夏の始まり

きっかけは何だったか。
後ろから見たイルカの項だったか。振り返った時の零れるような笑みだったか。暑かったからとか、理由はなんだってつけれるんだろうけど。
買い物から部屋に戻った途端、イルカを押し倒したのは自分だ。
「カカシ、まだ...明るいよ?」
目を回しながら、身体を弄るカカシに向けられた無垢な言葉に、気持ちが更に高ぶった。
「一回だけだから」
強請るように、イルカの耳に唇を押し付けて言った自分の声は、興奮していた。でも止められない。

揺すり上げる度に甘い嬌声は快楽に追いつけないような、切迫した声色で、更にカカシを煽った。結ったままの髪が誘うように揺れる。
加減なんて出来なかった。最初におかしくなったのは自分だが、それを自分だけのものにしたくなかった。イルカも自分を求めてると、それを確たるものにしたくて、律動に激しさが増す。背中に縋るイルカの指が肌に食い込む度に、求めていると、下半身が疼いた。



「....んっ....」
顔を横に向けて。ぼやけている視界には乱れたシーツが皺になっている。一回瞬きをすると、涙が頬を伝った。
乱れた息を吐いているのはイルカであり、自分を上から見つめているカカシもそうだ。
(.....あつい.....)
そう思いながら、額にも汗を掻いているのを感じる。
欲望を吐き出す為の運動量は遙かにカカシが多いはずなのに、自分とは違い、然程汗も掻いていない。
イったばかりのカカシは、快楽に浸るような、倦怠感を含んだ目で自分をじっと見下ろしていたが。のそりと身体を動かされ、イルカはハッとしてその腕を掴んだ。
「ダメっ」
「....え?」
上がった息のまま、カカシが応えた。
「だ、だって、こぼれちゃ、」
自分の腹の上に出された白濁を見て。拭いてと潤んだ目で訴えるイルカに、カカシは一瞬目を開いた後、胸を締め付ける苦しさに、顔を緩ませた。
手近にあったタオルケットを引き寄せると、無造作に腹を拭く。
「これでいい?」
訊けば、その行為がカカシの部屋のタオルケットであっても、不作法だと、目で訴えていた。
変に真面目なんだよねぇ、と顔を覗き込めば、まだ自分の腹辺りを見ている。
「なに?まだ付いてる?」
訊けば、
「おへそに...」
と言われるままにイルカのへそを見る。少しだけ濡れていた。それが自分のかイルカのか定かではないが。カカシは屈み込むとへそを舌で舐め上げた。
「ひゃぁっ」
身体をビクリとさせたイルカの発した声がまた可愛い。自分のだったらごめんだとは思うが、イルカの反応に気をよくしたカカシは、尖らせた舌をへそに捻り込ませる。綺麗にするように舐めればイルカが堪らずカカシの頭を抱え込み嬌声を上げる。
「カカシっ、やっ」
こんな声を訊かされたら。腰にくる甘い疼きにもう一回したいとは思うけど。イルカの体力を知ってる以上は無理させたくない。
行為をやめて顔を上げれば、頬を膨らませたイルカがいた。赤く染まっているのだから締まりがないとは思うが、カカシは眉を下げて笑った。
「くすぐったかった?」
「カカシの馬鹿」
悪戯な目をするカカシを睨む。カカシはイルカを抱き寄せてごろりと横になった。
健康的な肌の上に残る鎖帷子の跡を指で擦ると、その肌の質感はしっとりと汗ばんでいて、吸い付くようで気持ちがいい。
この肌を普通に日中晒す事があると思うと、苛立ちと嫉妬が胸で渦巻き、カカシは舌打ちした。
「....え、なに...?」
うつらうつらしたイルカの返事が返って来て、ホントに体力ないね、と心の中で関心しながらもイルカの頭を撫でた。額の生え際に鼻をくっつければ、太陽の匂いに心が素直に和む。
ま、今回は新しい場所を開発出来たから、いいや
不埒な事を思い浮かべながら、カカシも目を瞑る。

始まったばかりの夏は、生ぬるい風を部屋に運ぶ。
まだ外は明るい。起きたら、一緒にかき氷を作って食べよう。買ってきたイチゴとレモンのシロップは床に転がったまま。

どこかでリリンと風鈴の音が鳴り、夏の始まりを教えていた。



<終>