2022 カカ誕
「何やってんだこのガキ共は!」
一日中汗だくで頑張って野犬を捕まえた後に浴びせられた依頼主の罵声に、思わずナルトは睨み返した。
「俺たちは何にもやってねえってば!」
「じゃあなんだこの有様は!」
直ぐに言い返され悔しそうに睨むと、目の前の男は苛立ちを隠さず顔でこっちを睨み返してきた。
捕まえる為に野犬を追い回したのは認める。でも言われた通り立ち入ってはいけないと言われた場所には足さえ踏み入れていない。その場所を荒らしたのは逃げ回った野犬だ。そんなもの足跡を確認すれば分かる。
怒ったっていいのに、サスケは聞こえないくらいの舌打ちをしてそっぽを向き、サクラは一方的に罵声を浴びせられたからなのか、黙ってしまっている。
「これだからガキなんかに任せたくなかったんだ」
吐き捨てられた言葉に怒りが一気に湧き上がった。拳を握りしめる。
「だから!全部それは犬が、」
「はーいはい、そこまで」
カッとなり食ってかかろうとしたが、首根っこを掴まれた事によりその勢いは止められる。
不満そうに首を捻ると、そこにいたのはカカシだった。先に捕まえた野犬を預けると言っていたがもう済んだのか。でも、文句を言いたいからそれどころじゃない。
「だってカカシ先生、俺ら何もしてないのにコイツが、」
「そうよ」
ようやくサクラも加勢したのに、カカシは言いかけていたナルトの頭をぐいと下へ押した。
「いーから謝っときなさいって」
低い声で言われナルトは渋々口を結んだ。
悪い事はしてない。だから、無理矢理頭を下げさせられる事に抵抗しか感じない。悔しくて地面を見つめながら口を尖らせる。
「どーもすみませんね、まだコイツら下忍になったばかりなもんで」
カカシが依頼主に謝るのを怒りを堪えながら聞くしかなかった。
気分は最悪だった。
てっきりカカシが自分達の味方をしてくれるとばかり思っていた。
家畜を狙う野犬を捕まえる任務は、結果からしてちゃんと達成出来ている。
なのに。
なんで怒られた上に謝らなきゃいけないのか。
怒りが収まるわけがない。
依頼主の敷地を出てすぐナルトはカカシを睨んだ。
「俺らは何もしてねえ!」
怒り任せに言い放つと、ゆっくり歩いていたカカシの青みがかった目がこっちへ向く。
「カカシ先生も分かってんだろ!」
「言われた場所には入ってないし!」
「入って荒らしたのはあの犬で、確かに上手く犬を誘導出来なかったけど、俺らじゃねえってば!」
我慢していた文句を立て続けに並べるナルトにカカシは黙って聞いていた。言い終わっても尚不満そうにしているナルトをカカシは見つめる。
「知ってるよ」
言われてナルトはムッとして眉を寄せた。
「だったら、なんで……っ」
食ってかかるナルトにカカシは、そうだねえ、とため息混じりに呟き、考えるように指先を口元に添える。
「……ま、色々あるのよ」
ぽつりと呟くように言う。
納得する答えをくれないばかりか、そんな風にあっさりと言われ、はあ?と思わず聞き返していた。
色々って。何だよ。意味がわからない。分からない上にさっきから感じるその温度差も気に入らない。
「何だよそれ、意味が分かんねえ!」
誰よりも大きな声で不満を表した時、ぽんと頭にカカシの掌が乗る。
「ま、でもお前らが頑張ったのは分かってるから」
ニッコリと微笑んだ。
珍しく褒められた。
いや、褒められたと言うか、頭撫でられただけ?
もしかして……適当に誤魔化された?
