匂い

薄い睡眠から解かれたイルカは目を覚ました。無意識に時計を見れば夜中の3時を指している。イルカは眉間に皺を寄せ、深い嘆息を漏らした。目を覚ましたのは他でもない。一つの気配を察知してしまっていたからだ。
それは、中忍であるからでもなく。忍び故の力とは到底言い切れない。野生動物が危険に察知すると言うような。
否応無しに自分の身体に染み込んでしまった、あの上忍のチャクラと気配。身構えるもクソもない。イルカは布団から起き上がる事もしない。迎えたいと思っている相手ではないからだ。ここは自分1人が住んでいる部屋であり、約束なんかしている訳ではない。いつもいつも、勝手に入ってくる。
捉えた気配は躊躇なく玄関の扉を開けた。鍵は勿論かけていたが、その男はいつもの様に、ごく普通に扉を開け、入ってきた。
「イルカ先生〜、起きてるんでしょ?」
寝てはいたが、相手は完全に目が覚めていると分かりきっていると、そんな台詞だ。その通り、イルカは顔を顰め枕に顔を埋めた。カカシはイルカの寝ている寝台へと真っ直ぐ足を進め、腰を下ろした。安いベットはそれだけで、ぎしりと音が鳴ると同時にイルカの心音もドクンと鳴った。
無理矢理身体の関係を持たされたのは半年前。それから飽きもせずカカシは気まぐれに自分を求める。
何を考えているのか。里の誉れであるこの上忍は変人だと。しかもかなりの。その時漸く思い知った、時は既に遅かった。
ベットに腰を下ろしたカカシが顔を近づけてきたのが分かり、息を詰める。イルカは思わず閉じていた目に更に力を入れ、開けまいとした。
そんなイルカを子どもの様な仕草だと、カカシは暗闇ながらもハッキリとイルカのそんな表情を眺めながらクスリと笑いを零した。
任務の帰りだろうか、草や土の匂いが鼻につき、その中には微かに血の臭いも混じる。どんな任務だったのだろう。寝たふりをしながらもぼんやり思えば、イルカの頬にキスを落とそうてしたのを寸前で止め、カカシは立ち上がった。部屋から出て行く。ホッとし安堵するのも束の間、カカシはそのまま浴室に入って行った。勝手と言えば勝手だが。この部屋の住人であるイルカに断りもなく人の浴室を使いシャワーを浴びる音が目を閉じるイルカの耳に聞こえてくる。それは、これからされるだろう行為を示しているようで、変にまた心音が高鳴り、諌めるようにイルカは布団を頭から潜り頭を振った。
(帰れって言ってやる…!)
そうだ。ここは俺の部屋なんだ。好き勝手させて堪るか。大体今何時だと思ってるんだ。
明日、いやもう今日だ。今日は早番で朝から忙しいんだ。頭の中に朝すべき内容が次々と浮かび、そこから段取りを組んでいると。ガチャリと浴室からカカシが出てくる音が聞こえた。
イルカは慌てて、布団に潜ったまま固く目を瞑る。
(俺は寝てるんだ、寝てるんだ、寝てるんだ…)
だから、頼むから素直に寝てくれないだろうか。強気に出ようと思っていたが、気がつけばイルカは祈る様な気持ちになっていた。
「イルカ先生」
布団の中で丸くなっているイルカに、布団越しに躊躇いなく声をかける。
無視を決め込み返事を返さないでいると、カカシはベットに上がってきた。近くにいる。それだけで、もう心臓はバクバクし始める。怖いくらいに。イルカは手で、パジャマを上からぎゅっと抑えた。
瞬間、カカシに布団を剥がされ、イルカはビクリと身体を震わせた。外気に触れた身体を強張らせ、露わになったイルカを見下ろしているのが分かる。
いつも、いつも、いつも。この男は何なんだ。何が面白くて自分に関わりを持とうとするのだ。
「先生、あれ…寝てるの〜?」
カカシの可笑しそうな声色に、イルカは無視するように声を発せず目を瞑ったまま。
すっとカカシが手を伸ばし、イルカの頬に触れた。
「先生」
耳元で囁かれる声。低く、痺れを伴わせる声に、イルカの身体はそれだけで素直に反応を見せる。身体の中枢から下半身にまで、カカシの声は染み込んでいくようで。
