カカイルワンライ「クリスマスまであと×日、アナタの気持ちが知りたい」
商店街のイルミネーションが眩しい。日が暮れ始めれば、店の至る所でちかちかと光り出す。
何日も前からこんな感じだったはずなのに、今日はやけに眩しく感じるのは、クリスマスを待ちかねた恋人達が幸せそうに歩いているからだ。
自分はと言えば。今日はクリスマスイブだろうが休日出勤で。日用品の買い物でもして、そこから誰も待っていない家に一人寂しく帰ろうとしている。
って、別に寂しくねえし。
誰に言うわけでもなく自分に突っ込んだイルカは、寒さに体を震わせながら軽く背中を丸めて歩き出した。
休日は買い物客も多く、いつもこんな感じなのに。やたら恋人同士の姿が目に付く自分が嫌になる。大体、さっき友人と話したが、クリスマスだから恋人を作ろうってやつの気がしれない。本末転倒だ。恋人がいるから、一緒に過ごしたいであって、クリスマスだから誰かと一緒にいたいのはどう考えてもおかしい。まあ、好きな人を過ごしたいという気持ちは、素敵な事だと思うが。
そんな事より明日こそはゆっくりしたいし。買い出しでもしてさっさと家に帰るか。
イルカは商店街の一角にあるスーパーへ足を向けた。
シャンプーやストックが少なくなってきた入浴剤を買う。
袋を下げて歩きながら、後はコンビニで新しいカップラーメンがあるか確認しようといつものルートを思い浮かべた時、
「先生」
日の暮れた商店街で、不意に肩を叩かれ、思わず驚いて、うわっ、と声を出したのは、声をかけてきたその相手がサンタクロースだったからだ。いや、違う、正確にはサンタの格好をした人間で。先生、と自分をそう呼んだその相手をマジマジと見つめ、
「・・・・・・カカシさん?」
恐る恐る名前を呼べば、はい、と返ってくる。自分で呼んだくせに素直に驚いた。
帽子を深く被り、ヒゲをつけたそのサンタクロースがカカシなんだとどうしても信じられなくて、まじまじと見つめる。
「なに、やってんですか」
驚くままに聞けば、
「何って、サンタ」
当たり前のように返してきたカカシに、それは分かってます、とイルカは即答した。
「じゃなくて。何でそんな格好してるんですか?」
もしかして、バイトですか?
こんなクリスマスイブに仕事していた自分も自分だが、カカシもまたこんなバイトをしている事に同情を感じざるを得ない。
予想がつかな過ぎて大真面目に聞くイルカに、カカシは、あー、違うのよ、と苦笑いをしながら帽子を被ったままの頭を掻いた。
「実は七班の任務中なんです」
言われて、イブの日に商店街の手伝いをして欲しいと、数件、そんな以来が受付にきていた事を思い出すが、まさかそれが七班に振り分けられたとは思ってもいなくて。イルカは、はあ、と間の抜けた返事をしていた。
「あの、ナルト達は」
任務中と分かり、気を使うべく小声で話しかけるイルカに、カカシはニコリと微笑む。少し先の店を指さした。
「ほら、あの店でお菓子とか売ってますよ。サクラは作る方を手伝ってるかな」
カカシが指さした店先で頑張って手伝っているナルト達を見つめる。これも依頼された内容であり、立派な任務だ。
それなりに奮起して接客をしている姿に顔を綻ばせながら、
「お疲れさまです」
頭を下げればカカシは、先生もね、と笑った。
その、滅多に見れないだろう、見慣れない。カカシのサンタクロース姿に目を向ける。
「そのヒゲの下は、」
そう言い掛けたのはただ単に普通に興味があったから。いつもは真夏でどんなに暑くても、カカシの口元は一年中口布で覆われている。サンタクロースの格好をした事があるから分かるのだが、意外にヒゲつけるだけでも息苦しい。だから、その下は口布を外しているのか。
口を開くルカに、カカシは見つめ返す。
「知りたい?」
そう口にしたカカシはイルカの答えを待つわけでもなく、人差し指で付けヒゲを下げながら顔を近づき、急に詰められた距離にイルカは慌てた。いやっ、と声を上げる。
「俺、あの、か、帰りますっ」
頭を下げ、イルカはくるりと背中を向けると早足で歩き出した。
だって、明らかに、間近で見えたのは口布じゃなかったから。
だからあの下はきっと素顔で。
イルカは少し見えたそのカカシの口元に、それが頭から離れなくて、どうしてか、顔が熱くなる。眉根を寄せた。
聞いたのは自分だけど。素顔を俺なんかに普通に見せようとするとか。
ありえねえ。
動揺を隠しきれないまま、イルカは家路をひたすらに急いだ。
商店街の込み合う人の波を縫うように歩く、そのイルカの後ろ姿を見つめながら。
カカシは僅かに目を細める。
気になる相手に、上手くいけば、あの唇に触れる事が出来たのに。
「・・・・・・逃げられちゃった」
愛おしい、黒いしっぽへ目を向けながら、カカシは残念そうに小さく呟いた。
