ポッキーの日
少し前まで昼間外に出れば、日差しですぐに汗ばむくらいだったのに、その暑さはない。それでも何回も建物を往復していれば額に汗が僅かに滲む。
書類を持ちながら顔を上げれば、気持ちいいくらいの晴天で、秋らしい雲が青い空を流れている。風に乗って聞こえてきた鐘の音はアカデミーからで、昼近い事を知り、イルカは、もうそんな時間なのかとため息を吐き出した。
時間割通りに動いているアカデミーとは違い、別の仕事をしていると忙しさに時間さえ把握していない事も多い。
どおりで腹が減ったわけだ、と自分自身納得しながらも、午前中までに片づけなかった事は結局半分も出来ていない。どうしようかとまた歩きながら考えながら、近くにある自販機を見つける。イルカは足を向けた。
古い木のベンチにイルカは腰掛け書類の束を隣に置く。缶コーヒーのプルトップを開け、イルカは一口飲み、ふうと息を吐き出した。
色々な建物から近いこの場所には、昼時だからか、往来する人影も多く、イルカはそれらをぼんやり眺める。腹は減ってるものの、きりの良いところまでやるとして、そうすれば、自分の昼休憩はあと一時間くらい後か。
缶コーヒーを半分くらい飲んだところで、そういえば、とポケットを探る。飴とポッキーの入った袋を取り出した。
今日同じように雑務を任された女性職員がくれたもので、彼女曰くお菓子がないとこんな仕事はやってられないらしく。それは何とも女性らしいなあ、と思いながらも、イルカは渡されたお菓子を受け取った。
飴は子供たちからもらったりするから時々食べたりもするが、ポッキーは久しぶりだ。その袋を開けながらイルカは一本口に入れる。ポケットに入れていたのが悪かったのか、チョコが少し溶けている。しかし空腹には変わらないイルカは、もぐもぐと口を動かした。
ベンチで休憩しながらふと目に入ったのはアスマだった。歩いてきたのは待機所からで、昼休憩に向かうのか、今日は十班の任務がないんだと思いながら目で追っていれば、その後にカカシが歩いてくる。
(・・・・・・カカシさんだ)
缶コーヒーを飲みながら視線を向けていた。いつもの様に手をポケットに入れゆったりと歩くカカシに、アスマが振り返り何かを話す。それに応えているのか、口布の上からは何も読みとれないが、カカシが反応するように軽く頷いた。会話を続けた後、露わな右目が少しだけ緩んだ。
不思議な人だなあ。
その顔を見つめながら、ふとそんな事を思うのは、カカシが見せるその笑顔は、時々自分にも向けられるからだった。
初めて顔を合わせた時からそうだったが、中忍の自分に対して物腰柔らかい口調で、それでいて何を考えているのか分からない。そんな皮肉れた風に考えてしまうのは、顔をほとんど隠していても端正な顔だからなのか。
そこまで思って確かにカカシさんはきっと男前だもんなあ、とイルカは一人小さく笑った。あの口布の下を見たことがないが、鼻筋が通っているのは分かるし、あの涼しげな目元が緩むと、男の自分からしても何とも言えない甘いものを感じる。報告所で他愛ない会話の中で、ふと優しげに微笑まれた時は、向こうは意識してない笑みだと分かっているのに、正直困った。
それでいて、里一の忍びで。自分の世代からしたらカカシは憧れだ。会うまではもっと怖い人なのかと思っていたが、気さくで鼻にかけることもしない。
「先生」
そこまで思いながら、手に持ったポッキーを一口食べた時、イルカに気がついたカカシが足を止めた。自分に気がつきはしても素通りするだろうと思っていたから。こんな時間に菓子を食べて休憩しているところを見られるのはなんだか気恥ずかしく感じれば、
「何食べてるの」
そうカカシが問い、片手は既に缶コーヒーを持っていたから、イルカは手にしていたポッキーを咥える。そして聞かれるままにもう片方の手で持っていたお菓子の袋を見せた。
カカシがその袋に目を向け、俺にも頂戴、そう言われイルカは困った。
「すみません、これで最後、」
言い終わる前に、カカシが屈み口布を下げる。なんで屈んだ上に口布を下げたのか。想像以上に整った顔に目を奪われていれば、顔を近づけたカカシがイルカの咥えたポッキーを反対側から口にした。
それは一瞬で。そこからカカシは、口布を直しながら屈んでいた姿勢を元に戻す。
ぽかんとしたままのイルカに、ありがと、カカシが言い、先に向かったアスマへ足を向けた。
歩き出すカカシをイルカは見つめ。何回か瞬きをしたところで、今さっき起こった事がようやく理解でき、じわじわと頬が熱くなる。
(・・・・・・何で、食べた?)
