戯れ

放課後の教室は、生徒がいなくなり昼間の騒がしさが消え、閑散としている。
窓は掃除の為に開け放たれたまま。校庭に残っている生徒の笑い声がイルカの耳に届いた。
その子供たちの声を遠くに聞きながら。
「……んっ」
イルカは声を苦しそうに漏らした。
口の中は咥えているものでいっぱいで、息は鼻でしか出来ない。口内でびくびく動く陰茎にイルカの身体が反応し熱くなる。
眉を寄せると、頭に手のひらが乗せられる。熱い吐息がカカシから漏れた。
「上手になったね」
優しい、低い声。イルカの黒髪をゆっくり撫でた。
教室の床にしゃがみこむようにして自分の陰茎を咥え込むイルカの姿を、カカシは見下ろしていた。
涙で潤む目を伏せてはいるが、カカシに見られているのが分かる。
「ね、先生……そろそろイかせて」
撫でていた手を後頭部に回し、支えるように添えるとカカシは腰を動かした。
じゅぶ、と唾液で濡れた音が大きくなる。
「……んっ」
喉の奥まで入ってくる苦しさにまた目に涙が浮かんだ。
「……っ、センセ出るよ」
口内で一際陰茎が膨らんだかと思うと、カカシが短く呻いた。喉奥に熱いものが叩きつけられる。頭を支えられ口から抜くことを許されず、イルカはそれを飲み干す形になった。
全て飲み込むのを確認したカカシは、イルカの口からずるりと陰茎を抜いた。口の中はカカシの匂いでいっぱいになっている。唾液と精液で汚れた口元に手を当てながら、イルカは咳き込んだ。
「まだだよ、ほら。舐めてキレイにして?」
多少萎えたそれがまた目の前に出される。やっと苦しさから解放されたと放心したようなイルカは、ゆっくりと視線を上げカカシを見た。露わな青い右目がイルカを見つめていた。カカシは人差し指で覆面を顎まで下ろし、口元を見せると微笑んだ。
「ね?」
優しい声で、優しく頭を撫でる。
イルカは言われるがままに、先端を口に含んで吸い上げた。そこから口を離し、根元から丁寧に舐め上げる。口内に白いものを残しながら丁寧に舐めるその様を見つめて、カカシは口の端を上げた。
カカシのあの整った顔で、優しく言われたら拒めないのをカカシは知っている。知っていて、この行為をさせる。
そう。拒めない。
カカシが好きだから。
この気持ちは誰にも言わず、一生秘めているつもりだったのに。
一体いつからカカシは気がついていたのだろうか。舐めながら、ぼんやりと思った。

初めてカカシと会ったのはラーメン屋だった。
ナルトがアカデミーを卒業し自分の手から離れ、新しく上忍師の元についた。その上忍師の名前だけは聞いていた。
はたけカカシ。里外でも名前が通っている忍びだが、実際に会った事がなかった。どんな人物なのか、ナルトからカカシの名前が出る度に興味を持ち、会ってみたいとは思っていたが。その機会は意外に早く訪れた。
ラーメン屋の暖簾をくぐろうとして名前を呼ばれた。
顔を向けると、ナルトが勢いよく走ってきている。その勢いのまま、ナルトはイルカに飛びついた。
土埃と、太陽の匂い。
イルカは目を細め金色の髪を撫でた。
今日はどんな任務だったのか。それを聞く前にナルトが顔を後ろに向けた。
「カカシ先生ーっ、一楽はここだってば」
その名前にイルカは顔を上げた。そこからナルトが見てる方へ目を向ける。
少し距離があったがすぐにわかった。顔をほとんど覆っている。露わな右目は眠そうな、それでいて思考が読めないような。想像さえしていなかった、カカシをイルカはただ見つめた。
カカシは両手をポケットに入れたままイルカの前まで来る。
「あの、」
「あなたがイルカ先生?」
挨拶をする前に名前を呼ばれて、どきっとした。自分を知ってくれているとは思ってもみなかった。
「あ、はいっ。初めまして」
勢いよく頭を下げると、カカシは小さく笑った。下げていた顔をゆっくり上げる。
カカシの右目が微かに細められた。
「聞いてた通りだね」
「え……っ」
それはどう言う意味なのか、良い方に取っていいのか。それとも違うのか。ナルトの、だろ?だろ?と言う声を聞きながらカカシを見つめた。
青い目も自分を見つめる。
どうしよう――酷く心臓が騒がしい。
ばくばく跳ねる心音に耐えるように、奥歯を噛み、こくりと唾を飲む。
初めて会う人に思うのはおかしいかもしれないが。

