MKS
班での任務を終えた帰り道、解散するポイントはいつも違っていて、カカシ含め4人で歩く。今日の任務の反省を兼ねたカカシの話を、サスケは半分くらい聞き流していた。
ナルトはいつものように任務に対する不平を口にしながら、顔をそむけて、ふと、その不満そうな顔が笑顔に変わる。向けられたその視線の先、考えるまでもない。
「イルカ先生っ」
ナルトが嬉しそうな声を上げた。そこから片手を上げると、ナルトはイルカの元へ駆けていく。
イルカが両手でナルトを受け止めるのが目に入った。
ナルトと同じように嬉しそうな笑顔を浮かべる反面、カカシの存在に恥ずかしそうな表情を見せる。
特別な感情を含めたその表情。今まで気にすることすらなかったのに、気が付いているのは。
要は、あれだ。先日2人がそんな関係だと言う場面に、自分が出くわしたから。
不本意だった。興味はあったが知りたくなかった、が本音。でも知ってしまったのだから仕方ない。
基本周りに対して興味も薄いし、人とは温度差が違う。
そう、違う。
だから、やっぱりな、くらいで、そこまで気にしていない。しかし、自分にとってはどうでも良いことだが、相手は違う。
それはよくある話だ。
だから、イルカにとっては、カカシとの関係を俺に知られてしまったのは、かなり問題だったに違いない。
イルカは、カカシから視線を横にずらし、斜め後ろにいるサスケを見て、微かに気まずそうな面もちを見せる。
イルカのその表情は少しばかり、気が咎めた。
俺が一貫して素知らぬフリをしているのだから、そこまで気にしないようにすればいいだけの話だ。でも、イルカにはそれが中々出来ないと、サスケも、分かっていた。
イルカはそんな性格だ。
きっと複雑に俺に、カカシに、そして自分に苛まれているに違いない。
可哀想にもなるが、事実は事実だ。
ナルトにラーメンをせがまれて、苦笑いをしているイルカをカカシの横で見つめる。
ふと視線を感じ、顔を上へ向ければカカシと目が合う。
カカシはあれから何も言わない。忍びとしては認めるところは多々あるが、何故イルカがこの男をパートナーとして選らんだのか。そこは、いまいち理解出来ない。
カカシはサスケに向ける静かな眼差しを、微かに緩ませる。思考を読みとられた気分になって、不機嫌な表情にせざるを得なくなる。
カカシはそんなサスケに眉を下げた。
見下されているようで、子供だと言われているようで。
自然苛立ちが浮上する。
顔には出さず、サスケはぷいと顔をそむけた。
カカシはそこからイルカに向かって歩き出す。イルカに張り付いているナルトを剥がすと、イルカと世間話を始めた。どうでもいい内容でも、フィルター越しになってしまったせいか、2人とも嬉しそうに見える。いや、それは昔からだった。気が付いたら、イルカもカカシもこんな表情で会話をするようになっていた。
ただ、自分が気が付いていなかっただけなのだ。
不意に心が沈む感じがして、内心そんな心境になる自分に動揺し、サスケは軽く唇を噛んだ。
どうでも良いことだ。元担任で、自分の上忍師で、他人だ。
どうでもいい。
このもやとした気持ちが何なのか、考えたくない。
結局、自分はナルトと同じような気持ちをイルカに抱いてしまっていると、認めたくない。
カカシに微笑みながら鼻頭を掻くイルカと、優しそうにその表情を見つめるカカシを。サスケはじっと見つめた。
複雑な心境を抱えたまま、サスケは歩く。
解散した後、裏山で鍛錬をして。気が付けば夜も更けていた。それに雨も少し降り出している。
食材を買って帰ろうと商店街まできて、ふとラーメンの匂いがして顔を向けた。ラーメン店の暖簾が目に入る。ナルトが好きで、今日もイルカに阿呆のようにナルトがせがんでいた、その店だろう。
空腹だった事を改めて思い出す。
外食はほとんどしない。
鍛錬に必要なエネルギーを考えれば、自然外食はありえないし、興味がない。
でも、新しくメニューに入れたのか。トマトがたくさん入ったサラダが目に付いた。