イルカはそれを耐えるように眉頭を寄せた。
「俺は寝たいんですっ!放っておいてくださいっ!」
目を閉じたまま口に出すと、プイと顔を横に向け枕に顔を半分埋める。そしてまた必死に寝たふりを決め込んだ。
力では敵わないのは分かっている。だが嫌なものは嫌だ。一回だってカカシとの行為を自分は同意した事はないんだ。
それを覆いかぶさるように上から眺めていたカカシは、ふうん、とだけ呟いて。
「じゃ、アンタ寝てるんだ」
そう言った。
え、それってどんな意味だと考える間も無く、カカシがイルカの顎を掴んだ。グイと上を向かされ、イルカは思わず目を開けた。見えたのは薄ら笑いを浮かべたカカシに、闇に浮かび上がる白く鍛え上げられた身体。ずっと目を瞑っていた為、カカシが服を脱いでいると思っていなかった。迂闊にも反射的に顔に熱を持ってしまい、その光景を押し出すように、薄く開いた目をギュッと閉じた。
カカシがフッと息を漏らすような笑いを零し、固く閉じた目と同じように閉じられた唇を貪るような口付ける。
分かっているはずなのに、口付けただけで、丸で初めてのような動きを見せ、驚き息を飲むイルカに構うことなく、口付ける。厚い唇を最初に堪能すると、カカシはまだ力が入っているイルカの口を舌でこじ開けた。熱いイルカの口内は、拒んでいるとは裏腹にカカシを誘っているようだった。驚きと拒否からか、縮こまるイルカの舌を簡単に捕まえると、自分の舌にゆっくりと絡ませる。唾液が更に分泌され、とろりとした熱さが口内を支配した。
「…んっ…は…っ」
熱く鼻にかかった甘い声がイルカから漏れる。イルカの指は自分のパジャマをぎゅっと握りしめている。口付けの快楽を必死に耐えるかのように。閉じた瞼が恨めしい。未だ拒むイルカは、黒く濡れた瞳を隠してしまっている。
カカシは唇を浮かした。
「まだ寝てるの?」
囁くと、イルカはその瞼をピクリと動かした。考えたのか、一瞬間を置き、
「ね、…寝てますっ!」
不貞腐れたようにそう発した。
「そう」
カカシはそう言うと、大きな掌でパジャマ越しにイルカの性器を包み込んだ。
その衝撃にイルカはやっ、と声を上げそれを手で制そうとした。カカシの手首を掴むが、カカシは力を緩ませる事なく擦り上げる。
「あれー?寝てるんじゃなかったの?」
意地悪い声に、イルカはハッとしてカカシを掴む手の力を緩め、離す。それを見ながらカカシは薄い唇の端を上げた。
何を考えて拒否をしてるから知らないが、寝てる訳がないのに。可笑しくて仕方がない。下衣に手を滑り込ませ、カカシは直接イルカの性器を包み、指で柔らかい先端を触る。既に口付けだけでイルカの熱はしっかりと反応を示していた。
「可愛いー…」
ぼそりと言われた台詞。
もう耐えられない。イルカは下半身の刺激と羞恥に目を開き、弄るカカシの手を両手で塞いだ。
「触る…なっ…っ」
必死の抵抗も、カカシは涼しい顔で指を入れ意地悪く動かした。蜜が溢れてきたその先は滑りが加わり、固い指先が敏感な部分を擦る。
「……あっ!…やっ……っ」
掌で上下に扱く動きに息を詰め、与えられる快楽に目眩がする。
「気持ちいい?ねえ、…」
カカシの台詞に首を横に振った。
どうしようもなく気持ちいいが、認めたくない。こんな男の手で感じるなんて。
指先に力を入れ、抵抗する。
「……その手、縛り上げるよ?」
「っ…だって…っ、やっ…っ」
まだ離しきれないイルカの手をグイとのかせると、カカシは徐々に扱く早さを上げる。更に先端から蜜が溢れ、聞きたくもない湿った音が耳に入り込んだ。
固い指で先端を擦られ、快感のまま白濁を放つ。カカシの手を、自分の腹を汚した。精液が付いた指をカカシは舐める。その光景にイルカは目を見開いた。
「なっ…!」
驚きに声を上げたが、カカシは躊躇う事なくイルカの陰茎を口に含んだ。
「……っぁっ!」
いったばかりで敏感になった身体を震わせる。
