本性
職員室で名前を呼ばれてイルカは内心ため息をつくとペンを置く。切り替えるように、はい、と返事をして席から立ち上がった。
「これじゃあ駄目なんだよな」
開口一番に言われた台詞は予想出来ていたが。そうですか、と残念そうな口調で返事をすると、机の前で教頭が頭を掻きながらペンで書類を軽く叩いた。
「前期の時から聞いてるし言いたいことは分かるんだけどこの数字じゃ上がウンと言わないの、お前なら分かるだろ?」
もう一回作り直し、頼むわ。
自分が作った提案書を差し出され、イルカは素直に受け取る。分かりました、とにこやかに答えた。
「何が分かるだろだ」
受付の建物の裏でイルカは一人呟くとベンチに座った。背もたれにもたれ、ポケットから煙草を取り出し火をつける。深く吸い、そしてゆっくりと肺から息を吐き出す。
ぼんやりと煙草を吸いながら聞こえてくるのは授業中の生徒の声だった。
昨年よりも年間を通してアカデミーの授業数も生徒数も増え、その授業を受ける生徒を一番に考えたら、最低限の予算はその分増えるに決まっている。
だから自分がこの数字を提示することだって分かっていたはずだ。書類を突っ返すのが仕事ではなく上へ理解を示してもらう為に取り合うのがあの席に座っている人間の役目なのに。
苛立ちは直ぐには消えないから。
「クソが」
忌々しい気持ちを煙と共に吐き出した時、笑い声が聞こえてぎょっとした。
今の時間帯、授業中で関係者である自分以外はここには誰もいないはずなのに。近くの木の上から降り立ったのは見覚えのある上忍だった。
「それがアンタなんだ」
その台詞から、少し前の中忍選抜試験のことを言っているのが嫌でも読み取れた。大方、熱血感溢れる教員はどこへやらとでも言いたいんだろう。ただ、生徒の為に真っ直ぐにぶつかったのは紛れもない事実で、こっちもまた偽りのない自分だ。
隠してる訳でもないが父兄や生徒の目があるから、大っぴらにも出来ず煙草を吸うのは家がここか。煙草を吸っていることは同期は知ってはいるが一人の時にしか吸わない。口が悪いのは生まれつきだ。
誰もいないと思っていたからぼやいたそれを、誰かに聞かれたのはまあ仕方ないと思うが、相手がカカシなのは予想外だった。
というか、なんでこんなところにいるんだ。
「ここは関係者以外は立ち入り禁止ですが」
ムッとしたまま不審そうな顔を見せれば、聞こえているはずなのにカカシはそれを無視してじっとこっちを見つめる。
「ただの良い子ちゃんだと思ってたけどさ。いいじゃん、それ」
タチの悪い上官ならいくらでも見てきた。これを理由に強請るのかとさえ思っていた。しかし面白がっているのは明白で。不快だと睨むイルカに、カカシは動じない。
「だったらなに、」
皮肉混じりの台詞に反論しようと立ち上がったイルカに、何故かカカシの露わな右目だけが嬉しそうに緩む。
「またね」
微笑んだかと思ったらカカシは再び木の枝にふわりと身体を移したかと思ったらその姿は直ぐに消える。
ムカつく上忍だと思っていたが。話しかけておきながらあっさりといなくなるのも訳がわからない。
一体何だったんだ。
気配もなくなり仕方なく一人になったベンチの前に立ったまま、
「またな、じゃねえよ」
イルカは煙草を咥えながら、独りごちるようにカカシに向かって呟いた。
「これじゃあ駄目なんだよな」
開口一番に言われた台詞は予想出来ていたが。そうですか、と残念そうな口調で返事をすると、机の前で教頭が頭を掻きながらペンで書類を軽く叩いた。
「前期の時から聞いてるし言いたいことは分かるんだけどこの数字じゃ上がウンと言わないの、お前なら分かるだろ?」
もう一回作り直し、頼むわ。
自分が作った提案書を差し出され、イルカは素直に受け取る。分かりました、とにこやかに答えた。
「何が分かるだろだ」
受付の建物の裏でイルカは一人呟くとベンチに座った。背もたれにもたれ、ポケットから煙草を取り出し火をつける。深く吸い、そしてゆっくりと肺から息を吐き出す。
ぼんやりと煙草を吸いながら聞こえてくるのは授業中の生徒の声だった。
昨年よりも年間を通してアカデミーの授業数も生徒数も増え、その授業を受ける生徒を一番に考えたら、最低限の予算はその分増えるに決まっている。
だから自分がこの数字を提示することだって分かっていたはずだ。書類を突っ返すのが仕事ではなく上へ理解を示してもらう為に取り合うのがあの席に座っている人間の役目なのに。
苛立ちは直ぐには消えないから。
「クソが」
忌々しい気持ちを煙と共に吐き出した時、笑い声が聞こえてぎょっとした。
今の時間帯、授業中で関係者である自分以外はここには誰もいないはずなのに。近くの木の上から降り立ったのは見覚えのある上忍だった。
「それがアンタなんだ」
その台詞から、少し前の中忍選抜試験のことを言っているのが嫌でも読み取れた。大方、熱血感溢れる教員はどこへやらとでも言いたいんだろう。ただ、生徒の為に真っ直ぐにぶつかったのは紛れもない事実で、こっちもまた偽りのない自分だ。
隠してる訳でもないが父兄や生徒の目があるから、大っぴらにも出来ず煙草を吸うのは家がここか。煙草を吸っていることは同期は知ってはいるが一人の時にしか吸わない。口が悪いのは生まれつきだ。
誰もいないと思っていたからぼやいたそれを、誰かに聞かれたのはまあ仕方ないと思うが、相手がカカシなのは予想外だった。
というか、なんでこんなところにいるんだ。
「ここは関係者以外は立ち入り禁止ですが」
ムッとしたまま不審そうな顔を見せれば、聞こえているはずなのにカカシはそれを無視してじっとこっちを見つめる。
「ただの良い子ちゃんだと思ってたけどさ。いいじゃん、それ」
タチの悪い上官ならいくらでも見てきた。これを理由に強請るのかとさえ思っていた。しかし面白がっているのは明白で。不快だと睨むイルカに、カカシは動じない。
「だったらなに、」
皮肉混じりの台詞に反論しようと立ち上がったイルカに、何故かカカシの露わな右目だけが嬉しそうに緩む。
「またね」
微笑んだかと思ったらカカシは再び木の枝にふわりと身体を移したかと思ったらその姿は直ぐに消える。
ムカつく上忍だと思っていたが。話しかけておきながらあっさりといなくなるのも訳がわからない。
一体何だったんだ。
気配もなくなり仕方なく一人になったベンチの前に立ったまま、
「またな、じゃねえよ」
イルカは煙草を咥えながら、独りごちるようにカカシに向かって呟いた。
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