手強い
「じゃ、そーいうことで今日は解散ね」
カカシがににっこり微笑むと、
「そーいうことってどういうことだってばよっ」
と、毎度のように、ナルトが即座に反応した。口を尖らせDランク任務に対する不満を口にする。
確かに今日は午前中で終わってしまった。物足りないくらいの任務で。午後丸々空きが出来るなんてここ最近あまりなかった。それはそれで嬉しいが、この後少しくらい上忍師としてつき合ってくれてもいいんじゃないの、とサクラも内心小言を呟きたくなる。
が、それを口に出す前に、ナルトが先に口を開いた。
こんなんじゃ腹の足しにもならないってばよ、と、間違った使い方で攻めるナルトの言葉に、カカシは困ったように眉を下げた。
「まあそう言うな。俺にもいろいろとあるわけよ」
適当にいなされ、ナルトはまた口を尖らす。そしていつものように、誰も納得もしないうちにカカシは姿を消した。
(上忍のいろいろってなんなのよ)
サクラも不満を心で呟き。そこからサスケに目を移した。
「ねえ、サスケくんっ」
うなだれ気味にサクラは歩く。せっかくだから少しでもサスケと時間を過ごしたいと思ったのに。
くだらない事考えてるヒマがあったら鍛錬してろ。お前もあのドベと同じだな。
(...撃沈...)
はあ、とため息を吐き出した。
いつまでたってもなびいてくれるどころか。そんな様子も微塵もない。片思いは片思いなりの些細な嬉しさやトキメキがあるけれど。
時々むなしくも、なる。
(ナルトなんかと同じにしなくたっていいじゃない)
サスケに言われた台詞を思い出して、そう思ってはみるが、結局今日の任務だって、カカシに言われた事が上手く出来なく、足を引っ張ってしまったのは事実で。
嘆息した。
考えながら商店街を歩き、
「サクラちゃん」
名前を呼ばれ、地面に落としていた視線を上げた。
ナルトが手を振っている。
嬉しそうに。
(...なんだナルトか)
これがサスケだったらどんなにいいだろう。想像しても、想像を越えない妄想に気分は重くなるばかり。
気分を切り替えようとナルトを見据えて。呼ばれるままに歩み寄った。
「何やってんのよ。こんなところで」
ついつっけんどんな態度になるサクラに、気にする事なくナルトは笑った。
後ろには、ナルトの代名詞と言っても過言ではない、ラーメン屋。
午前中に任務は終わったが、昼食は七班で済ませたばかりのはずだ。サクラは眉を寄せていた。
「なに、あんたさっきご飯食べたばっかりなのに、また食べるつもり?」
呆れたと、そんな口調で言えば、ナルトは肯定も否定もするわけではないが。曖昧に笑って後頭部に手を当てる。
そんなんじゃないってばよ、と口を尖らせるも、もじもじとした恥ずかしそうな顔をされ、ますます意味が分からなくなる。
サクラは首を傾げた。
「...違うの?だったらなんでこんなところに突っ立ってるのよ」
相変わらず変なヤツ。
理解が出来ないと顔を顰めるサクラに、ナルトは口を開いた。
「イルカ先生が来るかなって」
(...かなって、なによそれ)
だからなんだと、冷たい視線を送るが。ナルトは変わらず恥ずかしそうに笑みを浮かべて気味が悪い。
アカデミーの頃からそうだったけど。イルカ先生、イルカ先生、と、金魚の糞みたいにひっついて。
(あわよくばイルカ先生に集ろうって魂胆ね。相変わらずなんだから)
軽蔑の眼差しを向けるも。何故だろう。その頃とは違うナルトの表情にも感じる。
はにかむナルトに眺めながら心に浮かんだ直感に、サクラはまさか、と、思い直す。
「...イルカ先生来るといいわよね」
態とそんな言葉を選んで言えば、ナルトは嬉しそうに頬を赤くした。
「うんっ」
あまりにも嬉しそうな顔に、目を丸くし。思わず自分の顔も熱くなりそうになった。いや、少し赤くなっているのかもしれない。ナルトは気が付いていないけど。
そこから、ああ、なんだ。と、身体の力が抜けた。
全然気が付かなかった。
だって、こいつはてっきり私のことばっかり見てるのかと、思ってたから。
つい最近まで、そうだったはずなのに。
女心と秋の空とは言うけど、ナルトもそうだったなんて。
(うっそでしょ)
そう思っても、嘘ではない。
きっと、ナルトは。イルカの事が。
