あざとい
「やっぱり一日の終わりはビールですよね」
ジョッキを半分くらいまで飲んだイルカが幸せのため息を吐き出すから、カカシは、そうだね、と同調して頷いた。
八月の終わり頃らしい、すっかり日に焼けたイルカを見つめながらカカシも冷えたジョッキを傾ける。仕事終わりのビールを美味そうに飲む表情やこんがりと日に焼けた肌はまさにこの季節のイルカらしくしみじみと幸せな気持ちが胸に広がる。そのカカシの視線に気がついたイルカが僅かに片眉を上げた。何ですか?と聞くから、いや、先生日に焼けたなあって、と素直に答えれば、イルカは苦笑いを浮かべる。
「それ今日火影様にも言われたんですよ」
ため息混じりに言うイルカに、そりゃそうでしょ、と相槌を打てば不満そうな顔を隠さないでカカシを見た。
「昔からいつもお前は夏は真っ黒になるなあ、ってしみじみ言われたらなんか恥ずかしくて」
口を尖らせて言うイルカに、火影の言う幼い頃のイルカは知らないが何故だが想像出来る。小さく笑うカカシに、冷や奴を食べながら、でもですよ、とイルカは口を開いた。
「子供の頃は一日中外で遊んでいたから真っ黒ですが、今は仕事して真っ黒になってんですから」
全然違います。
授業中は暑い中外で演習をして、休み時間は休み時間で生徒を追いかけていたりもする。それを知ってるから付け加えられた台詞にまたカカシは頷くしかない。
「お疲れ様」
眉を下げながらジョッキを上げればイルカは合わせるように自分のジョッキをカカシのジョッキに軽く当てた。カチンと音が鳴る。
そんな事を言いながらもイルカは子供たちの事を嬉しそうに話す。それに耳を傾けていた時、直ぐ近くから笑い声が聞こえ、カカシは視線をなんとなく向けた。
別のテーブル席で、くノ一が楽しそうに笑っていた。別に笑い声が大きかったわけでもない、向かい合った男と楽しそうに飲み食いしているだけに過ぎないが。
どうしたんですか?とイルカに言われてカカシは視線をイルカに戻した。なんて説明しようか迷いながらも、口を開く。
「先生はあざとい女ってどう思う?」
意外な言葉だったのか、イルカは少しだけ目を丸くしたから、カカシは、いやね、と続けた。
「紅やアンコがさ、あざとい女は嫌だとか、そんな事を待機所で言っててね。俺はよく分からないんだけど、」
「え、カカシさん分からないんですか?」
話の途中で言われてカカシは驚く。女のどうこうなんて昔から興味がなかったしどうでもよかった。それは今も同じで。ただ、イルカはそう言うことに関してはてっきりこっち側だろうと思っていたから、戸惑う。
「先生分かるの?」
意外だと聞くと、イルカは、まあ、多少は、と頷いた。
「カカシさんはあざとい女ってどう思います?」
逆に質問され、カカシは思考を巡らせる。
紅達が言っていた事を思い浮かべながら、そうだねえ、と呟いた。
「計算高いとは思うけど、まあ、別にそこまで悪い印象は受けないかな」
「どうしてですか?」
再び聞かれ、だって、と言いながらカカシはジョッキを傾ける。
「恋愛に当てはまるか分からないけどそれも戦略のうちでしょ?それだけ相手を手に入れたくてやってる事なら別にそれはいいかなあって、」
紅達に言ったら攻撃の的にされるだろうが。
職業柄単純に思った事を口にすれば、イルカは笑った。
「だったら良かったです」
意見を肯定されたとカカシは微笑みながらも、それは正直意外で、首を傾げる。
そうなの?と聞き返す間も無くイルカはまた口を開いた。
「俺もカカシさんに関してはあざといんで」
続いた言葉にビールを吹きそうになった。それを寸前でどうにか堪える。
聞き間違えたかと思いたいが、生憎耳はいいし酔ってもない。それはイルカも同じだ。
だから動揺を抑えながらも、嘘ばっかり、と思わず言えば、イルカは、まさか、と笑った。嘘じゃないですよ、とハッキリ否定する。
「受付に顔を見せるあなたにだけ一番の笑顔を向けたり、見かけたら駆け寄って声かけるようにしたり、」
目を見張るカカシの前で一回言葉を切り、そしてまた開く。
「後は、カカシさんが夜里に帰還するって分かってる時にあなたに気のあるくノ一が残業になりそうだったから、親切のフリして受付を代わってあげたり」
嘘だろう。
あのイルカが。
ジョッキを持ったまま、信じられなくてカカシはイルカを見つめる。
イルカを口説いたのは自分だ。
だから、てっきり自分だけの片思いから始まった関係とばかり思っていたのに。
嬉しさと驚きが一気に湧き上がり、胸に支えたまま言葉が上手く出てこない。
ちゃんと嬉しいと伝えたいのに、ドキドキと馬鹿みたいに心臓がうるさい。どうにか気持ちを落ち着かせたくて、えっと、と口籠るカカシを前に、イルカはこっちを覗き込むように顔を傾け、そして黒く輝く目を緩める。
「今週末の夏祭りに浴衣着てくって言ったら、カカシさんはあざといって思います?」
窺うように微笑みながら聞くイルカのその妖艶とも思える表情に、思わず、いやっ、と否定してテーブルに置かれたイルカの手を握る。
「嬉しいですっ」
ようやく出たカカシの本音に、イルカはにっこりと白い歯を見せ、満足そうに微笑んだ。