この人に、何言われても逆らえる気がしない。

感じた事のない確信に目眩がしそうだった。






カカシは、イルカが自分の陰茎に舌を這わせるその口元をじっと見つめた。
生徒を褒め、叱咤しているあの口で自分のものを咥えているかと思うと、異常なくらいに興奮を覚える。
自分は変態かとあざ笑うように、カカシは覆面の下で口角を上げ上唇を舐めた。
イルカ相手に勃たせている自分も自分だが、男の陰茎を咥えながら恍惚とした表情を浮かべるイルカもイルカだ。
いや、先生は俺が好きなんだっけ。
思い直してまた、カカシは密かに微笑みながらイルカを見下ろした。
それに気がつくのは、簡単だった。

怪我をするのはいつもの事で。
縫合した横腹の傷が回復するまで任務はない。そう言われて病室にいた自分の所に来たのは、イルカだった。
部下をつれての任務ではなく今回は単独任務だった。部下が関わっていないにも関わらず病室を訪れたイルカに、カカシは内心首を傾げた。
会った当初から不思議な男だと思っていた。里内外に名前が知れ渡っている自分を遠ざける人間は少なくはない。だがイルカは時折自分に声をかけてきた。他の人間によく見る媚びる訳でもないそのイルカの態度は不透明で。
だから、それは自分の部下になった元生徒が気がかりだからとばかり思っていた。
病室に顔を出したイルカは、心配そうな表情をカカシに向けた。
「カカシ先生、大丈夫ですか」
近寄ってきたイルカはじっと自分の顔を見つる。カカシは思考を探るようにその黒い目をじっと見つめ返した。微かに緊張しているのが分かる。
「カカシは大丈夫よ」
そう答えたのは、既に病室にいた上忍のくノ一だった。求めていなくとも自分に寄ってくる女は多い。
だから出ていけと、そう言わんばかりにそう告げた女にカカシは顔を向けた。
「いや、アンタはもういいや。帰って」
不意に向けられたカカシの言葉に女は眉を寄せ、ふいと顔を背けると病室を出て行く。
「あの、」
ぴしゃりと閉められた扉から目をカカシに向け、困惑しながら申し訳なさそうにするイルカに、カカシは微笑んだ。
「ね、先生が手当てしてくれる?」
ここ、今からガーゼを変えようと思ってたんだけど。
脇腹を指さすと、
「あ、はいっ」
とイルカはカカシに慌てて向き直る。上着を縫げば、イルカが驚きに目を丸くし、視線を下にずらした。その顔が徐々に赤みを帯びる。
「ここ、お願い」
「は、はいっ」
イルカは赤い顔のままカカシの肌に手を伸ばした。自分の肌にイルカの指が触れる。思ったよりも暖かいその手は、そのままゆっくり包帯を取っていく。
女の欲望と色気をまとわりつかせた香水の匂いより、目の前にいるイルカの匂いの方がずっといい。
距離が近くなったイルカにそんな事を思った。
一生懸命にガーゼを変える、そのイルカの表情を上からじっと見つめながら、イルカの赤く染まった頬や急速に高くなっている脈拍は、単に緊張からくるものではないと気がつく。
頭に過ぎった予感を確かめるように、カカシはイルカの頬に指先で触れた。少し驚いたイルカが手を止めカカシを見上げるように見る。
「痛かったですか?」
「ううん、全然。先生、上手だね」
優しく声をかけると、ふわ、とイルカが頬を赤らめながら微笑んだ。
嬉しそうに。
「良かった」
どうでもいい相手に見せるような表情ではないくらい、すぐに分かる。
(ーーへえ)
黒い髪を撫でると、そうです、と答えるようにイルカは恥ずかしそうに俯き、更に頬を赤くさせた。
自分のどこがいいのか分からないけど。イルカから向けられたその感情は悪くない。
カカシは男相手に初めてそういうものを感じ、目を微かに細めた。

