すき

 イルカとはナルト達の上忍師になる時に初めて顔を合わせて。その接点があるからか、顔を合わす度に挨拶を交わすようになり、その頃から何となく気がついていた。
 中忍上忍の合同の飲み会があった時は、アスマにつれられて参加したものの、隅で酒を呑んでいたら、イルカがわざわざ酒を注ぎにきた。血色のいい頬がいつも以上に真っ赤な顔で。先生、無理しなくてもいいんじゃないの?とそう言えば、こっちから声をかける事がないからなのか、少し驚いた顔を見せたのは一瞬で、すぐに気恥ずかしそうに鼻頭を掻いた。大丈夫です、と嬉しそうに答えながら、グラスにビールを注ぐイルカから緊張が混じった高揚感のようなものが感じられて。ナルト以外に繋がりもないのに、会話をしようと自分に話しかけるイルカを見つめながら、珍しい人だなあ、と思った。
 それから一週間も経たないうちにイルカから告白された。
 頷いたのは、イルカを珍しい人だと思いながらも、その気持ちを向けられていた事に嫌悪を感じるわけでもなく、逆に興味が沸いていたから。それに、あまりイルカの事は知らないが、きっと実直で純粋で気持ちに嘘がない。そんなイルカにとっては自分に告白する事事態きっと大きな決断で勇気が必要で、それを証拠に、目の前で顔を赤くして、額に血管が浮き上がらんばかりに拳をぎゅっと握りしめている。そんな姿は、愛の告白と言えど色気なんてものはなく、男らしく、ノーマルな自分からしたら興ざめもののはずなのに。
 過去言い寄ってきた女とは違う、そこまで自分を想ってくれている事に素直に嬉しいと感じて。
 じゃあ、つき合ってみる?そんな声をかけるカカシに、イルカはまさかOKをもらえるとは思っていなかったのか。ぽかんとした顔を見せた後、はい、と嬉しそうに頷いた。その声もすごく大きくて。思わず笑った。

 つきあい始めてから、どんだけ自分の事が好きなんだろう、と思ったが。
 過去、イルカが他の女とどんな交際をしてきたのか知らないが。
 つきあい始めて二週間。
 もういいんじゃないかと、キスをしようとしたら、ものすごい勢いで拒否された。
 互いに仕事も忙しくて休みも合わないから、合う回数もそこまでない中、居酒屋で夕飯を一緒に食べてその帰りに、話の途切れた流れで。口布を下げ顔を近づけたら、イルカがぎょっとするように目を丸くした。
 つき合ってから、額当ては外してはなくとも、口布を下げた自分の素顔はもう何度か見ているはずなのに。初めて見るような反応をし、そこから拒むように遮るように両手を顔の前に出されて。
 そんな反応をするとは思ってもいなかったから、当たり前に驚いた。何で?と素直に問えば、真っ赤な顔のまま、だってまだ心の準備が、と困ったように呟く。カカシも同じように困った。
 そりゃあ自分も、あまり慣れていない相手は初めてで、それに、告白を受けてからイルカに好意を持ち始めていて、そんな相手にキスするのも初めてだった。ドキドキしていないわけがない。そんな風にキスだけで恥ずかしがるイルカは可愛いが。あわよくばもっと他のこともしたいと思うのは男の性だ。それはイルカも同じはず。
 でも、まあ、仕方がない。だから、じゃあまた今度ね、と返した。
 

 翌日。カカシは七班の任務を終え夕日に染まる道をナルト達と歩く。街中に入ってすぐ、見かけたのはイルカの姿だった。当たり前のように駆けだして背中に飛びつくナルトに内心呆れながら、挨拶をすればイルカもまた恥ずかしそうに会釈を返した。
 昨日の今日だこんな顔を見せるのは仕方がないが。
 腹が減ったといいながら歩くナルト達に、その後ろを歩けば、イルカが横に並ぶ。
「今日はサクラまで汚れてますね」
 子供達の任務終わりの後ろ姿を目を細めながら、イルカは嬉しそうに口にする。
 ついさっき、一瞬でも気恥ずかしそうな表情をしたものの、こんな時に見せるのは、恋人ではなく、当たり前だが教師の顔だ。そんなイルカが自分を好いてくれているんだと、その事実を噛みしめていれば、隣ではイルカが今日のナルトたちの任務の事を聞いてくる。そんなイルカを横目で見ながら、
「先生」
 声をかけると、イルカが素直にこっちを向き。それに合わせるように口布を下げ、イルカの唇を塞いだ。柔らかい唇が名残惜しくて少し浮かせてもう一度重ねる。目を開けたまま固まるイルカに構わず唇を離した時微かに、ちゅ、と音が立った。カカシは自分の口布を直す。
 数秒にも満たない時間の出来事に、前にいるナルトたちは気がつくはずもなく、呑気そうに食べたい夕飯のメニューの話をしている。
 イルカの顔を覗くと、イルカの顔がじょじょに赤く染まる。口を押さえながらこっちを見た。
「な、なななな、」
 一瞬の事でもはっきりと認識しているんだろう。さらにイルカの顔が茹で蛸のように赤くなる。予想通りの反応だが、その反応は素直で嬉しく、可愛いな、と思った。
 でも、イルカには悪いがこれ以上待つつもりもない。
「すきあり」
 カカシは悪戯そうに目を細めて、そう口にした。

<終>
 
 
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