(...たまにはいいか)
雨が降り出し、夕飯の時間も過ぎたからか、店内には人も疎らだ。サスケはふらとその店に入り、一番隅の目立たない場所に座る。
ラーメンとトマトサラダを注文した。
食べて家に帰って、シャワーで汗を流したら、読みかけていた書に目を通そうか。
ラーメンを食べ、サラダを頬張りながら考える。
他の客が帰り、誰もいなくなったところで、誰かが入ってくる気配。聞こえた声に、反射的に気配を消していた。
イルカが暖簾をくぐり店内に入るのが見える。その表情にサスケは、目を見張った。珍しく怒った風だったからだ。
風の流れと、サスケが鼻を利かせたからか、酒の匂いがした。
イルカの後ろから入ってきたのは、カカシ。カカシもいつもの飄々とした表情ではない。そして、カカシもまた酒の匂い。
2人で呑んできたのだろう。
タイミングが悪い、とサスケは内心嘆息する。
「イルカ先生はいつもそう」
カカシが拗ねたような声を出した。
2人はサスケに背を向けるようにカウンターに並んで座った。気配を消しながらサスケはじっとその並ぶ背中を見つめた。
カカシは店主に出された、コップに入った氷水を飲む。
「何がですか」
それに答えたイルカも少しむくれたような言い方。
何か色々面倒くさい。と、サスケは顔を曇らせる。
2人近い距離で、カカシはイルカに顔を向けた。
「だってそうじゃない。何でいつも俺の先を行きたがるわけ?階段だってドアだって、さっきもそう」
カカシはそう言って暖簾を指さす。
2人の関係を知っているのか、店主は苦笑いをしながらラーメンを作っている。
「たまたまです」
イルカは反論した。
「たまたま?違うよ。絶対違う。たまには紳士が開けるのを可愛らしく待ったらどうなの?」
そこでイルカが笑った。
「俺は女性じゃないんですよ。ドアなんて開けてもらっても嬉しくもなんともない」
「んな事は言ってないよ。でも俺らは...そう言う関係じゃない」
カカシはそう言葉を濁らせる。聞いた事がない甘えたような口調。
くだらない。
サスケは思わずため息を零していた。
それにカカシは微かに反応する。顔を後ろに向け、肩越しにサスケと目が合う。
「イルカせんせ、あの、」
カカシはイルカに顔を向けたが、何も気が付いていないイルカは、大げさに、不機嫌に大きく頷き、
「ああ、そうですよっ。確かにそう言う関係で、女の立場は俺ですけどっ」
身体ごとカカシに思い切り向き直って言い切りながら。
イルカも見つける。隅で2人を見つめていたサスケを。
カカシが小さく息を吐き出したのが、聞こえた。
見開かれた黒い目は、悲しい目の色に変わり、イルカがカカシの腕をぎゅっと掴む。
「付けでおねがっ、」
言い掛けながら、カカシと共に、消えた。
静かになった店内で。店主が一人、付けね、と確認するように呟いた。
翌朝。いつものように、カカシの来ない集合場所で、サスケは岩に一人座っていた。
寝不足だ。
頭に入れたくない情報が、頭の中から消そうにもどうにも消えなかったのだ。
あの二人が恋人とか、立場とか、女とか。どうでもいい。
何でこんなに苛立つのかも分からない。どうでもいい。そう、本当にどうでもいい。はずなのに。
あんなデジャヴのような状況を誰も望んでいなかったのも、分かっている。
時折重い溜息をサスケは吐き出す。
サクラは、サスケのいつも以上の不機嫌さに不審がり、少し距離を置きながらも、心配そうに窺っている。
そこにナルトが呑気そうな顔で現れた。サスケの仏頂面に気が付く。
「あれ、サスケってば。何怒ってんの?」
朝っぱらから。
サクラが聞けなかった事をすんなりと聞く。空気の読めないナルトにサクラが顔でやめろと訴えているが、ナルトはきょとんとするばかり。
サスケはその不機嫌な顔を崩さず。岩の上で呟く。
「MKS、だ」
「は?...えむ、...なんだよ?」
ナルトにもう一度問われ、サスケは口を開く。
「マジクソしょーもない話だ」
苛立ったまま、サスケはそれ以上何も口にしなかった。