お堅い職業でそんな人格だと思っていたイルカだが、口説いてから墜ちるのに時間はそうかからなかった。
なんせイルカからしたら、好意を向けている相手からの誘いなのだ。断るはずもない。
どこまで許してくれるのか。それはカカシの中でも未知数で興味本位なものがあったが、優しく囁くと、イルカはすぐに絆された。

そう。こんな明るい教室の中でも。
口でして、と甘く囁けばイルカは素直に床に膝をついた。
今まで寄ってきた女にもそうであったように、多少無理な行為を強要する事に何も感じなかった。
だが、苦しそうに涙を浮かべられると、カカシの手がついイルカに伸びていた。
黒い髪を優しく撫で、眦に浮かんだ涙を指で拭えば、ふとイルカの黒い目がカカシを見上げる。この行為はイルカにさせてはいるが、それ以上はまだしてはいなかった。
そのタイミングがなかったという理由もあったが。
忍びの世界で性欲処理に男も女も関係ない。それはイルカも知っているはずだ。
頼んだらやってくれるだろうし、何よりこの目を見ると抱いてみたい気分にもなるが。
潤んだ黒い目を見つめながら、そんな事をぼんやり思った。



その日は、たまたま飲みにいきたい。そんな気分だった。
イルカを誘えば少し遅くなりますが、と答えられ、それでも構わないとカカシが告げると、イルカは嬉しそうに微笑んだ。
誰でも良かったけどイルカとは食の好みが合っているし、一緒にいても面倒くさい事にもならないし、沈黙があっても苦にならない。
それに飲み食いしている時のイルカの口元を見るのが好きだと最近気がついた。酒で濡れた厚い唇が自分の名前を呼んだりする。それがすごく、いい。
食べる度にちらりと見える赤い舌に、異様に艶めかしく感じるのはやっぱり自分がどこかおかしいんだと思うけど。
それほど自分は性欲がある方じゃないと思っていたのに。目の前のイルカを見ると、そんな気分になってくる。
(・・・・・・上手い下手はともかく、もしかしてこの人、そっちの仕事の方が向いてるんじゃないの)
縦肘をつきながら楽しそうにアカデミーの話しているイルカのを見つめると、その視線にイルカは気がつく。
「どうしたんですか?」
「ううん、何でもない」
きょとんとしたその子供っぽい顔に、カカシは薄く微笑みながら口を開いた。
「それよりさ、イルカ先生の家寄ってもいい?」