思うのはそればかりで。しかしもうカカシはいないし、かと言って後から聞けっこない。
眉根を寄せイルカは自分の手を口元に添える。
ポッキーを食べた事もそうだが、ナルト達が必死に暴こうとしている素顔を簡単に見せた事、いや、そもそもあんな事をするとか。自分で処理しようとしても到底無理で。何がなんだか分からなくなる。
と言うか、不思議な人どころじゃない。
「・・・・・・何なんだよ」
ぼそりと呟いた。
<終>
書類を持ちながら顔を上げれば、気持ちいいくらいの晴天で、秋らしい雲が青い空を流れている。風に乗って聞こえてきた鐘の音はアカデミーからで、昼近い事を知り、イルカは、もうそんな時間なのかとため息を吐き出した。
時間割通りに動いているアカデミーとは違い、別の仕事をしていると忙しさに時間さえ把握していない事も多い。
どおりで腹が減ったわけだ、と自分自身納得しながらも、午前中までに片づけなかった事は結局半分も出来ていない。どうしようかとまた歩きながら考えながら、近くにある自販機を見つける。イルカは足を向けた。
古い木のベンチにイルカは腰掛け書類の束を隣に置く。缶コーヒーのプルトップを開け、イルカは一口飲み、ふうと息を吐き出した。
色々な建物から近いこの場所には、昼時だからか、往来する人影も多く、イルカはそれらをぼんやり眺める。腹は減ってるものの、きりの良いところまでやるとして、そうすれば、自分の昼休憩はあと一時間くらい後か。
缶コーヒーを半分くらい飲んだところで、そういえば、とポケットを探る。飴とポッキーの入った袋を取り出した。
今日同じように雑務を任された女性職員がくれたもので、彼女曰くお菓子がないとこんな仕事はやってられないらしく。それは何とも女性らしいなあ、と思いながらも、イルカは渡されたお菓子を受け取った。
飴は子供たちからもらったりするから時々食べたりもするが、ポッキーは久しぶりだ。その袋を開けながらイルカは一本口に入れる。ポケットに入れていたのが悪かったのか、チョコが少し溶けている。しかし空腹には変わらないイルカは、もぐもぐと口を動かした。
ベンチで休憩しながらふと目に入ったのはアスマだった。歩いてきたのは待機所からで、昼休憩に向かうのか、今日は十班の任務がないんだと思いながら目で追っていれば、その後にカカシが歩いてくる。
(・・・・・・カカシさんだ)
缶コーヒーを飲みながら視線を向けていた。いつもの様に手をポケットに入れゆったりと歩くカカシに、アスマが振り返り何かを話す。それに応えているのか、口布の上からは何も読みとれないが、カカシが反応するように軽く頷いた。会話を続けた後、露わな右目が少しだけ緩んだ。
不思議な人だなあ。
その顔を見つめながら、ふとそんな事を思うのは、カカシが見せるその笑顔は、時々自分にも向けられるからだった。
初めて顔を合わせた時からそうだったが、中忍の自分に対して物腰柔らかい口調で、それでいて何を考えているのか分からない。そんな皮肉れた風に考えてしまうのは、顔をほとんど隠していても端正な顔だからなのか。
そこまで思って確かにカカシさんはきっと男前だもんなあ、とイルカは一人小さく笑った。あの口布の下を見たことがないが、鼻筋が通っているのは分かるし、あの涼しげな目元が緩むと、男の自分からしても何とも言えない甘いものを感じる。報告所で他愛ない会話の中で、ふと優しげに微笑まれた時は、向こうは意識してない笑みだと分かっているのに、正直困った。
それでいて、里一の忍びで。自分の世代からしたらカカシは憧れだ。会うまではもっと怖い人なのかと思っていたが、気さくで鼻にかけることもしない。
「先生」
そこまで思いながら、手に持ったポッキーを一口食べた時、イルカに気がついたカカシが足を止めた。自分に気がつきはしても素通りするだろうと思っていたから。こんな時間に菓子を食べて休憩しているところを見られるのはなんだか気恥ずかしく感じれば、
「何食べてるの」
そうカカシが問い、片手は既に缶コーヒーを持っていたから、イルカは手にしていたポッキーを咥える。そして聞かれるままにもう片方の手で持っていたお菓子の袋を見せた。
カカシがその袋に目を向け、俺にも頂戴、そう言われイルカは困った。
「すみません、これで最後、」
言い終わる前に、カカシが屈み口布を下げる。なんで屈んだ上に口布を下げたのか。想像以上に整った顔に目を奪われていれば、顔を近づけたカカシがイルカの咥えたポッキーを反対側から口にした。
それは一瞬で。そこからカカシは、口布を直しながら屈んでいた姿勢を元に戻す。
ぽかんとしたままのイルカに、ありがと、カカシが言い、先に向かったアスマへ足を向けた。
歩き出すカカシをイルカは見つめ。何回か瞬きをしたところで、今さっき起こった事がようやく理解でき、じわじわと頬が熱くなる。
(・・・・・・何で、食べた?)
思うのはそればかりで。しかしもうカカシはいないし、かと言って後から聞けっこない。
眉根を寄せイルカは自分の手を口元に添える。
ポッキーを食べた事もそうだが、ナルト達が必死に暴こうとしている素顔を簡単に見せた事、いや、そもそもあんな事をするとか。自分で処理しようとしても到底無理で。何がなんだか分からなくなる。
と言うか、不思議な人どころじゃない。
「・・・・・・何なんだよ」
ぼそりと呟いた。
<終>
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