自分がサスケを想うのとは違って、同姓で歳の差だってあるし、イルカの持った感情がそう簡単にナルトと同じ感情にそう変わるわけがないのに。
それでも。純粋なイルカへの恋心。それだけでナルトは幸せそうだ。
それは、きっと自分と同じ。
だって、イルカとラーメン屋で会えるかもしれないってだけで、こんな風に嬉しそうなのだ。
こっちまで恥ずかしくなる。
幸せそうな顔。
呆れるように、でも共感するようにサクラはナルトを眺め、
「私帰るね」
言えば、うんまたな、と白い歯を見せられた。
翌日の任務は野猫狩りだった。
その任務を終え、少し疲れ気味に歩くナルトと私を見て、カカシが嘆息する。
体力ないねえ、とぼやかれ、二人でむっとしてカカシの顔を見た。
「猫ばっかり追いかけさせるからだってば」
引っかかれたナルトの腕や顔を見て、カカシは困ったように眉を下げた。
「分かってないねえ。スタミナってのはね、ナルト。根底にあるべきものなの」
体力なくなってあんな猫に簡単に逃げられてるようじゃ、まだまだってことだよ。
と、続けて言われる。
目的の数を捕まえられなかった事を言っているのだろう。
サスケも悔しそうに押し黙ったまま。ナルトも言い返せなくなったのか。ふん、と顔をそむけた。
「とにかく、俺は今から任務報告してくるから。待ってなさいよ」
カカシはそう言うと受付所へ背を向け歩き出す。
ここから休憩を挟み、今日は訓練をするらしい。それは朝に聞かされていた。昨日言った不満をカカシが汲んでくれたのだろうが。
「お、お前ら」
その声に三人揃って反応した。
座り込んでいたナルトは勢いよく立ち上がり、さっきのだらけた態度は一変。嬉しそうにひとつ跳ねて、イルカに駆け寄った。
イルカはアカデミーの教材を抱えていた。
子犬のように見えない尻尾を振り、腕を掴むナルトにバランスを崩されながら、イルカは三人を見て微笑む。
「任務はもう終わったのか」
ナルトは首を振る。
「終わったけどさ、今日はまだ訓練があるんだって、カカシ先生がさ」
言えば、イルカはしっかりやれ、とナルトの頭を一回撫でた。そこでイルカはナルトに出来たひっかき傷に気が付く。
「なんだ、ナルト。いくつもあるじゃないか」
聞かれてナルトは、さっきの自分の活躍っぷりをイルカに意気揚々と話し始めた。
ナルトが猫を捕まえた時、まさかの子猫5匹の登場で、その子猫に手痛く引っかかれた場面を聞かされ、イルカは笑った。
「そりゃ子猫は怒っただろうな」
可笑しそうに口元に手を当てるイルカに、ナルトの頬は血色良く赤く色づく。
サクラはなぜだか嬉しくなった。
ナルトなんかと思う反面、自分と気持ちを重ねてしまっている。
嬉しそうに、それでさ、と、ナルトが口を開いた時だった。
イルカがふと顔を横に向ける。
任務報告を終えただろう、カカシが後ろからゆっくり歩いてきていた。
イルカはナルトの腕を離し、頭を下げる
カカシも少し離れた場所から会釈を返した。
「すみません、邪魔を」
今から訓練だそうで、
と、言うイルカに、カカシは微笑んだ。
「いーえ、気にしてませんよ。こいつらにはいい気分転換になったみたいですし」
片手をポケットに手を入れたまま、カカシはイルカの前までくる。ナルトの顔に出来たひっかき傷を指で触れた。触るなってば、と不満そうな顔をするナルトに眉を下げ、
「今日は野猫狩りだったんですよ」
イルカに顔を向けた。
「みたいですね」
イルカは頷く。
「そう、ナルトがね。ようやく猫を追いつめて、1匹捕まえそうになったんだけどね、」
ナルトがさっきイルカに言った話のくだりを、カカシが始めた。
もう聞いたばかりの事だから。でもイルカ先生の事だから、ナルトの時と同じようにちゃんと話を聞いてくれるんだろうけど、
そう思って。ナルトもそうだったのだろう。横目でナルトを見れば、少し勝ち誇った顔をして、二人を眺めていた。
「...でね、ナルトが子猫に襲われて子猫まみれになったんですよ」
同じオチをカカシが言う。
イルカは。目を細めた。嬉しそうにカカシに向かって微笑み、
ーー可笑しそうに笑った。
サクラは驚いていた。
だって、ーーそう。ナルトの時と全然違う。
表情が。笑い方が。
ころころと笑うイルカ。
そのイルカを見て、カカシも嬉しそうに微笑みを返す。
(え、なに?それが大人の対応?)
