溶ける狂気
自ら伸ばした腕の先には逞しい胸。
指先に伝わる傷跡は、イルカの胸を苦しくさせた。
愛おしい命と、名誉と、生きているという証。
“イルカ先生・・・”
低く囁かれた声はイルカの心を撫で上げる。
“ねえ、--------”
心地よい優しい声。
“-------、もっと脚、開いてよ”
イルカの目が開いた。
朝の光が部屋を包んでいる。高鳴った心音がゆっくりと変わり始め、変わらない光景にイルカは再び目を瞑った。
なんちゅー夢見てんだ、くそ。
思い切り不愉快になった気分を無くしたい。
再び眠りにつこうと深く息を吐いた。
寒い・・・。
夏の暑さも秋風と共に去り、朝の冷え込みを感じて、腹まで落ちている布団に手を伸ばした。
目覚ましはまだ鳴っていない。あともう少し眠れる。
あるはずの布団は、眠気の薄い意識の中いくらひっぱっても動かない。
ったく、なんで動かないんだよ。
目を細めて起きあがろうとした。が、暖かい何かに胸を固定されていて動かない。
その何かに眉をひそめて目を向けた。
筋張った逞しい腕は、イルカの胸板をしっかりと抱いている。うつぶせに横になったまま、銀色の髪から見える熟睡した寝顔。
シングルの布団にがっちりとくるまっている。
イルカは小さなため息と共に目と瞑った。
・・・・いる。
何かいい知れない不快な感触と不安に襲われて、自分に辛うじて掛かっている布団を剥いだ。
とたん頭の奥がガンと響く。
布きれ一枚纏っていない自分の体。要するに裸。
ありえない。寒いはずだ。
こみ上げた悲しい笑いを口元に残して、そっと片手をカカシの肩に置いた。
「・・・カカシ先生。起きてください」
眉がピクリと動き、口が小さく開いた。
「もう少し、寝かせてください・・・・」
その言葉に、更に口元の微笑みから笑いをこぼす。
「ふっ・・・もう少し・・・ね」
片手から両手に変えカカシの肩を掴んだ。
「~~~~っ、さっさと起きろっっ!!!」
前後に激しく揺さぶり、カカシの頭がガックンガックン動く。
目を白黒させながら顔をしかめた。
イルカと同様、カカシも服を着ていない。軽いショックを受けながらカカシを睨んだ。
「なぁにすんですかぁ。まだ眠い・・・」
「なにすんですかぁじゃない!!大体何であなたがここにいるんですか!!」
眠そうな顔は変わらない。不思議そうにイルカを見た。
「何でって・・・」
「俺に何したんですか!?」
「何って、・・・ああ、夜這いですよ、夜這い」
「はあ!?」
イルカの額に青筋が立つ。冗談のようで冗談には聞こえないのが怖い。体中に鳥肌が立つのを押さえるように両手で体をさすった。
「イルカ先生、全然ヤラせてくれないから」
襲われた覚えが全くない自分が信じられない。昨日、一体何をされたんだ。
「でも、イルカ先生怒ると思って服脱がしただけで、自慰したんですよv だからイルカ先生には指一本」
嬉しそうなカカシの顔に枕が命中した。
これ以上聞きたくない、聞きたくない。
「ヤラせるもなにも、俺とアナタは喧嘩中だったはずです!さっさと出てってくださいっ」
ビシっと指を玄関に向ける。息を切らせたイルカは鬼の形相でカカシを睨んでいた。
カカシは無言で枕を両手で持ち、イルカを見つめる。
少し困った顔をしてカカシは首を傾げた。
「でも、イルカ先生今日出勤でしょ?一緒に出かけましょうよ」
はっ
イルカの体がビクっと跳ねた。
・・・目覚まし時計がない。
きょろきょろとしているイルカを見て、後ろからごそごそとカカシは何やら取り出す。
「これですか?なんか無意識に止めちゃったみたいです」
そこには、家では見たことがない時刻を目覚まし時計は差している。
カカシは顔面に鉄拳を食らった。
×××
秋風が優しくイルカの頬を流れる。
ペンを持ったまま、窓の外に見える空を見ていた。
低い雲が風に流されている。
何が一緒に出かけましょうだ。
ふとよぎる一言。
ペンを持つ手に力が入る。
「何だよ、その顔」
「え?」
眉間を指さしている同僚が隣にいた。
「珍しく怖い顔してるからさ」
「え?あ、ああ。そんな顔してたか?」
差された眉間を指で擦って小さく微笑んだ。
今日は一日受付所の内勤。アカデミーの授業だったら、完全に遅刻している時間だった。
本当に、寿命が縮まった。
青くなったイルカの見るあの顔。
心底嬉しそうな、状況を分かってない表情。
ぶわっと怒りが、再びイルカの内で燃える。
しばらくはあの顔は見たくない。またグーで殴ってしまいそうだ。
机の下で拳を握りしめた。
「おい、イルカっ」
同僚の小さな声にイルカは顔を上げた。
「ボーっとしてちゃダメでしょ」
すぐ後に聞こえた声。
