風鈴

 太陽の熱を含み、涼しいとはとても言えない風が窓から入り込む。じわりと額に汗を浮かばせながら、カカシは視界に入るイルカを見下ろした。
 途中でおかしくなったのはイルカだった。 
 昼飯を食べた後、麦茶を飲みながら二人でテレビを見ていた。冷房がないイルカの部屋は窓に簾がかかり直射日光がかからないものの、それなりに暑い。ずっとつけっぱなしになっている扇風機は首を振りながらこちらに風を送ってくれているが、効果はそこまでは感じない。冷房を買えばいいじゃない。以前そう口にしたカカシに、イルカは、ですよねえ、と返すものの、そのつもりもないのか、それ以上に答えはなかった。特に自分も熱さに弱いわけじゃないし、それよりも、部屋に招かれてイルカと一緒に過ごせるのなら、部屋が暑くても構わない。
 ついさっきまでコップの中にあった氷は既に溶け、麦茶の色を薄めている。それをカカシが飲み干した時、そうだ、と何やら思い立ったイルカは奥の部屋へ向かった。
 見れば、イルカは奥の部屋の押入を開け、中を探っている。何を探しているのかは知らないが、まさかこの部屋を涼しく出来るものではないのは確かだろうと目を向けているカカシに、イルカは、あった、と声を出した。嬉しそうな顔でこっちに向ける。濃い緑色したそれを持ったイルカは手で軽く振れば、リリン、とそんな音が鳴った。
 その風鈴を居間の窓に付け、しかし直ぐに鳴らない風鈴にイルカは不満気な顔をするから。カカシが扇風機を当てれば当たり前に鳴った。首を回す扇風機の動きで定期的になる風鈴の音を聞きながら二人で笑って。
 今からどうしようかと聞いたのはカカシだった。イルカがこの休みに買い出しに行きたいと言っていたから、それでもいいと思っていたのに、不意にイルカに腕をとられた。イルカから腕を絡ませてくるのは珍しい。いつもは暑いからべたべたしてくるのを嫌悪するのはいるかだ。自分よりも体温が高いイルカのじっとりとした肌を感じながら、くっつくと暑いんじゃないの?、と顔を向けると、こっちを見つめるイルカと視線が重なって。その吸い込まれるような黒い瞳を見つめながら、カカシは顔を近づけた。唇を重ねると、イルカはそれを素直に受け入れる。
 キスをしただけで胸が暖かくなる。この夏の暑さとは関係のない暖かさは格別で、唇をくっつけては離す、それを数回繰り返している内に、イルカの舌が入り込んで、カカシは驚いた。普段から受け身のイルカが自分からこんな事をしてくることはそうない。そして拒む理由はない。口を開けかさねカカシも自分の舌を絡ませる。熱い舌が唾液と絡まり合い許されるがままに、イルカの口内を舌でなぞる。堪能した後ゆっくりとその唇を離し、イルカを伺うように見つめた。
「どうしたの?珍しい」
 素直に聞けば、イルカは眉根を寄せた。
「何がですか」
 何がと聞かれ、カカシは思わず苦笑する。
「だって、いつにもなく積極的だから」
 そう言えば、イルカは顔を赤らめながらも僅かにムっとした。余分なこと言ったかと思うカカシに、イルカは一回伏せた目をこっちに向ける。
「で、続き、しないんですか?」
 じっと見つめられ、その台詞に驚く顔を隠せなかった。
 そんなつもりは全然なかった。イルカが急になんでこんな気持ちになったのかは分からない。カカシはイルカを見つめ返した。ジー、ジー、と蝉が近くでけたたましく鳴いてる。驚くものの、この機会をみすみす逃すほど馬鹿でもない。据え膳食わぬはなんとやらとは、正にこの事だ。元々性欲は薄い方なのに。このうだるような暑さとは別の熱いものが下半身にわき上がる。男なんて単純だ。カカシは答える代わりに再びイルカの唇を塞いだ。
 お互い休日で、呼び出される事がない限り時間はあるのに。向こうから誘ってきたのに。その気にさせようとする必要だってないのに。押し倒しイルカの項に顔を埋めれば、イルカの匂いに堪らない気持ちになった。いつだって冷静でいるつもりなのに、それだけで頭が沸騰しそうになる。カカシは性急にイルカの上着をぐいぐいと押し上げながら肌に指を這わせた。まだ日が高く簾の隙間からは真っ青な空が覗いている。蝉の声だって聞こえるし、ただ簾一枚隔てているだけなのに、向こうとは全く別の世界にいる感覚に陥る。
 胸の先端を口に含み、堅くなった先端を尖らせた舌でねぶりながら。もう片方の手てイルカのズボンに手をかければ、それに従うように、脱がせやすいようにイルカが腰を上げた。下着を脱がせば、自ら足を広げるイルカは丸で誘っているかのようで。いや、誘っている。はっきりと。イルカの緩く勃ち上がったそれから目を離せない。見下ろしながら、カカシはごくりと唾を飲んでいた。そこまで動いていないのに、血が巡り体が熱くて仕方がない。
 カカシは畳の上に転がしたイルカに覆い被さり、たっぷりと後ろを慣らした後、後ろから獣のように突き上げた。
「あぁっ、・・・・・・っ」
 イルカが声を上げながら背中をしならせる。そこからは夢中だった。のんびりした景色がいいんだと田圃が広がるところにぽつんとあるアパートを選んだのはイルカだ。繁華街から距離はそこそこあるし、慣れてはいたが、通うのに多少不便なものも感じてはいたのに。人がいない事がなによりも良かったと思いながら、激しく腰を突き上げる。
 外の世界とはかけ離れた、荒い吐息とイルカの喘ぐ声が部屋に響く。自分でも分かっているのだろう、声を抑えようと自分の手の甲を齧るその手をカカシは覆い被さりながら、イルカの口から離す。し
「先生、・・・・・・手、血が、出ちゃう、」
 喘ぎながらカカシが言えば、その声が届いていてもどうしようもないのか、でも、と返すが、また自分の手を口に持って行こうとする。カカシはその手を抑えながら、腰の動きを早めた。
「ぁっ、あ、う、ぁあ・・・・・・っ」
 イルカの声が一際大きくなり背中を反らせた後、先端から精液を畳の上に放つ。
内部な擦れる水音が、その感覚が堪らなく気持ちがいい。眉根を寄せたカカシは追い上げるようにイルカの腰を掴むとそのまま激しく打ち付けた。その後体を強ばらせ、達する。
 頬が火照っている。体も額から汗が伝うほど熱い。はあはあと呼吸を繰り返しながら、畳の上で体をぐったりさせ、崩れ落ちた姿をカカシはぼんやりとした頭で見つめた。蝉の声はまだ鳴り止んでいない。
 その時、外から風が入り込み、窓の風鈴が、リリン、と鳴る。
 カカシはイルカから視線を上げ、その風鈴が音を鳴らすのを見つめた。