そう思ってみるが。そんなんじゃない。
イルカは、本当にカカシと話すのが嬉しそうで。
動揺しながら、二人が嬉しそうに笑い合う姿を、ただ、見つめる。
ふと、カカシがイルカの肩へ目を留めた。カカシの手が伸びる。不意の動きにイルカが息を呑んだのが分かった。
「先生、猫の毛。ナルトからもらったみたいですね」
にこと笑みを浮かべるカカシに、イルカは大したことではないはずなのに、いやすみません、なんて言いながらも、その頬は赤く染まっている。
カカシはのほほんと、そんなイルカを優しく見つめる。
視界の隅に入っていた、金色の髪に、目をそっと向けた。
ナルトでも気が付いたのだろう。
悲しそうな表情を、見せていた。
黙って、じっと。
黒い瞳にカカシしか映していないイルカを、寂しそうに。見ていた。
(イルカ先生ってば...分かり易すぎなのよ)
真っ直ぐで馬鹿正直なイルカの性格を、今日は恨めしく感じる。
だけど、人の気持ちばっかりは、どうしようも出来ない。残酷な現実。
それは、サクラ自身、よく分かっていた。
黙って二人を見ているナルトの側に歩み寄る。
「ナルト....今日ラーメン食べにいくわよ」
強い口調で呟けば、ナルトが、え?と、サクラに顔を向けた。いつもより覇気のない青い目。
「奢るわ」
そこで、ようやく薄く微笑むナルトに、サクラも微笑み返す。その様子を見ているサスケがいたが、サクラは気が付かないフリをした。
今日だけは、つき合ってあげる。そう。今日だけは。
だって、恋は手強いのだ。
<終>
カカシがににっこり微笑むと、
「そーいうことってどういうことだってばよっ」
と、毎度のように、ナルトが即座に反応した。口を尖らせDランク任務に対する不満を口にする。
確かに今日は午前中で終わってしまった。物足りないくらいの任務で。午後丸々空きが出来るなんてここ最近あまりなかった。それはそれで嬉しいが、この後少しくらい上忍師としてつき合ってくれてもいいんじゃないの、とサクラも内心小言を呟きたくなる。
が、それを口に出す前に、ナルトが先に口を開いた。
こんなんじゃ腹の足しにもならないってばよ、と、間違った使い方で攻めるナルトの言葉に、カカシは困ったように眉を下げた。
「まあそう言うな。俺にもいろいろとあるわけよ」
適当にいなされ、ナルトはまた口を尖らす。そしていつものように、誰も納得もしないうちにカカシは姿を消した。
(上忍のいろいろってなんなのよ)
サクラも不満を心で呟き。そこからサスケに目を移した。
「ねえ、サスケくんっ」
うなだれ気味にサクラは歩く。せっかくだから少しでもサスケと時間を過ごしたいと思ったのに。
くだらない事考えてるヒマがあったら鍛錬してろ。お前もあのドベと同じだな。
(...撃沈...)
