底辺
彼とは、時々一緒に酒を飲む間柄だった。
そこまでよく喋る方じゃないけど、一緒に過ごす時間は心地よかった。
彼を部屋に招き酒を飲んでいて、押し倒されたのは突然だった。
初めてカカシに抱かれた時。
男として見ても、決して優しくなかった。
息をする間もなく、何かに急かされているように、激しい。
噛み殺されるような錯覚を覚えた。
それから何度も彼は俺を抱く。
獣のように交わる事を求める。
外では何も変わらない態度をとりながら、ふらっと家に現れ、俺を抱く。
それが何なのかと言われたら、答える事が出来ない。
ねじ込まれる性欲に、相手が俺だと言う事に。
理由なんてきっとないだろう。
そう思っていたのに。
早朝、朝靄が里を包んでいる中、イルカはアカデミー夜間の歩哨を終え、帰宅するべく家へ向かっていた。
朝とも呼べないくらい早い時間。昼間、多くの人で賑わう商店街もまだ静まりかえっている。誰もいないその道を通り、細い路地裏の道に入る。
イルカは、感じた気配にふと顔を上げた。
ひたひたと足音なく歩いている男を見て、息を呑んだ。カカシだった。
こんな時間にカカシと顔を合わすのは初めてだった。何を、と思うも、不思議な事ではないと思い直す。忍の活動時間に決まった時間はない。24時間、常に機能している。だから、こんな朝早くカカシがここを歩いているのは何の不思議もなかったが、目を僅かに丸くしたのは、ーーカカシのベストからズボンまで。そして、銀色の髪と白い肌に赤い血が全身に飛沫したようについていたから。カカシに血飛沫を見て敵の血であることは明らかだった。そのぼんやりとした眼差しがふと動き、目の前にいるイルカを映す。
カカシが脚を止めた。
上忍であれば過酷な戦況は免れない。それは任務を受けるどの忍にも通じるものであり、イルカもまた内勤であろうが、いや、内勤で受付や報告を受ける立場としてだからこそ、認識をしている。
なのに。
カカシは目の前にいるイルカを見て、目を見開いた。直後に視線を避けるように外した。丸でここにいるイルカが場違いの様に。
カカシの手がピクリとした。その手甲から指先にかけてもにも血の飛沫で染まっている。そのまま踵を返し背を向け歩き出す、その分かりやすいその行動に、驚いた。
放っておけばいいと頭で分かっていたはずなのに、あからさまなカカシの行動をそのまま受け流せなかった。
「カカシさん」
静寂しかない状況で、呼んだ声が聞こえないわけがないのに、カカシは脚を止めない。戸惑う気配すらないカカシに、イルカは唇を噛んだ。頭に血が上る。何故か抑えきれない感情が沸き上がった。
「・・・・・・っ、止まれって言ってるんだよっ」
大きな声が自分から出ていた。
それはカカシは予想していたなかったのか、足の速度が緩む。その場からカカシが姿を消そうとするよりも早く、イルカは血で黒ずんだ服の、その腕を掴んでいた。
引っ張り無理矢理にこっちを振り向かせると、イルカは間合いを詰めた。虚を突かれたカカシは、一瞬目を丸くさせる。
狭い路地裏に壁に背中を壁に押さえつけられたまま、カカシはそれ以上抵抗しなかった。ただ、冷えた青い目をイルカに向け、ーーまたその視線を横に流した。
「なんなの」
ぼそりと呆れた口調でため息混じりに呟く。
僅かに露わになっている白い肌と、そこから額宛にまで敵の血痕が飛び散って付着していた。
「・・・・・・見ないでよ」
今度はイルカが目を丸くさせる番だった。
拒絶するその意味が。
自分を避けた理由が。
その一言で分かる。
でも、あまりにもくだらなくて。
「こっち見ろよ」
中忍が口にするような言葉じゃないのに、それは逸らした視線は動かない。
「やだよ」
血みどろの自分を見られるのが嫌だから、なんて。
拒絶する理由が。あまりにも、馬鹿げてて。