その、声。
バサッと投げるように置かれた報告書。
胸くそ悪い空気がイルカの目の前で埃と舞う。
中指でポンポンと机を叩いてニコリと微笑むカカシ。
同僚の声はコレを指していたのか。
任務報告書にイルカは目を通した。
昨日提出すればいいはずなのに、わざわざ今日を選んで持ってきている事が馬鹿馬鹿しい。
自分がいるこの日の、この時間を選んでいるのだ。
「・・・これで結構です。提出はちゃんと任務終了日にお願いします」
押し殺した声でイルカは呟き、確認欄にサインをする。
と、目の前に入った原色。
オレンジ色の花にペンを止めて顔を上げる。
自分の殴った痕なのか、たぶんそうだろうその頬はまだ少し赤い。
「・・・何ですか、これは」
「イルカセンセーにお土産です。綺麗でしょ」
いつもいつも何を言ってるんだ、この男は。
ここは二人きりの部屋でもどこでもない、アカデミーの任務受付所。
詫びるなら、他に方法があるだろう。
その成り行きを訝しげに見ている同僚に気付いた。
ムッとした顔で押し返しす。
「結構です。いりません」
「遠慮しないでいいですよ。じゃ」
「ちょ、いらないって、」
立ち上がったイルカを余所に、笑った笑顔を崩さずにカカシは歩き始めた。
普段なら黙って嫌々受け取って終わりのはずだが、今日はカカシからは何も受け取りたくない。
イルカの拳が小さく震える。
人を夜這いしておいて、何考えてるんだ。
当てつけだ。グーで殴った当てつけ以外何者でもない。
ペンを勢いよく机に置くと、花を取ってイルカは歩き出す。
真っ直ぐ見据える先にはカカシ。受付所を出て曲がった廊下を背中を丸めて歩いている。
怒りのオーラを感じ取ってか、カカシは振り返ってイルカを見た。
「何ですか?」
「花、お返しします。いりませんから」
「何で?」
「いらないったら、いりませっ」
イルカの口が開いたまま動きが止まる。
花を持つ手に力を入れた。だた、それだけだったのに。
何かが体から出てきた。
ソレは自分の蕾から太股の内側に流れる、液体。
背中から頭先に寒気が走る。
体を硬直させたまま必死で頭をめぐらせる。
え・・・、なに?
なんだ?
気持ち悪さに顔を思わずしかめた。
「イルカセンセー、どしたの?」
不思議な格好をしたまま、凍り付いているイルカを眺めている。
ゆっ、指一本触れてないって、言ったよな。
確かに、目の前の男から聞いたよ、な?
トロリと流れたソレは、引力に逆らう事無く、更に南下を続ける。
太股が引きつったようにピクリと動いた。
「イルカセンセ?」
「こっ、来ないでくださいっ」
一歩近づいた、カカシから逃げるようにじりじり後ずさりして距離を置く。
そのまま花を握りしめたまま、イルカは振り返って猛ダッシュした。
トイレのドアを壊れんばかりに扉を閉める。
そのまま個室に入り、焦る手でズボンをずり下げた。
膝上まで流れているベトリとたモノを、必死でイルカはトイレットペーパーでふき取る。
き、気持ち悪い。なんでこんな。
あまりの気持ち悪さに泣きそうな顔で、必死でこする。
考えられる事は、1つ。
あのヤロウ、ヤリやがった
「イルカセンセー、何してんの?」
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ」
ホラー映画の如くイルカの悲鳴がトイレに響いた。
鍵を閉め忘れていた。
「ひっ、人がトイレに入ってんのに、何考えてんですか!」
慌ててズボンに手をかけたイルカの体を凝視する。
その顔はやがて、不気味な笑みへと変わった。
「ふぅん」
そう呟いた途端、両手を後ろに組まされてトイレの壁に押しつけられる。
「カカっ・・・、なにす、」
抵抗する間もなく、ボタンをする前のズボンを無理矢理引き下ろされた。
長い指はそのまま外気に晒されている双尻へと伸ばされる。まだ、湿っている最奥へと指を這わせた。
「あぁッ、だめ、カカシさ・・・」
ビクンとイルカの体が跳ねる。
自分の気持ちとは反対に既に濡れているソコは、カカシの指を簡単にくわえ込んだ。
「ゴメンネ、昨日我慢出来なくて・・・入れちゃった」
耳の奥に囁かれた声。背筋に甘い痺れが走り、カカシの指をきつく締めた。
「・・・ッ、やめてくださいっ、まだ仕事中ですっ」
「ん----、・・・せっかくこんな濡れてるのに、もったいないからイヤですよ」
締め付けられる感覚を楽しむような言葉。上唇を舐めると、ゆっくりと中を掻き回す。
増やされた指で、湿った音が次第に大きく部屋に響き渡る。
「は、・・・ふ、ぅ・・ん」
我慢していた声が、イルカの口から小さく漏れた。