はあ、とため息を吐き出した。
いつまでたってもなびいてくれるどころか。そんな様子も微塵もない。片思いは片思いなりの些細な嬉しさやトキメキがあるけれど。
時々むなしくも、なる。
(ナルトなんかと同じにしなくたっていいじゃない)
サスケに言われた台詞を思い出して、そう思ってはみるが、結局今日の任務だって、カカシに言われた事が上手く出来なく、足を引っ張ってしまったのは事実で。
嘆息した。
考えながら商店街を歩き、
「サクラちゃん」
名前を呼ばれ、地面に落としていた視線を上げた。
ナルトが手を振っている。
嬉しそうに。
(...なんだナルトか)
これがサスケだったらどんなにいいだろう。想像しても、想像を越えない妄想に気分は重くなるばかり。
気分を切り替えようとナルトを見据えて。呼ばれるままに歩み寄った。
「何やってんのよ。こんなところで」
ついつっけんどんな態度になるサクラに、気にする事なくナルトは笑った。
後ろには、ナルトの代名詞と言っても過言ではない、ラーメン屋。
午前中に任務は終わったが、昼食は七班で済ませたばかりのはずだ。サクラは眉を寄せていた。
「なに、あんたさっきご飯食べたばっかりなのに、また食べるつもり?」
呆れたと、そんな口調で言えば、ナルトは肯定も否定もするわけではないが。曖昧に笑って後頭部に手を当てる。
そんなんじゃないってばよ、と口を尖らせるも、もじもじとした恥ずかしそうな顔をされ、ますます意味が分からなくなる。
サクラは首を傾げた。
「...違うの?だったらなんでこんなところに突っ立ってるのよ」
相変わらず変なヤツ。
理解が出来ないと顔を顰めるサクラに、ナルトは口を開いた。
「イルカ先生が来るかなって」
(...かなって、なによそれ)
だからなんだと、冷たい視線を送るが。ナルトは変わらず恥ずかしそうに笑みを浮かべて気味が悪い。
アカデミーの頃からそうだったけど。イルカ先生、イルカ先生、と、金魚の糞みたいにひっついて。
(あわよくばイルカ先生に集ろうって魂胆ね。相変わらずなんだから)
軽蔑の眼差しを向けるも。何故だろう。その頃とは違うナルトの表情にも感じる。
はにかむナルトに眺めながら心に浮かんだ直感に、サクラはまさか、と、思い直す。
「...イルカ先生来るといいわよね」
態とそんな言葉を選んで言えば、ナルトは嬉しそうに頬を赤くした。
「うんっ」
あまりにも嬉しそうな顔に、目を丸くし。思わず自分の顔も熱くなりそうになった。いや、少し赤くなっているのかもしれない。ナルトは気が付いていないけど。
そこから、ああ、なんだ。と、身体の力が抜けた。
全然気が付かなかった。
だって、こいつはてっきり私のことばっかり見てるのかと、思ってたから。
つい最近まで、そうだったはずなのに。
女心と秋の空とは言うけど、ナルトもそうだったなんて。
(うっそでしょ)
そう思っても、嘘ではない。
きっと、ナルトは。イルカの事が。
自分がサスケを想うのとは違って、同姓で歳の差だってあるし、イルカの持った感情がそう簡単にナルトと同じ感情にそう変わるわけがないのに。
それでも。純粋なイルカへの恋心。それだけでナルトは幸せそうだ。
それは、きっと自分と同じ。
だって、イルカとラーメン屋で会えるかもしれないってだけで、こんな風に嬉しそうなのだ。
こっちまで恥ずかしくなる。
幸せそうな顔。
呆れるように、でも共感するようにサクラはナルトを眺め、
「私帰るね」
言えば、うんまたな、と白い歯を見せられた。
翌日の任務は野猫狩りだった。
その任務を終え、少し疲れ気味に歩くナルトと私を見て、カカシが嘆息する。
体力ないねえ、とぼやかれ、二人でむっとしてカカシの顔を見た。
「猫ばっかり追いかけさせるからだってば」
引っかかれたナルトの腕や顔を見て、カカシは困ったように眉を下げた。
「分かってないねえ。スタミナってのはね、ナルト。根底にあるべきものなの」
体力なくなってあんな猫に簡単に逃げられてるようじゃ、まだまだってことだよ。
と、続けて言われる。
目的の数を捕まえられなかった事を言っているのだろう。
サスケも悔しそうに押し黙ったまま。ナルトも言い返せなくなったのか。ふん、と顔をそむけた。
「とにかく、俺は今から任務報告してくるから。待ってなさいよ」
カカシはそう言うと受付所へ背を向け歩き出す。
ここから休憩を挟み、今日は訓練をするらしい。それは朝に聞かされていた。昨日言った不満をカカシが汲んでくれたのだろうが。
