2023カカ誕2つ目

 夕方、執務室のある建物から出て歩いていたところで上忍仲間に声をかけられしばらく立ち話をする。そこから再び歩き始めた時に見かけたのは見知った相手だった。
 上忍仲間でもない、部下になった下忍の元担任というだけの関係だが。ただいつも明快で元気なイルカの様子とは違うように見えて、カカシは足を止めた。
 顔を合わせたら挨拶や他愛のない話をする程度だが。歩み寄って、先生、と声をかけたらイルカが顔を上げて振り返った。笑顔を浮かべて挨拶をするが、やはり普段見せる笑顔とは違う気がするから、
「どうかした?」
 訊ねると、イルカが少しだけ驚いた顔をした。そうですか?と言うから、カカシは頷く。
「元気がないように見えたから」
 もしかして違ったのか。違ったならそれならそれでいいと思っているカカシに、イルカは眉を下げて笑った。その笑顔は少しだけ寂しさを感じて、珍しいと内心感じる。視線を向けていれば、イルカの黒い目が手元に落とされた。もじもじと考え込むように動かす手には小さな紙が握られていた。
「いや、正直言いますとちょっと今悩んでいて、」
 やっぱりそうなのかと思うカカシに、イルカは苦笑いしながら続ける。
「ずっと考えていたことなんですけど、いざとなったら二の足踏んじまって。おこがましいかもしれないと思ったら中々……かといってこんなことで誰かに相談する訳にもいかないし」
 苦笑いしているが神妙な面持ちに、こんな風に話すイルカを見たことがなかったから、余程悩んでいたんだろう。話を聞きながらじっと見つめていれば、イルカは、でも決めました、と一旦言葉を切り顔を上げる。
「一緒に夕飯行きましょうっ」
 イルカの台詞にきょとんとした。え?と聞き返すとイルカはまた口を開く。
「今日誕生日、ですよね?俺ナルトから聞いて知ってどうしようか悩んだんですがこれくらいしか思い浮かばなくて。あ、カカシさんラーメン好きですよね?」
 矢継ぎ早とはいかないがそれに近いくらいの勢いで話し始めたイルカに少し圧倒される。驚いた。
 そんなこと。
 最初に思ったのがそれだった。
 だって、外で一人佇んで悩んでいたからもっと深刻な話とばかり思っていたのに。
 それなのに。
 俺の誕生日とか。
 そんな真剣に悩むことだったのか、とか。呆れもするのに、湧き上がる高揚感はなんなのか。
 イルカが手に持っているのは一楽のラーメンのチケットだった。握りすぎて少し皺になっている。
 カカシは思わず表情を緩めていた。ちょっと表現しづらい気持ちに、ポケットから手を出し髪を掻いた。イルカを見る。
「うん、行こうか」
 カカシの言葉にイルカの顔がぱっと明るくなった。
「じゃあ行きましょう」
 促されるようにイルカと二人で歩き出す。
 そっとイルカを窺えば、何のことはない、いつもの笑顔に戻っていた。
 なんか、もっと真面目な人だと思っていたのに。
 面白い人だな。
 いや、元々こういう人なんだろう。
 そう思ったらイルカに興味が湧いた。
 この感覚は久しく、そしてなんだか嬉しくて。ポケットに手を入れながら、カカシは覆面の下で少しだけ微笑んだ。
 
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