<終>
ナルトはいつものように任務に対する不平を口にしながら、顔をそむけて、ふと、その不満そうな顔が笑顔に変わる。向けられたその視線の先、考えるまでもない。
「イルカ先生っ」
ナルトが嬉しそうな声を上げた。そこから片手を上げると、ナルトはイルカの元へ駆けていく。
イルカが両手でナルトを受け止めるのが目に入った。
ナルトと同じように嬉しそうな笑顔を浮かべる反面、カカシの存在に恥ずかしそうな表情を見せる。
特別な感情を含めたその表情。今まで気にすることすらなかったのに、気が付いているのは。
要は、あれだ。先日2人がそんな関係だと言う場面に、自分が出くわしたから。
不本意だった。興味はあったが知りたくなかった、が本音。でも知ってしまったのだから仕方ない。
基本周りに対して興味も薄いし、人とは温度差が違う。
そう、違う。
だから、やっぱりな、くらいで、そこまで気にしていない。しかし、自分にとってはどうでも良いことだが、相手は違う。
それはよくある話だ。
だから、イルカにとっては、カカシとの関係を俺に知られてしまったのは、かなり問題だったに違いない。
イルカは、カカシから視線を横にずらし、斜め後ろにいるサスケを見て、微かに気まずそうな面もちを見せる。
イルカのその表情は少しばかり、気が咎めた。
俺が一貫して素知らぬフリをしているのだから、そこまで気にしないようにすればいいだけの話だ。でも、イルカにはそれが中々出来ないと、サスケも、分かっていた。
イルカはそんな性格だ。
きっと複雑に俺に、カカシに、そして自分に苛まれているに違いない。
可哀想にもなるが、事実は事実だ。
ナルトにラーメンをせがまれて、苦笑いをしているイルカをカカシの横で見つめる。
ふと視線を感じ、顔を上へ向ければカカシと目が合う。
カカシはあれから何も言わない。忍びとしては認めるところは多々あるが、何故イルカがこの男をパートナーとして選らんだのか。そこは、いまいち理解出来ない。
カカシはサスケに向ける静かな眼差しを、微かに緩ませる。思考を読みとられた気分になって、不機嫌な表情にせざるを得なくなる。
カカシはそんなサスケに眉を下げた。
見下されているようで、子供だと言われているようで。
自然苛立ちが浮上する。
顔には出さず、サスケはぷいと顔をそむけた。
カカシはそこからイルカに向かって歩き出す。イルカに張り付いているナルトを剥がすと、イルカと世間話を始めた。どうでもいい内容でも、フィルター越しになってしまったせいか、2人とも嬉しそうに見える。いや、それは昔からだった。気が付いたら、イルカもカカシもこんな表情で会話をするようになっていた。
ただ、自分が気が付いていなかっただけなのだ。
不意に心が沈む感じがして、内心そんな心境になる自分に動揺し、サスケは軽く唇を噛んだ。
どうでも良いことだ。元担任で、自分の上忍師で、他人だ。
どうでもいい。
このもやとした気持ちが何なのか、考えたくない。
結局、自分はナルトと同じような気持ちをイルカに抱いてしまっていると、認めたくない。
カカシに微笑みながら鼻頭を掻くイルカと、優しそうにその表情を見つめるカカシを。サスケはじっと見つめた。
複雑な心境を抱えたまま、サスケは歩く。
解散した後、裏山で鍛錬をして。気が付けば夜も更けていた。それに雨も少し降り出している。
食材を買って帰ろうと商店街まできて、ふとラーメンの匂いがして顔を向けた。ラーメン店の暖簾が目に入る。ナルトが好きで、今日もイルカに阿呆のようにナルトがせがんでいた、その店だろう。
空腹だった事を改めて思い出す。
外食はほとんどしない。
鍛錬に必要なエネルギーを考えれば、自然外食はありえないし、興味がない。
でも、新しくメニューに入れたのか。トマトがたくさん入ったサラダが目に付いた。
(...たまにはいいか)
雨が降り出し、夕飯の時間も過ぎたからか、店内には人も疎らだ。サスケはふらとその店に入り、一番隅の目立たない場所に座る。