「お、お前ら」
その声に三人揃って反応した。
座り込んでいたナルトは勢いよく立ち上がり、さっきのだらけた態度は一変。嬉しそうにひとつ跳ねて、イルカに駆け寄った。
イルカはアカデミーの教材を抱えていた。
子犬のように見えない尻尾を振り、腕を掴むナルトにバランスを崩されながら、イルカは三人を見て微笑む。
「任務はもう終わったのか」
ナルトは首を振る。
「終わったけどさ、今日はまだ訓練があるんだって、カカシ先生がさ」
言えば、イルカはしっかりやれ、とナルトの頭を一回撫でた。そこでイルカはナルトに出来たひっかき傷に気が付く。
「なんだ、ナルト。いくつもあるじゃないか」
聞かれてナルトは、さっきの自分の活躍っぷりをイルカに意気揚々と話し始めた。
ナルトが猫を捕まえた時、まさかの子猫5匹の登場で、その子猫に手痛く引っかかれた場面を聞かされ、イルカは笑った。
「そりゃ子猫は怒っただろうな」
可笑しそうに口元に手を当てるイルカに、ナルトの頬は血色良く赤く色づく。
サクラはなぜだか嬉しくなった。
ナルトなんかと思う反面、自分と気持ちを重ねてしまっている。
嬉しそうに、それでさ、と、ナルトが口を開いた時だった。
イルカがふと顔を横に向ける。
任務報告を終えただろう、カカシが後ろからゆっくり歩いてきていた。
イルカはナルトの腕を離し、頭を下げる
カカシも少し離れた場所から会釈を返した。
「すみません、邪魔を」
今から訓練だそうで、
と、言うイルカに、カカシは微笑んだ。
「いーえ、気にしてませんよ。こいつらにはいい気分転換になったみたいですし」
片手をポケットに手を入れたまま、カカシはイルカの前までくる。ナルトの顔に出来たひっかき傷を指で触れた。触るなってば、と不満そうな顔をするナルトに眉を下げ、
「今日は野猫狩りだったんですよ」
イルカに顔を向けた。
「みたいですね」
イルカは頷く。
「そう、ナルトがね。ようやく猫を追いつめて、1匹捕まえそうになったんだけどね、」
ナルトがさっきイルカに言った話のくだりを、カカシが始めた。
もう聞いたばかりの事だから。でもイルカ先生の事だから、ナルトの時と同じようにちゃんと話を聞いてくれるんだろうけど、
そう思って。ナルトもそうだったのだろう。横目でナルトを見れば、少し勝ち誇った顔をして、二人を眺めていた。
「...でね、ナルトが子猫に襲われて子猫まみれになったんですよ」
同じオチをカカシが言う。
イルカは。目を細めた。嬉しそうにカカシに向かって微笑み、
ーー可笑しそうに笑った。
サクラは驚いていた。
だって、ーーそう。ナルトの時と全然違う。
表情が。笑い方が。
ころころと笑うイルカ。
そのイルカを見て、カカシも嬉しそうに微笑みを返す。
(え、なに?それが大人の対応?)
そう思ってみるが。そんなんじゃない。
イルカは、本当にカカシと話すのが嬉しそうで。
動揺しながら、二人が嬉しそうに笑い合う姿を、ただ、見つめる。
ふと、カカシがイルカの肩へ目を留めた。カカシの手が伸びる。不意の動きにイルカが息を呑んだのが分かった。
「先生、猫の毛。ナルトからもらったみたいですね」
にこと笑みを浮かべるカカシに、イルカは大したことではないはずなのに、いやすみません、なんて言いながらも、その頬は赤く染まっている。
カカシはのほほんと、そんなイルカを優しく見つめる。
視界の隅に入っていた、金色の髪に、目をそっと向けた。
ナルトでも気が付いたのだろう。
悲しそうな表情を、見せていた。
黙って、じっと。
黒い瞳にカカシしか映していないイルカを、寂しそうに。見ていた。
(イルカ先生ってば...分かり易すぎなのよ)
真っ直ぐで馬鹿正直なイルカの性格を、今日は恨めしく感じる。
だけど、人の気持ちばっかりは、どうしようも出来ない。残酷な現実。
それは、サクラ自身、よく分かっていた。
黙って二人を見ているナルトの側に歩み寄る。
「ナルト....今日ラーメン食べにいくわよ」
強い口調で呟けば、ナルトが、え?と、サクラに顔を向けた。いつもより覇気のない青い目。
「奢るわ」
そこで、ようやく薄く微笑むナルトに、サクラも微笑み返す。その様子を見ているサスケがいたが、サクラは気が付かないフリをした。
今日だけは、つき合ってあげる。そう。今日だけは。
だって、恋は手強いのだ。
<終>
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