落とす②
西の山に日が落ちれば気温もぐっと下がる。七班の任務を終えた帰り道、しんしんとした寒さにナルトが、さみー!と身震いしながら声を上げれば、隣を歩いていたキバが何言ってんだと鼻で笑った。
「こんなので寒いなんて言ってんだったら何にも出来ねーな」
言われてナルトがむっとする。
「じゃあそれ貸せってば」
頭にいる赤丸を指さされキバが方眉を上げれば、ナルトがあったかそうだからさ、と追加する。キバが、ふざけんなっ、と声を上げた。同時に赤丸もわん!とキバに同調するかのようにナルトに向かって吠える。
たまたま任務帰りに八班と顔を合わせ、どうするわけでもない、受付までぞろぞろと一緒に帰っているだけなのだが。元気と言えば聞こえが良いが、相変わらずの落ち着きのない会話に、状況に、カカシは内心ため息を吐き出した。紅は慣れているのか、対して反応を示さない。ぎゃあぎゃあ騒ぎながら暗くなる道を歩き、受付が近づいた頃、少し先にいる人影にカカシは気がつく。その数秒後に、ナルトがイルカの名を呼ぶと元気よく走り出した。
ナルトに腰に抱きつかれながら、イルカがこっちに顔を向け紅と自分に頭を下げる。カカシもイルカを見つめながら軽く頭を下げた。
キバとナルトが互いにイルカに向かって自分の班がいかに任務を頑張ったのかを競うように話しながら、次第にまだ二人で言い争いを始める。それも僅かに嬉しそうな眼差しを向けながら、イルカは紅とカカシが立っている方へ顔を向けた。
「お疲れさまでした」
どうでしたか?と聞くイルカに紅は、目でキバとナルトを指しながら、見ての通りよ、と返す。そんな紅に、イルカは、そうですね、眉を下げ口に手を当てて小さく笑った。
下忍とは言え、卒業したばかりでアカデミーの生徒に毛が生えた程度だ。成長があろうとも、大変さはきっとイルカが誰よりも知っているだろう。
子供思いの人間味ある教師。ーーイルカに対して今まではその程度の印象だけだったが。
カカシは一呼吸おくとポケットから手を出す。手に持っている書類から今日はアカデミーで、今からそのまま執務室に向かうか、アカデミーへ戻るのか。兎に角背を向ける前に、とカカシは、あのさ、と声をかけた。イルカは、はい、と返事をしながらナルト達へ向けようとしていた視線をカカシへ戻す。
「今日さ、ラーメンでも食べにいかない?」
ナルトがちょうどキバと言い争いをしていて、他の部下もそれに注視していて聞いていないのを良いことに、何気なく誘いの言葉をかける。
イルカは、微かに目を丸くした後、苦笑いを浮かべながら、空いている手で後頭部を掻いた。
「すみません、今日はちょっと」
まあ、そうなる事は予想していた。残業?と聞けば、まあそれもありますが、先約が。とイルカは答える。
自分の誘いでも先約を優先する性悪なのは十分知っていた。先約があるのなら仕方ない。つれないなあ、と素直に残念そうに口にするカカシにイルカは苦笑いと共に、すみません、ともう一度頭を下げ、そこから紅にも会釈をすると歩き出す。それに目敏く気がついたナルトが、イルカに一楽に行きたいと声をかけた。自分のように。それを同じように今日は約束があると答えるイルカを見つめながら、受付に向かって歩き出す自分に、
「残念だったわね」
そう言われてカカシは視線だけを紅に向けた。真紅色の目が何を言いたいのか明白で。当たり前に内心面白くない。黙ってその視線を前に戻せば、まだ頑張ってるの?と聞かれどう答えようか迷った。
イルカから、お友達からの湾曲表現を受け入れてから三ヶ月。飲みに行く程度に関係は進展したものの、そこから何も変わっていない。あんだけ感情が顔に出る人なのにも関わらず、結構自分も相手の心情を読むのが得意だが。イルカが自分を今どう思っているかなんて分からなかった。たぶん、言葉通りにイルカにとって自分は飲み友達なんだろう。
