sweet sweet sweet

「・・・・・・あっ、」
 ベットの上でイルカは苦しそうに声を漏らす。覆い被さったカカシは優しくイルカを抱き込みながら、片方の手の指は後孔へ潜り込んでいる。
 まだ入っているのは一本だ。
 その長い中指が中の壁を広げるようにゆっくりと擦るように上下に動く。指一本だと分かっていても、その異物感には慣れない。イルカは額に汗を浮かばせながら、眉根を寄せた。
 カカシとつきあい始めて一ヶ月。戦忍で里をよく離れるカカシとは違い、決まっている就労時間と定期的な休みがあるから、必然的に自分の家にカカシが来たり、呼んだりする事になるのだが。
 家にカカシが来ると、だいたいこういう事になる。
 つき合ってるのだから、当たり前な行為になるのかもしれないが、女性とろくにつき合った事もなく、男ともこんな関係になった事ももちろんなかった。
 だから、カカシに告白をされた時はもちろん悩んだ。もともと階級こそ違い、繋がりもナルトの元担任と新しい師という関係だけだったのだが、それが縁で、彼とはいい飲み仲間だった。性格も真反対だと感じていたのに、話が合うし一緒にいて楽だった。そのうえ、自分に対しても紳士的な対応をするカカシに、告白され、悩んだが嫌だとは思えなかった。
 取り柄ない自分に告白されても疑問しか浮かばない。一体何処が?いつ?俺にトキメク部分なんてあるのか?その疑問をぶつけるとカカシは目を丸くした。俺は出会ってからずっと先生を狙ってたよ。気がついてないと思ってたけど、そっか、やっぱりね。なんて可笑しそうに笑う、人懐こいカカシの笑顔があまりにも可愛くて。俺も好きかも。と思えた。
 それで頷いたまでは良かった。だってこんな事になった時、経験がなかったからどうしていいか分からなくて。全部カカシに任せていたら、気が付いたらこっち側になっていて。まあ、キスされた時点でそのキスの上手さに何も分かってなくとも、カカシの経験値が凄い事は分かった。
 だから異論なんてなかった。
 押し倒された当初、お互いの陰茎を擦り合い、抜き合った。想像以上に気持ちよかった。
 それが続いた後、今度はこれだ。
 カカシのぬめる指が中を蠢き、苦しくてイルカは息を吐き出した。
 前回初めて指を入れられ、酷く動揺した事を覚えている。まあこんな事になるだろうと、分かってたけど。
 だからいいんだけど。
 頭を過ぎるのは、カカシとつき合う前の事。まさかカカシとつき合う事になるなんて思ってもみなかった頃。
 その日、受付で久しぶりに元教え子に会った。
 
 昔から元気で活発だったその教え子は、変わらず明るく利発に成長していた。
「え!?先生まだ恋人もいないの?」
 任務報告早々に恋バナをふられ、返答したら大袈裟な程驚く顔を見せられる。
「まあな。でも、そんな大げさな事じゃないだろう」
 イルカは報告書に目を通しながらため息混じりに答え、顔を上げた。
「お前・・・・・・もしかして恋人がいるのか?」
 眉を顰めるイルカに元教え子は目を丸くして、その後けらけらと笑った。
「当たり前じゃないですか。もしかして、ずっと子供だと思ったんですか?」
 当然の言葉が元教え子の口から出て、思わず、うっと言葉を詰まらせた。確かに。一番初めに送り出した生徒の一人であれば、年齢的に確かにそうなんだろうけど。立派に成長した今、背も胸も小さかったあの頃の面影は、その笑顔にしかない。
 感慨深い気持ちになっているイルカの前で、まあ、やっぱり恋人とかいないとモチベーションが上がらないしー、やってられないじゃないですか、何て言われ苦笑いを浮かべるしかできない。
「でも先生何で恋人作らないの?」
 作らないんじゃなく出来ない。とは言えない。
「まあ・・・・・・こんな仕事でもな俺は忙しいんだ。彼女なんて作ってる暇なんてないんだよ」
「うわ」
 うわ、なんて言われてむっとするイルカに元教え子は呆れた顔を見せた。
「仕事を理由になんかにしてる時点でアウトだし、そんな事言ってたらいつまで経っても恋人どころか、結婚だって出来ないですよ?」
 昔からずばずば物を言う子だったが。似たような言葉を、飲み会の席で知り合って30分程の女性に言われたのは最近の記憶だ。
 分かりやすく顔を少し青くしたイルカに、女心が分かってないなあ、と続け、
「私いいものあるんです」
 元教え子はにこりと笑った。
 そして数日後、その元教え子から貰ったのは、まさかの少女漫画。
 家に帰ってビールを飲みながら読んでみる。アカデミーで生徒から没収した物の中にこの手の漫画はよくあったが、それより少し大人びている内容のその漫画は。読むだけで赤面した。
 とにかく終始甘い。赤い糸とか、運命とか、漫画の世界でしか存在しないだろうと思う言葉。
 それに性描写までとはいかないものの、その一歩手前や、そこを上手く誤魔化して描いているが。女性目線のこれものは、当たり前だが初めてだった。女性側の心理描写や恥じらいがメインで描かれている。読んでいるこっちが恥ずかしい。
 つき合ってる設定なのにその場になって、嫌、だとか。待って、だとか。そんな事ずっと言ってたらやることだって出来ないだろう。
 自分好みのAVはこんなシチュエーションはないし、男側として、こんなじらさせたら嫌だろうなあ。それか女性は皆こんな感じって事なのか?
(・・・・・・あり得ねえ) 
 頁を捲りながら苦笑いを浮かべ、ビールを飲んだ。

