2022 カカ誕 二つ目
カカシの誕生日を教えてくれたのはナルトだった。何かプレゼントをあげようと三人で計画してるんだと口にするナルトは悪戯めいた表情だったものの、何だかんだで仲間と上手くやっている事に安心する。
カカシの誕生日を職員室で話題に出したのも何となくだった。同期の誕生日がカカシの誕生日に近い事を告げたら、それに反応を見せたのは別の同期だった。カカシは自分達の世代からしたら憧れだ。せっかくだから、はたけ上忍を祝ったらどうだとそんな提案が出る。ついでのような感じもするしそんなごまをするような考えには乗りたくなかったが、飲み会に誘うくらいいいだろう、とそんな話になり、カカシを飲みに誘うことになった。
カカシとは自分がナルト達の元担任という事で顔見知りに過ぎなかったが、少し前に偶然居酒屋でバッタリ顔を合わせたのがきっかけで、そこから数回、一緒に飲んだ。その程度だが中忍の自分の誘いでも快く頷いてくれる人で、今回の誘いもまた、多少驚きはしたものの、カカシは頷いてくれた。
ただ、予想とは違ったのは飲む人数が増えた事だ。自分達同期数人とカカシの予定のはずが、その話を耳にしたアカデミーの女性職員達が自分たちも参加したいと言い、気がついたら予定より人数が増え、それに伴いいつもの居酒屋でいいだろうと思っていたが、急遽別の居酒屋の奥の和室を押さえることになった。
ただ、予想外だったのはそれだけじゃかった。
イルカはビールを飲みながら、少し離れた場所に座っているカカシを見つめていた。
飲み始めた当初は自分も含め、同期達がカカシにビールを注いだりしていたが、気が付いたらカカシの周りには女性達が陣取っていた。元々他の奴らも最初に座っていた場所には留まってはいないし自分もそうだが。
色目を使う、とまではいかないが、女性たちがカカシに媚びているようにしか見えない光景に、
「あれってどうなんだ?」
イルカはグラスを持ったまま堪らず近くの同期に聞けば、それに反応して同期もまたカカシの方へ目をやる。ああ、と呟いた。
「良いんじゃねえの」
なんて事はない、とそんな言葉を返す。
「まあ、はたけ上忍と言えど人間であり男なんだがら、チヤホヤされて嬉しくないわけないだろ」
ビールを飲みながら言う、その言葉は分からんでもないが、カカシがそこまで嬉しそうにも見えない。
「でもなあ、」
渋るイルカに同期がこっちを見る。
「だってはたけ上忍、今彼女いないんだろ?」
数回一緒に飲んだ時、そんな話題を振ったらカカシはいないと答えた。だから、そうだけど、と答えれば、同期がイルカの肩を叩く。
「だったら尚更いいんじゃねえ?俺らみたいなむさ苦しい野郎が群がるより女の方が良いに決まってるって」
まあ、はたけ上忍が普段相手にするようなタイプとは違うかもだけどよ、いつもと違う女を相手にするのも良いもんだろ。
元々口が悪いヤツだが。あけすけな言い方をされイルカは返事が出来なかった。自分がそんなタイプではないから、と言ったらそれまでだから、同期の言葉を否定できない。
胡座をかいて座っているカカシは今も女性たちに囲まれちやほやされている。嫌な顔はもちろんしていないが、喜んでいるかは分からなかった。話しかける女性たちに応えているが眉を下げて困っているようにも見える。
ただ、自分はこんな飲み会にするつもりはなかった。カカシの誕生日を祝いたい、それだけで。
以前一緒に飲んだ時に、確かにカカシは付き合っている相手はいないと言った。それが意外で驚くイルカに、仕事が忙しいしろくに里にいないからね、とカカシは苦笑い浮かべるから、俺も仕事の虫で職場と家を行き来するだけの毎日ですよ、と答えたら、どこも一緒だね、とカカシは笑った。
ま、いつかそんな人が出来たらいいんだけどね。
そう付け加えた事も覚えている。
だから、カカシも上忍師として七班の任務やナルト達の鍛錬に加え単独任務もこなしている。慌ただしい毎日を過ごしているが、それなりにカカシも恋人が欲しいと、そう思っているんだと分かってはいたから。
だからここで女性達の間に割り入ってしまったらカカシの邪魔をしてしまう事になるのかもしれない。