ナルトは首を捻りながら腕を組んで一人歩く。
普段任務や鍛錬しても駄目だしばかりだからあんな言葉は珍しくてあの時は口を結んでしまったが。
いや、よくよく考えたらやっぱりカカシに良いように言いくるめられたとしか考えられない。
サクラやサスケ、カカシとも、別れた後で今更一人でムカムカしてきた時に見えた人影に、ナルトは思わず、あ、と声を出していた。
「イルカ先生!!」
大きな声で名前を呼ぶと、歩いていたイルカが立ち止まり呼ばれた方向を向く。いつもと変わらない笑顔を浮かべた。
名前を呼ぶと同時に走り寄っていたナルトに、お前すごい汚れてるな、とイルカが笑い、そこで自分が泥だらけだと気がつく。正直犬を捕まえるのに必死で、それどころじゃなかったから。ああ、うん、と言いながら顔にも付いてるだろう泥を今更ながらに手で拭きながら。
「そうだ先生聞いてくれってばよ!!」
溜め込んでいた不満を発散させんばかりにイルカに今日の任務の事を話し始めた。
今回の任務の内容や、ちゃんと達成した事。でも依頼主に結果怒鳴られカカシに頭を下げさせられた事。ナルトが話している事をふんふんと耳を傾けながら聞いていたイルカは、
「な?腹立つだろ!?」
と最後に同意を求めたナルトに。イルカは考え込むように腕を組んだ。
「そっか……」
ポツリと呟く。
てっきり自分に合わせて、そんなのは違う、と怒ってくれるとばかり思っていたから。肩透かしを食った気分になる。そんなナルトを前に、
「色々あるんだって、カカシさんがそう言ったのか?」
続けて問われて、うん、と頷くと、イルカは斜め横に視線を漂わせながら、息を吐き出した。その漂わせた視線はどこか暖かく穏やかにも見え、ナルトはそんなイルカの顔をじっと見つめる。
「イルカ先生ってば、話聞いてんの?」
あまりにもリアクションが薄いから、良く分からなくて不満そうに聞くと、イルカは視線をナルトに戻した。
もちろん聞いてたよ、と言われ、だったら、とまた憤る理由に同意を求めようとするナルトの金色の頭にイルカは手を乗せる。
「分かってるよ。お前らはよくやった」
目を細められ掻き回すように頭を撫でられる。
カカシと同じような事をされ、そもそも自分が求めている事じゃないし、素直に受け取れなくて、それに久しぶりにイルカに褒められた事がむず痒くて、ナルトはカカシの時と同じようにその手を振り払う。
「分かってねー!!」
でかい声が道に響いた。
「遅かったね」
カカシの声にイルカは顔を上げる。
細い道の端で小冊子を広げて立っているカカシを見てイルカは笑顔を浮かべた。
「さっきナルトに会いましたよ」
「へえ、そーなの?」
ついさっきまでナルト達と一緒にいたカカシは、大して驚きもせずに歩いているイルカの横に並ぶ。なんか言ってた?と聞かれ、なんて説明しようか考えようとしながらも、やがてイルカは小さく笑った。
「なに?」
答えもせずに急に笑い出すから、イルカに顔を向けるが、イルカは直ぐに答えない。
「いや、ちょっと意外だったんで」
なんて言われて、何が?と聞いても勿体ぶるような顔をするから、カカシは少しだけ怪訝そうな顔をした時、
「ありがとうございます」
礼を言われてイルカを見ると、黒い目がカカシを見つめていた。
「こっち側の事を考えてくれてのことなんですよね」
優しい視線を向けられ、ナルトが余計な事を言ったんだと予想がつく。
真っ直ぐな目で見つめられ、礼を言われ、カカシは思わず視線を外していた。ポケットから手を出すと銀色の髪を掻く。
ナルトめ。
恥ずかしさにこの場にいもしないナルトに悪態を付くものの、イルカの耳に入ったもんは仕方がない。
「丸く収めるためにはそうするのが一番でしょ」
そう、ナルト達には非がないが、相手は里を通じて任務を依頼してきた依頼主だ。結局のところナルト達を庇ったところで部下の気持ちは落ち着くが、クレームは受付にくる。どんな非礼や納得できない内容でも窓口である受付の中忍が苦情に対して謝り頭を下げているのは知っていた。
ただ、その気持ちをイルカに読まれたのは不本意で、気恥ずかしい。
そっぽを向いて口にしたカカシに。イルカはそれ以上何も言わなかった。少しの間の後、そうですね、とだけ答える。