夕飯に誘えば、仕事や予定がなければ基本頷く。話が弾んでいてもいなくともそれなりに一緒にいる時間は楽しい。と、イルカも思ってくれてはいるとは思うが。それだけで。
それってやっぱり飲み友達って事に変わらないんだと、薄々気がついていた。だからといって酔ったイルカに手を出すほど自分は馬鹿じゃない。もしそんな事をしたら、二度目がないどころか、口すらきいてもらえなくなる。それだけは避けたい。
ただ、最初の頃は、イルカをものにしたくてたまらなかったが。イルカとそういう関係になって、組み敷きたいのには変わらないが、今はそこまでがつがつした気持ちになれないのは、無理に頑張ったことろで、だからと言ってイルカが他の女のように簡単に自分に振り向くとは到底思えないから。
諦めて他の女なり男にイルカを盗られるくらいだったら、自分はイルカの求める関係を維持する方を選ぶ。
(ま、それなりの忍耐力も必要なんだけどね)
そこまで思ってカカシは紅へ視線を向け、まあね、と認めるも、紅は深く追求する気はないらしい。僅かに感心したような顔を見せ、そう、と口だけ口にした。
結局、イルカと夕飯を食べたのは週末。元々先週飲んだ時に約束をしていた。残業で少しだけ遅れてきたイルカは最初こそビールを頼んだものの、直ぐに焼酎に切り替えた。そこまで強くないが、週末くらいは、と酒を楽しんでいるのが伝わってくる。
そんなイルカを横目にカカシはビールを飲みながらテーブルに置かれただし巻き卵を大根下ろしと共に口にした。イルカが頼んだものだが、大根下ろしと食べればさっぱりしてそこそこに美味い。
片肘をつきビールの入ったグラスを傾けながら、で?とカカシは口にした。その言葉にイルカは赤い顔でカカシへ顔を向ける。
「この前の先約って誰だったの?」
気になっていた事を素直に問えば、イルカは思い出したように、ああ、と言いながら微笑んだ。
「元生徒です俺が初めて受け持ったクラスの生徒だったんですが、中忍になって初めての給料で、ラーメン食べようって誘ってくれて」
イルカは照れくさそうに鼻頭を掻く。そんな嬉しそうな顔をするイルカをカカシは見つめた。へえ、そうなんだ、と相づちを打つと、はい、とイルカは頷く。
自分は今まで上忍師として部下を受け持ったのが、ナルト達が初めてで、今はまだ駆け出しの下忍で、ひよっこもいいとこだ。正直イルカの気持ちがそこまで分からないけど、事実、イルカは自分が思っている以上に嬉しいのだろう。グラスに入った焼酎を美味そうに口にする。
共感は多少出来るものの、ただ、嫉妬がないと言ったらそれは嘘だった。ナルトのように懐いていた生徒でなければ、元師だけと言う繋がりだけで、中忍になって初めての給料でラーメンを奢るなんてことはそうない。しかもこの人のことだ。馬鹿みたいに喜んで、奢るなんて言われたら、人前だろうが感極まってきっと涙ぐんだに違いない。
それが嫌でも想像できて。想像すればするほど、イルカに共感どころではなかった。むしろ気に入らない。人の誘いをあっさりと断っておいて、元生徒とは言え他のやつと楽しそうに飯を食べるとか。
本音を吐けばイルカは嫌な気持ちになるだけで、自分の株は急暴落だから、口にはしないが。カカシは面白くなさそうに自分のビールが入ったグラスを無意味に揺らして、それを飲み干した。
「ま、楽しかったみたいで良かったじゃない」
口にするも心は裏腹だ。立て肘をついたまま、少しだけため息混じりに口にして言えば、イルカは黒い目をこっちに向け、また嬉しそうに、はい、と答える。
嬉しそうな顔を見たら、またため息を吐きたくなった。