 昔から夏に風情を感じたことはほとんどない。
 七班の上忍師になり、イルカと出会ってから。いや、正しくはつき合うようになってから。夏祭りとか、かき氷とか、そうめんとか。夏を楽しむものがたくさんあるんだと知った。
 それまでは。やっぱり暑いのはそこまで好きじゃないから。さっさと過ぎてしまえばいいと思っていたのに。
 上忍の待機所でぼんやりと小冊子を呼んでいれば、子供の笑い声が聞こえる。カカシは顔を上げた。窓から見れば、そこには子供に手を引かれて歩くイルカの姿が目に映る。あんまり強く引っ張るな、と言いながらもその顔は優しく楽しそうで。
 目で追っていれば、遠くから聞こえてきたのは、風鈴の音だった。カカシが反応した様に、同じようにその音に反応したイルカが視線を道の先へ向ける。そこには風鈴を売りに来ているのか、風鈴をたくさんつけた屋台が目に入った。
 今日はいつもより風がある。
 イルカが教えてくれたように、風が吹くたびにリリンと鳴るその音は、涼を感じる音に聞こえ。風鈴が奏でる音を聞きながらふとイルカへ目を戻した時、目に映ったその表情にカカシは僅かに息を呑んだ。
 耳を真っ赤にして。何ともいえない顔をするイルカは、嘘でもなんでもなく、数日前のあの昼間の事を思い出しているのだと分かる。
 沸き上がったのは幸せな気持ちだった。そのその背中を抱きしめたい衝動に駆られながら。自分の夏の思い出に刻まれた風鈴の音を聞きながら。カカシは一人、幸せそうに口布の下で密かに笑いを零した。



こちらの話でわびすけさんがイメージしたイラストを書いてくださいました!こちらから見れますので是非!
スポンサードリンク


この広告は一定期間更新がない場合に表示されます。
コンテンツの更新が行われると非表示に戻ります。
また、プレミアムユーザーになると常に非表示になります。