 そう思ったのは。まさか。自分がその漫画の主人公の女性のように、受けになるなんて思いもよらなかったからで。
 その数週間後にカカシから告白されるなんて思わなかった訳で。
 そして当たり前だが、自分が下。
 増やされた指に、慣れない感覚に自然と目が潤み、カカシが動かす度に思わず声が漏れる。
「・・・・・・っ、う、」
「大丈夫?」
 カカシの優しい声に、心配させたくなくてこくりと頷くと指の動きが再開される。さっきから、カカシの長く細い指の腹がある場所を擦る度に、じくじくとした、射精感に頬が、体が熱くなった。
 前を触られるのとはまた違う、上手く言葉に出来ないが、気持ちいいとしか言いようのない感覚。
「あっ、あ・・・・・・っ、や、」
 思わずカカシにしがみつき、自分の口から勝手に漏れた言葉。
 (え、ちょっと待って。俺今、嫌、って・・・・・・)
 あの元教え子から渡された甘ったるい少女漫画の女性のようで。途端、かああああ、と恥ずかしさに頬に更に熱が集中した。
 なのに、厭らしく動くカカシの指が止まらない。そのじりじりと炙るような感覚に、勝手に腰が揺れる。
「あっ、カカシさん・・・・・・」 
 ずるりと指が抜かれる。カカシにしがみついていた腕を離され、
「・・・・・・?」
 どうしたのかと潤んだ目でカカシを見つめると、カカシもまた眉を寄せ、熱に浮かされた目でイルカを見つめていた。
「ね、もう入れてみてもいい?」
 その低い声に、どきんと心臓が鳴った。
 え、もう?さっき以上のやつ?指だけでも結構やばいって思ってたのに。
 返事を待たずしてカカシが動き、びくりと反応する。イルカの体が固くなったのを解すように、カカシがイルカの項に、耳朶に唇でキスを落とす。愛撫され、舐められる。
 指とは比べものにならない質量が解された場所にひたりと押し当てられた。カカシのその大きさは、抜き合っているのだから、十分に知っている。自然、喉が引き攣った。ローションを塗った陰茎の先が、その入り口をゆっくりと押し広げる。肉棒の先は指より熱い。
 心臓がどくどくと血液を早く流す。
 あ、嫌じゃないけど。ちょっと待って。あ、もう、
「や、待って」
 って、もーーーーーーっ!!!
 あの漫画の女性通りの、いや、それ以上の甘ったるい声に、自分の台詞に耐えきれなくなり、イルカは顔を両手で覆った。
 言ってる。俺、言ってるじゃん!
「イルカ先生・・・・・・?」
 カカシが挿入を止めて、急に顔を隠してしまったイルカをじっと見下ろす。顔を手で覆っているものの、見える限りの顔は真っ赤だ。
 恥ずかしくて死んでしまいたい。
「イルカ先生」
「・・・・・・」
「顔、見せて」
 言われて泣きたくなった。ゆっくりと手を動かし顔から退ける。
 ああ、くそ。きっと今俺の顔は耳まで真っ赤なんだろう。
 眉を寄せながら涙目でカカシを見上げた。 
 こんな事、男であればどうって事ないと。そう思っていたのに。こんな恥ずかしいなんて。
 けど、もっとカカシさんに触れて欲しいし、やめて欲しくない。
 一つになりたい。
 緊張と期待で。心臓が今にも胸を突き破って出てきてしまいそうだ。
 カカシの白い肌も、頬も、薄っすら赤く染まっている。眉根を寄せた。
「・・・・・・やば」
 ぽつりと呟かれ、恥ずかしさが加速した。
「笑いたかったら笑ってください」
ふいと顔を背けると、カカシが息を吐くように笑う。
「ああ違うって。堪んないって言ってるの」
 その顔、もっと見せて。カカシが顔を近づけ耳元で優しく囁かれ、背中から下半身に痺れが走った。
「挿れるよ」
 今度は待ってと言う前に、ぐぐぐ、と挿入される。隙間なく押し広げた肉棒のその質量に、腹の圧迫感に眉間に皺が寄った。
 痛いとか、そんなものじゃない。
「あ、・・・・・・あぁ、・・・・・・っ」
 想像も出来なかった感覚に、勝手に涙が浮かぶ。
「先生」
名前を呼ばれ、意識がカカシに移る。視界に映ったカカシもまた、余裕がない表情で、でも優しく微笑む。
「大丈夫だから。俺を見てて」
 ね?
 その言葉ほど胸を締め付けるものはなかった。この状況で。体はさっきよりもずっと苦しいのに。心もまた、別の意味で苦しくて。
 怖いと思うより、幸せで。心が満たされている。
柔らかくもしっかりと芯を持った熱い塊が、自分の奥まで入り込む。
 イルカの目から涙が零れた。カカシの青い目がじっとそれを見つめ、息がかかるほど近い距離で、その目を緩ませる。
「入ったよ」
カカシもまた息が少し上がっている。
「動いていい?」
 カカシだってせっぱ詰まってるだろうに。少しだけ首を傾げて自分の気持ちを一番に考えてくれる。こんな時に想われているんだと、感じる。
 イルカはこくんと頷いた。

