+α

 執務室の隣にある部屋でいつものようにいつものメンバーで任務調整表を纏める。互いに作った予定表を元にすり合わせを行っていると、綱手が顔を出した。午前中の会議が終わったのか、後ろにはその資料を手に持ったシズネがいる。
 作り途中の予定表を手に取った。
「どうでしょうか」
 黙って目を通している綱手にイルカが声をかけると、その目が予定表からイルカに移った。
「カカシは予定通りに帰ってくるんだろう?」
 当たり前のように問われる視線を向けられる。イルカは一瞬目を丸くした。
「・・・・・・はい」
「じゃあ問題ないな」
 一声付け加え、綱手は予定表をイルカに手渡す。このまま進めてくれ、と声をかけた綱手はそのまま隣の執務室へ戻って行った。
 綱手が部屋を去り、何事もなかったかのように、続きを再開させる。ただ、一人自分を除いては。
 さっきの綱手言葉は、何気ない一言だったにせよ、それに酷く動揺したのは間違いがなく。居たたまれないものを感じたのも事実で。
 手にした書類とにらめっこしながら、密かに頬を紅潮させた。
 カカシが処罰と言う名の一ヶ月の短期任務に出てから、綱手ははっきりとは言葉にしないが、意味深な言葉や眼差しを向けてくる。勘違いだとは思いたいが、どうもそんな気がしてならないし、それにどう対応したらいいのか動揺するし、正直、ーー困る。
 だからと言って曖昧なそれに苦言を呈する訳にもいかないし、自分の勘違いだったら困るし。
「なあ」
 隣で作業していた仲間に声をかけられ、イルカは慌てて顔を向けた。
「これ、はたけ上忍の帰還が予定通りなら、ここ、問題ないよな」
 当たり前のように聞かれ、イルカはそれに合わせるように、しかし苦笑いを浮かべながら、差し出された予定表に目を向けた。


「……なんでここに帰ってくるんですか」
 明らかに任務を終え直接向かってきた格好のままのカカシを目にして、そんな言葉がイルカから出ていた。
 その通り、少しだけ服は汚れ銀色の髪は草臥れていて、驚きに目を丸くしたイルカにカカシは眉を下げ、駄目だった?と微笑む。
 前述の通り、色々悶々としたものを抱えて帰ってきてカカシとああなってから一ヶ月も一人で過ごしてきて、人知れず勝手に不安を抱いていたなんて言えないし、何より駄目だったと聞かれてイルカは、駄目じゃないですけど、と付け足すしかなかった。
「あの、報告は?」
 一応、と聞いてみれば、カカシは予想していたのか、力ない笑みをまたしても浮かべ、いーえ、まだ、と言われ呆れた。
 それが思い切り顔に出たのだろう、カカシは誤魔化すように笑い、
「ま、いーじゃないですか。綱手様にはちゃんと式で完了した旨は伝えてありますし、問題ありませんって」
 下足を脱いでカカシは家に上がり込む。ランクの高い任務に関しては火影との直接的な報告になるのだから、そこはイルカの管轄外だ。本当にそれでいいのか分からないが、カカシがいいと言うのだからいいのだろう。
 せっかくカカシが帰って来たのに、気持ちが空ぶっていて、上手く表現出来なくて、はあ、と曖昧な返事に留めるイルカに、背負っていたリュックからなにやら大きな瓶を取り出した。
「はい、お土産」
「え?」
「お酒です。近くにあった街の地酒」
 差し出され、素直に驚く。だって一升瓶だ。大きすぎてリュックから瓶の頭が覗いていたのも知ってはいたが。まさか自分へのお土産で酒だとは思ってなくて。
 気が抜けたまま、手にした一升瓶に目を落とし、見つめる。
 カカシがいないこの一ヶ月、一人になるには十分過ぎるほど長かった。こじれせてきた一年に比べたらそこまでの長さではなかったが、一人で考え込むには十分過ぎる長さだった。
 それでも。
 明日帰ります。
 そんなカカシの式が自分に届いたのは昨日だった。受け取った時ちょうど出かける前で家にいて、酷く気が抜けたのを思い出す。たった一文でもこみ上げるのは言葉に出来ないくらいの安堵感だったから。
 そして真っ直ぐに自分の元に帰ってきてくれた。
「あれ、日本酒苦手じゃなかったよね?」
 その声に顔を上げると、カカシが心配そうな顔でこっちを見ていた。イルカは慌てて笑顔を作る。
「いえ、好きです。ありがとうございます」
 やっとの事で口にした言葉に、カカシはまた眉を下げ、
「良かった、じゃあ一緒に飲もうね」
 と微笑んだ。


「ね、せんせ、」
 途切れた言葉で名前を呼ばれ、イルカは熱っぽい目で漂わせていた目をカカシに向けた。カカシもまた自分と同じように額に汗を滲ませ、イルカを見つめている。
 腿を持ち上げイルカに屈み、繋がった部分が深くなる。ぐちゅりと水っぽい音が耳に聞こえ、イルカは思わず声を漏らした。その口をカカシが塞ぎ、舌を差し入れる。イルカもまた舌を絡ませた。
「気持ち、いい?」
 口付けの合間に唇を浮かせ、聞かれ、イルカは苦しげに眉を寄せながら潤んだ目でカカシを見つめた。
 カカシに挿入されただけで達し、それなのに身体が疼いてどうしようもなくて、今だって余裕なくて手が震えている。それなのに、敢えて意地悪く聞いてくる。
 でも、だからと言ってそれを口にする余裕はなかった。だって、もっと動いて欲しい。イルカはカカシの首に腕を回す。
「・・・・・・いい、いいです、・・・・・・だから、もっと、して、」
 耳元で囁いた。
 

 出来上がった任務予定表を執務室で綱手に説明をしていたら、扉を叩かれる。入ってきたのはカカシだった。
 いつものように変わらない眠そうな目がイルカに向けられ、イルカもまた、カカシを見つめる。
 おかえりなさい
 そう口にしたのは今朝だった。
 元々妙なところで口べたで、恥ずかしくて、本当は帰ってきたその時に言うべきだった言葉を、イルカは布団の中で口にした。
 お互い裸でカカシはまだ少し寝ぼけていたけど、イルカの言葉を聞いて、嬉しそうにふにゃりと微笑んで、ただいま、と口にした。
 早番だった事もあり、先に家を出たのは自分だった。
 あの後もまたイルカの布団で寝たのであろう、目の前に立っているカカシは疲れが取れた顔にも見える。
 イルカはカカシに会釈をするとすぐに視線から外し、綱手へ向き直り、説明も一通り終えていたから、部屋を後にしようと綱手にも会釈をした時、
「心配するまでもなかったみたいだな」
 綱手の発した言葉が自分に向けてなのか、カカシに向けてなのか、分からず顔を上げたイルカを見て、綱手はにやりと笑う。
「二人ともずいぶんとスッキリとした顔だから言ったんだ」
 二人とも。意味深な言葉を散々に受けてきたイルカだったが、この場にカカシがいる事もあり、迂闊だった。
 かああ、と一気に顔が真っ赤に染まる。言葉にしなくとも肯定してしまった。体温が上がるのも止められなかった。
 予想以上に反応を示してしまったイルカに、カカシは綱手へ非難を込めた眼差しを向けるが、それを受け綱手はまた可笑しそうに、そして満足そうに声を立て笑った。
 
 


<終>
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