自分の気持ちを知っているんだったら、その嬉しそうな表情を、ちょっとでも自分に向けてくれたっていいのに。
面白くない、とカカシは皿に残っている枝豆に手を伸ばし、莢からから身を出して口に放り込む。と、視線を感じてカカシが視線を上げれば、イルカがさっきの自分と同じように、行儀悪く立て肘をつくようにして、その腕に自分の顔をくったりと寄せながら、こっちを見ていた。酔いもまわり、イルカとしては楽しい話題に美味い酒を飲み、上機嫌なんだろう。ただ、じっと見つめれる事はそうなく、カカシは戸惑いながら、なに?と短く聞けば、イルカはその黒い目を緩ませ目を細める。
「今日俺んち寄ってきません?」
そう口にしたイルカに、目を丸くした。
最初は戸惑った。だってどんな理由で自分を家に誘ったのか分からなかったけど、こうして一緒に飲むようになって初めて誘われて。
理性を保とうとは思っていたのに、玄関を閉めて振り返った時、イルカとは既に距離が近くて、戸惑いがちに顔を近づけても、イルカは拒否をする素振りも見せなかった。よく考えれば、前と同じ状況だ。だからなおのこと戸惑うのは当たり前で。
「いいの?」
唇が触れる直前、同意が欲しくてそう囁くように問えば、イルカは恥ずかしそうに目を伏せながらこくりと頷く。我慢していたものがあっけなく、切れた。
互いに唇を奪い合うような激しいキスをしながら、また、互いの服を脱がせながら、まだアンダーウェアを着たままのイルカを、奥の寝室のベットに押し倒す。
二度目の時はこうしようとか、色々考えてはいたが、そんな日が直ぐに訪れるなんて思ってもみなくて。優しくてあげようとは頭のすみにあったが、そうする余裕はカカシにはなかった。
既に緩く勃ち上がったそれを下着越しに触れながら、指で擦る。イルカの胸の突起を舌で転がし、吸い上げると、イルカが気持ちよさそうに声を漏らした。男の身体に興奮することろなんてないと思っていた。どちらかと言えば、大きく弾力のある胸や、元々都合良く固い肉棒を受け入れるように出来ている柔らかい箇所とか。なのに、この引き締まった身体や柔らかくないイルカの肌が、匂いが、声が、全てがどうしようもなく自分を狂わせる。
下着から取り出した陰茎は既に先が透明の汁で濡れていた。それを親指で拭うようにして、上下に擦るとわかりやすいくらいに充血し、更に固くなる。思わずカカシは喉を鳴らした。上唇を舐め上げた舌を、そのままイルカの陰茎へ這わせた。唾液が混じる事で水音が部屋に響く。
夢中になって口に咥えたまま上下させ、もう一方の手を奥に伸ばした。前は自分のポーチの中にあった止血剤に使う軟膏を代用したが、それは既に玄関で、取りに行くのさえその間が惜しい。カカシは自分の唾液で指を濡らすと窄まったそこを指の腹でゆっくりと押し広げた。押し広げる最初こそは肌と締め付け具合から抵抗を感じたものの、濡れた指を挿れれば誘うかのように締め付けながらも内側の肉がほぐれていく。同時に漏れるイルカの声が、甘く耳に響いた。指を増やして抜き差ししながら、カカシは血管の浮き上がった陰茎の側面を舐め上げ、柔らかい箇所を軽く吸う。
「カカシさん・・・・・・」
イルカに名前を呼ばれカカシは顔を上げた。口からぬろんとイルカの陰茎が飛び出す。名前を呼んだイルカは、カカシが更にほぐそうとしている手を両手で押さえて腰を上げた。見つめる目が黒く潤んでいる。目頭はうっすら赤く涙が滲んでいた。腰を上げた事でカカシの唾液で濡れたそそり立っているものをカカシに突き出すようになっている。その光景に目眩がした。
既に自分も沸騰しそうなくらい身体も頭も熱で浮かされている。カカシはイルカから指を引き抜くと、自分のアンダーウェアを脱ぎ床に捨てる。イルカに覆い被さった。