「あ、あぁっ、も、や・・・・・・っ、駄目、そこ、」
 ベットが激しく軋む音を立てる。
 ーー結局。
 あり得ないと言った言葉を連発している事実。
 貫かれ、再奥に届く度に声が絶え間なく漏れる。
 腹は自分の精液でべたべたに汚れていて、もう出ないはずなのに、カカシに突かれる度に、先が透明な液体をたらす。
 飛びそうになる感覚に嫌だと口で言うくせに。体はカカシを欲している。
 もう何がなんだか分からない。
 泣いたり、恥ずかしがったり、よがったり。
 こんなの知ってる自分じゃない。
「カカシさん・・・・・・、あ、・・・・・・あっ、カカシさっ」
 青い目でイルカを見下ろし腰を打ち付けながら、カカシは僅かに苦しそうな顔をした。
「・・・・・・せんせ、名前、あんまり呼ば、ないで」
 息切れ切れに言われ、涙で霞んだ目でカカシを見上げた。でも、勝手に零れる言葉を止める事なんて出来ない。
「そんな、むり、・・・・・・出ちゃ、あっ、・・・・・・や、あぁっ、カカシさんっ、カカシ、んっ」
 名前を呼ぶ途中で、口を唇で塞がれる。カカシの熱い舌に口内を荒らされ、中を激しく擦られる感覚に体が震え快楽の声だけが漏れる。ようやく唇が離された時、混ざり合った唾液が糸を引き、蕩けた目にカカシが映った。
 太股を掴み、腰を激しく打ち付けるカカシの顔が。戦闘中でもここまできっとかくことのない汗を額に滲ませ、荒い息をしながら、余裕があるようでない、その表情を見たら。
 胸が苦しくてどうしようもなくて。勝手に中を締め付けた。
「・・・・・・っ、イルカ先生、出る」
 整った綺麗な顔にある眉をぐっと寄せ、イルカの再奥に熱いものを放つ。断続的に吐き出される精液に、それさえも快感に体が反応する。カカシの背中に爪痕を残していた。
 今の俺は、今まで自分が観てきたAVの女優さんなんかよりよっぽどエロい。あの元教え子の漫画なんかより何倍も甘ったるい空気が、流れている。
 でもいい。あり得ないと思っていた言葉を吐いてしまう事も、女みたいによがってしまうのも。全部カカシのせいだと、気が付いてしまったのだから。
 汗ばむ体を寄せながらカカシがついばむようにキスをする。
「カカシさん、俺・・・・・・なんか変じゃなかったですか・・・・・・?」
「え・・・・・・?」
「何か女みたいで・・・・・・でも止めらんなくて」
ぼそぼそ口にすると、カカシはきょとんとした顔の後、吹き出す。可笑しそうに笑い出した。
「だからさっきおかしかったんだ」
 すんなりと納得され、恥ずかしくてぐっと唇を結ぶイルカを、カカシは目を細めてじっと見つめ、
「どの女よりあなたが一番可愛いよ」
 可愛いの欠片もないし、どこにでもいるもさい中忍の男の俺にそんな事を言いながら幸せそうに微笑むんだから、呆れる。
 でも。言われて嬉しいなんて思ってしまうのも、もしあの少女漫画のように赤い糸が存在したら、カカシさんと結ばれていたらいいなあ。なんて。
 そんな事を思ってしまうのも、きっとカカシさんのせいなんだ。
「先生、大好き」
 見惚れてしまうほどの綺麗な顔でうっとりと言う。
 でも。
 俺の方がたぶんその何倍も好き。
 少女漫画より甘い台詞を、イルカはこっそり呟いた。

<終>