シダレモモ


「買い物に行って来ますから、大人しくしててくださいね」

イルカのドアを閉める音で、むくりと身体を起こす。
40度近かった熱も下がり、退院を許された。
まだ微熱があるというだけで、イルカはカカシを強制してベットに寝かせた。
せっかく家に帰れたのに。大げさなんだよねえ。
ま、あのむさくるしい病院から出れただけましか。
枕元に置かれた花に目が留まる。

--------確か、病院にも飾ってあった。

白い小さな花がまとまってポツポツと咲いている。
花には全く興味がなかったけど、何故か気になった。
花びらを触る。
イルカはよく花を飾っているから、またどこかで摘んできたのだろう。

・・・・桜?

枝ぶりから見て、草花ではない。花に詳しくないカカシでも多少の検討は付いた。
でも、違う。
つやつやと、白く輝いている花びら。何層にも重なって、甘い香りを漂わせている。
そういえば、前怪我をした時もこの花を持ってきてくれたっけ。
気に留めていなかったけど、この季節にイルカは良くこの花をカカシに持ってきていた。
花びらを一枚ちぎって鼻に寄せる。
肺一杯に甘くて優しい香り。
口の中に入れて噛みしめる
「あ、甘い」
思ったより甘くて、ふわふわと香りは口の中で広がって。
「・・・・イルカ先生の香り」
無性にイルカを抱きしめたくなった。







立ち止まったのは、その花があったから。
甘い香りの白い花。
思ったよりも大きい木に一杯咲き誇っている。

7班の任務の帰りにばったりイルカ先生に会い、4人でアカデミーまで歩いていた。
イルカの横にはナルトが陣取って、仕方ないから後ろからついて歩く。

「カカシ先生、どうしたの?」
立ち止まったカカシにサクラが気が付いて振り返る。
「ああ、別になんでもないから」
花なんかにみとれてたなんて言えなくて、歩を進めようとしたらサクラがその木を見つめた。
「これシダレモモっていうのよ、先生」
「シダレモモ?」
ナルト達も気が付いてこっちを振り返る。
「白は珍しいんだって。いのが教えてくれたんだけどね」
「ふ~ん」
もう一度顔を上げて、シダレモモの花を見つめる。
「“私はあなたの虜です”って言うのよ。素敵~」
両手を合わせてうっとりした表情でサクラが言う。
「・・・・何が?」
「鈍いわねえ、カカシ先生。花言葉よ!」
驚いて、息を詰める。


“私はあなたの虜です”


イルカの顔を見ると、耳まで赤くなって泣きそうな顔で俯いていた。
嬉しくて、声にならない笑いがカカシを襲う。


“私はあなたの虜です”


ねえ、そうなの?イルカ先生。

アナタは言葉で何も言わないのに。

風が吹いて甘い香りと花びらが、カカシの前に舞い落ちる。

イルカ先生、抱きしめていいですか?

今にも逃げ出してしまいそうな後ろ姿を、とろけてしまいそうな眼差しで問いかけた。

それに応えるようにシダレモモがざわめいて。

この世の言葉ではとても言い尽くせない気持ちの中で、幸せそうに微笑んだ。


<終>
スポンサードリンク


この広告は一定期間更新がない場合に表示されます。
コンテンツの更新が行われると非表示に戻ります。
また、プレミアムユーザーになると常に非表示になります。