一番奥まで突き入れた後、間を置かずイルカの腰をつかんで抜き差しを繰り返した。
その激しさにベットがぎしぎしと軋む音を立てる。イルカがひっきりなしに声を上げた。それがカカシを更に興奮させる。
ロマンティックとか、優しくとか。もう既に頭の隅にもない。突き上げながら見下ろすイルカの表情に、その黒い目に引き寄せられるように、カカシは唇を荒々しく塞いだ。
このイルカの熱に浮かされた表情もそうだ。もっと余裕を持ちたかったのに、あんな形で誘うとか。はっきり言えば反則だ。前の繰り返しになっていると思いたくないのに、誘惑には勝てなかった。鉄の自制心は何処に行ったのか。自嘲気味に内心苦笑いを浮かべるしかないが、ただ、今は没頭したい。
カカシは唇を離すと、再び腰を激しく動かし始める。内側を擦る感覚に、その快楽にカカシはうっそりと目を閉じ夢中に腰を振った。イルカは途切れ途切れに嬌声を漏らしながら、間もなく達する。先端から迸った精液が勢いよくイルカ自身の腹に飛び散った。
まだ達するつもりはなかったが、それは不可能だった。内部できつく締め付けられ射精感に眉を寄せカカシもまた自分の陰茎を中から引き抜き、イルカの腹を同じ様に汚した。
はあはあはあ、と荒い呼吸をどちらともなく繰り返しながら、カカシはぼんやりとイルカの腹にある、吐き出したそれを倦怠感を纏った目で見つめる。
今までにないくらい、気持ちよかった。ただ、後悔がないと言ったらそれは嘘だった。
(・・・・・・やっちゃった)
落胆気味にカカシは額に滲んだ汗を手の甲で拭うと、激しい動きでぐしゃぐしゃになった乱れたままのシーツを手に取った。そのままイルカの腹を拭おうとした時、その手をイルカが掴む。
さっきまであんなに快感に溺れていた顔をしていたのに、その表情はもうそこにはない。もしかして、イルカも自分同様、後悔しているのか。ただ、不意に腕を掴まれる理由が分からなくて、どうかした?と素直に問えば、イルカは眉を寄せた。
「あんたって人はっ、前もそうでしたが、そのシーツで拭くのはやめてください。がびがびになるの分からないんですか?」
不機嫌に言い放つとイルカは、そんな事だろうと思って用意してたんですよ、と、ベットの下に置かれていたティッシュの箱を取ると、カカシに押しつける。カカシは、一瞬きょとんとしたが。そんな事かと、促されるままにティッシュを数枚取り出したところで手を止めた。瞬きをして、そしてイルカへ視線を向ける。
「・・・・・・先生、そのつもりだったんだ」
イルカの台詞から、繋がるただ一つの結論に、ぼそりとそう返せば、イルカは一瞬目を丸くした。その直後、健康的な肌が赤く染まる。いや、とイルカが言いかけるが、口にした台詞は否定出来ないくらいに明白だった。理解できても自分はずっと先が見えないと思っていたから。いつから?と更に問えば、イルカは更に困惑を思い切り顔に出しながら、視線を泳がせ下にずらした。
自分が見ていた限りは、イルカは全くそんな素振りを見せなかった。どちらかと言えばつれなくて。一体、いつ、そんな気持ちになったのか。てっきりやらかしたとばかり思っていたのに。
こんなに激しく求め合っておきながら、今更ながらにドキマギとし始め、カカシはティッシュを持つ手に僅かに力を入れる。
見つめながらじっと答えを待つカカシに、目を伏せたままのイルカが、ゆっくりと顔を上げた。
「秘密です」
少しだけ怪訝そうに、恥ずかしそうに。そう口にする。そしてその恥ずかしさを隠すように、イルカはふいと顔を背ける。その横顔はもちろん、耳まで真っ赤で。
それを目にした瞬間、ここから再び恋が始まると知らせるかのように、カカシの胸が高鳴った。