二人のクリスマスまで、あと一日。
<終>
何日も前からこんな感じだったはずなのに、今日はやけに眩しく感じるのは、クリスマスを待ちかねた恋人達が幸せそうに歩いているからだ。
自分はと言えば。今日はクリスマスイブだろうが休日出勤で。日用品の買い物でもして、そこから誰も待っていない家に一人寂しく帰ろうとしている。
って、別に寂しくねえし。
誰に言うわけでもなく自分に突っ込んだイルカは、寒さに体を震わせながら軽く背中を丸めて歩き出した。
休日は買い物客も多く、いつもこんな感じなのに。やたら恋人同士の姿が目に付く自分が嫌になる。大体、さっき友人と話したが、クリスマスだから恋人を作ろうってやつの気がしれない。本末転倒だ。恋人がいるから、一緒に過ごしたいであって、クリスマスだから誰かと一緒にいたいのはどう考えてもおかしい。まあ、好きな人を過ごしたいという気持ちは、素敵な事だと思うが。
そんな事より明日こそはゆっくりしたいし。買い出しでもしてさっさと家に帰るか。
イルカは商店街の一角にあるスーパーへ足を向けた。
シャンプーやストックが少なくなってきた入浴剤を買う。
袋を下げて歩きながら、後はコンビニで新しいカップラーメンがあるか確認しようといつものルートを思い浮かべた時、
「先生」
日の暮れた商店街で、不意に肩を叩かれ、思わず驚いて、うわっ、と声を出したのは、声をかけてきたその相手がサンタクロースだったからだ。いや、違う、正確にはサンタの格好をした人間で。先生、と自分をそう呼んだその相手をマジマジと見つめ、
「・・・・・・カカシさん?」
恐る恐る名前を呼べば、はい、と返ってくる。自分で呼んだくせに素直に驚いた。
帽子を深く被り、ヒゲをつけたそのサンタクロースがカカシなんだとどうしても信じられなくて、まじまじと見つめる。
「なに、やってんですか」
驚くままに聞けば、
「何って、サンタ」
当たり前のように返してきたカカシに、それは分かってます、とイルカは即答した。
「じゃなくて。何でそんな格好してるんですか?」
もしかして、バイトですか?
こんなクリスマスイブに仕事していた自分も自分だが、カカシもまたこんなバイトをしている事に同情を感じざるを得ない。
予想がつかな過ぎて大真面目に聞くイルカに、カカシは、あー、違うのよ、と苦笑いをしながら帽子を被ったままの頭を掻いた。
「実は七班の任務中なんです」
言われて、イブの日に商店街の手伝いをして欲しいと、数件、そんな以来が受付にきていた事を思い出すが、まさかそれが七班に振り分けられたとは思ってもいなくて。イルカは、はあ、と間の抜けた返事をしていた。
「あの、ナルト達は」
任務中と分かり、気を使うべく小声で話しかけるイルカに、カカシはニコリと微笑む。少し先の店を指さした。
「ほら、あの店でお菓子とか売ってますよ。サクラは作る方を手伝ってるかな」
カカシが指さした店先で頑張って手伝っているナルト達を見つめる。これも依頼された内容であり、立派な任務だ。
それなりに奮起して接客をしている姿に顔を綻ばせながら、
「お疲れさまです」
頭を下げればカカシは、先生もね、と笑った。
その、滅多に見れないだろう、見慣れない。カカシのサンタクロース姿に目を向ける。
「そのヒゲの下は、」
そう言い掛けたのはただ単に普通に興味があったから。いつもは真夏でどんなに暑くても、カカシの口元は一年中口布で覆われている。サンタクロースの格好をした事があるから分かるのだが、意外にヒゲつけるだけでも息苦しい。だから、その下は口布を外しているのか。
口を開くルカに、カカシは見つめ返す。
「知りたい?」
そう口にしたカカシはイルカの答えを待つわけでもなく、人差し指で付けヒゲを下げながら顔を近づき、急に詰められた距離にイルカは慌てた。いやっ、と声を上げる。
「俺、あの、か、帰りますっ」
頭を下げ、イルカはくるりと背中を向けると早足で歩き出した。
だって、明らかに、間近で見えたのは口布じゃなかったから。
だからあの下はきっと素顔で。
イルカは少し見えたそのカカシの口元に、それが頭から離れなくて、どうしてか、顔が熱くなる。眉根を寄せた。
聞いたのは自分だけど。素顔を俺なんかに普通に見せようとするとか。
ありえねえ。
動揺を隠しきれないまま、イルカは家路をひたすらに急いだ。
商店街の込み合う人の波を縫うように歩く、そのイルカの後ろ姿を見つめながら。
カカシは僅かに目を細める。
気になる相手に、上手くいけば、あの唇に触れる事が出来たのに。
「・・・・・・逃げられちゃった」
愛おしい、黒いしっぽへ目を向けながら、カカシは残念そうに小さく呟いた。
二人のクリスマスまで、あと一日。
<終>
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