搾り取るように吸い上げ、カカシは口から離した。
「きたな…っ」
「えー?汚くなんかないよ。何言ってるの?」
言いながら歪ませる濡れた唇は艶かしい。イルカはゴクリと唾を飲んだ。
おもむろにイルカのパジャマを脱がせ下着を剥ぐ。剥き出しになったイルカの尻へ手は伸び、長い指はイルカの奥にある粘膜に触れた。指の腹で入口を撫で、その柔からさを確かめながら、徐々に中へと侵入していく。
「……っ」
いくらされても慣れない異物感に、イルカは息を詰めた。カカシは自分の指を動かしながら、締まった肉を解かし、質感を楽しむように慣れた手つきで指を奥へと潜らせた。ふっくらした箇所を撫でるように指の腹が触れると、痺れる快感に声を出すまいとしていた、イルカの声が耐えきれずに溢れた。そして指を締め付ける。快楽に浮かされるイルカの苦しげな表情に、カカシはぞくりとし思わず舌舐めずりをした。
「俺を欲しいって言ってる…ね、アンタの身体はこんなに素直なのにね」
ゆっくりと、焦らすように指を出し入れしながらカカシは呟いた。
熱く解かれた中はカカシを誘い込むように、指を入れ動かすたびに収縮を繰り返す。喘ぎながらイルカは小さく頭を振った。
「ちが、…っぁあ!」
否定すれば、中の敏感な部分を指で強く擦られ、逃げ出したくなるくらいの刺激は、また射精感を与える。イルカは苦しげに息を吐き出した。
「ウソ。俺を欲しいって言ってよ」
熱を帯びた声を耳元で囁き、擡げてきたイルカの陰茎を再び擦りあげる。
強請る台詞に、潤ませた目をギュッと閉じた。指が抜かれ、うつ伏せにされる。急な反転に目を回した。
「ぇ、…やっ、」
カカシが見えなくなるのが無意識に嫌だと思った。
乱暴に尻を掴まれ、広げられる。カカシからは全て見えているのだろう。そう思っただけで、イルカは眉根を寄せながら恥ずかしさに唇を噛んだ。
広げられ晒された解かされた場所に、固い肉棒が当たる。その場所はゆっくりと侵入を許した。
「…はっ、……ぁ……っ!」
肉の壁を押し広げられる圧迫感に息が詰まりそうになる。自然に涙が目に浮かんだ。
逃げ出そうとするイルカの身体を押さえつけた。
「だーめ。ほら、息を吐かなきゃ、アンタが苦しいだけだよ?」
言われるままに息を吐く。それを感じ取ったのか、再奥まで突き入れられた。根元まで挿れると、カカシは小さく息を吐き出した。そこからゆっくりと動かし始める。
「…ぅ、…あっ……は……」
肉の当たる音とイルカの喘ぎ声が部屋に響き始める。
リズムよく打ち付ける度に声が大きくなった。抑えたいとか、もう恥じらう理性は消えていた。与えられる快楽にただ夢中になる。
「ぁあ……!」
強く突き上げられ、目から涙がぽろりとこぼれ落ちた。
カカシの息も荒くなっていく。
ただ、獣のように繋がり中を擦られ、合わせるように必死に呼吸を繰り返した。
朦朧としながら、イルカは嫌な予感が過ぎり、喘ぎながらも口を開けた。
「…っあ、…カ、…っカシさっ…」
この行為自体もそうだが、それよりどうしても譲れない事があった。
「…なに…?」
カカシは突き上げを緩めながらも応える。
「だ…っ、ださな…」
「え?なに?」
「中で…っ、出さないで…!」
吐き出すように口に出したイルカの言葉に、律動がゆっくりと止まった。
「…何で?」
「…ど、どうしても…」
グチュリ、とカカシが繋がる部分を動かす。
「ぁ!……や、…」
それだけでイルカは声を上げた。触られてもいない陰茎は達したくビクビクと蜜を垂らしている。
答えないイルカにカカシは意地悪く、ゆっくりと揺すり上げた。
「ねえ、何で?言わないとこのままだよ?」
苦しさに、イルカは顔を顰めた。
「匂いが…」
「匂いが、なに?」
顰めたまま、潤んだ目をギュッと閉じ口を開けた。
「……中で出されると、あなたの匂いが、ついて取れないから…!」
吐き出した言葉。