<終>
「こんなので寒いなんて言ってんだったら何にも出来ねーな」
言われてナルトがむっとする。
「じゃあそれ貸せってば」
頭にいる赤丸を指さされキバが方眉を上げれば、ナルトがあったかそうだからさ、と追加する。キバが、ふざけんなっ、と声を上げた。同時に赤丸もわん!とキバに同調するかのようにナルトに向かって吠える。
たまたま任務帰りに八班と顔を合わせ、どうするわけでもない、受付までぞろぞろと一緒に帰っているだけなのだが。元気と言えば聞こえが良いが、相変わらずの落ち着きのない会話に、状況に、カカシは内心ため息を吐き出した。紅は慣れているのか、対して反応を示さない。ぎゃあぎゃあ騒ぎながら暗くなる道を歩き、受付が近づいた頃、少し先にいる人影にカカシは気がつく。その数秒後に、ナルトがイルカの名を呼ぶと元気よく走り出した。
ナルトに腰に抱きつかれながら、イルカがこっちに顔を向け紅と自分に頭を下げる。カカシもイルカを見つめながら軽く頭を下げた。
キバとナルトが互いにイルカに向かって自分の班がいかに任務を頑張ったのかを競うように話しながら、次第にまだ二人で言い争いを始める。それも僅かに嬉しそうな眼差しを向けながら、イルカは紅とカカシが立っている方へ顔を向けた。
「お疲れさまでした」
どうでしたか?と聞くイルカに紅は、目でキバとナルトを指しながら、見ての通りよ、と返す。そんな紅に、イルカは、そうですね、眉を下げ口に手を当てて小さく笑った。
下忍とは言え、卒業したばかりでアカデミーの生徒に毛が生えた程度だ。成長があろうとも、大変さはきっとイルカが誰よりも知っているだろう。
子供思いの人間味ある教師。ーーイルカに対して今まではその程度の印象だけだったが。
カカシは一呼吸おくとポケットから手を出す。手に持っている書類から今日はアカデミーで、今からそのまま執務室に向かうか、アカデミーへ戻るのか。兎に角背を向ける前に、とカカシは、あのさ、と声をかけた。イルカは、はい、と返事をしながらナルト達へ向けようとしていた視線をカカシへ戻す。
「今日さ、ラーメンでも食べにいかない?」
ナルトがちょうどキバと言い争いをしていて、他の部下もそれに注視していて聞いていないのを良いことに、何気なく誘いの言葉をかける。
イルカは、微かに目を丸くした後、苦笑いを浮かべながら、空いている手で後頭部を掻いた。
「すみません、今日はちょっと」
まあ、そうなる事は予想していた。残業?と聞けば、まあそれもありますが、先約が。とイルカは答える。
自分の誘いでも先約を優先する性悪なのは十分知っていた。先約があるのなら仕方ない。つれないなあ、と素直に残念そうに口にするカカシにイルカは苦笑いと共に、すみません、ともう一度頭を下げ、そこから紅にも会釈をすると歩き出す。それに目敏く気がついたナルトが、イルカに一楽に行きたいと声をかけた。自分のように。それを同じように今日は約束があると答えるイルカを見つめながら、受付に向かって歩き出す自分に、
「残念だったわね」
そう言われてカカシは視線だけを紅に向けた。真紅色の目が何を言いたいのか明白で。当たり前に内心面白くない。黙ってその視線を前に戻せば、まだ頑張ってるの?と聞かれどう答えようか迷った。
イルカから、お友達からの湾曲表現を受け入れてから三ヶ月。飲みに行く程度に関係は進展したものの、そこから何も変わっていない。あんだけ感情が顔に出る人なのにも関わらず、結構自分も相手の心情を読むのが得意だが。イルカが自分を今どう思っているかなんて分からなかった。たぶん、言葉通りにイルカにとって自分は飲み友達なんだろう。