胸が痛んだ。
「あっち行って」
「嫌ですよ」
「何で、いいから、・・・・・・っ、な、」
胸元を掴みカカシを引き寄せる。口布を下げるとそのままカカシの唇を塞いだ。
驚きに、カカシが目を見開いたのが分かった。
イルカは目を伏せたまま、固まったままのカカシに。いつもカカシが自分にするように、唇を柔らかく吸い。そして、歯を立てその唇の端を噛む。
「・・・・・・っ」
切れた瞬間、カカシの身体がぴくりと反応を示した。
口の中に広がるのは、カカシの血の味。
唇を離すと、カカシの口元から、赤い血が滲み出ていた。
「血の匂いくらいで、俺を避けんじゃねーよ」
そんな事で、嫌いになるわけがないのに。
俺もだけど。
不器用過ぎて、本当、ーームカつく。
口元に着いたカカシの血を親指で拭うと、呆然としていたカカシが、そこでようやく反応した。
「イルカせん、」
「今更なんだよ」
ばーか。
子供じみた暴言に、カカシは言葉を失ったまま、唖然とした。
まじまじとカカシに見つめられる。
イルカは、ふいと顔を背け、歩き出した。
簡単には許せるわけがない。
彼に対して拒む事は出来たはずだった。
それでも今まで受け入れてきたのは。
迷いがあったから。
どうでも良くないけど、うやむやにしてきたのは自分も同じだ。
黙って、丸で何もなかったかのように、カカシを無視をした。
今までそうしてきたのに。なのに、この瞬間、浮かんだのは。
仕方がない。だった。
ふざけるなと怒りさえ感じた、さっきのカカシの行動で。向き合いたいと思ってしまったのだ。
馬鹿だな、俺も。
本当、相当馬鹿だ。
カカシはまだ動かない。
動かないカカシの気配を背中で感じながら、イルカは、ふう、と息を吐き出す。肩越しにカカシへ顔を向け、
帰りますよ。
イルカはそうカカシに投げかけた。
<終>
そこまでよく喋る方じゃないけど、一緒に過ごす時間は心地よかった。
彼を部屋に招き酒を飲んでいて、押し倒されたのは突然だった。
初めてカカシに抱かれた時。
男として見ても、決して優しくなかった。
息をする間もなく、何かに急かされているように、激しい。
噛み殺されるような錯覚を覚えた。
それから何度も彼は俺を抱く。
獣のように交わる事を求める。
外では何も変わらない態度をとりながら、ふらっと家に現れ、俺を抱く。
それが何なのかと言われたら、答える事が出来ない。
ねじ込まれる性欲に、相手が俺だと言う事に。
理由なんてきっとないだろう。
そう思っていたのに。
早朝、朝靄が里を包んでいる中、イルカはアカデミー夜間の歩哨を終え、帰宅するべく家へ向かっていた。
朝とも呼べないくらい早い時間。昼間、多くの人で賑わう商店街もまだ静まりかえっている。誰もいないその道を通り、細い路地裏の道に入る。
イルカは、感じた気配にふと顔を上げた。
ひたひたと足音なく歩いている男を見て、息を呑んだ。カカシだった。
こんな時間にカカシと顔を合わすのは初めてだった。何を、と思うも、不思議な事ではないと思い直す。忍の活動時間に決まった時間はない。24時間、常に機能している。だから、こんな朝早くカカシがここを歩いているのは何の不思議もなかったが、目を僅かに丸くしたのは、ーーカカシのベストからズボンまで。そして、銀色の髪と白い肌に赤い血が全身に飛沫したようについていたから。カカシに血飛沫を見て敵の血であることは明らかだった。そのぼんやりとした眼差しがふと動き、目の前にいるイルカを映す。
カカシが脚を止めた。
上忍であれば過酷な戦況は免れない。それは任務を受けるどの忍にも通じるものであり、イルカもまた内勤であろうが、いや、内勤で受付や報告を受ける立場としてだからこそ、認識をしている。
なのに。
