優しい恋人

お互いの休みに中々外に出たがらないのは、どちらかと言えばカカシだ。
なのに今日はカカシから外に出掛けようと誘ってきた。珍しい事もあるものだ。他人の目が気にならないと言えば嘘にはなるが、天気のいい日にどこにも出掛けないのは勿体ないと感じる。カカシはそれをジジくさいと笑うが。まあ、正直十代の若さは羨ましい。(もちろん二十代も)
誘われたその日、ずっと続いていた雨が止み、太陽が顔を出していた。
梅雨の合間の晴れ間は貴重だ。窓を開けて布団を干して掃除をした後、待ち合わせの駅へ向かった。
カカシは先に来ていた。多くの中人が行き交う中、銀色の髪がすぐに目に入った。カカシは駅のビルの壁にもたれ掛かり、開いた文庫本に目を落としている。
痩身長躯の体型に銀色の髪。その少し伸びた前髪は横顔にかかり、伏せた睫毛も同じ色だ。
男の自分から見ても好ましい顔を持っているカカシを少し離れ離た場所から見つめる。きっと想像以上にモテるんだろう。
あ、いや、俺の恋人だっつーの。
事実を噛み締めれば頬は熱くなる。
ふとカカシが顔を上げ、イルカは慌てて笑顔を作った。
買い物をしてから、洋食屋でランチを食べる。一駅近くある距離にあるアパートに歩いて帰ろうと提案したのはイルカで、休日の人混みよりはましだと、仕方なしにカカシは頷いた。
半分ほど歩いて、いつもバスから見える公園に休憩しようと言ったのはカカシだった。
ベンチは既に親子連れやカップルで埋まっていた。
仕方ないからと、自販機で飲料水を買った後、木陰がある芝生に腰を下ろした。イルカ買ったのは新しく出たフレーバーウォーターだった。試しに買って見たものの、この手の水はどうしても水とは程遠い飲み物に感じる。
なんて言ったら、またじじくさいと笑われるのがオチだから、イルカは黙ってその水を飲んだ。
目の前の遊具で遊ぶ子供達に目を向けた。遊具によっては幼い子供もいるが、遊んでいる多くは小学生だ。
公園があるここの場所は学区が違うが、もしかしから自分の教え子がいてもおかしくない。カカシと一緒にいることが不自然でなくとも、生徒やその親に見られているのかも知れないと思わずにはいられない。
「なんか変な事考えてるでしょ」
イルカの横で芝生に寝そべっているカカシが聞いてきた。
相変わらず鋭い観察眼だと分かっているが、鋭すぎる。イルカは苦笑いして誤魔化すように笑った。
それも認めているようなものだと分かっているが、
「そうですか?」
とぼけるとカカシが不満そうな眼差しを向けてきた。
「どうせいらぬ心配でもしてたんでしょ」
イルカはお手上げとばかりに肩を竦めた。
「この前の事があったから?」
「まあ、……そうです」
隠す気にはなれなくて、イルカは素直に認めた。
実は先月、同じ職場の女性教員と会った。カカシと一緒に並んで歩いているところに声をかけられ、動揺したのを覚えている。
見覚えのあるカカシの顔に、元卒業生だと説明する前に彼女は気がつき、懐かしそうに笑った。
仲がいいのねと微笑む彼女の前で、一人冷や汗をかき苦笑いを浮かべるイルカに、カカシは、はい。そうなんです、と爽やかな笑顔で答えた。
いつも思う。自分は嘘をつけなさ過ぎだと。
カカシを受け入れると決めた時点で、色々覚悟も決めたはずなのに。
世間の目を気になるからといって、この幸せを手放す事は絶対にないが。
「先生の気持ちも分かるよ」
カカシに顔を向けると、木漏れ日に少し目を細めながら微笑んでいた。
その笑顔を見つめても簡単に不安解消には至らないが、気分が穏やかになるのは確かだった。
「じゃあさ、結婚でもしよっか」
驚いてカカシを見ると、青みがかった目が優しくイルカを見つめていた。イルカは突然のことに一瞬言葉を詰らせ、泣きそうになって無理に笑顔を作った。
「高校を卒業してないくせに。何言ってんだ」
カカシの鼻をつまんで言うイルカに、泣きそうになった事に気がついたくせに、気がついてないかのように、
「だって俺以外にイルカ先生を幸せにできる人なんていないでしょ」
そう言ってカカシは笑った。

<終>


このSSはえみるさんからいただいたagainのイメージ絵を見て書いたSSです。
えみるさんのイラストはこちら→
スポンサードリンク


この広告は一定期間更新がない場合に表示されます。
コンテンツの更新が行われると非表示に戻ります。
また、プレミアムユーザーになると常に非表示になります。