夕飯に誘えば、仕事や予定がなければ基本頷く。話が弾んでいてもいなくともそれなりに一緒にいる時間は楽しい。と、イルカも思ってくれてはいるとは思うが。それだけで。
それってやっぱり飲み友達って事に変わらないんだと、薄々気がついていた。だからといって酔ったイルカに手を出すほど自分は馬鹿じゃない。もしそんな事をしたら、二度目がないどころか、口すらきいてもらえなくなる。それだけは避けたい。
ただ、最初の頃は、イルカをものにしたくてたまらなかったが。イルカとそういう関係になって、組み敷きたいのには変わらないが、今はそこまでがつがつした気持ちになれないのは、無理に頑張ったことろで、だからと言ってイルカが他の女のように簡単に自分に振り向くとは到底思えないから。
諦めて他の女なり男にイルカを盗られるくらいだったら、自分はイルカの求める関係を維持する方を選ぶ。
(ま、それなりの忍耐力も必要なんだけどね)
そこまで思ってカカシは紅へ視線を向け、まあね、と認めるも、紅は深く追求する気はないらしい。僅かに感心したような顔を見せ、そう、と口だけ口にした。
結局、イルカと夕飯を食べたのは週末。元々先週飲んだ時に約束をしていた。残業で少しだけ遅れてきたイルカは最初こそビールを頼んだものの、直ぐに焼酎に切り替えた。そこまで強くないが、週末くらいは、と酒を楽しんでいるのが伝わってくる。
そんなイルカを横目にカカシはビールを飲みながらテーブルに置かれただし巻き卵を大根下ろしと共に口にした。イルカが頼んだものだが、大根下ろしと食べればさっぱりしてそこそこに美味い。
片肘をつきビールの入ったグラスを傾けながら、で?とカカシは口にした。その言葉にイルカは赤い顔でカカシへ顔を向ける。
「この前の先約って誰だったの?」
気になっていた事を素直に問えば、イルカは思い出したように、ああ、と言いながら微笑んだ。
「元生徒です俺が初めて受け持ったクラスの生徒だったんですが、中忍になって初めての給料で、ラーメン食べようって誘ってくれて」
イルカは照れくさそうに鼻頭を掻く。そんな嬉しそうな顔をするイルカをカカシは見つめた。へえ、そうなんだ、と相づちを打つと、はい、とイルカは頷く。
自分は今まで上忍師として部下を受け持ったのが、ナルト達が初めてで、今はまだ駆け出しの下忍で、ひよっこもいいとこだ。正直イルカの気持ちがそこまで分からないけど、事実、イルカは自分が思っている以上に嬉しいのだろう。グラスに入った焼酎を美味そうに口にする。
共感は多少出来るものの、ただ、嫉妬がないと言ったらそれは嘘だった。ナルトのように懐いていた生徒でなければ、元師だけと言う繋がりだけで、中忍になって初めての給料でラーメンを奢るなんてことはそうない。しかもこの人のことだ。馬鹿みたいに喜んで、奢るなんて言われたら、人前だろうが感極まってきっと涙ぐんだに違いない。
それが嫌でも想像できて。想像すればするほど、イルカに共感どころではなかった。むしろ気に入らない。人の誘いをあっさりと断っておいて、元生徒とは言え他のやつと楽しそうに飯を食べるとか。
本音を吐けばイルカは嫌な気持ちになるだけで、自分の株は急暴落だから、口にはしないが。カカシは面白くなさそうに自分のビールが入ったグラスを無意味に揺らして、それを飲み干した。
「ま、楽しかったみたいで良かったじゃない」
口にするも心は裏腹だ。立て肘をついたまま、少しだけため息混じりに口にして言えば、イルカは黒い目をこっちに向け、また嬉しそうに、はい、と答える。
嬉しそうな顔を見たら、またため息を吐きたくなった。
自分の気持ちを知っているんだったら、その嬉しそうな表情を、ちょっとでも自分に向けてくれたっていいのに。
