ナルトとヒナタのしてること。

 昼休み、昼食を済ませた後はゆっくりしようと席に座ったが、気がついたら目に入った書類を手に取っていた。上に回せばいいだけの書類だが、性格上自分も目を通さないと気が済まない。コーヒーのマグカップを片手に書類と向き合っていれば、名前を呼ばれ、イルカは顔を上げた。職員室の入り口で同期が立っている。受付業務を全般に引き受けている同期で、以前は自分もアカデミーの業務と平行して受付業務に携わっていたが、今は自分はアカデミーの業務のみ。お互いにそれなりに責任のある仕事を任される年齢になってきてるんだな、と笑いながらこの間飲みながら話したばかりだ。その同期に声をかけられ、イルカはマグカップを机に置くと席を立った。
「どうした」
 と聞けば、同期は手に持っていた数冊のファイルをイルカに向ける。
「お前午後執務室に行くよな」
 ああ、と言えば、これも頼んでいいか?と、直ぐにそう言われ、同期の言わんとしている事が分かりイルカは苦笑いを浮かべた。要は、渡しにくいのだ。
 カカシが六代目として火影に就任してから忙しくない日はほぼなかった。平行して同じ様に忙しい下に気を配るが、カカシは自分の仕事には不満を漏らさない。夜遅くまで黙々と仕事をこなす。先代の綱手と違い、全て受け入れてしまうから。部下として仕事を頼み辛くなるのは当たり前だ。イルカは同期に頷き、ファイルを受け取った。

 カカシとつきあい始めたのは、彼がまだ上忍で、そして上忍師をお役御免になってしばらく経った頃だった。顔を合わさなくなって久しぶりにばったりと外で会い、そこから一緒に夕飯を食べた帰り道、
 俺とつき合ってみない?
 不意に会話が途切れた時、カカシがそう口にした。目を丸くする自分に、お試しでいいから。と付け足され、思わず笑っていた。昔から中忍の自分に対しても優しい人で、自分より相手の気持ちを優先させる、そんな言い方は本当にカカシらしくて。何より断る理由はなかった。いいですよ、と、そう返すとカカシは嬉しそうに微笑み、ありがとう、と言った。
 
 受け取ってみたものの、自分だって仕事を頼み辛くないわけがない。
 イルカは自分頼まれたファイルと自分の渡すべき書類の束を持ち、執務室のある建物の階段を上る。自分をアカデミーの業務だけにすると決めたのはカカシだった。
 主任なんて自分に出来るのか不安しかかったが、先生にお願いしたい、と、そうカカシに言われたら頷かない訳がなかった。それにカカシには言わなかったが、不安よりも嬉しさが勝った。
 だが、互いに忙しくて顔を合わす時間が減り、久しぶりに会った時、こんなはずじゃなかったんだけどなあ、と眉を下げて笑ったカカシを見た時、その表情を見たら、何故かすごく胸が苦しくなった。抱きしめたくなったけど、そこは居酒屋で。カカシは火影で。人前でそんな事出来るわけがなく、イルカはそれに耐え、ビールを喉に流し込んだ。
 カカシは余り自分から多くを求めない。ただ、それは自分も同じで。カカシに随分長いこと片思いをしていたが、それをカカシに伝えてはいけないと思っていた。だから、カカシから告白された時は泣きそうなくらいに嬉しかった。
 
 イルカが執務室のドアを叩けば、はーい、と直ぐ間延びしたカカシの声が返ってくる。ドアを開けた。
 カカシは自分の机ではなく、窓側に置かれたソファに座っていた。そこで手に持った書類に目を通していたカカシがイルカへ顔を上げる。イルカ先生、とニコリと微笑んだ。
 当たり前だがカカシの机の上は書類で山積みで、だが、きちんと処理出来るように並べてある。決済された書類もたくさん積まれていた。そう、この時間は下から催促された書類を決済する時間だ。それを途中にしてカカシはソファに座っている。イルカはカカシの手に持つ書類を見た。
「それは?」
 聞くと、カカシは、これ?と聞きながら自分が持っている書類に一回目を落とし、そしてイルカへ視線を戻す。
「復興関係のね、報告書」
 そう言われて納得した。カカシは、常に何を優先すべきか、分かっている。イルカはそうですか、と答え頷くと、自分の抱えていた書類とファイルを、未決済で並べられた山積みの書類の一番上に置く。そしてそこから視線をカカシに向けた。
 カカシはソファに座りながら書類に目を落としたまま、午前中顔を見せたサクラの話を始めた。
 日当たりが良すぎて昼を過ぎると眠くなっちゃうから困るんだよね、とそんな事を言っていたのは火影になって直ぐの頃。仕事に忙殺されるカカシが心配で、労いの言葉をかけようとした時、カカシが眉を下げながら苦笑いを浮かべそう口にした事を思い出す。大変なはずなのに。そんな事を言うから、そこから何も言えなくなった。
 その頃よりは幾分か仕事は落ち着いてきてはいるが。
 開け放たれた窓からは風は舞い込こんだ。重ねられた書類がぱらぱらと捲られ、銀色の髪もまたふわりと動いた。太陽に輝くその色に、カカシがいる情景に、イルカは目を細める。
「でね、サクラがさ、先週会ったばっかりなのに、久しぶりですね、なんて言うんだよ、」
「カカシさん」
 話している途中で不意にイルカに名前を呼ばれ、カカシは言葉を止め顔を上げる。青い目がイルカを映した。
「ナルトとヒナタがしてる事、カカシさんには出来ますか?」
 カカシは、一瞬、何の事かときょとんとした顔をした。やがてじっとイルカを見つめる。先月、ナルトとヒナタは先月式を挙げたばかりで、何を言わんとしているのか、カカシが分からないはずがない。
 ただ、こんな話題を振られるなんて、予想していなかったのか、カカシは驚いた顔のままで、そして、戸惑いが見える。カカシはイルカを見つめながら瞬きをした。
「・・・・・・イルカ・・・・・・先生は?」
 慎重な言葉使いだった。そんなカカシをイルカは見つめながら、目を細める。
「出来ますよ」
 さらりと答えると、カカシが一瞬目を見開いた。
「え、ホントに、」
「しましょうよ」
 その言葉に目を丸くしたまま、白い頬を赤く染めたカカシを見て、イルカは目元を緩め、白い歯を見せふわりと笑った。


<終>
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