でもこの状況見る限り、カカシは自分達とは違い、敢えて探す努力をしなくてもその気になれば相手が簡単に見つかるんだろうなあ、と女性たちに囲まれているカカシへ目を向けながらぼんやりと思った。
「はたけ上忍は二軒目どうされますか?」
同期の言葉にカカシは首を横に振った。明日は早いから、上忍にそう言われたら誰も引き止める事は出来ない。カカシの返事に特に女性達が残念そうにするが、やがて同期や女性たちは二軒目の店を探す為に歩き出す。
「お前も行くよな?」
カカシが歩き出した方向へ目を向けていたら声がかかる。カカシを抜いたらただの職場の飲み会だがそもそも仕事に追われてばかりでそんな飲み会は年に数えるほどしかない。でも。
「あー、……悪りぃ」
鼻頭を掻いたイルカは苦笑いを浮かべると、背中を向ける。カカシの後を追った。
もしかしたらもういないのかもしれない。そう思っていたから、カカシの後ろ姿を見つけた時、ホッとした。繁華街の中、いつものようにポケットに手を入れ猫背でゆったりと歩いているカカシの背中を見つめ、そして足を早めて歩み寄る。
「カカシさん」
名前を呼ぶとカカシは振り返った。
「イルカ先生」
少しだけ驚いた顔をする。
「どうしたの?」
聞かれてイルカは一回地面へ目を落とした。別に特別呼び止めるような理由があったわけじゃない。
「二軒目に行くんじゃなかったの?」
カカシへの言葉に、いや、俺は、と言いながら視線を上げた。
「今日は……楽しかったですか?」
その質問にカカシは目を丸くした。うんと答える。
それは本心なのか気を遣ってくれているのか。表情を見る限りは分からなくて。うんと言われたのに、気分が晴れない。そうですか、とだけ返事をして黙ってしまったイルカをカカシは不思議そうに見つめた。
「何で?」
聞かれてイルカはまた視線をカカシに戻す。
「いや……カカシさんが付き合ってる人がいないって言ったし、あーいうのもいいのかなって思ったんですが、俺は、いや、俺もその中に混じってもっとカカシさんを祝いたかったなって、」
苦笑いするイルカに、カカシの目が僅かに見開くから、あー、いや、邪魔したかったわけじゃないんです、と両手を見せ慌てて否定する。カカシはそんなイルカをじっと見つめていた。
なんか変なこと言っちまったなあ、と後悔しかけた時、
「……実を言うとね」
ポツリと呟いたカカシにイルカは顔を上げる。
「ああやって囲まれるのはちょっと苦手なのよ」
眉を下げて笑った。
ああやっぱり。
カカシが返した言葉に気持ちが重く沈む。
あの顔は、我慢していたんだ。
あの時、やはり助け舟を出すべきだったのに。判断が鈍って結局そのままにした自分が情けない。
せっかくの誕生日で、カカシが割いてくれた大切な時間だったのに。こんな気持ちにさせた自分は大馬鹿だ。
イルカは視線を落としたまま、指先を丸めぎゅっと拳を作る。
「……本当に今日は、」
「俺は先生と二人がいいな」
すみませんでした。そう続けて謝ろうとした時に重ねて言われた台詞に、伏せていた視線を戻せば、カカシは眉を下げて微笑んでいた。
その言葉は予想外で。しばらくきょとんとしながらカカシを見つめる。ついさっきまで気分が落ち込んでいたのに、じわじわと胸の中に広がるのは嬉しさだった。
責めたっていいのに。
そんな言葉をかけるなんて。
慰めてくれている、それが分かるから尚更情けないけど嬉しくて。
力を入れるように、イルカはぐっと一回口を結ぶ。
「俺なんかじゃ役不足ですよ」
何故か不貞腐れたような茶化した言い方になってしまった。せっかくカカシさんがああ言ってくれたのに、どうしてこんな可愛げのない反応の仕方になってしまうのか。
自分で言ったくせに気まずそうな顔をしているイルカを見つめ、カカシは小さく笑った。
「先生だからいいんじゃない」
尚も言われて、困りながら見つめ返した。迂闊にも頬が熱くなる。
イケメンはこれだから怖い、何て思いながらも、言いたいことは一つだった。
「じゃあ、今からもう一軒、二人で行きますか」
ニカリと笑うイルカに、カカシは目を緩める。
「そうこなくっちゃ」
こんな風に笑うんだ。
初めて見たカカシの笑顔に少しだけ目を丸くしていた。その直後に、行こうか、とカカシに声をかけられ、イルカはその後に続く。