「それに、このまま仕事に戻ってアンタ大丈夫じゃないでしょ?」
ヒザが震えて、壁に必死にすがりついている。ゆっくりと抜き差しされているソコは、指を迎え入れるように伸縮し始めている。
今更の様な科白にイルカは首をひねり、潤んだ瞳でカカシを睨んだ。
「もう入れる?」
その目をうっとりと見つめながらもカカシは指を動き、イルカの中を攻め立てる。
「やっ、ぁあ・・・」
「イヤなの?」
耳朶を甘く噛み、その中に舌を這わせる。その刺激でイルカは泣きそうに唇を噛みしめた。
もの足りない、焦れったい感覚とカカシの言葉にイルカの瞳から涙がぼろぼろこぼれ落ちる。
「あっ、んた・・なんか最低っ・・・だ」
「・・・・そんな目で睨んでも駄目だよ、逆効果だから・・・ね?」
イルカの脚を割ってカカシの脚が入り込む。布から伝わるカカシの熱に、イルカの体が反るように跳ねた。後ろから指だけで攻められただけで、崩れ落ちそうなほど力が入らない体が、これから襲う行為に逃れられない、屈辱感に気分が不思議と高揚する。
必死で壁に縋り付き、砕けそうな腰に意識を集中させた。
嫌と言うほど視線を感じる。さらけだされた、指と繋がるソコを凝視しているのがよく分かる。イルカには、もう足掻く気力も無くなっていた。カカシももうそろそろ限界に近い、張りつめている自身を取り出し、イルカの双尻にピタリを当てる。
先端がゆっくりとイルカの中に喰い込んだ。
「ふぅ・・・・ぅう・・ん・・・・」
何回犯っても慣れる事のない、正気を失いそうになる様な凶器。酷く冷たい様で、優しい腕がしっかりとイルカの腰を掴んだ。同時に熱っぽく息を漏らす。肉の擦れ合う淫らな音を立て、カカシ自身がイルカの中へ埋め込まれていく。
「・・・やっぱ、イルカ先生の声って・・・堪んない。もっと、聞かせてよ」
トイレの中で妙に響く音と声に、カカシは低く呟いて満足げに笑みを浮かべた。
「あぁ、・・・・・あっ」
突然突き上げた激しいカカシの腰の動きに、イルカの体が前後に揺さぶられる。いつもと違う、後ろから攻められる体位は、深くカカシを飲み込んでいく。一層スピードを増したカカシの動きに、イルカの視点がぼんやりと霞み、宙を舞う。
カカシを受け入れる事で、イルカは夢中になり顔も見えないカカシに全てを預けた。
「カ、カカシ・・・さ、んっ・・・」
「・・・・っ、そろそろいいか・・・」
イルカの限界を感じ取り、カカシの腰が力強く律動を始める。より深く中を抉られた瞬間、イルカは自身を放つ。
カカシも同時にイルカの中で果てた。
乱れた荒い呼吸。
きつく瞑られた瞳からは、涙が零れ落ちる。
果てた瞬間崩れ落ちそうになったイルカを抱きかかえて、自分の胸に引き寄せた。
赤く火照り、上気した頬が、ひどく淫らで、艶めかしい。
その頬に触れようと指を伸ばすと、イルカはフイと顔を背けた。
震える体をカカシから離そうと力を入れて、肘を伸ばす。
「・・・も、う気が済んだでしょう?さっさと向こうに行ってください」
「気が済む?何ソレ。もしかして、まだ怒ってるの?」
「・・・・当たり前ですっ!」
泣きそうな顔で、自分を掴んでいる腕を力任せに剥がそうとする。目を細めて、カカシはまだイルカの中にいるカカシ自身を動かした。敏感になったイルカの体が反応し、苦しそうに顔をしかめる。
「あっ、・・・早く、ぬいてっ・・・」
「どうして、イルカセンセーに嘘ついたか分かる?」
「・・・は?そ、んなの分かるわけないで、・・・しょう?」
再びイルカの中で硬さを取り戻しつつある凶器に、イルカは、体を捩りながら、縋るように見つめる。
「俺の匂い残したいから、そのままにしたんですよ」
イルカの涙の跡が残る目尻に、カカシは口づける。薄く、触れるようにイルカの頬に唇を落とす。
「アンタは俺のモノだから、俺がいなくなっても誰のモノか分かるように・・ね?」
その言葉に、一瞬イルカの顔から熱が消え、瞳の奥がゆらいだ。
そしてすぐ、うっすらと笑みを浮かべて目を伏せる。
柔らかく、眩しい、なのに酷く虚ろな表情でカカシの傷に指を這わせた。
「・・・馬鹿馬鹿しい」
見返されたその黒い瞳にカカシも微笑み、紅くなった唇に自分の唇を重ねる。
息づかいを感じる、消えることのない熱をイルカは感じた。
喧嘩の原因なんて忘れてしまった
訳の分からない、なのに自分の心に深く入り込む狂気
逃れることの出来ない、愛しい全てを感じ取る
「愛してますよ、イルカ先生」
だから、その言葉も今は素直に溶けていく
見えることのない心が見えるように
<終>
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