ジョッキを半分くらいまで飲んだイルカが幸せのため息を吐き出すから、カカシは、そうだね、と同調して頷いた。
八月の終わり頃らしい、すっかり日に焼けたイルカを見つめながらカカシも冷えたジョッキを傾ける。仕事終わりのビールを美味そうに飲む表情やこんがりと日に焼けた肌はまさにこの季節のイルカらしくしみじみと幸せな気持ちが胸に広がる。そのカカシの視線に気がついたイルカが僅かに片眉を上げた。何ですか?と聞くから、いや、先生日に焼けたなあって、と素直に答えれば、イルカは苦笑いを浮かべる。
「それ今日火影様にも言われたんですよ」
ため息混じりに言うイルカに、そりゃそうでしょ、と相槌を打てば不満そうな顔を隠さないでカカシを見た。
「昔からいつもお前は夏は真っ黒になるなあ、ってしみじみ言われたらなんか恥ずかしくて」
口を尖らせて言うイルカに、火影の言う幼い頃のイルカは知らないが何故だが想像出来る。小さく笑うカカシに、冷や奴を食べながら、でもですよ、とイルカは口を開いた。
「子供の頃は一日中外で遊んでいたから真っ黒ですが、今は仕事して真っ黒になってんですから」
全然違います。
授業中は暑い中外で演習をして、休み時間は休み時間で生徒を追いかけていたりもする。それを知ってるから付け加えられた台詞にまたカカシは頷くしかない。
「お疲れ様」
眉を下げながらジョッキを上げればイルカは合わせるように自分のジョッキをカカシのジョッキに軽く当てた。カチンと音が鳴る。
そんな事を言いながらもイルカは子供たちの事を嬉しそうに話す。それに耳を傾けていた時、直ぐ近くから笑い声が聞こえ、カカシは視線をなんとなく向けた。
別のテーブル席で、くノ一が楽しそうに笑っていた。別に笑い声が大きかったわけでもない、向かい合った男と楽しそうに飲み食いしているだけに過ぎないが。
どうしたんですか?とイルカに言われてカカシは視線をイルカに戻した。なんて説明しようか迷いながらも、口を開く。
「先生はあざとい女ってどう思う?」
意外な言葉だったのか、イルカは少しだけ目を丸くしたから、カカシは、いやね、と続けた。
「紅やアンコがさ、あざとい女は嫌だとか、そんな事を待機所で言っててね。俺はよく分からないんだけど、」
「え、カカシさん分からないんですか?」
話の途中で言われてカカシは驚く。女のどうこうなんて昔から興味がなかったしどうでもよかった。それは今も同じで。ただ、イルカはそう言うことに関してはてっきりこっち側だろうと思っていたから、戸惑う。
「先生分かるの?」
意外だと聞くと、イルカは、まあ、多少は、と頷いた。
「カカシさんはあざとい女ってどう思います?」
逆に質問され、カカシは思考を巡らせる。
紅達が言っていた事を思い浮かべながら、そうだねえ、と呟いた。
「計算高いとは思うけど、まあ、別にそこまで悪い印象は受けないかな」
「どうしてですか?」
再び聞かれ、だって、と言いながらカカシはジョッキを傾ける。
「恋愛に当てはまるか分からないけどそれも戦略のうちでしょ?それだけ相手を手に入れたくてやってる事なら別にそれはいいかなあって、」
紅達に言ったら攻撃の的にされるだろうが。
職業柄単純に思った事を口にすれば、イルカは笑った。
「だったら良かったです」
意見を肯定されたとカカシは微笑みながらも、それは正直意外で、首を傾げる。
そうなの?と聞き返す間も無くイルカはまた口を開いた。
「俺もカカシさんに関してはあざといんで」
続いた言葉にビールを吹きそうになった。それを寸前でどうにか堪える。
聞き間違えたかと思いたいが、生憎耳はいいし酔ってもない。それはイルカも同じだ。
だから動揺を抑えながらも、嘘ばっかり、と思わず言えば、イルカは、まさか、と笑った。嘘じゃないですよ、とハッキリ否定する。
「受付に顔を見せるあなたにだけ一番の笑顔を向けたり、見かけたら駆け寄って声かけるようにしたり、」
目を見張るカカシの前で一回言葉を切り、そしてまた開く。
「後は、カカシさんが夜里に帰還するって分かってる時にあなたに気のあるくノ一が残業になりそうだったから、親切のフリして受付を代わってあげたり」
嘘だろう。
あのイルカが。
ジョッキを持ったまま、信じられなくてカカシはイルカを見つめる。
イルカを口説いたのは自分だ。
だから、てっきり自分だけの片思いから始まった関係とばかり思っていたのに。
嬉しさと驚きが一気に湧き上がり、胸に支えたまま言葉が上手く出てこない。
ちゃんと嬉しいと伝えたいのに、ドキドキと馬鹿みたいに心臓がうるさい。どうにか気持ちを落ち着かせたくて、えっと、と口籠るカカシを前に、イルカはこっちを覗き込むように顔を傾け、そして黒く輝く目を緩める。
「今週末の夏祭りに浴衣着てくって言ったら、カカシさんはあざといって思います?」
窺うように微笑みながら聞くイルカのその妖艶とも思える表情に、思わず、いやっ、と否定してテーブルに置かれたイルカの手を握る。
「嬉しいですっ」
ようやく出たカカシの本音に、イルカはにっこりと白い歯を見せ、満足そうに微笑んだ。
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