カカシは目の前にいるイルカを見て、目を見開いた。直後に視線を避けるように外した。丸でここにいるイルカが場違いの様に。
カカシの手がピクリとした。その手甲から指先にかけてもにも血の飛沫で染まっている。そのまま踵を返し背を向け歩き出す、その分かりやすいその行動に、驚いた。
放っておけばいいと頭で分かっていたはずなのに、あからさまなカカシの行動をそのまま受け流せなかった。
「カカシさん」
静寂しかない状況で、呼んだ声が聞こえないわけがないのに、カカシは脚を止めない。戸惑う気配すらないカカシに、イルカは唇を噛んだ。頭に血が上る。何故か抑えきれない感情が沸き上がった。
「・・・・・・っ、止まれって言ってるんだよっ」
大きな声が自分から出ていた。
それはカカシは予想していたなかったのか、足の速度が緩む。その場からカカシが姿を消そうとするよりも早く、イルカは血で黒ずんだ服の、その腕を掴んでいた。
引っ張り無理矢理にこっちを振り向かせると、イルカは間合いを詰めた。虚を突かれたカカシは、一瞬目を丸くさせる。
狭い路地裏に壁に背中を壁に押さえつけられたまま、カカシはそれ以上抵抗しなかった。ただ、冷えた青い目をイルカに向け、ーーまたその視線を横に流した。
「なんなの」
ぼそりと呆れた口調でため息混じりに呟く。
僅かに露わになっている白い肌と、そこから額宛にまで敵の血痕が飛び散って付着していた。
「・・・・・・見ないでよ」
今度はイルカが目を丸くさせる番だった。
拒絶するその意味が。
自分を避けた理由が。
その一言で分かる。
でも、あまりにもくだらなくて。
「こっち見ろよ」
中忍が口にするような言葉じゃないのに、それは逸らした視線は動かない。
「やだよ」
血みどろの自分を見られるのが嫌だから、なんて。
拒絶する理由が。あまりにも、馬鹿げてて。
胸が痛んだ。
「あっち行って」
「嫌ですよ」
「何で、いいから、・・・・・・っ、な、」
胸元を掴みカカシを引き寄せる。口布を下げるとそのままカカシの唇を塞いだ。
驚きに、カカシが目を見開いたのが分かった。
イルカは目を伏せたまま、固まったままのカカシに。いつもカカシが自分にするように、唇を柔らかく吸い。そして、歯を立てその唇の端を噛む。
「・・・・・・っ」
切れた瞬間、カカシの身体がぴくりと反応を示した。
口の中に広がるのは、カカシの血の味。
唇を離すと、カカシの口元から、赤い血が滲み出ていた。
「血の匂いくらいで、俺を避けんじゃねーよ」
そんな事で、嫌いになるわけがないのに。
俺もだけど。
不器用過ぎて、本当、ーームカつく。
口元に着いたカカシの血を親指で拭うと、呆然としていたカカシが、そこでようやく反応した。
「イルカせん、」
「今更なんだよ」
ばーか。
子供じみた暴言に、カカシは言葉を失ったまま、唖然とした。
まじまじとカカシに見つめられる。
イルカは、ふいと顔を背け、歩き出した。
簡単には許せるわけがない。
彼に対して拒む事は出来たはずだった。
それでも今まで受け入れてきたのは。
迷いがあったから。
どうでも良くないけど、うやむやにしてきたのは自分も同じだ。
黙って、丸で何もなかったかのように、カカシを無視をした。
今までそうしてきたのに。なのに、この瞬間、浮かんだのは。
仕方がない。だった。
ふざけるなと怒りさえ感じた、さっきのカカシの行動で。向き合いたいと思ってしまったのだ。
馬鹿だな、俺も。
本当、相当馬鹿だ。
カカシはまだ動かない。
動かないカカシの気配を背中で感じながら、イルカは、ふう、と息を吐き出す。肩越しにカカシへ顔を向け、
帰りますよ。
イルカはそうカカシに投げかけた。
<終>
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