面白くない、とカカシは皿に残っている枝豆に手を伸ばし、莢からから身を出して口に放り込む。と、視線を感じてカカシが視線を上げれば、イルカがさっきの自分と同じように、行儀悪く立て肘をつくようにして、その腕に自分の顔をくったりと寄せながら、こっちを見ていた。酔いもまわり、イルカとしては楽しい話題に美味い酒を飲み、上機嫌なんだろう。ただ、じっと見つめれる事はそうなく、カカシは戸惑いながら、なに?と短く聞けば、イルカはその黒い目を緩ませ目を細める。
「今日俺んち寄ってきません?」
そう口にしたイルカに、目を丸くした。
最初は戸惑った。だってどんな理由で自分を家に誘ったのか分からなかったけど、こうして一緒に飲むようになって初めて誘われて。
理性を保とうとは思っていたのに、玄関を閉めて振り返った時、イルカとは既に距離が近くて、戸惑いがちに顔を近づけても、イルカは拒否をする素振りも見せなかった。よく考えれば、前と同じ状況だ。だからなおのこと戸惑うのは当たり前で。
「いいの?」
唇が触れる直前、同意が欲しくてそう囁くように問えば、イルカは恥ずかしそうに目を伏せながらこくりと頷く。我慢していたものがあっけなく、切れた。
互いに唇を奪い合うような激しいキスをしながら、また、互いの服を脱がせながら、まだアンダーウェアを着たままのイルカを、奥の寝室のベットに押し倒す。
二度目の時はこうしようとか、色々考えてはいたが、そんな日が直ぐに訪れるなんて思ってもみなくて。優しくてあげようとは頭のすみにあったが、そうする余裕はカカシにはなかった。
既に緩く勃ち上がったそれを下着越しに触れながら、指で擦る。イルカの胸の突起を舌で転がし、吸い上げると、イルカが気持ちよさそうに声を漏らした。男の身体に興奮することろなんてないと思っていた。どちらかと言えば、大きく弾力のある胸や、元々都合良く固い肉棒を受け入れるように出来ている柔らかい箇所とか。なのに、この引き締まった身体や柔らかくないイルカの肌が、匂いが、声が、全てがどうしようもなく自分を狂わせる。
下着から取り出した陰茎は既に先が透明の汁で濡れていた。それを親指で拭うようにして、上下に擦るとわかりやすいくらいに充血し、更に固くなる。思わずカカシは喉を鳴らした。上唇を舐め上げた舌を、そのままイルカの陰茎へ這わせた。唾液が混じる事で水音が部屋に響く。
夢中になって口に咥えたまま上下させ、もう一方の手を奥に伸ばした。前は自分のポーチの中にあった止血剤に使う軟膏を代用したが、それは既に玄関で、取りに行くのさえその間が惜しい。カカシは自分の唾液で指を濡らすと窄まったそこを指の腹でゆっくりと押し広げた。押し広げる最初こそは肌と締め付け具合から抵抗を感じたものの、濡れた指を挿れれば誘うかのように締め付けながらも内側の肉がほぐれていく。同時に漏れるイルカの声が、甘く耳に響いた。指を増やして抜き差ししながら、カカシは血管の浮き上がった陰茎の側面を舐め上げ、柔らかい箇所を軽く吸う。
「カカシさん・・・・・・」
イルカに名前を呼ばれカカシは顔を上げた。口からぬろんとイルカの陰茎が飛び出す。名前を呼んだイルカは、カカシが更にほぐそうとしている手を両手で押さえて腰を上げた。見つめる目が黒く潤んでいる。目頭はうっすら赤く涙が滲んでいた。腰を上げた事でカカシの唾液で濡れたそそり立っているものをカカシに突き出すようになっている。その光景に目眩がした。
既に自分も沸騰しそうなくらい身体も頭も熱で浮かされている。カカシはイルカから指を引き抜くと、自分のアンダーウェアを脱ぎ床に捨てる。イルカに覆い被さった。
一番奥まで突き入れた後、間を置かずイルカの腰をつかんで抜き差しを繰り返した。