今の心境を上手く言葉に表す事はできないが、何かの始まりを告げるかのように、イルカの心臓がとくとくと心地よく鳴っていた。
カカシの誕生日を職員室で話題に出したのも何となくだった。同期の誕生日がカカシの誕生日に近い事を告げたら、それに反応を見せたのは別の同期だった。カカシは自分達の世代からしたら憧れだ。せっかくだから、はたけ上忍を祝ったらどうだとそんな提案が出る。ついでのような感じもするしそんなごまをするような考えには乗りたくなかったが、飲み会に誘うくらいいいだろう、とそんな話になり、カカシを飲みに誘うことになった。
カカシとは自分がナルト達の元担任という事で顔見知りに過ぎなかったが、少し前に偶然居酒屋でバッタリ顔を合わせたのがきっかけで、そこから数回、一緒に飲んだ。その程度だが中忍の自分の誘いでも快く頷いてくれる人で、今回の誘いもまた、多少驚きはしたものの、カカシは頷いてくれた。
ただ、予想とは違ったのは飲む人数が増えた事だ。自分達同期数人とカカシの予定のはずが、その話を耳にしたアカデミーの女性職員達が自分たちも参加したいと言い、気がついたら予定より人数が増え、それに伴いいつもの居酒屋でいいだろうと思っていたが、急遽別の居酒屋の奥の和室を押さえることになった。
ただ、予想外だったのはそれだけじゃかった。
イルカはビールを飲みながら、少し離れた場所に座っているカカシを見つめていた。
飲み始めた当初は自分も含め、同期達がカカシにビールを注いだりしていたが、気が付いたらカカシの周りには女性達が陣取っていた。元々他の奴らも最初に座っていた場所には留まってはいないし自分もそうだが。
色目を使う、とまではいかないが、女性たちがカカシに媚びているようにしか見えない光景に、
「あれってどうなんだ?」
イルカはグラスを持ったまま堪らず近くの同期に聞けば、それに反応して同期もまたカカシの方へ目をやる。ああ、と呟いた。
「良いんじゃねえの」
なんて事はない、とそんな言葉を返す。
「まあ、はたけ上忍と言えど人間であり男なんだがら、チヤホヤされて嬉しくないわけないだろ」
ビールを飲みながら言う、その言葉は分からんでもないが、カカシがそこまで嬉しそうにも見えない。
「でもなあ、」
渋るイルカに同期がこっちを見る。
「だってはたけ上忍、今彼女いないんだろ?」
数回一緒に飲んだ時、そんな話題を振ったらカカシはいないと答えた。だから、そうだけど、と答えれば、同期がイルカの肩を叩く。
「だったら尚更いいんじゃねえ?俺らみたいなむさ苦しい野郎が群がるより女の方が良いに決まってるって」
まあ、はたけ上忍が普段相手にするようなタイプとは違うかもだけどよ、いつもと違う女を相手にするのも良いもんだろ。
元々口が悪いヤツだが。あけすけな言い方をされイルカは返事が出来なかった。自分がそんなタイプではないから、と言ったらそれまでだから、同期の言葉を否定できない。
胡座をかいて座っているカカシは今も女性たちに囲まれちやほやされている。嫌な顔はもちろんしていないが、喜んでいるかは分からなかった。話しかける女性たちに応えているが眉を下げて困っているようにも見える。
ただ、自分はこんな飲み会にするつもりはなかった。カカシの誕生日を祝いたい、それだけで。
以前一緒に飲んだ時に、確かにカカシは付き合っている相手はいないと言った。それが意外で驚くイルカに、仕事が忙しいしろくに里にいないからね、とカカシは苦笑い浮かべるから、俺も仕事の虫で職場と家を行き来するだけの毎日ですよ、と答えたら、どこも一緒だね、とカカシは笑った。
ま、いつかそんな人が出来たらいいんだけどね。
そう付け加えた事も覚えている。
だから、カカシも上忍師として七班の任務やナルト達の鍛錬に加え単独任務もこなしている。慌ただしい毎日を過ごしているが、それなりにカカシも恋人が欲しいと、そう思っているんだと分かってはいたから。
だからここで女性達の間に割り入ってしまったらカカシの邪魔をしてしまう事になるのかもしれない。
でもこの状況見る限り、カカシは自分達とは違い、敢えて探す努力をしなくてもその気になれば相手が簡単に見つかるんだろうなあ、と女性たちに囲まれているカカシへ目を向けながらぼんやりと思った。
