仲直り③

 たまたまお昼近くに外を歩いていたら、カカシと顔を合わせた。
 受付の建物を出たところで、自分達以外に他に往来している人もいるから。書類を抱えたまま会釈をして通り過ぎれば、すれ違って直ぐ、名前を呼ばれた。足を止め素直に返事をしながら振り返るイルカに、カカシが近づく。昼飯たまには一緒に食べよっか、とにこりと微笑んだ。

「ラーメンでいいんですか?」
 イルカが聞くとカカシが不思議そうな顔をこっちに向けた。
「何で?先生、ラーメン好きじゃない」
 その通りの答えを返され、イルカは、まあそうですけど、と小さく返しながらも納得できない気持ちになるのは、カカシに先日、ラーメンより白い飯を食べた方がいいと言われたばかりだから。
 一人暮らしで野菜は食べるようにしているものの、基本好きな物を食べていたイルカに、その言葉は結構耳に痛かった。
 カカシの食生活が自分よりしっかりしているのを知ったのはつきあい始めてから。カカシの私生活の部分が見えていなかった分、感心したのを覚えている。だからカカシにそう言われてから、残業で疲れている時もなるべくインスタントラーメンには頼らないようにしていた。
 だから、ラーメンを少し控えていたから、ラーメンを食べようと誘われて嬉しくないわけがない。イルカはカカシの隣を歩きながら少しだけ頬を緩めながら、何を食べようかと密かに心を躍らせた。

 暖簾を潜ると店主の威勢のいい声が店に響く。久しぶりだね先生、と言われ、イルカは小さく笑ってそれに答えた。
 カカシとは、恋人同士になる前からこうして誘われるままにラーメンを食べたりした事があったから、特に不自然なところは何もない。店主に促されるままイルカはカカシと一緒にカウンターに座った。
「先生は何にするの?」
 カカシに聞かれてイルカは店内に張られたメニューへ視線を向ける。そうですねえ、と呟いた。おしぼりで手を拭きながら、
「やっぱり味噌ラーメンですかね」
 そう答えていた。味噌に合わせた野菜と厚めのチャーシュー、それに背脂が入ったスープは絶品だ。ここに来るまでに色々頭の中で悩んでいたくせに、結局自分のいつも食べるラーメンに牽かれてしまう。
 カカシは、そっか、と答えると店主へ声をかけた。
「えっとね、味噌と醤油と、あと餃子」
 そうカカシが口にした注文の内容に、え?とイルカが反応すると、カカシはこっちを向きながら、
「先生食べるでしょ?」
 と聞かれ、思わず、はい、と頷いていた。食べたかったけどカカシの手前何となく遠慮していたから。
 食べたいと思っていた事が顔に出てしまっていたのか。そして食べれると分かった途端空腹が更に刺激される。イルカは嬉しい気持ちを抑えながらコップの水を口にした。
 店内が昼を過ぎ、まずまず込み合ってきている。ラーメンが来る前に同じカウンターに座ったのはアスマだった。この店にカカシがいる事が珍しいのか、カカシの顔を見かけ、お、と声を出しながら、そんな顔をし、そしてカカシの隣に座る。
 同じ上忍師同士だからなのか、カカシとアスマがよく話をしているのを見たことがあった。
 先に頼んでいたカカシとイルカのラーメンが置かれ、食べ始める。カカシはアスマが話す事に、食べながらも、相づちを打って答えている。内容は任務の内容だったり上忍仲間の事だったり。こっちにはよく分からない内容だが、ぱっと見そんな風には見えないけど、仲がいいんだなあ、と思いながら麺を啜っていれば、カカシかふとイルカを見た。
「美味しい?」
 聞かれ、イルカは、はい、と元気良く答える。意識的に控えなければ、と思っていた分、そして、空腹だったからこのラーメンは沁みる。そして餃子も。
「カカシさんは餃子、食べないんですか?」
 聞くとカカシは苦笑いを浮かべ、先生が食べると思って頼んだんだから、俺は大丈夫。そう言った。カカシは元々脂っこいものをそこまで好まないのを知っている。イルカは、そうですか、と答えて焼きたての餃子を口に入れる。皮がぱりぱりで美味い。口の中に広がる肉汁を感じながら幸せも感じ、イルカはもぐもぐと口を動かした。
 そうしている内にアスマのラーメンも置かれ、食べ始め、そしてふと店の外で鳥の鳴く声が聞こえた。忍にか聞き分けれないその鳥の声に、イルカも、そしてカカシもアスマも僅かに反応する。
「俺だね」
 そう口にしたのはカカシだった。聞き分けれるものの、それがカカシを呼ぶ鳥だとは分からなかった。少し驚くイルカにカカシは残りのラーメンを啜ると直ぐに口布を上げる。
 当たり前だが、もう少しカカシといたかった。美味しいものはカカシと一緒に食べる方が美味しい。しかし、仕事は仕事だ。
 カカシが顔を向ける。
「先生はゆっくり食べてていいから」
 そう優しく口にされればまた寂しさが募る。そんなイルカにカカシはニコリと微笑み、そして店主に声をかける。カカシの分だけではなく、自分のラーメンと餃子の分も払おうとしているのに気がつき、イルカは慌てて立ち上がった。
「カカシさん、俺払えますから」
 強めの口調のイルカに、カカシは、うん、と答えながらも支払いを済ませてしまう。そんなつもりじゃなかった。申し訳ない気持ちになるも、カカシは財布をポケットに仕舞いながらイルカへ顔を向ける。
「昼飯誘ったのは俺なんだから、ね?」
 カカシは片手をイルカの肩に乗せた。困ったままのイルカに微笑み、カカシはそのまま店を後にした。
 参ったなあ、と思いながらイルカはゆっくりと椅子に座り、ふとアスマがこっちを見ている事に気がつく。何故かドキリとした。今のカカシと自分の会話に、やりとりにおかしかったところはないはずだが、ひどく焦る。
 イルカは無理矢理笑顔を作った。
「はたけ上忍は下に優しいですよね」
 はは、と笑って言えば、アスマはラーメンを食べながら、まーな、と低い声で答える。その言葉は深く追求する気もなく、たぶん気がついていない。そんな感じにイルカは内心安堵する。再びラーメンを食べ始めた。
 自分達より後に食べ始めたのに、気がつけばアスマは既に食べ終え、財布を取り出しながら席を立つ。
 支払いを終え、もうすぐ食べ終えるイルカへアスマは顔を向けた。挨拶をしようと箸を置いたイルカに、
「優しいとかじゃなくて、あれは溺愛してるってやつだろ」
 そう口にしたアスマは、ご馳走さん、と店主に声をかけると店を出ていく。
 イルカはしばらくきょとんとしていた。数秒後、アスマの呆れながらも自分向けて言った言葉が頭に浮かび、そして脳に入る。
 イルカの顔が一気に熱くなった。
 バレていないと思っていただけに、この衝撃はあまりにも大きい。嘘だ、嘘だ、と心で呟きながらも、イルカは顔を赤くしながらも最後のラーメンを口に入れた。


<終>