そして、するりとカカシの手の中に入り込んできたのはイルカの手だった。軽く握られ、手甲越しにイルカの温もりが伝わってくる。
いつもはもっと離れてくださいとか、手は繋がないとか言うのに。日が暮れかけているが歩く道はいつ人が通ってもおかしくない。驚いてイルカを見ると、
「今日はカカシさんの誕生日なんですから、美味しいもの食べましょう?」
ニッコリと微笑まれ、代わりにうっかり耳まで赤くなる。誤魔化すようにまたカカシは目を逸らした。
誕生日なんて生まれた日だというだけで、それ以外なんでもない、そう思っていたのに。
こういうのも悪くないと思える。
だけど。
そーね、と短い返事に留めるカカシに、イルカはまた可笑そうにこっちを見つめる。
何でもお見通しと言わんばかりに、嬉しそうに笑った。
一日中汗だくで頑張って野犬を捕まえた後に浴びせられた依頼主の罵声に、思わずナルトは睨み返した。
「俺たちは何にもやってねえってば!」
「じゃあなんだこの有様は!」
直ぐに言い返され悔しそうに睨むと、目の前の男は苛立ちを隠さず顔でこっちを睨み返してきた。
捕まえる為に野犬を追い回したのは認める。でも言われた通り立ち入ってはいけないと言われた場所には足さえ踏み入れていない。その場所を荒らしたのは逃げ回った野犬だ。そんなもの足跡を確認すれば分かる。
怒ったっていいのに、サスケは聞こえないくらいの舌打ちをしてそっぽを向き、サクラは一方的に罵声を浴びせられたからなのか、黙ってしまっている。
「これだからガキなんかに任せたくなかったんだ」
吐き捨てられた言葉に怒りが一気に湧き上がった。拳を握りしめる。
「だから!全部それは犬が、」
「はーいはい、そこまで」
カッとなり食ってかかろうとしたが、首根っこを掴まれた事によりその勢いは止められる。
不満そうに首を捻ると、そこにいたのはカカシだった。先に捕まえた野犬を預けると言っていたがもう済んだのか。でも、文句を言いたいからそれどころじゃない。
「だってカカシ先生、俺ら何もしてないのにコイツが、」
「そうよ」
ようやくサクラも加勢したのに、カカシは言いかけていたナルトの頭をぐいと下へ押した。
「いーから謝っときなさいって」
低い声で言われナルトは渋々口を結んだ。
悪い事はしてない。だから、無理矢理頭を下げさせられる事に抵抗しか感じない。悔しくて地面を見つめながら口を尖らせる。
「どーもすみませんね、まだコイツら下忍になったばかりなもんで」
カカシが依頼主に謝るのを怒りを堪えながら聞くしかなかった。
気分は最悪だった。
てっきりカカシが自分達の味方をしてくれるとばかり思っていた。
家畜を狙う野犬を捕まえる任務は、結果からしてちゃんと達成出来ている。
なのに。
なんで怒られた上に謝らなきゃいけないのか。
怒りが収まるわけがない。
依頼主の敷地を出てすぐナルトはカカシを睨んだ。
「俺らは何もしてねえ!」
怒り任せに言い放つと、ゆっくり歩いていたカカシの青みがかった目がこっちへ向く。
「カカシ先生も分かってんだろ!」
「言われた場所には入ってないし!」
「入って荒らしたのはあの犬で、確かに上手く犬を誘導出来なかったけど、俺らじゃねえってば!」
我慢していた文句を立て続けに並べるナルトにカカシは黙って聞いていた。言い終わっても尚不満そうにしているナルトをカカシは見つめる。
「知ってるよ」
言われてナルトはムッとして眉を寄せた。
「だったら、なんで……っ」
食ってかかるナルトにカカシは、そうだねえ、とため息混じりに呟き、考えるように指先を口元に添える。
「……ま、色々あるのよ」
ぽつりと呟くように言う。
納得する答えをくれないばかりか、そんな風にあっさりと言われ、はあ?と思わず聞き返していた。
色々って。何だよ。意味がわからない。分からない上にさっきから感じるその温度差も気に入らない。
「何だよそれ、意味が分かんねえ!」
誰よりも大きな声で不満を表した時、ぽんと頭にカカシの掌が乗る。
「ま、でもお前らが頑張ったのは分かってるから」
ニッコリと微笑んだ。
珍しく褒められた。
いや、褒められたと言うか、頭撫でられただけ?
もしかして……適当に誤魔化された?