「はたけ上忍は二軒目どうされますか?」
同期の言葉にカカシは首を横に振った。明日は早いから、上忍にそう言われたら誰も引き止める事は出来ない。カカシの返事に特に女性達が残念そうにするが、やがて同期や女性たちは二軒目の店を探す為に歩き出す。
「お前も行くよな?」
カカシが歩き出した方向へ目を向けていたら声がかかる。カカシを抜いたらただの職場の飲み会だがそもそも仕事に追われてばかりでそんな飲み会は年に数えるほどしかない。でも。
「あー、……悪りぃ」
鼻頭を掻いたイルカは苦笑いを浮かべると、背中を向ける。カカシの後を追った。
もしかしたらもういないのかもしれない。そう思っていたから、カカシの後ろ姿を見つけた時、ホッとした。繁華街の中、いつものようにポケットに手を入れ猫背でゆったりと歩いているカカシの背中を見つめ、そして足を早めて歩み寄る。
「カカシさん」
名前を呼ぶとカカシは振り返った。
「イルカ先生」
少しだけ驚いた顔をする。
「どうしたの?」
聞かれてイルカは一回地面へ目を落とした。別に特別呼び止めるような理由があったわけじゃない。
「二軒目に行くんじゃなかったの?」
カカシへの言葉に、いや、俺は、と言いながら視線を上げた。
「今日は……楽しかったですか?」
その質問にカカシは目を丸くした。うんと答える。
それは本心なのか気を遣ってくれているのか。表情を見る限りは分からなくて。うんと言われたのに、気分が晴れない。そうですか、とだけ返事をして黙ってしまったイルカをカカシは不思議そうに見つめた。
「何で?」
聞かれてイルカはまた視線をカカシに戻す。
「いや……カカシさんが付き合ってる人がいないって言ったし、あーいうのもいいのかなって思ったんですが、俺は、いや、俺もその中に混じってもっとカカシさんを祝いたかったなって、」
苦笑いするイルカに、カカシの目が僅かに見開くから、あー、いや、邪魔したかったわけじゃないんです、と両手を見せ慌てて否定する。カカシはそんなイルカをじっと見つめていた。
なんか変なこと言っちまったなあ、と後悔しかけた時、
「……実を言うとね」
ポツリと呟いたカカシにイルカは顔を上げる。
「ああやって囲まれるのはちょっと苦手なのよ」
眉を下げて笑った。
ああやっぱり。
カカシが返した言葉に気持ちが重く沈む。
あの顔は、我慢していたんだ。
あの時、やはり助け舟を出すべきだったのに。判断が鈍って結局そのままにした自分が情けない。
せっかくの誕生日で、カカシが割いてくれた大切な時間だったのに。こんな気持ちにさせた自分は大馬鹿だ。
イルカは視線を落としたまま、指先を丸めぎゅっと拳を作る。
「……本当に今日は、」
「俺は先生と二人がいいな」
すみませんでした。そう続けて謝ろうとした時に重ねて言われた台詞に、伏せていた視線を戻せば、カカシは眉を下げて微笑んでいた。
その言葉は予想外で。しばらくきょとんとしながらカカシを見つめる。ついさっきまで気分が落ち込んでいたのに、じわじわと胸の中に広がるのは嬉しさだった。
責めたっていいのに。
そんな言葉をかけるなんて。
慰めてくれている、それが分かるから尚更情けないけど嬉しくて。
力を入れるように、イルカはぐっと一回口を結ぶ。
「俺なんかじゃ役不足ですよ」
何故か不貞腐れたような茶化した言い方になってしまった。せっかくカカシさんがああ言ってくれたのに、どうしてこんな可愛げのない反応の仕方になってしまうのか。
自分で言ったくせに気まずそうな顔をしているイルカを見つめ、カカシは小さく笑った。
「先生だからいいんじゃない」
尚も言われて、困りながら見つめ返した。迂闊にも頬が熱くなる。
イケメンはこれだから怖い、何て思いながらも、言いたいことは一つだった。
「じゃあ、今からもう一軒、二人で行きますか」
ニカリと笑うイルカに、カカシは目を緩める。
「そうこなくっちゃ」
こんな風に笑うんだ。
初めて見たカカシの笑顔に少しだけ目を丸くしていた。その直後に、行こうか、とカカシに声をかけられ、イルカはその後に続く。
今の心境を上手く言葉に表す事はできないが、何かの始まりを告げるかのように、イルカの心臓がとくとくと心地よく鳴っていた。
スポンサードリンク