ラーメンとトマトサラダを注文した。
食べて家に帰って、シャワーで汗を流したら、読みかけていた書に目を通そうか。
ラーメンを食べ、サラダを頬張りながら考える。
他の客が帰り、誰もいなくなったところで、誰かが入ってくる気配。聞こえた声に、反射的に気配を消していた。
イルカが暖簾をくぐり店内に入るのが見える。その表情にサスケは、目を見張った。珍しく怒った風だったからだ。
風の流れと、サスケが鼻を利かせたからか、酒の匂いがした。
イルカの後ろから入ってきたのは、カカシ。カカシもいつもの飄々とした表情ではない。そして、カカシもまた酒の匂い。
2人で呑んできたのだろう。
タイミングが悪い、とサスケは内心嘆息する。
「イルカ先生はいつもそう」
カカシが拗ねたような声を出した。
2人はサスケに背を向けるようにカウンターに並んで座った。気配を消しながらサスケはじっとその並ぶ背中を見つめた。
カカシは店主に出された、コップに入った氷水を飲む。
「何がですか」
それに答えたイルカも少しむくれたような言い方。
何か色々面倒くさい。と、サスケは顔を曇らせる。
2人近い距離で、カカシはイルカに顔を向けた。
「だってそうじゃない。何でいつも俺の先を行きたがるわけ?階段だってドアだって、さっきもそう」
カカシはそう言って暖簾を指さす。
2人の関係を知っているのか、店主は苦笑いをしながらラーメンを作っている。
「たまたまです」
イルカは反論した。
「たまたま?違うよ。絶対違う。たまには紳士が開けるのを可愛らしく待ったらどうなの?」
そこでイルカが笑った。
「俺は女性じゃないんですよ。ドアなんて開けてもらっても嬉しくもなんともない」
「んな事は言ってないよ。でも俺らは...そう言う関係じゃない」
カカシはそう言葉を濁らせる。聞いた事がない甘えたような口調。
くだらない。
サスケは思わずため息を零していた。
それにカカシは微かに反応する。顔を後ろに向け、肩越しにサスケと目が合う。
「イルカせんせ、あの、」
カカシはイルカに顔を向けたが、何も気が付いていないイルカは、大げさに、不機嫌に大きく頷き、
「ああ、そうですよっ。確かにそう言う関係で、女の立場は俺ですけどっ」
身体ごとカカシに思い切り向き直って言い切りながら。
イルカも見つける。隅で2人を見つめていたサスケを。
カカシが小さく息を吐き出したのが、聞こえた。
見開かれた黒い目は、悲しい目の色に変わり、イルカがカカシの腕をぎゅっと掴む。
「付けでおねがっ、」
言い掛けながら、カカシと共に、消えた。
静かになった店内で。店主が一人、付けね、と確認するように呟いた。
翌朝。いつものように、カカシの来ない集合場所で、サスケは岩に一人座っていた。
寝不足だ。
頭に入れたくない情報が、頭の中から消そうにもどうにも消えなかったのだ。
あの二人が恋人とか、立場とか、女とか。どうでもいい。
何でこんなに苛立つのかも分からない。どうでもいい。そう、本当にどうでもいい。はずなのに。
あんなデジャヴのような状況を誰も望んでいなかったのも、分かっている。
時折重い溜息をサスケは吐き出す。
サクラは、サスケのいつも以上の不機嫌さに不審がり、少し距離を置きながらも、心配そうに窺っている。
そこにナルトが呑気そうな顔で現れた。サスケの仏頂面に気が付く。
「あれ、サスケってば。何怒ってんの?」
朝っぱらから。
サクラが聞けなかった事をすんなりと聞く。空気の読めないナルトにサクラが顔でやめろと訴えているが、ナルトはきょとんとするばかり。
サスケはその不機嫌な顔を崩さず。岩の上で呟く。
「MKS、だ」
「は?...えむ、...なんだよ?」
ナルトにもう一度問われ、サスケは口を開く。
「マジクソしょーもない話だ」
苛立ったまま、サスケはそれ以上何も口にしなかった。
<終>
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