ナルトは首を捻りながら腕を組んで一人歩く。
普段任務や鍛錬しても駄目だしばかりだからあんな言葉は珍しくてあの時は口を結んでしまったが。
いや、よくよく考えたらやっぱりカカシに良いように言いくるめられたとしか考えられない。
サクラやサスケ、カカシとも、別れた後で今更一人でムカムカしてきた時に見えた人影に、ナルトは思わず、あ、と声を出していた。
「イルカ先生!!」
大きな声で名前を呼ぶと、歩いていたイルカが立ち止まり呼ばれた方向を向く。いつもと変わらない笑顔を浮かべた。
名前を呼ぶと同時に走り寄っていたナルトに、お前すごい汚れてるな、とイルカが笑い、そこで自分が泥だらけだと気がつく。正直犬を捕まえるのに必死で、それどころじゃなかったから。ああ、うん、と言いながら顔にも付いてるだろう泥を今更ながらに手で拭きながら。
「そうだ先生聞いてくれってばよ!!」
溜め込んでいた不満を発散させんばかりにイルカに今日の任務の事を話し始めた。
今回の任務の内容や、ちゃんと達成した事。でも依頼主に結果怒鳴られカカシに頭を下げさせられた事。ナルトが話している事をふんふんと耳を傾けながら聞いていたイルカは、
「な?腹立つだろ!?」
と最後に同意を求めたナルトに。イルカは考え込むように腕を組んだ。
「そっか……」
ポツリと呟く。
てっきり自分に合わせて、そんなのは違う、と怒ってくれるとばかり思っていたから。肩透かしを食った気分になる。そんなナルトを前に、
「色々あるんだって、カカシさんがそう言ったのか?」
続けて問われて、うん、と頷くと、イルカは斜め横に視線を漂わせながら、息を吐き出した。その漂わせた視線はどこか暖かく穏やかにも見え、ナルトはそんなイルカの顔をじっと見つめる。
「イルカ先生ってば、話聞いてんの?」
あまりにもリアクションが薄いから、良く分からなくて不満そうに聞くと、イルカは視線をナルトに戻した。
もちろん聞いてたよ、と言われ、だったら、とまた憤る理由に同意を求めようとするナルトの金色の頭にイルカは手を乗せる。
「分かってるよ。お前らはよくやった」
目を細められ掻き回すように頭を撫でられる。
カカシと同じような事をされ、そもそも自分が求めている事じゃないし、素直に受け取れなくて、それに久しぶりにイルカに褒められた事がむず痒くて、ナルトはカカシの時と同じようにその手を振り払う。
「分かってねー!!」
でかい声が道に響いた。
「遅かったね」
カカシの声にイルカは顔を上げる。
細い道の端で小冊子を広げて立っているカカシを見てイルカは笑顔を浮かべた。
「さっきナルトに会いましたよ」
「へえ、そーなの?」
ついさっきまでナルト達と一緒にいたカカシは、大して驚きもせずに歩いているイルカの横に並ぶ。なんか言ってた?と聞かれ、なんて説明しようか考えようとしながらも、やがてイルカは小さく笑った。
「なに?」
答えもせずに急に笑い出すから、イルカに顔を向けるが、イルカは直ぐに答えない。
「いや、ちょっと意外だったんで」
なんて言われて、何が?と聞いても勿体ぶるような顔をするから、カカシは少しだけ怪訝そうな顔をした時、
「ありがとうございます」
礼を言われてイルカを見ると、黒い目がカカシを見つめていた。
「こっち側の事を考えてくれてのことなんですよね」
優しい視線を向けられ、ナルトが余計な事を言ったんだと予想がつく。
真っ直ぐな目で見つめられ、礼を言われ、カカシは思わず視線を外していた。ポケットから手を出すと銀色の髪を掻く。
ナルトめ。
恥ずかしさにこの場にいもしないナルトに悪態を付くものの、イルカの耳に入ったもんは仕方がない。
「丸く収めるためにはそうするのが一番でしょ」
そう、ナルト達には非がないが、相手は里を通じて任務を依頼してきた依頼主だ。結局のところナルト達を庇ったところで部下の気持ちは落ち着くが、クレームは受付にくる。どんな非礼や納得できない内容でも窓口である受付の中忍が苦情に対して謝り頭を下げているのは知っていた。
ただ、その気持ちをイルカに読まれたのは不本意で、気恥ずかしい。
そっぽを向いて口にしたカカシに。イルカはそれ以上何も言わなかった。少しの間の後、そうですね、とだけ答える。
そして、するりとカカシの手の中に入り込んできたのはイルカの手だった。軽く握られ、手甲越しにイルカの温もりが伝わってくる。
いつもはもっと離れてくださいとか、手は繋がないとか言うのに。日が暮れかけているが歩く道はいつ人が通ってもおかしくない。驚いてイルカを見ると、
「今日はカカシさんの誕生日なんですから、美味しいもの食べましょう?」
ニッコリと微笑まれ、代わりにうっかり耳まで赤くなる。誤魔化すようにまたカカシは目を逸らした。
誕生日なんて生まれた日だというだけで、それ以外なんでもない、そう思っていたのに。
こういうのも悪くないと思える。
だけど。
そーね、と短い返事に留めるカカシに、イルカはまた可笑そうにこっちを見つめる。
何でもお見通しと言わんばかりに、嬉しそうに笑った。
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