イルカは自分からは誘わない。
まあ、自分から咥えたいなんて言うのもおかしな話しだが。
今日もしてもらおうと、そんな事を考えていたのに。普段真面目なイルカが見せる媚態を見たいと、その欲求が強くなっていた。
今までさせていた行為以外で見せる顔が、見たい。
缶ビールと簡単なつまみしかないんですけど、と台所へ向かおうとしたイルカの手をカカシが掴んだ。
え、と小さく声を出したイルカの腕をぐいとひっぱり自分の腕の中に引っ張りこむ。驚き身を固くするイルカに顔を近づけた。
額当ても覆面も外したカカシの顔を間近で見たイルカが、顔を赤くする。
「ね、先生。いつも俺の舐めてくれてるでしょ。今日は俺にさせて?」
恥ずかしい事を平気な顔で微笑みながら囁かれ、イルカの顔が更に赤みを増した。
「そ、それは・・・・・・どういう事でしょうか・・・・・・」
未だ身を固くしながら問うイルカは、半分分かっていて、分かっていないような。それはたぶん本当の事だろう。
きっとイルカは経験がない。
純真な相手を汚していくような事に多少罪悪感が沸き上がるが、カカシは今更だと思い直した。
イルカの緊張を解すように背中をさすりながら、イルカの顔をのぞき込む。
「先生が俺にしてくれてる事と同じような事を俺が先生にしてあげる」
それは予想していた事だろうに、イルカは驚きに目を見開き言葉にならないのか、ただ小さく口を開けた。
さすがに意味が分かったのか。徐々に耳まで赤くなる。そのイルカの初々しい態度にカカシは微笑んだ。
腕の中で固まったままのイルカの手を引いて奥の部屋へ入り、ベットへ座らせる。手を離すとイルカが慌ててカカシの手を掴んだ。
「あの、でも、それは、」
拒否するように口ごもる言葉に、カカシはイルカの隣に座った。
ふっと顔を近づけると構えてしまったイルカの身体がびくっとなる。カカシはじっとイルカを見つめた。
「先生俺の事好きなんでしょ?」
改めて口にだされ、イルカはぐっと口を結んだのが分かった。動揺しながらも恥ずかしそうに、微かに頷く。それを見てカカシは満足気に微笑んだ。
「じゃあいいじゃない」
「でも、」
やっぱり、と付け加えるイルカの緊張を解そうとカカシはイルカとの距離を詰めた。
顔を近づければ、ぐっとイルカが顎を引く。
(・・・・・・キスぐらいいいよね)
今までイルカとキスをしてこなかったし、男となんてごめんだと思っていたが。イルカといるとそんな気分になる。
下を向いたイルカの顎に手を添え上を向かせる。少し驚いたのか、薄く開いた口に、自分の唇を重ねた。
思っていた以上に、柔らかいその唇に何度も重ね、押し当てる。閉じられていた唇に舌を割り入れたら、イルカの身体がびくんと跳ねた。肩を抱くように触れているイルカの身体から、心音が高鳴っているのが伝わる。
自分の欲望のままに舌で口内を荒らしながら縮こまったイルカの舌を見つけ、無理矢理に絡ませた。深く口づけられたイルカには逃げる場所はない。
「・・・・・・ん・・・・・・っ」
唾液に絡ませた敏感な舌に、イルカからは声が漏れる。ぬるりと舌がふれ合う度にカカシを掴むイルカの手に力が入った。
最初はぎゅっと閉じられていた目は、濃厚なキスに薄く閉じられた目は薄っすら濡れている。
そのままイルカの下肢に手を伸ばした。
「・・・・・・あっ」
声を上げたイルカにかまわずズボンの上から触れれば、そこはしっかりと反応を示していた。
「駄目、カカシさんやっぱり、」
「何で。先生だってしてるじゃない」
「だって、俺のは汚いです」
「俺がしたいの」
「でも」
「いいから、じっとしてて」
言い終わらない内にカカシは抵抗するイルカのズボンを、下着ごと片手でずりおろした。
外気にさらされた下半身に、イルカが息を呑んだのが分かった。
思っていた通り、イルカの陰茎を見ても嫌悪は感じなかった。先走りで濡れた先端を手のひらで包むようにして扱けば、イルカが声を上げた。他人の物を触った事がないが、気持ちよくなるように力を調整しながら扱いた。
「だめ、・・・・・・ん・・・・・・っ」
抵抗の言葉を口にするも、感じたことがなだろう快感に、イルカが声が抑えられないのか、口を手で押さえた。
片手でイルカの上半身をベットにゆっくりと押し倒し、上衣の裾からカカシは手を忍ばせた。指が冷たかったのか、イルカの身体が反応した。
「え、なに」
驚くイルカを無視して既に固く立ち上がったイルカの陰茎を擦り上げるとぐちゅと音が鳴った。
「ぁ、・・・・・・んっ」
カカシの手によって与えられる刺激に抵抗らしい抵抗は見せない。カカシのもう片方の手はイルカの突起にたどり着く。指で刺激を与えると、またイルカから声が漏れた。イルカが感じる箇所を覚えるように、カカシの指が固くなった胸の突起を押しつぶす。ベストを着ていてすこし動かしにくいが仕方がない。
余裕がなくなってきているイルカの表情を見つめた。荒い息をしながら恥ずかしいのか、首まで真っ赤になっている。上気した頬に吐き出す息、緩く閉じた目がぴくぴく動いている。想像以上の艶めかしさに、カカシはイルカの顔を凝視した。その間にも、イルカは声を漏らす。
達するのを促すように、カカシは手の動きを早めた。
「ん・・・・・・ん・・・・・・っ」
限界が近いのか。不意にイルカの足に力が入る。閉じようとしたその足をカカシはぐいと押し広げた。
「やっ・・・・・・だめ」
「なんで、見せて」
力でカカシに適うはずがない。先端の柔らかい部分を指で擦りながら扱き上げる。
「あ、・・・・・・ぁ、・・・・・・あぁっ・・・・・・っ」
抵抗も空しく、イルカはカカシの手のの中で絶頂を迎えた。
ゆっくりイルカから手を離す。
ベットの上でぐったりとして、はあはあと胸を上下させているイルカを見下ろしながら、カカシは部屋の隅にあったティッシュの箱を見つけて、イルカの精液で濡れた手を拭いた。
見てみたかったイルカの恍惚とした表情が見れ、自分的には満足している。イルカはあんな風に声を抑えるんだと、初めて知った。恥ずかしいからなんだろうが、声を抑える方が倍やらしいと分かってるのか、いや分かってないよねえ、と思っていた時、
「・・・・・・カカシさん」
名前を呼ばれる。
立ち上がっていたカカシがイルカに目を向けると、まだぐったりとしたイルカが布団で下肢を隠しながらこっちを見ていた。
「ああ、もしかして腰が抜けちゃったとか?」
風呂場に行きたいなら手伝いますよ。
イルカに近づき伸ばした手を、イルカが掴んだ。
「違います、あの・・・・・・カカシさんは」
おずおずと聞いてくる、その意味はすぐに分かった。
カカシは小さく笑う。
「いや、俺はいいですよ。だってもう疲れたでしょう」
「・・・・・・そうじゃなくって」
そうじゃない。
カカシは首を傾げていた。
いつものように口でしてくれると、そういう意味じゃないならーー。
イルカの目を見つめ返して、イルカの意図に気がつく。
動揺した。
何言ってるの?と言いたいのに、イルカのその誘うような目が自分を釘づける。
「俺は・・・・・・あなたが言ったように、好きだから・・・・・・」
それは知ってる。何度も確認する為にイルカに聞いた。
でも。
イルカから好きだと口にされ、女のような誘い文句だと分かってるのに、それが更に動揺を増す。
イルカとするとは、頭になかった。
口でさせたり、そっち系の仕事向いてるんじゃないかとか、散々な事を思ったのに。
ただ、自分の下半身もイルカの媚態に反応を示していたのは確かだ。
布団で身体を隠すイルカをじっと見つめる。何て返せばいいのか。
開いた口に、自分から出た言葉は。
「・・・・・・いいの?」
イルカが一瞬目を丸くした。
自分もそんな言葉が何ででたのか分からない。
「・・・・・・カカシさんが嫌じゃないなら」
言われて、カカシは上半身を起こしたイルカに近づく。
「先生・・・・・・女と男は違うんだから、大泣きするかもよ」
明日立てなくなるかも。
自分にブレーキをかけるように。イルカの目を食い入るように見つめた。
少し戸惑いの色を見せたイルカは、一回口を閉じ、再び開ける。
「それでもいいです」
自分で仕掛けた罠にかかったような感覚。
同時に感じるのは、罪悪感と性欲と、同性とかどうでもよくなるような、言葉に出来ない感情。
そんな思いがぐちゃぐちゃと頭の中で回り、
(・・・・・・あぁ、もうどーでもいい)
カカシはイルカに唇を押し当てながらベットに押し倒した。



