君に関しては何も進展がなかったなあ、と肩を落としながら、サクラも歩き出し、
ああ、そうか、とつい少し前のカカシとの会話を思い出した。
 あれだけ悩んでいた父の誕生日プレゼントを決めれたのだから、収穫があるにはあったんだ。
 カカシにあんな事言われなければ、いのやヒナタに同じ事を言われようが絶対に料理なんてしようとも思わなかった。
 そこまで思った時、でも、とサクラは思考を止める。
 意外と言えば確かに意外だ。カカシがあんな事を言うなんて。だって父と同じ同性と言えどバレンタインなんか興味まるでなかったし、ホワイトデーもそうだ。催しにはとことん興味がない、そんな印象だったのに。
 美味しいもの食べると元気が出るでしょ?
 そう嬉しそうに微笑む、カカシのその表情さえ珍しくて。
「ああっ!?」
 思い当たる事に思わず大きな声が自分から出た。そう言えば先週辺り、カカシの誕生日だった。当日も誕生日だからと任務前にカカシに声をかけたが、ああ、そうだった?なんてのほほんとした返事が返ってきた。
 だけど、なのに。
 絶対に、何かあった。
 自分の勘は悪くはない。確信した事に、心臓がドキドキとなる。
 あのカカシが。いつも涼しい顔して、任務以外に興味のなさそうな上忍が。
 あんな嬉しそうな顔であんな事言うなんて、今まであっただろうか、いや、ない。一度だってない。
 あの時、その会話の流れで聞き出せたかもしれないのに。自分はあろうことか父のプレゼントを決める事に夢中で。
 そして、カカシの事だ。明日改めて聞いても話をはぐらかして上手く流してしまうだろう。
 元々しっぽを掴ませないタイプだから、尚更だ。
 後悔するも、遅い。
 せめて素顔を見れなくとも、カカシのメルヘン話をちょっとでも知りたかった。
 しかし後悔したところで今さら後の祭りだ。
(あーあ・・・・・・)
 面白い話を聞き出すチャンスを逃してしまったとがっかりするが、まあ、仕方ない。気持ちを切り換えながら息を吐き出す。
 そんな事より、今度の週末、父に何を作ろうか。サクラは数少ないメニューを頭に浮かべながら、足取り軽やかに家路へと足を向けた。

<終>
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