誰に言われたわけでもないが、出された翌日、どんなに綺麗に洗ってもカカシの匂いがしてならない。それが、恥ずかしく嫌だった。
カカシから答えがない。その代わりに、中に入ったままのカカシの熱が大きさを増した。
「ぇ…な…」
その変化にイルカは顔色を変える。
「……ふうん…俺の匂いが…ねぇ…」
カカシがボソリと呟く。首を捻りカカシを見ると、欲火が灯った目が自分を見ていた。不敵な表情のままカカシは舌舐めずりをする。その意図を知り愕然となる。大きな掌がイルカの腰を掴んだ。
「ぁ……やめ…」
制する声も虚しく、一際強く打ちつけられ思わず声を上げた。そこから息も絶え絶えになるイルカに構わず容赦なく何度も突き上げる。今迄こんな大きさだっただろうか。目眩がする程の快楽に身体を戦慄かせた。
「…はっ、…ぁっ……あっ…!」
敢え無くイルカは達し、吐精する。そのいったばかりの身体を激しく揺さぶりカカシが小さく呻く。
腰を強く引きつけられ、奥で弾けるカカシの熱に身体を震わせた。
息を荒げながら、一滴も残さず中に出そうとするカカシに抵抗さえ出来なかった。
「…な…んで…」
掠れた声を出しながら首を捻りカカシを睨む。そのイルカを見てカカシは笑いを零した。
「そんな目で見ても駄目だよ。逆効果だから…ほら」
口角を上げ、ゆるゆるとまたカカシが腰を動かす。固さを持ち始めた陰茎がまたイルカに刺激を与え始める。
「や……ぁ…だ、め…」
揺すり上げられ、再会される行為に抵抗もままならない。ただ、イルカは擡げる波に堪えるようにシーツをギュッと握った。


「イルカせーんせ」
カカシの声に応えようともせず、イルカはシーツに包まったまま。無言で怒りを表していた。
信じられない。
嫌だって言ったのに。2回も。
好き勝手やったカカシは機嫌がいいらしい。無視を決め込むイルカに、甘えた声で名前を呼び続ける。解かれたイルカの黒髪を撫でながら、頬に唇を落とした。
「機嫌直して?ね?」
髪を撫でてくる指先がことのほか気持ちいい。それが気にくわない。
プイと顔を背けるイルカに、カカシはため息を零した。
「身体が気持ち悪いなら風呂入ろうよ。綺麗にしてあげる」
「…そんなの俺は求めてません」
低い声で否定したイルカに、カカシは首を傾げた。
「何で?」
イルカは呆れるも怒りが上回り、カカシを睨んだ。
「だから!あなたが中で出さなきゃ良かったんですよ!今更綺麗にしても…またあなたの匂いが…」
「そんな嫌?」
「…え?」
不意に真面目な声色にイルカは言葉を止めてカカシを見た。
「だってアンタは俺のじゃない。俺以外の何の匂いならいいとかあるの?ね?そうなの?」
「はあ?…何言って…」
起き上がったイルカの首元にカカシは顔を埋め、ぎゅうと抱き締める。お互い素肌で重なる肌に、カカシの匂いがイルカの肺に吸い込まれた。それは酷く落ち着く匂いで。
抱き締められるままに、イルカは目を閉じた。
散々人を振り回すくせに。
好き勝手やるくせに。
でもーー腹立たしい事に、この匂いは嫌いじゃない。
「ないですよ、そんなの」
「じゃあいいじゃない」
言えば直ぐに返ってくる。
よくねーよ、と腹の中で言うが口には出さない。
代わりに、諦めるようにイルカは静かに息を吐き身体の力を抜いた。何とも生徒を相手にしているようで。
だけど、相手は木の葉を誇る写輪眼のカカシなんだよなあ。
どう答えたらいいか分からなくなり、イルカは宥めるようにカカシの背中に手を回した。その広い背中に指を這わせる。
正直この男を認めたくないが。だからと言って、また意識を飛ばされたら堪らない。
自分に諦めをつかせるように、もう中出しは嫌とか言うのはやめようと心に決め。
結局この男の言いなりか、と絶望的な思いを胸に抱きながら。
はいはい、と甘えた声で擦り寄るカカシの背中を撫で続けた。



<終>
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