その激しさにベットがぎしぎしと軋む音を立てる。イルカがひっきりなしに声を上げた。それがカカシを更に興奮させる。
ロマンティックとか、優しくとか。もう既に頭の隅にもない。突き上げながら見下ろすイルカの表情に、その黒い目に引き寄せられるように、カカシは唇を荒々しく塞いだ。
このイルカの熱に浮かされた表情もそうだ。もっと余裕を持ちたかったのに、あんな形で誘うとか。はっきり言えば反則だ。前の繰り返しになっていると思いたくないのに、誘惑には勝てなかった。鉄の自制心は何処に行ったのか。自嘲気味に内心苦笑いを浮かべるしかないが、ただ、今は没頭したい。
カカシは唇を離すと、再び腰を激しく動かし始める。内側を擦る感覚に、その快楽にカカシはうっそりと目を閉じ夢中に腰を振った。イルカは途切れ途切れに嬌声を漏らしながら、間もなく達する。先端から迸った精液が勢いよくイルカ自身の腹に飛び散った。
まだ達するつもりはなかったが、それは不可能だった。内部できつく締め付けられ射精感に眉を寄せカカシもまた自分の陰茎を中から引き抜き、イルカの腹を同じ様に汚した。
はあはあはあ、と荒い呼吸をどちらともなく繰り返しながら、カカシはぼんやりとイルカの腹にある、吐き出したそれを倦怠感を纏った目で見つめる。
今までにないくらい、気持ちよかった。ただ、後悔がないと言ったらそれは嘘だった。
(・・・・・・やっちゃった)
落胆気味にカカシは額に滲んだ汗を手の甲で拭うと、激しい動きでぐしゃぐしゃになった乱れたままのシーツを手に取った。そのままイルカの腹を拭おうとした時、その手をイルカが掴む。
さっきまであんなに快感に溺れていた顔をしていたのに、その表情はもうそこにはない。もしかして、イルカも自分同様、後悔しているのか。ただ、不意に腕を掴まれる理由が分からなくて、どうかした?と素直に問えば、イルカは眉を寄せた。
「あんたって人はっ、前もそうでしたが、そのシーツで拭くのはやめてください。がびがびになるの分からないんですか?」
不機嫌に言い放つとイルカは、そんな事だろうと思って用意してたんですよ、と、ベットの下に置かれていたティッシュの箱を取ると、カカシに押しつける。カカシは、一瞬きょとんとしたが。そんな事かと、促されるままにティッシュを数枚取り出したところで手を止めた。瞬きをして、そしてイルカへ視線を向ける。
「・・・・・・先生、そのつもりだったんだ」
イルカの台詞から、繋がるただ一つの結論に、ぼそりとそう返せば、イルカは一瞬目を丸くした。その直後、健康的な肌が赤く染まる。いや、とイルカが言いかけるが、口にした台詞は否定出来ないくらいに明白だった。理解できても自分はずっと先が見えないと思っていたから。いつから?と更に問えば、イルカは更に困惑を思い切り顔に出しながら、視線を泳がせ下にずらした。
自分が見ていた限りは、イルカは全くそんな素振りを見せなかった。どちらかと言えばつれなくて。一体、いつ、そんな気持ちになったのか。てっきりやらかしたとばかり思っていたのに。
こんなに激しく求め合っておきながら、今更ながらにドキマギとし始め、カカシはティッシュを持つ手に僅かに力を入れる。
見つめながらじっと答えを待つカカシに、目を伏せたままのイルカが、ゆっくりと顔を上げた。
「秘密です」
少しだけ怪訝そうに、恥ずかしそうに。そう口にする。そしてその恥ずかしさを隠すように、イルカはふいと顔を背ける。その横顔はもちろん、耳まで真っ赤で。
それを目にした瞬間、ここから再び恋が始まると知らせるかのように、カカシの胸が高鳴った。
<終>
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