トリップまでとはいかないが、陶酔したような感覚にカカシはイルカを見下ろせば、イルカもまたぼんやりとした目で荒い呼吸をしていた。
身体がまだ熱い。
イルカの中で達したカカシがゆっくり陰茎を抜くと、ん、と鼻にかかった声をイルカが漏らした。
どさりと、横にカカシは寝転がる。
こんな汗は久しぶりにかいたと、手の甲で額の汗を拭って、イルカを見ればまた、同じように汗をかいていた。
その肌に手を伸ばし、触れる。手にしっとりと馴染む肌にいつまでも撫でていたいと思うのは、気のせいではない。
カカシはイルカをそのまま引き寄せた。暖かい身体を抱き締める。
「あ・・・・・・」
腕の中でイルカが声を出した。少し掠れている。
「なに」
聞き返すと、イルカが壁にかかった時計をじっと見つめている。
「もうこんな時間になってたんですね」
その通り、時計は12時を回り日付が変わろうとしいていた。
「そりゃそうでしょ」
そこから不意に頭に過ぎったある事実に、カカシは時計から視線をゆっくりと外した。
日付が変わった今日が9月15日だと、悪戯とも言うべきその事実は何でもないはずなのに。
(・・・・・・偶然。ただの偶然)
心の中で呟くように否定する。
でも。
腕の中にいるイルカの暖かい身体を、まだ実感していたい。
この気持ちを何て言うのか。

カカシはイルカを抱き締める。
そのまま目を閉じ、うつらうつらと夢の中に墜ちていった。


<終>
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